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【論考】誰のための副首都構想なのか、見極めが必要だ
January 6, 2026
自由民主党と日本維新の会の連立政権が誕生したことにより、維新の会が目指す副首都構想が実現に向けて動き出した。両党は2026年通常国会での法案成立に向けて協議に入っている。
だが、維新の会の思惑通りにことが進むとは限らない。同党は大都市地域特別区設置法に基づく特別区の設置を副首都の指定要件として求めており、実質的に「大阪ありき」となっていることが反発を呼んでいるのだ。
もう少し詳しく説明すると、同法は特別区の設置について人口200万人以上の政令指定都市または政令指定都市と隣接自治体の総人口が200万人以上の地域としている。単独で該当するのは横浜、大阪、名古屋の3市に限られ、このうち「特別区」を目指す動きがあるのは大阪市だけなのだ。
しかも、副首都には規制緩和や税制の特例措置を認め、国が交通網などインフラ整備を行うことも念頭に置いていることから、自民党内からも「我田引水」との批判が出ている。
維新の会の提案は脇に置くとして、そもそも副首都構想というのは日本経済や国土形成など広範囲に多大な影響を及ぼすだけに多面的な検討を要する。莫大な財源も要するし、唐突に浮上した政治テーマであることから国民の理解も進んでいない。「2026年通常国会での法案成立」などと期限を切って性急に結論を出すのではなく、腰を据えた議論が必要である。
連立合意書は副首都の必要性について(1)首都の危機管理機能のバックアップ体制の構築(2)首都機能分散および多極分散型経済圏の形成─の2点を掲げているが、この説明だけでは説得力を欠く。
まずは「首都の危機管理機能のバックアップ体制の構築」からだ。東京が大災害に見舞われた際のバックアップ機能の必要性は否定しないが、その手段が副首都であるべきかどうかは意見が分かれるところだろう。
危機管理機能というのが何を指すのか明確にしなければならない。たとえば首都直下地震では大規模な死傷者数が想定されており、府省庁や国会を副首都に分散させておけば事足りるということではないだろう。
最も重要なのは住民の命であり、副首都を設置したところで東京に住む人々の命が救われるわけではない。副首都建設に莫大な費用を投じる余裕があるのならば、東京の減災に向けた取り組みの強化を優先すべきだ。
政府機能を東京と遠隔地の「副首都」とに分けることの非効率性も考慮しなければならない。
バックアップというのは、日常的に業務を遂行する人がいてこそ機能する。建物だけつくって、非常時に急ごしらえの体制を組んでもうまくいかない。もし、東京と離れた場所に副首都を設置しデュアルに日常業務をこなす体制を実現しようとするならば、国家公務員を増やさざるを得なくなるだろう。現在働いている官僚の半分を副首都に割いたのでは、東京の政府機関が十分機能しなくなる。
国会についても、副首都にも議事堂を建設すれば交互に開くことは可能となる。だが、そのたびに国会議員はもとより多くの人が移動するとなれば経費も労力もかさむ。
平時の運用も含めて考えれば、東京郊外の広大なエリアにバックアップ施設を建設しておき、非常時にはそこに移動して仕事を続けるほうが合理的であろう。すでに、東京都立川市には政府の関係機関を集約した広域防災基地があり、東京都は同基地の機能強化に乗り出している。
それでも東京と離れた場所に副首都を置くというならば、副首都は1つの都市に絞り込むべきではない。国土面積の狭い日本では複数都市が同時に被災する可能性が小さくないからだ。南海トラフ地震では東京圏から大阪圏までの広範なエリアが同時に被災すると想定されているが、副首都を固定してしまうと、「首都も副首都も機能しない」という事態が起こり得る。
