ワシントンUPDATE スーパーチューズデー後のアメリカ大統領選挙

写真提供 Getty Images

ワシントンUPDATE スーパーチューズデー後のアメリカ大統領選挙

ポール・J・サンダース
米センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト 上席研究員

アメリカ大統領選挙ではよくあることだが、今回のスーパーチューズデー(2020年3月3日)もまた、選挙結果とまでは言わないものの、実質的にその趨勢を占うものとなった。スーパーチューズデーとは、党の予備選挙・党員集会が集中して行われる火曜日のことで、大統領候補者を指名する代議員の約3分の1がこの日選出される。3月最初の火曜日に行われた今回は、序盤戦でたびたび敗北を喫しながら、スーパーチューズデーの3日前に行われたサウスカロライナ州の予備選挙で勝利を収め、他の中道派候補からの支持を取り付けたジョー・バイデン前副大統領が、史上まれにみる見事な復活を果たし、指名獲得の最有力候補の1人に返り咲いた。その結果、民主党の指名争いは、エスタブリッシュメント(主流派)が支持するバイデン氏と、左派ポピュリストが支持するバーニー・サンダース上院議員の一騎打ちになることが確実となった。11月の本選挙はまだ先のことであり、行方は見通せないが、スーパーチューズデーによって本選挙に向けた選挙戦の力学は大きく変わったと見ていいだろう。

本稿では、バイデン氏とサンダース氏による指名争い、そして指名争いの勝者とトランプ大統領が争う本選挙を理解するための3つの重要な要素について述べる。 

要素1:アメリカのメディア

スーパーチューズデー後、アメリカの主流メディアはバイデン氏についてとりわけ好意的に報じており、有力ジャーナリストたちも軒並みバイデン氏を「トランプ大統領を倒すことが最も可能な民主党の大統領候補」であると明言している。こうした論調には根拠がある。世論調査では、「『勝てる候補』を望む民主党員はバイデン氏を支持している」との結果が出ているのだ。しかし主流メディアのバイデン氏への好感は、トランプ大統領に対する根強い嫌悪感―トランプ大統領のおかげで主流メディアの格付けと収益が上がったにもかかわらず―の表れのようにも見える。一方、サンダース氏よりもバイデン氏をトランプ大統領の脅威だと見る保守系メディアは、バイデン氏の弱点を徹底的に報道している。こうしてみると、アメリカのメディアは大統領選挙の報道に関して完全に中立的または客観的なわけではない、と言えそうだ。私たちはこのことをよく覚えておいた方がいい。 

要素2:エスタブリッシュメント対ポピュリスト

バイデン氏のようなエスタブリッシュメントに属する政治家は、サンダース氏のような―あるいは2016年に大統領候補だったトランプ氏のような―ポピュリスト候補よりも、はるかに優位に立っている。民主党全国委員会(DNC)や共和党全国委員会(RNC)といった党組織において、また連邦議会や州・地方の政府・議会といった統治機関において、党の指導者的な地位を占めているのはエスタブリッシュメントである場合が多い。そのためエスタブリッシュメントの候補者は、影響力のある人々による強固なネットワークを背景に、ポピュリストや造反者、異端者と戦うことができるのだ。彼らは候補者への支持を自由に表明でき、実際そうしている。影響力のある人々からの支持は、公式・非公式、公的・私的を問わず、非常に効果的である。

加えて、予備選挙で中立的立場を保つことが求められるはずのDNCとRNCが、表向きは中立であっても、実は陰で特定の候補者を支援したり攻撃したりしていることは、過去の選挙戦を見れば明らかである。例えば2016年大統領選挙では、内部告発サイト「ウィキリークス」が公開した内部メールから、DNCがヒラリー・クリントン前国務長官を積極的に支持し、サンダース氏を追い落とそうとしていたことが明らかになり、DNCのデビー・ワッサーマン・シュルツ委員長は辞任に追い込まれた。当時のDNCの指名手続きでは、特別代議員と呼ばれる民主党公職者が強い権限を持っており、そのこともまたクリントン氏がサンダース氏の優位に立つ要因となった。DNCは2016年の大統領選挙後、特別代議員の権限を弱めている。一方、2016年にDNCの幹部がサンダース氏の指名を恐れたように、RNCの幹部もトランプ氏の指名を阻止しようとしていたことが分かっている。それどころかトランプ氏の指名後も、副大統領候補に指名されたマイク・ペンス氏を大統領候補にできないかと画策していた。 

