【アメリカ大統領選 論調Update第4回】リバタリアン党 不満の受け皿たりうるか

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【アメリカ大統領選 論調Update第4回】リバタリアン党 不満の受け皿たりうるか

世界が注目する2020年11月のアメリカ大統領選挙。アメリカ国内では今、何が論点となり、どのように論じられているのでしょうか。主要メディアによる記事や、シンクタンク報告書、学術論文の要点など、アメリカ国内の最新論調をわかりやすくまとめ、シリーズで紹介します。

 

本年4月下旬、ミシガン州選出のジャスティン・アマッシュ下院議員がリバタリアン党に移籍するとともに、大統領選への出馬を検討することを公表し、トランプ・バイデン両陣営に衝撃が走った。2010年にティー・パーティー運動の勢いに乗って初当選したアマッシュ議員は、個人の自由と小さな政府を徹底的に追求するリバタリアン(自由至上主義者)として知られ、リバタリアン的傾向を持つ共和党議員連盟「ハウス・フリーダム・コーカス」の創設メンバーでもあったが、昨年7月に共和党を離党し、さらに12月にはトランプ大統領の弾劾に賛成票を投じたことで注目を集めていた。

二大政党制が強く定着しているアメリカにおいては、民主・共和両党の候補のいずれかを積極的に支持できない場合でも、「よりマシ」な候補に投票すること(戦略投票)が合理的であるため、第三党候補の当選は非常に困難である。1992年大統領選挙で20%近く得票したロス・ペロー氏でも選挙人を獲得することはできなかった。従って、第三党への投票は二大政党のうち「よりマシ」な候補でさえ投票に値しないという、現状への抗議の意思表示とみなしうるが、それが二大政党の候補に与えるダメージは必ずしも対称的ではない。二大政党は最大の第三政党であるリバタリアン党の候補が自陣営にとってのスポイラー(当選の見込みがなく、得票によって他候補の当選を妨害spoilする候補)となるのを警戒することになる。

2000年大統領選挙では、緑の党から出馬した環境・消費者保護運動の活動家ラルフ・ネーダー候補の得票数は、接戦州であったフロリダやニューハンプシャーにおいて民主党候補のゴア副大統領(当時)に対する共和党候補のブッシュ知事(当時)のマージンを上回っており、ゴア氏が当選を逃した一因であるとみなされている。この経験から民主党およびリベラル派はスポイラーとしての第三党候補に非常に警戒的であり、前回2016年の大統領選においてはクリントン陣営が票の流出を懸念してリバタリアン党候補のジョンソン元ニューメキシコ州知事に対する攻撃を強めた経緯がある。今回の選挙でもトランプ大統領再選の絶対阻止を目指すリベラル派「ネバー・トランプ」保守派はアマッシュ議員の出馬表明に対して否定的に反応した。他方で、ランド・ポール上院議員など保守的・リバタリアン的な共和党員らの選対幹部を歴任したリズ・メア氏は、ティー・パーティー運動に際して共和党を支持したリバタリアン的傾向を持つ人々のトランプ大統領に対する不満を指摘し、アマッシュ議員が立候補すればより多くの票を奪われるのはトランプ陣営の方だろうと述べている

アマッシュ議員は結局出馬を見送ったため、リバタリアン党の氏名争いは予備選挙[1]で勝利した「自由の未来財団」の創設者であり会長のジェイコブ・ホーンバーガー氏と、クレムソン大学講師で1996年大統領選挙におけるリバタリアン党副大統領候補であったジョー・ヨルゲンセン氏の対決となった。個人の自由を最優先する原理原則に忠実に、福祉国家の即時解体を主張するホーンバーガー氏に対し、より漸進的な政策を掲げ、一般の人々にリバタリアン的なアイディアの有用性を訴えることで支持の拡大を目指すヨルゲンセン氏が指名を勝ち取った

前回選挙の候補者ジョンソン元知事やアマッシュ議員に比べれば、ヨルゲンセン氏が知名度と資金力の両面で劣後することは否めない。スポイラーとしてどれほどの影響力を発揮しうるかはトランプ・バイデン両氏の「失点」にかなりの程度依存しているといえるだろう。

[1] リバタリアン党の予備選挙には拘束力がなく、候補者は党大会において指名される。

  


 ◇参照記事◇

宇野 正祥

  • 東京大学大学院法学政治学研究科博士課程