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【特集】2026年の課題と展望―人口減少が地方自治体に与える影響② ―都道府県は市町村を救えるか―
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【特集】2026年の課題と展望―人口減少が地方自治体に与える影響② ―都道府県は市町村を救えるか―

January 15, 2026

2025年は日本初の女性首相が誕生し、日本政治史の大きな転換点を迎えました。2026年の日本はどのような課題と向き合っていかなければならないのでしょうか。東京財団で昨年10月より新しい研究プロジェクトを開始した上席フェローが、各専門分野から「2026年の課題と展望」を論じます。

この記事のポイント
 ・市町村優先の制度が限界に直面
 ・都道府県の補完機能が鍵
 ・二層制は不変の制度ではない                                                                                     

1 市町村を主軸として進められた平成期改革
2 二層制における役割分担の基本構造と課題
3 都道府県の存在を巡る制度的議論
4 郡制に見る広域自治体の「賞味期限」
5 人口減少時代に都道府県に求められる役割

1 市町村を主軸として進められた平成期改革

人口減少と財政制約が同時に進行する中、日本の地方自治は大きな転換点を迎えている。これまで市町村を中心に構築されてきた地方行政の仕組みは、人的・財政的制約の下で限界が見え始めている。

平成期の地方行政改革を特徴づけるのが、地方分権改革と平成の市町村合併である。地方分権改革は、国と地方の関係を見直し、地域の自主性と多様性を尊重することを目的として進められた。その結果、多くの権限と事務が地方へと移されることとなった。

この改革の基本思想にあったのが、市町村を地域の行政サービスの担い手の中心に据える考え方である。住民に最も身近な自治体である市町村が主体となって行政を担うことが、住民主体の個性ある地域づくりの観点から望ましいとされた。しかし、人口減少の進行により、職員数の減少や財政基盤の弱体化が顕在化する中で、この仕組みは市町村にとって大きな負担となりつつある。

一方、都道府県は国と市町村の中間に位置する広域自治体として存在してきたが、市町村合併により自治体数が大幅に減少したことに加え、交通網の発達や情報化の進展によって住民の生活圏は拡大・多様化している。こうした変化の中で、都道府県が担うべき役割は相対的に曖昧になっている。

いわゆる「道州制」をめぐる議論をはじめとして、広域自治体(都道府県)と基礎自治体(市区町村)の二層制そのものを見直す議論もあるが、現実には大きな制度改革を求める動きには至っていない。仮に二層制を前提とするならば、人口減少下における持続可能な地方行政のあり方として、都道府県の役割を再定義することが不可欠である。

2 二層制における役割分担の基本構造と課題

日本の地方自治制度は、市町村と都道府県からなる二層制を基本としている。市町村は地域に密着した基礎的な行政サービスを担い、都道府県は複数の市町村を包括する広域自治体として、より広域的な行政課題に対応する役割を担ってきた。

事務配分の考え方としては、市町村が担えるものは市町村が処理し、それが困難なものを都道府県が担うという原則が採られている。都道府県の役割は、広域的な対応が必要な事務、市町村間の調整、そして規模や性質の面で市町村では対応が難しい事務に大別される。

このうち、特に問題となるのが、市町村では対応が困難な事務をどこまで都道府県が引き受けるのかという点である。政令指定都市制度や中核市制度により一定規模以上の市については、都道府県の事務を市が自ら担う仕組みが整備されてきたが、一般市町村の事務のうちどのような事務を都道府県が処理するかについては、その範囲は必ずしも明確ではない。その結果、都道府県によって市町村の事務への関与の度合いには格差がある。

3 都道府県の存在を巡る制度的議論

地方分権改革は、二層制を前提に進められ、都道府県という広域自治体のあり方そのものには踏み込まなかった。しかし、二層制もまた立法政策上の問題である以上、将来の地方行政体制を考える際には、都道府県の存在意義とそのあり方も当然に検討の対象となり得る。

