米大統領選 民主党指名候補のエリザベス・ウォーレン氏(2019年9月、写真提供 Getty Images)

現時点からみる今後の民主党指名候補争いの展開

上智大学総合グローバル学部教授
前嶋和弘

 

今後の民主党指名候補争いを20199月末の時点から展望してみたい。 

(1)9月末の現状

9月12日の第3回討論会から2週間たち、過去の2回の討論会と似たようなパターンが生まれつつある。支持率でトップを走るバイデンの支持が他の候補の討論会での総攻撃もあって討論会直後に一時的に下がるが、徐々に数字を戻すという現象である。

9月25日の段階での各種世論調査ではバイデンが他の候補を頭一つリードし、支持率約30%。これに続く第2グループとして、ウォーレンが18%前後、サンダースが16%前後。ハリスとブーティジャッジが6%程度、ブッカーとヤンとオルークが3%とそれぞれ第34グループを形成している。

3回討論会も12回と同じで、政策論は医療保険の国への一元化など、どれも派手だが実現可能性が高くないものばかり。つまり、「言いっぱなし」であった。基本は「私ならトランプに勝てる」という主張のオンパレードだった。また、バイデン以外は「バイデンよりも私が優れている」という主張を繰り返すのも同じだ。

大統領選挙は「候補者の成長物語」であると本コラムで指摘したことがある[1]。しかし、期待通り「成長」している候補はまだおらず、「トランプ氏と渡り合えるのはバイデン」「なんとなくバイデンを支持」という層が民主党支持者で一番多い現状は変わっていない。民主党の中からは、バイデンを「フロントランナーとしては最弱」という声すら聞こえてくる[2]

今後バイデンにとっては命取りになる可能性すらあるのが、924日にペロシ下院議長がウクライナを巡る疑惑でトランプ大統領の弾劾調査開始を決めたことだ。調査はトランプ氏の疑惑だけでなく、逆に、親の威光を借り、有力エネルギー会社の重役に入り込んだ息子のハンター・バイデンの疑惑、さらにはハンターへのウクライナ当局の捜査を妨害したのではないかというバイデンそのものの疑惑へも発展していくかもしれない。この疑惑解明の状況次第ではバイデンの大失速や場合によっては撤退もあり得るかもしれない。

一方、他の候補ではウォーレンだけが着実に支持を増やしている。今の勢いを続ければバイデンの大失速がなくても、来年2月からの実際の予備選までにバイデンの支持に及ぶ可能性がある。最初の戦いが行われるアイオワ州(党員集会、3日)の調査の一部ではウォーレンの支持率がバイデンを超えたものがある[3]。実際にウォーレンがどう伸びていくのかは、メディアがウォーレンをどう報じるかどうかにもかかっている。「フロントランナー」に対抗馬が現れると、一気に肯定的に報じ、その勢いが少しでも下がると今度は対抗馬の資質のあら探しで総攻撃するアメリカの「予備選報道の方程式」がある。この報道のパターンを読み、ウォーレンはどう味方につけるかに注目したい。

もう一つの注目点は、第1回討論会(62627日)の直後、バイデンを攻撃することで支持率を2番目まで伸ばしたハリスの退潮が著しいことである。70歳台の現在のトップ3に比べると、年齢的には54歳と最適なはずだが、やや硬いのか、親しみやすさ(ライカビリティ)の問題があるようにもみえる。

また、第3回討論会の10人に何とか滑り込んだヤンは、持論のベーシックインカム論の実験として、「10家族に毎月1000ドル提供」とぶち上げた。もちろん「買収行為」なのだが、ヤンは撤退間近とみられていたこともあって、知名度を高めるために炎上することを目的にした意図的な発言だったのかもしれない。実際にヤンの支持率は微増で何とか生き残っている。

いまのところ、各種世論調査では、「もしいま大統領選挙が行われたら」とする回答に対して、民主党の上位の数人の誰でもほぼトランプ大統領と同じかそれを上回る支持を集めている。ただ、「未知の期待分」が加味されている事実を忘れてはならない。つまり、「期待分」は今後萎んでいく可能性もある。 

(2)今後のシナリオ

少し長いスパンで今後のシナリオを考えてみたい。

予備選段階にはおそらく3つのヤマがある。いずれもウクライナ疑惑でバイデンが失速しなかったと仮定して論を進める。

まず1つめのヤマは例年、予備選段階の報道の半分近くを占める最初の2つの州であろう。アイオワ州党員集会(23日)、ニューハンプシャー州予備選(211日)で誰かが圧倒的な票を集め、「モメンタム」を作った場合、ほぼ指名獲得は間違いない。バイデンがここで一気に決めるのか、ウォーレンがこの勢いとなるのか、2月上旬で大きな方向性も見えてくるかもしれない。

2つ目のヤマは南部諸州14州の予備選が開かれるスーパーチューズデー(33日)である。本コラムでも指摘したように[4]最大の人口(つまり最大の代議員数)を誇るカリフォルニア州が今年からスーパーチューズデーに参加するため、ここで一気に情勢が決まる可能性もある。

ただ、もし1つめのヤマの段階で、特定の候補への「モメンタム」がない場合、スーパーチューズデー以降、戦いは膠着するかもしれない。というのも、バイデン、ウォーレン、サンダースで票が割れるとした場合、この上位3人に加え、スーパーチューズデー参加のカリフォルニア州出身のハリスや、人口3位のテキサス州終身のオルークが一定の代議員を確保するであろう。そうなった場合、票が割れたまま、予備選段階が進んでいくかもしれない。もし、大票田のニューヨーク州を含む428日の東部6州の予備選でも票が割れた場合、決着は7月13-16日の民主党全国党大会(ミルウォーキー)までなかなか決まらないかもしれない。

3のヤマがその全国党大会である。ここからはかなりの想像になるが、もし、票が割れたまま、1回目の投票で過半数を超える立候補者が出ない状態になった場合、特別代議員改革で実質的な役割はなくなったはずの特別代議員が2回目の投票で復活するシナリオもあり得よう。党のボスたちが占める特別代議員が推す「トランプに勝てる候補」は、あくまで現状から推測すると、安定でバイデン、伸びでウォーレンの2人のいずれかかもしれない(「社会民主主義者」のサンダースにはやはり票が集まらないことになろう)。ただ、もし「特別代議員が決めた」となると、2016年選挙の反省がいかされなかったことになるため、「党の分裂」を避けるために、2番目の数の代議員を集めた立候補者を副大統領候補にする可能性も出るかもしれない。

 

[1] https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3182

[2] https://www.reuters.com/article/us-usa-election-democrats-analysis/biden-seen-as-weak-front-runner-as-2020-u-s-democratic-race-heats-up-idUSKCN1VN0WH

[3] https://www.nytimes.com/2019/09/21/us/politics/Iowa-biden-warren-.html

[4] https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3057

前嶋 和弘

  • 上智大学総合グローバル学部教授