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【特集】2026年の課題と展望―人口減少社会と地域放送メディアの論点①―
January 21, 2026
2025年は日本初の女性首相が誕生し、日本政治史の大きな転換点を迎えました。2026年の日本はどのような課題と向き合っていかなければならないのでしょうか。東京財団で昨年10月より新しい研究プロジェクトを開始した上席フェローが、各専門分野から「2026年の課題と展望」を論じます。
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この記事のポイント |
| はじめに 放送メディアの事業領域拡張・創造の方向性 〇コンテンツビジネス 〇地域放送メディアにおける事業の可能性 |
はじめに
2025年は、ラジオから始まった放送メディアが100年目となる記念すべき年であった。しかし、スマートフォンの普及や動画配信サービスの進展などメディア環境が激変する中で、放送事業者が放送サービスの提供のみで生存できる時代はとうに終焉している。事業の領域を拡張したり、新たな事業を創造したりして経営の多角化を図っていくことが、“101年目からの放送”を考えて行く上での、事業者にとっての最大の課題だといっていいだろう。
しかし、こうした事業者の経営努力のみで太刀打ちできるほど甘くないのが、人口減少という事態である。広告、世帯契約のいずれのビジネスモデルにおいても、廃業や再編・統合の動きを避けて通ることはできないだろう。現に2025年には、基礎自治体を基本的な放送エリアとするラジオ局であるコミュニティ放送局が8局廃局となった[1]。
問題は、こうした動きを市場経済の流れに委ねすぎていいのか、ということである。必要な情報の流通が途絶え、人々をつなぐメディア機能が失われることは、地域の人々が不便になるだけでなく、民主主義の基盤をも揺るがしかねない。人口の減少で課題が増大する地域を切り捨てるのではなく、こうした地域にこそメディア機能の維持が必要だという視点で、経済合理性と両立できるような施策を考える努力が必要ではないだろうか。
筆者は、冒頭で述べたような①事業領域の拡張・新たな事業の創造といった事業者の「経営努力」、②地域を主体とする放送・メディア業界の「再編・統合」、③国の制度などによる「支援制度」、④自治体などとの「公民連携」の4点を、地域と事業者の状況を鑑みた俯瞰的視点で組み合わせていくことによって、人口減少社会における地域メディア機能の維持は可能だと考えている。この研究と研究成果の提言が、本財団における筆者の役割である。
本稿では「人口減少社会と地域放送メディアの論点①」として、放送メディア全体の事業領域拡張・創造の方向性に関する最近の動向を概観する。その上で、②以降の論考で、地域放送メディア別に2025年を振り返りつつ、今年の課題と展望を考える上で重要だと思われる論点を示していきたい。
放送メディアの事業領域拡張・創造の方向性
〇コンテンツビジネス
放送局が事業領域を拡張するため、最も積極的に取り組んでいるのがコンテンツビジネスである。特に、全国向けの番組制作を担う在京民放キー局(以下、キー局)各社は、「コンテンツIPビジネス」に注力している。これは、ドラマ、アニメ、バラエティー番組などのコンテンツIP(知的財産)を、放送に限定せず、配信・番組やパッケージ販売・映画化・出版・キャラクターのグッズやゲームなどに展開し、グローバル市場を念頭に収益最大化を図るものである。2025年には、グローバル市場向けのバラエティー企画開発に特化したスタジオの開設や、海外の放送局との戦略的提携など、具体的な動きが加速した[2]。
キー局以外の取り組みについても触れておく。在阪局各社は、アニメを中心としたコンテンツIPビジネスを積極的に進めており、グローバル市場にも通用する数々のコンテンツを制作・展開している[3]。ただ、大半のローカル局は、キー局・準キー局のような制作費もなければ人材も乏しいのが現実だ。こうしたローカル局各社が力を注いで制作しているのは日々の情報番組であり、そこで放送した5~10分程度のコーナーVTRを、自社サイトやYouTubeなどに展開してきた。2024年からは、こうしたVTRを、系列を超えて一か所に集約し、メタデータを付与することでプラットフォーム展開など多方面へ流通可能な基盤を作る「ローカルコンテンツバンク」という試みを行っている[4]。今年は、その取り組みを本格的に始動させ、価値最大化を図っていく予定だ。
また、基礎自治体や複数の自治体を基本的なサービスエリアとするケーブルテレビ事業者は、地域の祭りや自然、食といった領域[5]を中心に数多くの4Kコンテンツを制作しており、プラットフォーム事業者[6]とも協力しながら海外展開に取り組んできた。今後もこうした動きを加速させていくと共に、アメリカで急速に広がる無料広告型ストリーミングテレビサービスの「FAST」でも本格的に展開していく予定だ[7]。
政府においては、2033年に国内コンテンツの海外売上高を20兆円とする目標が掲げられており[8]、2025年6月には、その目標を実現するためのアクションプラン[9]が公表された。加えて、同年11月に高市政権下で発足した日本成長戦略本部では、「重点投資対象17分野[10]」の1つとして、コンテンツに関する施策が盛り込まれた。また、総務省でも「放送・配信コンテンツ産業競争力強化推進協議会(仮称)」を立ち上げ、NHKの還元目的積立金の100億円を基にした放送コンテンツ分野におけるファンディングの仕組みが構築される予定である[11]。