これまでの代表的な議論として挙げられるのが、道州制と特別市構想である。道州制は、都道府県を廃し、より大きな広域単位である道州を設ける構想として提起されてきたが、国民的議論に至ることなく、現在まで進展は見られない。

一方、特別市構想は、道府県の区域外となる一層制の地方自治体を設けるというものであり、政令指定都市を中心に提言が続けられている。二重行政の解消といったメリットが強調される一方で、都道府県が果たしてきた広域調整や補完の機能が弱まる可能性がある。また、税財政面での影響は特定の都市にとどまらず、他市町村を含む地方自治制度全体に及ぶことから、都道府県のあり方を含めた制度全体の再設計の議論が不可避と考えられる。

4 郡制に見る広域自治体の「賞味期限」

広域自治体である都道府県のあり方を考えるうえで、歴史的な示唆を与えるのが、明治・大正期に存在した「郡」の制度である。郡は、都道府県と市町村の中間に位置する広域的な地方自治体として設けられたが、制度としては比較的短期間で廃止され、現在では地理的名称としてのみ残っている。

我が国の本格的な地方自治制度は、1878年(明治11年)の、いわゆる三新法の制定を起点として整備された。この制度のもとで、府県の下に郡と区(現在の市に相当)、郡の下に町村が置かれた。ただし、当初から府県や町村が地方自治体として位置付けられていたのに対し、郡は国の行政区画とされ、自治体としての性格を持たなかった。

その後、1889年(明治22年)の市制町村制の施行および明治の大合併によって町村数が大幅に整理され、1890年(明治23年)には府県制とともに郡制が施行された。郡制導入の理由としては、府県の区域が広すぎることや、府県内の地域性に差異があることが挙げられている。これにより、郡は府県とともに地方自治体として位置付けられ、府県と町村の中間団体として行政を担うことが期待された。郡には、執行機関として郡長および郡参事会、議事機関として郡会が設置され、自治機能が付与された。

しかし、郡制は当初の想定どおりに機能したとは言い難い。制度が本格的に運用されるまでには時間を要した。実際に郡制が全国的に定着したのは1900年(明治33年)頃とされている。その行政機能も次第に縮小し、1923年(大正12年)には地方自治体としての郡が廃止され、さらに1926年(大正15年)には郡長および郡役所も廃止された。

郡が廃止に至った背景については、これまで多くの研究が行われている。総じていえば、社会経済環境、そして国民ニーズの変化によって、郡という中間的な地方自治体の存在意義が次第に希薄化したことが大きい。郡が担っていた事業や管理していた施設は、廃止後に府県や町村などへ移管されており、行政サービスそのものが不要になったわけではない。郡という中間的な地方自治体の存在意義がそのコストとともに疑問視されるようになったことが、廃止の要因となったのである。

郡制の廃止は、地方自治制度が固定的なものではなく、社会の変化や国民ニーズに応じて変化しうることを示している。中間的な広域自治体が果たすべき役割は何か、その役割はコストに見合うものかという問いは、現在においても重要な視点である。

5 人口減少時代に都道府県に求められる役割

国・地方ともに厳しい財政状況が続くことが見込まれる中で、都道府県に求められる最も重要な役割は、市町村への補完機能である。市町村間の連携による広域対応は重要であるが、すべての地域でそれが十分に機能できるわけではない。

財政規模が大きく、専門性の高い事務や、人材確保が困難な分野、地理的条件から市町村単独や市町村間の連携では対応が難しい事務については、都道府県が主体的に担うことが求められる。単なる支援にとどまらず、責任を持って事務を引き受ける姿勢が、都道府県の存在意義を明確にする。

地方自治制度は固定的なものではなく、社会経済環境の変化に応じて見直されるべきものである。既存制度の維持そのものではなく、実効性ある役割の再構築が、今まさに求められている。人口減少時代において、都道府県がどこまで補完機能を発揮できるかは、二層制を持続可能な制度として維持すべきかどうかの試金石となるだろう。


人口減少が地方自治体に与える影響① ―市町村が抱える持続可能性への危機―はこちら

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