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CSR白書2021――エグゼクティブ・サマリー

February 10, 2022

C-2021-001-2-W

CSR研究プロジェクト 

プロジェクトの趣旨
企業への提言
 1.コロナ禍の社会的課題
 2.多様な人材の登用
 3.温室効果ガス削減

プロジェクトの趣旨

東京財団政策研究所では、2013年度より多くの企業にご協力いただき、CSR(企業の社会的責任)についてのアンケートを実施するとともに、ヒアリングに基づく企業事例と有識者論考を合わせて『CSR 白書』を刊行してきた。

2020年に始まった新型コロナウイルスの流行を受け、本白書ではコロナ禍における企業の社会的課題への取組をテーマに調査を実施した。国連が発表した The Sustainable Development Goals Report2021年版では、SDGs(持続可能な開発目標)の17のゴールにコロナ禍が及ぼしたネガティブなインパクトが整理されている。中には達成に向けて悲観的な見解が示されているゴールも存在するが、他方で世界的な危機は社会のあり方を変え、SDGsの達成に向けた転換を実現するためのチャンスであるという認識が提示されている。日本企業においても、コロナ禍は従来のCSR活動にさまざまな影響を及ぼしたと予想され、加えてコロナ禍によって生まれた新たな社会的課題もあるだろう。また、コロナ禍をきっかけとする企業のポジティブな変化も存在すると考えられる。このような問題意識から、企業がコロナ禍において重視する課題や実際の取組、雇用への影響などを調査した。

コロナ禍以外にも、本年度の白書では多くの新たなテーマを設定した。中でも、「多様な人材の登用」と「温室効果ガス削減」については、それぞれ有識者の論考を掲載した。多様な人材登用はコロナ禍の影響を色濃く受けるテーマであると考えられ、進捗具合や具体的な取組、企業の自己評価などの詳しい調査が求められる。

また、202010月には2050年のカーボンニュートラル実現に向けた方針が政府によって示され、温室効果ガス削減は日本企業にとってますます喫緊の課題となっていると考えられる。そこで、温室効果ガス削減についても、業種ごとの特徴や国際枠組みへの参加状況についてアンケート項目に加えた。

以下、それぞれのテーマのアンケート分析結果・有識者論考の要点と、それらから導かれる提言をまとめた。 

企業への提言

1 .コロナ禍の社会的課題

アンケート分析結果

  • 社会課題ごとには、多くの企業が「健康・福祉・高齢化対策」、「経済成長・雇用」、「衛生」を、企業のマテリアリティに設定していない場合でもコロナ禍における課題と捉えている。反対に、「ジェンダー」はコロナ禍の課題と認識されていない傾向にある。「サービス業」や「小売業」など、従業員に占める女性の比率が高い企業は「ジェンダー」をコロナ禍の社会課題として捉えている割合が全体平均よりも高い。
  • コロナ禍に際して経営理念まで見直した企業は非常に少ないが、「サービス業」と「小売業」を中心に、多くの企業が中長期経営計画やマテリアリティを見直した。
  • 全体の58%の企業が、コロナ禍に伴う社会的課題に「ビジネスの創出・イノベーション」によって対応しており、またコロナ禍で生まれたビジネスチャンスへの対応やイノベーションを収束後も継続したいと答えた企業も同程度存在する。
  • ジョブ型雇用や副業・兼業制度の導入・拡大など、コロナ禍を受け働き方の柔軟化に取り組んだ企業も少数ながら存在する。これらの企業の多くは、収束後も取組を継続したいと考えており、コロナ禍が長期的な雇用のあり方の変化に繋がっていると推測できる。
  • コロナ禍を受け、正社員を減らした企業よりも増やした企業の方が多い。対照的に、非正規の職員は、増やした企業よりも減らした企業の方が多い。また、コロナ禍と雇用の関係には、業種ごとのばらつきが見られた。
     