要素3:2016年大統領選挙との類似点・相違点

2016年と2020年の大統領選挙を比較・分析すると、いくつもの類似点と相違点があることが分かる。まず類似点だが、大きく言えば、どちらも予備選挙がエスタブリッシュメント候補とポピュリスト候補の戦いとなり、エスタブリッシュメントはポピュリスト候補が党を敗北に導くことを恐れていた(いる)ことが挙げられる。また、選挙戦の序盤で、2016年には共和党の、2020年には民主党の候補者が乱立した一方、対立する政党は比較的早期に指名が確実とみられる候補が決まっていた(いる)点も似ている。2016年にはサンダース氏が最後まで選挙戦から撤退しなかったが、これは例外と言っていい。

こうした類似点がある一方で、重大な相違点もある。1つは、2016年の選挙でトランプ氏は多くの共和党エスタブリッシュメントに嫌われ、ネバー・トランプ派の党員が離党したり、クリントン氏への支持を表明したりする事態になったのだが、2020年の今では離党しなかった党員のトランプ大統領への支持は強固で、選挙への関心も比較的高い、という点である。もう1つ―これもトランプ大統領にとって有利な点なのだが―は、2016年の選挙では反エスタブリッシュメントの異端候補だったトランプ氏が、今や事実上エスタブリッシュメントであり、党内に目立った反対勢力もなく、選挙期間中はRNCの全面的な支援を得られると予想される点である。

一方、民主党に目を向けると、サンダース氏が2016年よりも強さを見せており、予備選挙では数週間にわたってフロントランナーの地位を維持したが、これは2016年には見られなかった現象だ。2016年大統領選挙後に指名プロセスでの特別代議員の影響力が弱められたことも、サンダース氏に味方した。そのうえ、2016年よりも現在の方が民主党員の中で怒りが高まっており、特に若い民主党支持者は、候補者を封じ込めたり政策アジェンダを制約したりしようとするエスタブリッシュメントに怒りを感じている。こうしたことから、民主党が大統領候補を選出できるのは夏の党大会になるだろうとの見方も出ている。つまり党大会以前には、バイデン氏もサンダース氏も代議員の過半数を獲得できないということだ。

バイデン氏は、スーパーチューズデー以前こそ劣勢だったが、エスタブリッシュメントからの幅広い支持という強みを持ち、3月上旬にはその支持を確実なものにした。これは2016年のトランプ氏とは対照的な状況だ。しかも対立候補のサンダース氏は、バイデン氏が代議員数をさらに積み増した場合、たとえ過半数を獲得できていなくても党大会で大統領候補の座をバイデン氏に譲ると公言している。マイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長が指名争いからの撤退後も「打倒トランプ」に向けて活動を続けるのであれば、ブルームバーグ氏の組織的・経済的支援もバイデン氏にとって大きな力となるだろう。

バイデン氏は今でこそエスタブリッシュメントを代表する政治家だが、かつてはポピュリストの一面を持っていた。例えば1988年大統領選挙に出馬した際には、イギリス労働党首の演説からポピュリスト的な発言を盗用した疑いが浮上し、選挙戦から撤退している。バイデン氏には、怒れる有権者たち―その中にはおそらくトランプ氏に投票したものの不満を抱いている者も含まれる―に訴えかける能力がある。だからこそ多くの人が「バイデン氏は11月の本選挙でトランプ大統領の脅威となる」と見ているのだ。

結論

以上の3つの要素を踏まえると、2020年のアメリカ大統領選挙が2016年と同様に、予測のつかない激戦となることは確実である。加えて、トランプ大統領が対応に苦慮している新型コロナウイルスの感染拡大、それによる経済への影響の拡大、さらに今後数か月間に起こるであろう予測不可能な事態といった不確実な要素もある。アメリカ政治を注視する人々にとって、これからの8か月間はダイナミックかつドラマチックな期間となるだろう。

(2020年3月7日執筆)

オリジナル原稿(英文)はこちら

ポール・J・ サンダース

  • Senior Fellow in US Foreign Policy at the Center for the National Interest

    President, Energy Innovation Reform Project