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【特集】2026年の課題と展望―人口減少が地方自治体に与える影響① ―市町村が抱える持続可能性への危機―
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【特集】2026年の課題と展望―人口減少が地方自治体に与える影響① ―市町村が抱える持続可能性への危機―

January 13, 2026

2025年は日本初の女性首相が誕生し、日本政治史の大きな転換点を迎えました。2026年の日本はどのような課題と向き合っていかなければならないのでしょうか。東京財団で昨年10月より新しい研究プロジェクトを開始した上席フェローが、各専門分野から「2026年の課題と展望」を論じます。

この記事のポイント

  • ・市町村行政の持続可能性が危機
  • ・人口減少と人材不足が同時進行
  • ・既存制度では対応に限界
1 人口減少と地方自治体
2 平成期の改革と市町村
3 顕在化する持続可能性への危機
4 さらに小規模化する自治体
5 地方創生は限界市町村を救えるか
6 市町村を身軽にすることを考える必要がある

1 人口減少と地方自治体

日本は本格的な人口減少局面を迎えている。現在12千万人余の人口は、2070年には9千万人を割り込み、高齢化率は39%に達すると推計されている。この未曾有の状況に対応するためには、経済成長期に構築されたさまざまな社会システムの再構築にとどまらず、成長を重視する価値観とは一線を画した、新たな視点で社会課題に向き合う必要がある。

とりわけ、住民の生活に欠かせない地方自治体による行政サービスをいかに維持していくかは、極めて大きな課題である。人口減少を危機的状況と捉え、定住人口の増加や産業創出など地方創生の取り組みに力を入れる自治体が多い一方、情報システムやAIなどの新たなツールを活用し、効率的かつ付加価値の高いサービスの提供を目指すDX(デジタル・トランスフォーメーション)も加速している。

しかし、老朽化した公共インフラの維持管理、高齢者向け福祉サービスの提供、地域産業の振興など、地方自治体が取り組むべき課題は山積しており、その多くはいずれも容易に解決できるものではない。人口減少と高齢化に伴う行政需要の増大、慢性的な財源不足、さらには行政サービスを担う職員の不足という幾重もの難題が、市町村に重くのしかかっている。

2 平成期の改革と市町村

平成期における地方行政の枠組みを大きく変えた改革として、地方分権改革と平成の合併が挙げられる。地方分権改革では、機関委任事務の廃止をはじめとする制度改革が行われ、国と地方自治体の関係が抜本的に見直された。多様性を重視した個性ある地域社会の形成を念頭に、多くの権限と事務が国から地方自治体へ移譲されたのである。

特に「市町村優先」の考え方に基づき、多くの事務が市町村に移譲されたことは、市町村にとって大きな負担となった。国と地方自治体の役割分担については、国が国際社会における国家の存立に関わる事務や統一的な基準の策定、全国的な規模の施策を担い、住民に身近な行政は地方自治体が総合的に担うという方針が明確にされた。一方、都道府県と市町村の関係については、当初は二層制の地方自治制度を前提とした分権推進が掲げられていたものの、その後の改革では市町村を最終的な受け皿とする事務移譲が段階的に進められてきた。

これと並ぶもう一つの大きな改革が、1999年から進められた平成の合併である。都道府県の区域が明治期以来ほぼ変化していないのに対し、市町村は行政サービスの実施体制や行財政基盤の確立を目的として、時代ごとに大規模な合併が行われてきた。平成期には、地方分権改革に対応できる行財政能力を確保するため、市町村合併が強力に推進され、その結果、市町村数はほぼ半減した。

3 顕在化する持続可能性への危機

平成期の改革は、人口減少と高齢化という今日的課題を見据えて実施されたものであった。しかし現在もなお、地域における行政サービスの持続可能性が問題視され、市町村が担う事務を広域連携によって効率的に処理する方策が模索されるなど、地方行政体制をめぐる課題は解消されていない。むしろ危機感は一層強まっている。