有識者論考から

  • 新型コロナウイルスの流行を受け、企業には内的レジリエンス(企業組織内に存在する外部からの社会的・経済的ショックに打ち勝つための資源)と外的レジリエンス(有事の際の企業存続を可能にする外部との繋がり)が求められる。内的レジリエンスとしては、従業員のロイヤルティ、財務健全性、開発力 / 技術力が企業の存続及び逆境を成長に繋げる活動のカギとなる。外的レジリエンスとしては、頑強なサプライチェーン確立のための取引企業との繋がり、売上の減少を防ぐための顧客ロイヤルティ、安定した投資先として認識されるための投資家との関係性が重要である。
  • 内的レジリエンス・外的レジリエンスともに企業の社会的評価とポジティブな関係にある。社会的評価が高いほど、従業員の満足度と企業の創造力が向上し、財務リスクの緩和、サプライチェーンの持続性の担保に繋がり、顧客・投資家のロイヤルティが醸成される。
  • 逆境下でも成長できる経営を実現するため、「マインドフル」な経営が注目されている。内的レジリエンスは「マインドフルな組織管理」、外的レジリエンスは「マインドフルな企業間管理関係」、「マインドフル・マーケティング」によって担保される。いずれも、各ステークホルダーへの配慮が要となる。 

まとめ
・イノベーションや働き方改革は、コロナ禍の収束後も継続したいと答えた企業が多い。また、ジェンダーをコロナ禍の社会的課題と答えた企業は、ジェンダーを企業のマテリアリティとして捉えていない傾向にある。コロナ禍によって生まれた新たなビジネスやイノベーション、組織体制の改革、マテリアリティの修正などを長期的な企業のチャンスとして捉える必要がある。
・危機下において、企業の社会的評価は内的レジリエンス・外的レジリエンスの確保に繋がる。特に社会的評価はステークホルダーとのマインドフルな関係構築によって醸成することが望ましい。

 

2 .多様な人材の登用

アンケート分析結果

  • 「従業員に占める女性の割合」、「管理職に占める女性の割合」、「役員に占める女性の割合」、「従業員に占める外国人労働者の割合」、「従業員に占める障碍者の割合」のすべてについて、過去1年間で減少したと答えた企業よりも増えたと回答した企業の割合の方が目立って大きい。また、各属性の増減割合には、業種ごとの差異が見られる。
  • 自社の多様な人材登用について、約9割の企業が評価していると回答した。しかし、同じ評価している企業の中でも、多様な人材登用を「評価しており、会社の文書にも規定されている」と回答した企業の方が、「評価しているが特に会社の文書には規定されていない」と回答した企業よりも実際に登用が進んだ割合が高い。反対に、「評価しているが特に会社の文書には規定されていない」と答えた企業では、人材の登用が実際には進んでいない割合が自社の取組を「評価していない」と回答した企業と同程度である。
     

有識者論考から

  • ISO26000によって明確化された労働CSR(人権や労働慣行に関わるCSR)と、表層的・外見的差異と深層的・内面的差異の双方を重視するダイバーシティ経営には共通点が多い。しかし、ダイバーシティ経営は長年競争力の源泉と捉えられ、CSRとの統合は行われなかった。
  • 近年では、CSRとダイバーシティ経営を統合する「マルチレベルモデル」が提唱されている。このモデルは、個人を階級、性別、人種など複数の属性の交差として理解するインターセクショナリティを基盤にしている。個人の属性を広く捉えることで、表層的・外見的差異と深層的・内面的差異というダイバーシティの2つの側面を理解し、ダイバーシティ経営へ繋げることができる。マルチレベルモデルでは、インターセクショナリティに基づいて明らかになった課題に対してマクロ(多国籍、国家)、メゾ(組織/戦略チーム)、ミクロ(個人間、個人内)の3つのレベルで CSRとダイバーシティ経営のそれぞれに取り組む。 

