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ワシントンUPDATE 「コロナ後」の国際社会を考える

April 17, 2020

ポール・J・サンダース
米センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト 上席研究員

世界的な感染拡大が続く新型コロナウイルスが国際社会にどのような影響をもたらすのか、今の段階で結論を導き出すのはあまりに尚早だろう。人々がいつまでソーシャルディスタンスを保ち経済的損失に耐え続けることができるのか、科学者がどれだけ早くワクチンを開発・試験・生産することができるのか、その間にもどこまで感染が拡大するのか、答えは誰にも分からないのだ。この「分からなさ」ゆえに世界中は大混乱に陥っているわけだが、時間が経過するにつれ、「ポスト・コロナ」の国際社会について、決して望ましいとは言えない仮説が生まれつつある。

仮説1:「集合行為問題」への対応力が低下する?

新型コロナウイルスの感染拡大によって、政治学で言う「集合行為問題」に対する多国間の協力体制が著しく損なわれる可能性がある。各国が同時に自国の利益を追求することで結果的にすべての国の利益が損なわれる「集合行為問題」は、国際社会が直面する困難な課題の一つだ。

新型コロナウイルスへの対応においても、まさにこの問題が生じた。まず、中国が政治的な理由から感染者数と死者数を過少報告したことで、他の国々の対応が遅れた。また、世界中の中央政府と地方政府が一斉に人工呼吸器や個人防護具(マスク、手袋など)の調達に走った結果、国際競争が生じて製品の価格が跳ね上がり、貴重な時間と金が奪われ、買い占めや高値転売、闇取引が発生した。

このように政府の対応を誤らせたのは、不安と不信感とユニラテラリズム(一国主義)だ。「集合行為問題」は、パンデミックをはじめとする世界規模の健康問題、気候変動を含む環境問題、核拡散やテロといった安全保障上の脅威などに関しても生じうる。私たちはそれらの問題にしっかりと取り組んでいかなければならない。

仮説2:世界の貿易が縮小する?

各国政府は「必需品の強固なサプライチェーンを国内に確立せよ」との強い政治的圧力にさらされる可能性がある。米国ではトランプ大統領とポンペオ国務長官が、医薬品と主な医療用品の国内生産量を大幅に増やすよう指示した。これに対して中国の新華社通信は、中国政府が医薬品の対米輸出を禁止する可能性を報じ、米国の政府関係者と議会に対する怒りをあらわにした。[https://www.nytimes.com/2020/03/11/business/economy/coronavirus-china-trump-drugs.html]

こうした力学によって、国際貿易の形は大きく変わることになるかもしれない。一つの産業、すなわち医薬品と医療用品が「必需品」に指定されたら、当然、他の産業も同様の指定を受けて利益を上げたいと望むからだ。そのため食品、燃料、エネルギーシステム、電力および主要な資源の輸出入は、医薬品に続いて減少する可能性がある。少なくともコスト高を受け入れ、必要な資源を供給する余裕のある国では減るだろう。

あるいは重要な輸入品の調達を同盟国や近隣国に頼る国もあるかもしれない。だがいずれにしても追加コストが生じるため、経済の回復は遅れることになる。 

仮説3:国境管理が厳格化する?

世界のナショナリストたちは、国境管理を厳格化し、移民(経済移民と難民を含む)の受け入れを制限するという各国政府の方針を歓迎していることだろう。米国では政府当局者が「新型コロナウイルスの拡大を抑制するには、トランプ大統領が就任以来取り組んできた国境管理の強化が必要だ」と強調している。また欧州では、シェンゲン協定の加盟国が一時的な国境管理を再導入した。終了時期は国ごとに異なり、ドイツやスペインは4月中旬、フランスは10月、デンマークは11月を予定している。[https://ec.europa.eu/home-affairs/what-we-do/policies/borders-and-visas/schengen/reintroduction-border-control_en] 近年、ドイツをはじめとするEU加盟国では、シリアや中東からの難民流入にともなってナショナリズムが高まりを見せているが、そうした中で国境管理を再導入することになったのである。 

「コロナ後」の新しい世界

識者の中には「新型コロナウイルスによって国際関係が根本から変わるのではなく、既存の潮流がさらに加速することになる」と予測する者もいる。[https://www.foreignaffairs.com/articles/united-states/2020-04-07/pandemic-will-accelerate-history-rather-reshape-it] 上に述べたような力学がすでに存在し、勢いを増しているように見えることを考えると、この見方には確かに説得力がある。実際、大国同士が相争うという歴史が繰り返される中、「国家は国益を第一に考えるべき」という現実主義的な外交政策を唱える者は、既存の潮流の加速を不可避と見ている。

だが国際社会は別の対応を取ることもできたはずだ。実際、冷戦後に他のパンデミックが発生した時の対応は今回とは違っていた。ということは、新型コロナウイルスに対する各国政府の対応は、国際関係に変化をもたらすものというよりは、すでに起こっていた変化を反映したものと見ることができるのではないだろうか。

もっと正確に言うなら、競争か協調かという国際戦略の根底にあるのは、基本的に心理的な要因である。競争または協調によって生じるコストと利益は他者の選択に左右されるため、どちらの戦略を取るかを決定するには、他国がどのような行動を取る可能性があるのかを見極める必要がある。そして他国の行動を観察する経験を積むにつれて、より多くのデータに基づいた評価が可能になり、評価の説得力は増すようになる。それが実際に他国の意図を正確に反映しているか否かにかかわらずだ。

したがって主要国、特に米国と中国の新型コロナウイルスへの対応を見れば、それぞれが相手国―そして他の主要国―に何を期待しているのかがよく分かる。さらに米国、中国を含む各国政府が、同盟国やライバル国、友好国に何を期待しているのかを理解できれば、今後の世界的な潮流を理解することができる。ただし、そこから見えてくるのは決してバラ色の未来ではなさそうだ。

(2020年4月8日執筆)

オリジナル原稿(英文)はこちら

    • Senior Fellow in US Foreign Policy at the Center for the National Interest President, Energy Innovation Reform Project
    • ポール・J・ サンダース
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