こうした事態を回避しようと思えば、全国の複数の政令指定都市を「副首都候補都市」として定め、あらかじめ順位づけをしておくことだ。東京が大規模な自然災害で都市機能が不全となった場合、「副首都候補都市」の中から被害がなかった都市あるいは最も小さかった都市を、事前の順位付けに応じて「暫定の首都」にするのである。
次に、連立合意書で副首都創設のもう1つの目的として掲げられた「首都機能分散および多極分散型経済圏の形成」だが、これにも疑問が少なくない。
「首都機能分散」というのは東京一極集中の是正を念頭に置いているが、政府機関の一部を移転させる程度で一極集中が解消するわけではない。
「多極分散型経済圏の形成」というのも分からない。副首都を置くことがどうして多極分散につながるのか。
維新の会は副首都に「東京圏と並んで日本の経済成長を牽引する」との役割を期待している。国家予算を投じて交通インフラなどを大規模に整備すれば、副首都は東京と並ぶ経済の軸とはなろう。だが、経済が成長すれば人口集中が進む。副首都というのは「ミニ東京」を建設することにほかならず、誕生するのは東京と副首都の「二極化」であって「多極分散」ではない。
しかも副首都で進む人口集中は、東京から人々が移り住むことで起きるわけではないだろう。周辺地域を中心に地方圏の各地からの人口流入が想定される。
人口減少社会において東京と「ミニ東京」を併存させるということは、東京と副首都が同時に地方圏から人口を招き寄せる状況をつくるということだ。そうでなくとも人口激減社会においては、人手不足で生活機能が衰退する地方圏から人々が流出し、大都市への人口集中が起きやすくなる。これでは地方圏の人口減少は加速することとなり、「多極分散」と逆行しよう。
「多極分散型経済圏の形成」を言うのであれば、「ミニ東京」のような副首都をつくる「二極集中」の推進ではなく、主要な地方都市を軸として周辺地域の人口を集約する「人口減少対応型都市」を各地に設けることである。人口減少社会おいて目指すべきは多軸型国家だ。
多軸型国家として地方を再生することは、人口減少下の大都市の発展にも欠かせない。大都市には人口を維持するだけの農業生産力が備わっていないためである。人口減少が進むほど、大都市と食料生産地である地方は補完関係を強化しなければならないのに、「ミニ東京」たる副首都をわざわざ建設して地方圏からの人口を吸い寄せるなどあり得ない話である。
地方圏の人口減少で農業従事者が減っており、すでに日本は10年後の安定的な食料生産すら見通せなくなってきている。農林水産省によれば、1615市町村の1万8894地区が策定した「地域計画」(2025年4月末現在)のうち、10年後の耕作者が決まっていない農地は全体の31・7%にあたる133・9万ヘクタールに及ぶ。人口激減社会において東京と「ミニ東京」だけが発展を続けるということはあり得ない。
副首都構想を考えるにあたっては、人口減少社会において東京をどう活性化させるかという視点も重要となる。東京都の推計によれば、東京都の人口は2030年にピークを迎える。地方の若者が減ることで転入者が少なくなることが要因だが、人口の割に出生数が少ない東京都は地方圏からの若者の転入が減れば急速に高齢化率が上昇する。それは働き手世代とマーケットの縮小であり、「集積の経済」で発展を遂げてきたこれまでの成功モデルが破綻をきたすということである。今後は東京の国際的な影響力をどう高めていくかが大きな政治課題となるのだ。
こうした状況下で副首都を建設し東京が急速に勢いを失ったならば、日本経済は大きく衰退するだろう。
繰り返すが、人口減少社会で急ぐべきは(1)地方圏にいくつもの「人口減少対応型都市」をつくることであり、(2)東京の経済成長モデルをリデザインすることだ。1つの都市の活性化のみを目的とした副首都構想など百害あって一利なしである。
いまの日本に求められているのは、地方圏の「人口減少対応型都市」と大都市がウィンウィンとなる関係を再構築することで人口激減後も日本全体としての経済発展が実現し得るようにする政策だ。副首都構想とは誰のための、何を目的とした政策なのか。われわれはよく見極める必要がある。