まとめ
・多様な人材登用は、目標や結果の明文化・管理などによって、企業の戦略に組み込むことが肝要である。
・従業員を単一の属性で捉えるのではなく、性別・人種から価値観・働き方まで多様な側面の集積として理解することで、よりきめ細かいCSR活動やダイバーシティ経営に繋げることができる。また、マクロ・メゾ・ミクロ3つのレベルで、CSRとダイバーシティ経営のそれぞれの方針や施策を立てることで、両者の相乗効果が期待できる。
・戦略的な CSRとその効果が注目を集める中で、ダイバーシティ経営を CSRの報告内容の一部として捉える必要性が生じている。



 3 .温室効果ガス削減

アンケート分析結果

  • アンケート対象企業が温室効果ガス削減に向けて実施している取組は「利用するエネルギーの節約」(85%)の割合が最も高く、「環境に配慮した製品・サービスの利用」(68%)、「再生可能エネルギーへの転換」(55%)、「生産プロセスの見直し」(51%)と続く。また、すべての実施項目について、製造業の方が非製造業よりも実施割合が高い。
  • 温室効果ガス削減に向けた取組のうち、「物流の見直し」、「販売プロセスの見直し」、「環境に配慮した製品・サービスの利用」、「再生可能エネルギーへの転換」、「研究・技術開発」はESG(環境・社会・ガバナンス)活動において社員、消費者・顧客、政府を重視していると答えた企業よりも、株主・投資家を重視していると答えた企業の方が実施割合は低い。温室効果ガス削減に向けた取組は多様なステークホルダーを視野に入れて実施されていると推測できる。
  • TCFD [1]SBT[2] RE100[3] 3つの温室効果ガス削減に関連する国際枠組みは、いずれも目標設定・評価を実施・開示している企業の方が、現在参加している割合・今後参加する予定の割合が全体平均よりも高い。また、「気候変動・災害」を重要視する社会課題・マテリアリティに設定している企業の方が、参加割合・参加する予定である割合が全体平均よりも高く、温室効果ガス削減はCSRとしてだけでなく、経営課題として認識されていると推測できる。
     

有識者論考から

  • 欧州では、政策的な後押しと技術の普及により、再生可能エネルギーが最も安価なエネルギーとなっている。また、ESG投資の呼び込みのための要求、膨大な利益が予想される市場としても、再生可能エネルギーは欧米で注目を集めている。
  • 対して、日本では202010月にようやく政府によってカーボンニュートラルの方針が示された。エネルギー転換の遅れは、コスト削減やESG投資において不利に働くだけでなく、欧州が検討している炭素国境調整措置が実現すれば日本の輸出品が課税対象となるリスクがある。
  • 再生可能エネルギーや省エネのための設備・機器の製造に用いられる鉱物資源を巡り、サーキュラーエコノミーの実現に向けた取組が欧州では始まっている。サーキュラーエコノミーの実現に向けた取組は2030年までに欧州で18万人の雇用と7%のGDP成長をもたらすと試算されている。
  • フランスなどがサーキュラーエコノミーの国際標準化に向けた取組を開始しており、日本の製造方法・品質などの規格に将来影響を及ぼす可能性がある。

まとめ
・エネルギー転換とサーキュラーエコノミーは、日本にとってチャンスであると捉えるべきである。2つの施策が実現すれば、日本は資源輸入国の立場から脱却できる。日本は天然資源には乏しいが多くの廃棄物を持っており、日本企業が有する再資源化などの技術が強みとなる。
・再生可能エネルギー事業を展開するにあたっては、当該地域の合意が不可欠である。企業が地域主体の再生可能エネルギー事業を支援し、エネルギー調達を進めることが肝要である。
・サーキュラーエコノミーの実現に向けた国際動向を認識し、再資源化を前提とした製品の開発を進めることが重要である。

 


[1] Task Force on Climate-related Financial DisclosuresTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)

[2] Science Based TargetsSBT(企業の科学的な中長期の目標設定を促す枠組み)

[3] Renewable Energy 100%;RE100(企業が事業活動に必要な電力の100%を再エネで賄うことを目指す枠組み)

 


『CSR白書2021 ――エグゼクティブ・サマリー』
(東京財団政策研究所、2021)pp. 6-11より転載

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