【アメリカ大統領選 DATANK】選挙戦終盤・注目の激戦州(2)

世界が注目する2020年11月のアメリカ大統領選挙。予断を許さない選挙戦の行方について、データからは何を読み取ることができるでしょうか。ここでは候補者支持率などをはじめ、大統領選を読み解く上で鍵となるデータをわかりやすくまとめ、定期的にアップデートしていきます。

前回に引き続き、選挙戦終盤で注目される激戦州の情勢を検討する。今回注目するのは2016年大統領選挙でトランプ氏が僅差でクリントン氏に敗北し、今年の選挙で逆転を狙っているメイン、ニューハンプシャー、ミネソタ、ネヴァダの4つの州である。出自や経済政策の強調でいわゆるラストベルトの白人労働者層へのアピールを強めているバイデン氏にペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンなどの中西部接戦州を奪回されても、これらの州を制することができればその損失を相殺することができる。トランプ陣営の責任者ビル・ステッピン氏もこれらの「オプション」の重要性を強調している[1][2]

トランプ大統領は、10月25日にニューハンプシャー州とメイン州で集会を開いた[3]2016年にトランプ氏が第2下院選挙区に割り当てられた選挙人1人を勝ち取った[4]メイン州での集会は、同選挙区内の最大都市バンゴーで開かれた。2016年にトランプ氏が10%以上の差をつけて勝利した同選挙区は接戦となっており[5]、支持の引き締めをはかったとみられる。ポートランドやオーガスタなどの都市部の比重が大きい第1選挙区ではバイデン氏が大きくリードしており、Real Clear Politics(RCP)の世論調査平均値によれば州全体でもバイデン氏が11%の差をつけて先行している[6]

16年にわずか2700票余りの差でクリントン氏が制したニューハンプシャー州の世論調査では、バイデン氏が大きくリードしている[7]。バイデン陣営はトランプ政権の新型コロナウイルス対策の失敗を強調しており、副大統領候補ハリス上院議員の夫であるエムホフ氏がイベントを開催した[8]。トランプ陣営からも大統領に先立ってペンス副大統領が訪問し[9]、バイデン氏の増税計画を攻撃[10]するなど激しい選挙戦が展開されている。

1976年以来一貫して民主党候補が勝利してきたミネソタ州では、16年大統領選でトランプ氏がクリントン氏に1.5%差まで詰め寄っており、今年は10人の選挙人の奪取に向けて終盤まで資金投入を続けている[11]。トランプ陣営が打ち出している1つ目の戦略は「法と秩序」の強調である。5月にミネアポリスで起きた警官による黒人男性暴行死事件(「論調Update」第2回参照)以来、BLM(Black Lives Matter)運動の中心となっているミネソタ州と隣接するウィスコンシン州[12]では、抗議活動に付随して生じた暴動に断固たる姿勢で臨むトランプ大統領の強いリーダーシップをアピールするテレビCMを放映している[13]。ミネソタ攻略のためのもう1つの戦略は、環境保護政策への傾斜を強める民主党に対してエネルギー産業・鉱業の擁護を明確に打ち出した[14]ことである。全米最大の鉄鋼産地として知られる州北東部アイアン・レンジ地域の数人の市長が8月末にトランプ大統領への支持を表明した[15]ことは注目を集めた。RCPの平均値で9月下旬に10%を超えていたバイデン氏のリードは、現在6%まで縮小している[16]

16年大統領選でクリントン氏が2.5%差で勝利し、続く18年中間選挙では知事と上院が共和党から民主党に移ったネヴァダ州では、民主党は急増するラテン系有権者と組織労働者を中心に支持を拡大してきた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によってこれらの有権者を対象とした有権者登録キャンペーンが難航していることが報じられている[17]。また、ラテン系有権者の民主党支持は根強いものの、トランプ氏に対する支持率は特に大卒以上の学歴を持つ有権者の間で急速に改善している[18][19]。観光業が大きな比重を占めるネヴァダ州の経済は新型コロナウイルスの流行で大きな打撃を受けており、経済活動の再開をめぐって大きく異なる両候補の姿勢がどのように評価されるかが鍵を握っているといえよう[20]


[1] https://www.bnnbloomberg.ca/trump-eyes-re-election-path-running-through-a-liberal-stronghold-1.1490209

[2] https://www.politico.com/newsletters/playbook-pm/2020/08/25/how-the-trump-campaign-thinks-it-can-win-490181

[3] https://www.nbcboston.com/news/politics/president-trump-to-campaign-in-nh-today/2217909/

[4] メイン州はネブラスカ州と同じ方式で、州全体の勝者に上院議員と同数の2人、2つの下院選挙区におけるそれぞれの勝者に1人ずつ、計4人の選挙人が配分される。16年にはトランプ氏が第2選挙区で勝利し1人の選挙人を獲得、州内最大都市ポートランドを含む第1選挙区および州全体を制したクリントン氏が3人の選挙人を獲得した。

[5] https://www.realclearpolitics.com/epolls/2020/president/mecd2/maine_cd2_trump_vs_biden-7215.html

[6] https://www.realclearpolitics.com/epolls/2020/president/me/maine_trump_vs_biden-6922.html

[7] https://www.realclearpolitics.com/epolls/2020/president/nh/new_hampshire_trump_vs_biden-6779.html

[8] https://www.nbcboston.com/news/local/kamala-harris-husband-doug-emhoff-campaigns-in-nh-its-a-very-critical-state/2217733/

[9] https://www.bostonherald.com/2020/10/21/mike-pence-touts-coronavirus-vaccine-knocks-joe-biden-in-new-hampshire-rally/

[10] ニューハンプシャー州は個人所得税・一般売上税を課さないなど民主党優位のニューイングランド地域近隣州に比べ低税率志向が非常に強い。

[11] https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-10-24/trump-campaign-says-it-s-putting-more-money-into-minnesota

[12] ウィスコンシン州でも、8月に南東部の都市ケノーシャで警官が黒人男性を背後から複数回銃撃する事件が生じ、抗議運動が高まっていた。

[13] ミネソタ州版(https://www.youtube.com/watch?v=Vx6_jhXhL54&feature=emb_logo)とウィスコンシン州版(https://www.youtube.com/watch?v=JTfDgCCpXTE&feature=emb_logo)のCMではそれぞれ事件が生じた都市名がタイトルになっている。

[14] ペンス副大統領は、ハリス上院議員がグリーン・ニューディール法案の共同提出者に名を連ね、フラッキング(水圧破砕法を使ったシェールガス・石油の開発)の禁止を志向していることについて副大統領候補者討論会で繰り返し言及し、規制に反対するトランプ陣営の立場を強調した。

[15] https://www.nbcnews.com/politics/2020-election/trump-trying-flip-minnesota-he-ll-need-iron-range-n1239967

[16] https://www.realclearpolitics.com/epolls/2020/president/mn/minnesota_trump_vs_biden-6966.html

[17] https://www.nytimes.com/2020/09/15/us/politics/nevada-2020-biden-trump.html

[18] https://fivethirtyeight.com/features/trump-is-losing-ground-with-white-voters-but-gaining-among-black-and-hispanic-americans/

[19] https://www.realclearpolitics.com/epolls/2020/president/nv/nevada_trump_vs_biden-6867.html

[20] https://www.wsj.com/articles/las-vegas-economy-crippled-by-coronavirus-plays-key-role-in-presidential-race-11602245189

宇野 正祥

  • 東京大学大学院法学政治学研究科博士課程