こうした国の施策なども効果的に活用することで、放送局のコンテンツビジネスが今年、更に伸長していくことを期待したい。
〇地域放送メディアにおける事業の可能性
(図)地域放送メディアによる事業領域

上記の図は、筆者のこれまでの取材をもとに作成した、地域放送メディアにおける最近の主な事業をマップ化したものである。縦軸にコンテンツと非コンテンツ、横軸に地域と全国を置いて分類した。前項で述べてきたコンテンツビジネスは、図の<右上>の部分にあたる。
<左上>の地域におけるコンテンツ領域は、放送を活用するものとそうでないものに分けた。放送領域については、これまで取り組んできた通販番組やスーパーやドラッグストアなど流通チェーンとのタイアップ企画に加えて、地元の企業や農協・漁協など各種団体、大学などの教育機関と連携した企画が増えている。放送の持つリーチ力を活用して、広告出稿以外の収益の道を探っていこうとするものだ。また、ケーブルテレビやコミュニティ放送局だけでなく、県域を放送対象とするローカル局でも、基礎自治体向けの防災情報や広報の伝達を担うビジネスを拡大させている。非放送領域については、基本的にはインターネット経由を中心に域外展開を前提としているため、全国向けの矢印を付けた。
<左下>は、コンテンツ以外の地域事業を示している。明確に分けることはできないが、事業内容から、地域の活性化を担うものと課題の解決を担うものに分けた。活性化については、各種イベントの運営などに加えて、地域商社の運営やeコマース、ふるさと納税、インバウンド施策などの地域プロモーション事業が多い。課題解決については、自治体のDX事業や、放送局のブランド力や信頼を生かして、保育・福祉・介護・高齢者事業に乗り出す事業者も出てきている。また、最近目立っているのが、後継者不足で悩む地元企業の事業継承を請け負うマッチングの窓口や、地元のスタートアップやベンチャーへの投資を呼び込む場作りへの取り組みだ。後者については、放送局自身が投資をしたり協業したりするケースも増えている。
最後は<右下>である。こちらは、放送やコンテンツ、地域にもとらわれず、新たに事業を生み出していこうとするものである。当たれば大きいが失敗するリスクも高い。ただ、思い切った挑戦をしていかなければ、減少する放送収入を補えるような収入源は作れない、と考える事業者も存在する[12]。
筆者は、地域放送メディアが、コンテンツビジネスだけでなく、地域内の人や組織をつなぎ、そして地域外ともつなぐ“媒介役”となっていくことが、これから生き残っていく道筋であると考える。そしてそのことが、人口減少が進む地域における新たな存在意義だと考えている。ただ、単に地域に貢献する慈善事業ではなく、きちんと“稼げる”事業でなければ、事業者の存続すら怪しくなる。どんな事業に将来性があるのか、継続して考えていきたい。
②の論考では、地域放送メディアの中でも、事業領域の拡張や新規事業の創造の道筋が見えて、業界全体としての売上も伸びているケーブルテレビについて考えてみたい。
[1] 村上圭子「メディアを取り巻く環境とコミュニティFMの未来」
https://bushwarbler.jp/community-fm/
[2] 日本テレビ「GYOKUROスタジオ」の開設 https://gyokuro-s.com/
TBSホールディングスのベトナム国営放送との戦略的提携の発表 https://topics.tbs.co.jp/article/detail/?id=21919
[3] 読売テレビ『名探偵コナン』、毎日放送『呪術廻戦』、朝日放送テレビのプリキュアシリーズなど
[4] 2024年から、一般社団法人放送サービス高度化推進協会(A-PAB)で「メタ情報の付与
によるローカルコンテンツの再価値化に関する実証事業」を実施。2025年11月、このローカルコンテンツバンク(LCB)の社会実装を実現するための準備会社(合同会社LCB)を設立
[5] 『壮観劇場』『食Japan』など
[6] 日本デジタル配信(株)が運営する『satonokaチャンネル』、ジャパンケーブルキャスト(株)の『えんてれ』、(株)オマツリジャパンと日本ケーブルテレビ連盟で運営する『おまつりニッポン』など
[7] J:COMニュースリリース(2025年12月)海外FAST向けチャンネル運用サービスの提供について| ニュースリリース | JCOM株式会社 | J:COM
[8] 内閣府「新たなクールジャパン戦略」(2024年6月公表)
クールジャパン戦略 : 知的財産戦略推進事務局 - 内閣府
[9] 経済産業省「エンタメ・クリエイティブ産業戦略 ~コンテンツ産業の海外売上高20兆円に向けた5ヵ年アクションプラン~」(2025年6月公表)20250624_1.pdf
[10] 日本成長戦略本部/日本成長戦略会議|内閣官房ホームページ
[11] 総務省「放送・配信コンテンツ産業戦略検討チーム取りまとめの概要」(2025年8月公表)https://www.soumu.go.jp/main_content/001026595.pdf
[12] 詳細は「村上圭子の「持続可能な地域メディアへ」①新規事業への挑戦」を参照
https://minpo.online/article/post-606.html