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第12回 現代アメリカ研究会報告

October 14, 2008

1.第十二回研究会の目的

第十二回研究会が9月29日に開催された。第十二回研究会のテーマは、党大会後の共和党・民主党の動向と今後の見通しについてであった。本プロジェクト研究メンバーの細野豊樹氏、中村克彦氏、渡辺将人氏によって報告が行われた。

2.第一報告「アメリカ大統領選挙の最新情勢」(細野豊樹氏)

まず、細野氏より、党大会後の最新情勢についての報告がなされた。2006年中間選挙から党大会終の現在まで、共和党には逆風が吹き続いている。それは、ブッシュ大統領の支持率の低さに表れており、金融危機と経済不安が逆風をさらに強めている。しかしながら、興味深いことに大統領選挙は接戦の様子である。現在の接戦は、両陣営のどのような選挙戦略によってもたらされているのだろうか。

両陣営が拮抗している主な理由は、オバマもマケインも党内非主流派のため、支持政党無し層には強いが、党内支持基盤固めに悩んだことである。両候補とも予備選挙の段階で手薄であった支持基盤を取り戻すことにようやく成功した。オバマはかねてから若いエリートとして認識されており、経験不足が指摘され、民主党の支持基盤であるブルーカラー労働者との距離をつめることに苦労していた。しかし、労働者の家庭に生まれ、上院外交委員会委員長を務めた経験豊富なジョセフ・バイデンを副大統領候補とすることなどで、この2つの欠点を補うことに成功した。

他方、マケインは共和党の支持基盤の一つである宗教保守からの支持をとりつけることができずにいたが、アラスカ州知事で頑強な保守派であるサラ・ペイリンを副大統領候補として迎えることで弱点を補った。党大会でのペイリンの指名は、党内保守派の士気を高め、激戦州や支持政党なしの有権者の間で、マケイン支持を一時的ながら押し上げるという効果をもたらした。

オバマの選挙キャンペーンで特筆すべきは、その政治献金の獲得能力とボランティアの動員力である。オバマは豊富な資金力を背景に、全ての州の選挙活動に資金を注ぎ込む50 state-strategyを採用しているが、マケイン陣営は州を選んで資金を投入している。この対比は、両陣営がそれぞれの州に構えている選挙事務所の数に端的に現れている。オバマ陣営はそれぞれの州に多数の事務所を構えているが、マケイン陣営はフロリダ州やオハイオ州などの接戦州に限って、多くの事務所を置いている。

また、オバマ陣営は豊富なボランティアや有権者データベースVoteBuilderを活用し、GOTV(get out the vote: 投票に行きましょう)運動を展開しており、着実に有権者登録数をのばしている。結果として、過去の大統領選挙で共和党が安定して勝利を収めてきたヴァージニア州、コロラド州が接戦州になるなど、大きな効果をもたらしている。

最新の世論調査によれば、金融危機をめぐるマケインの迷走(失言や場当たり的スタンドプレイ)を背景に、全米レベルではオバマがややリードしている。

3.第二報告「オバマキャンペーンが2008年選挙に与えた影響について:選挙・政治資金の観点から」(中村克彦氏)

続いて中村氏から、大統領選挙について政治資金の観点から報告がなされた。2008年の大統領選挙では、それまでの大統領選とは三つの点で異なった選挙となっている。

第一に、インターネットの利用方法の変化である。オバマ陣営は、2004年のディーン陣営のキャンペーンをさらに発展させ、インターネットの利用者による自発的な活動を誘発し、実際の選挙戦に連動させるキャンペーンを展開した。またYoutubeのような活動は資金がかからない個人による活動にもかかわらず、選挙に少なからぬ影響を与えた。インターネットを通じて人々を有権者登録や投票へと結びつけたオバマの戦略は「ネットグラスルーツ」とも呼ばれる一つのモデルを示したといえる。

第二に、オバマによる大統領本選での公的助成制度の回避である。1974年の連邦選挙運動法改正で制定され1976年の大統領選挙以来、候補者は党大会から11月の本選挙までの期間の選挙資金を連邦政府より受け取ることができるようになった。本年度の候補者には8410万ドルが支給されることになっており、マケインは9月8日にこの助成金の受け取りが認められた。他方、オバマは公的助成制度を利用しないと宣言し、制度を利用しない初めての2大政党の大統領候補となった。公的助成制度によって資金を受け取った場合、助成金額以上の資金を用いることはできないが、助成制度を利用しない場合には、使用できる資金に上限なしに、集めただけの選挙資金を使うことが可能になる。