20251月、埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故では、トラック1台が陥没穴に転落し、運転手が死亡した。「蛇口をひねれば水が出る」「道路は陥没しない」といった、これまで当たり前に享受してきた生活基盤の前提が、急速に崩れ始めている現実を国民に突きつけた事故であった。

高度経済成長期に一斉に整備された水道、橋梁、道路などのインフラは、今後同時期に一斉に老朽化する。維持更新に必要な財源を確保できるかという問題に加え、対応を一層困難にしているのが人材不足である。現在の地方公務員は、いわゆる団塊ジュニア世代の割合が相対的に高いが、2040年頃にはこの世代が退職期を迎える。一方、その時期に入職が見込まれる20代前半の人口は、団塊ジュニア世代の約3分の1にとどまる見通しである。

特に技術職員については、すでに応募がほとんどない市町村も少なくない。これらを踏まえると、インフラの維持更新を行うことができない市町村が現れることは、容易に想像できる。さらに近年、市町村では少子化対策、移住・定住促進、空き家対策、地域交通の維持、買い物難民対策など、人口減少に対応するための事務が増加している。加えて、単身高齢者の孤独・孤立対策、多文化共生施策、公共施設のゼロカーボン化など、行政需要は多様化かつ複雑化している。これらすべてに応え続けることができるのか、すでに限界が見え始めている自治体も少なくない。

4 さらに小規模化する自治体

国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の地域別将来推計人口(2023年推計)」によれば、今後ほとんどの市区町村で人口減少が進む。2020年から2050年にかけて、総人口が5,000人未満の市町村は283から482へと約1.7倍に増加し、全市町村の28%を占める見込みである。特に北海道では3分の2以上の市町村が人口5,000人未満となり、東北、中部、九州・沖縄でもその割合は高くなると予測されている。

(出典)国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(2023年推計)」から作成。

一般に、地方自治体は人口規模が大きいほど、財政力や職員数といった行政資源も大きくなる傾向にある。人口が減少しても、既存インフラの維持管理といった業務が減るわけではない。さらに高齢化が極端に進んだ地域では、医療・福祉の確保、買い物支援など、行政が担うべき課題はむしろ増大し、より難しいものとなる。財政や人員体制が脆弱な市町村において、これらの課題に対応していくことは、極めて困難と言わざるを得ない。

5 地方創生は限界市町村を救えるか

2014年に第2次安倍内閣の下で始まった地方創生は、人口減少、少子高齢化、東京一極集中という日本の構造的課題に対処するための政策である。岸田内閣の「デジタル田園都市国家構想」、石破内閣の「新しい地方経済・生活環境創生」、高市内閣の「地域未来戦略」へと看板は掛け替えられてきたが、その基本的な方向性は一貫している。

地方創生政策は、各地方自治体が人口見通しと独自戦略に基づき人口維持や経済活性化に取り組み、国が財政・人材・情報面で支援するという枠組みである。しかし現場では、増え続ける行政需要と人員不足のなかで、実効性のある政策立案が難しいという現実もある。過疎地支援をうたいながら、専門知識の乏しい自治体を食い物にする、いわゆる「過疎ビジネス」とも呼ぶべき事例が報道されたことも記憶に新しい。制度の問題に加え、その制度を担う市町村役場自体が限界に近づいているという現実を、直視する必要がある。

6 市町村を身軽にすることを考える必要がある

地方自治体は、厳しい財政状況と限られた人的資源のもとで、地域の行政サービスを維持することを求められている。人口減少は行政サービスの非効率化や水準低下を招く可能性が高く、特に人口減少が著しい市町村では、IT技術を活用してもサービスの維持・効率化には限界が生じることが予想される。

広域連携など市町村間の水平的な連携は重要であるものの、地域によってはそれにも限界がある。地方分権改革によって過重となった市町村の事務を見直し、財政的・人的負荷の高い事務については、都道府県や国が担う仕組みを再構築することが必要である。特に、多額の財源や専門人材を必要とする行政サービス、人的負荷の大きい分野において、その必要性は一層高まっている。

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