オバマ陣営が優位に選挙戦をすすめるには、マケイン陣営が手にした助成額の最低2倍は集めたいところで、オバマ陣営は2~3億ドルの献金を集める目標を掲げた。予備選挙の段階では、オバマ陣営は200ドル以下の小口献金によって多額の資金を獲得することに成功しており、本選挙用の資金獲得にも成功すると見込んで公的助成制度を利用しないという選択をしたと考えられ、選挙資金肥大化への批判よりも当選を重視したといえる。

第三に、527団体の活動とソフトマネーの流れの変化である。527団体とは、米国の内国歳入庁によって政治活動を目的とする団体として認められた団体である。ソフトマネーとは、連邦選挙資金法の下で規制され選挙活動に用いることのできるハードマネーと異なり、連邦選挙に関係ない資金という名目で集められ、間接的に連邦選挙にも影響を与える政治活動に用いられる資金である。

2004年の大統領選挙では、527団体とソフトマネーの主戦場は、テレビCMなどの広報活動であり、これらの団体はいわば「空中戦」を戦っていた。しかし、2004年の選挙後には、広報活動につぎ込んだ多額の資金は望ましい効果をもたらしたのかという疑念が広がっていった。結果として、2008年の527団体とソフトマネーの主戦場は、有権者登録の推進や、有権者の組織化といった地道な「地上戦」へと移行した。

4.第三報告「党大会後の民主党情勢を中心に」(渡辺将人氏)

最後に、渡辺氏によって党大会後の民主党の直近の情勢についての報告がなされた。2008年の民主党大会で大統領候補に指名されたオバマは、2004年の民主党大会の演説によって政治的に注目を集めたのであり、彼にとって党大会とは特別な舞台であった。オバマは、その党大会の舞台上において「物語」を提示した。それは、オバマという個人がアメリカ社会で成長した物語であり、アメリカの統合の物語であった。オバマは、広くはアメリカ社会の統合を訴え、狭くはヒラリー支持者との融和を求めた。

民主党はジョセフ・バイデンという大物を副大統領候補に指名したものの、副大統領候補選びについては共和党のサラ・ペイリン指名に話題を独占されてしまった。ペイリンによって、ヒラリーを支持していた多くの民主党女性票が共和党に流れていくのではないかという見方もあるが、ペイリンは頑なにpro-lifeを主張しているために、pro-choiceの女性票は民主党から動かないと考えられる。

党大会を終え、本格的なオバマとマケインの選挙戦が始まり、予備選挙の段階でオバマに有利に働いていたcommunity organizerというオバマの経歴が、オバマに不利に働く可能性が生じてきている。都市部のリベラルな人々には、その仕事がイメージできるものの、農村部や保守的な地域の人々にとっては、トラブルメーカーと理解されるリスクもある。オバマ陣営はこの点についての防御の必要性がある。

新たな選挙運動の手法としては、テレビCMによる宣伝が巧妙になってきている。それぞれの陣営は、新たなテレビCMを作成すると、まずテレビ局にニュースのネタとして売り込み、ニュースの中で取り上げさせるようになってきている。

オバマ陣営の「ピアツーピア」のネット戦略はとりわけ若年層に向けて有用にはたらいたが、本選で無党派や保守層の獲得にどこまで有用にはたらくかが注目される。アウトリーチの焦点としては、ペンシルベニア、オハイオ、フロリダ、ミシガンの激戦州、またヒスパニック系アウトリーチのカトリック向けアウトリーチとの連動も視野に、フロリダ、ネバダ、ニューメキシコ、コロラドの各州などに力が投入されている。

最後に、オバマ陣営は、人種という不安要素を抱えている。これまでの様々な選挙において、世論調査では多くの人が「人種を考慮しない」と答えるものの、黒人の候補の得票数は常に世論調査から導かれる予想よりも下回るということが起きてきた。オバマ陣営もやはりこの不安に取り付かれており、マケインに対して最低限10%のリードを確保することを目標としている。

文責: 梅川 健

    • 東京都立大学法学部教授
    • 梅川 健
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