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【論考】人口減少社会における地域メディアの現在地① 既存の県域メディア業界の状況
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【論考】人口減少社会における地域メディアの現在地① 既存の県域メディア業界の状況

February 27, 2026

はじめに
1.地方紙
2.地上波民放ローカル局
3.NHK地域放送局
おわりに

はじめに

現在、「人口減少社会における地域メディアの機能のあり方」研究プロジェクトを実施中である。地域に拠点を置き、情報伝達やジャーナリズム、文化を育む担い手となってきた新聞や放送といった既存メディアの経営は、人口減少とメディア環境の激変というダブルパンチによって厳しさを増している。事業の継続のためにビジネスモデルをどう転換していくべきか。事業間連携や業界再編をどう進めていくべきか。公的な支援のあり方についてどう考えていくべきか。既存メディア以外の新たなメディアをどう育てていくべきか。そして、最終的には地域メディア機能の空白地を作らないために俯瞰的視点でメディアを横断した施策をどう検討していくべきか。

以上のような論点を検討する前提として、既存の地域メディア業界が置かれている状況をシリーズで概観する。1回目の今回は、県域を主なサービス対象地域とする地方紙と地上波民放、そしてNHKの地域放送局についてみていく。

1.地方紙

地方紙は、一部のブロック紙を除くと、ほぼ「11紙」体制となっている。これは、太平洋戦争中の1942年に行われた新聞統合を源流とし、1970年前後に確立されたものである[1]。その後、全国紙との競争に晒されながらも、販売部数では現在、47都道府県のうち38道府県でトップを誇っている[2]。しかし、2000年代に入ってからの四半世紀の間に、新聞全体の発行部数は6割減[3]、一世帯当たり部数も2025年には0.42となっている[4]。地方紙については、発行部数の減少幅は社によって大きく異なるものの、いずれの社も経営は苦しい状態にある。

こうした中、近年、多くの地方紙は夕刊を廃刊することでコストを削減し[5]、デジタル展開に経営資源を投下中である。オンラインサービスで全国に読者を広げたり、IDを活用した新たなビジネスに着手したり、双方向のコミュニケーションによって読者とのエンゲージメントの強化を図りながらジャーナリズムを深化させる取り組みを模索中だ。しかし、50代以上が6[6]という新聞読者層のデジタルシフトは容易ではない。

並行して進んでいるのが、全国紙の地域撤退ともいえる状況である。新聞の発行・配送の中止といった“流通”からの撤退と、支局の閉鎖や人員の削減といった“取材活動”からの撤退である。こうした状況は、地域の人々にとって望ましくない事態ではあるが、当該地域の地方紙にとっては、競争環境の好転と言えなくもない。

以前から地方紙の中には、テレビ、ラジオといった他の既存メディアを、“実質的”に一体として経営を進めている地域もある[7]。制度上は、「マスメディア集中排除原則(以下、マス排)」があり、新聞、テレビ、ラジオの三事業支配は原則禁止とされているが、「ニュース又は情報の独占的頒布のおそれがないときは、三事業支配が可能」という特例が存在している[8]。放送政策の議論の場では、放送局の経営の選択肢を増やすという観点から、マス排の緩和や廃止が論点化されており、事業者からは、この三事業支配の廃止も要望にあがっている。本格的な制度改正の議論はこれからだが、地方紙が同一資本の他メディアと共に地域型メディアコングロマリットを形成・強化することで、地域で生き残りを図っていこうという動きは加速していくだろう。

2.地上波民放ローカル局

地上波民放は、1988 年の「放送普及基本計画」で、「一般放送事業者の放送については,総合放送4系統の放送が全国各地域においてあまねく受信できること」が指針として織り込まれ[9]、いわゆる「1県4波化政策」が進められてきた。

現在、地上テレビは全国に127局存在している。そのうち、キー5局を除くローカル局122局の売上は、この20年、下方傾向にある。2024年度は50億円以下の局が約半数となっている[10]。ラジオは98局(テレビ局兼営31局、ラジオ単営67局)存在しているが、経営はテレビ以上に厳しい状態だ。

ローカル局(テレビ)は系列ネットワークに属する109局と、ネットワークに属さない独立局13局があるが、このうち前者の系列ローカル局の売上は、キー局などの番組を放送することで得られる「ネットワーク配分金」を含む放送広告収入が9割以上を占めている。放送広告収入が目減りしていく中、デジタル展開や地域事業など、新たな収益源の確保は急務であるが、全体として、取り組みに大きな成果は見られない[11]。また、山間部などの維持費が割高な放送ネットワークインフラのコスト削減策や、再編・統合を巡っては、総務省で制度議論が進行している。こうしたローカル局を巡る議論については、本シリーズの2回目で詳細に論じたい。

3.NHK地域放送局

NHKには全国に54の放送局が存在しており、県域の地域メディアという側面も持っている。放送法第81条には、「日本放送協会は、全国向けの放送番組のほか、地方向けの放送番組を有するようにすること」と定められており、「日本放送協会国内番組基準[12]」の「地域文化」という項には、「地域の多様性を尊重し、地域文化の創造に役立つ放送を行う」と定められている。

NHKが実際にどの位の時間、どのような地域放送を行っているのかについては、毎年NHKが発表する「収支予算と事業計画の説明資料」からうかがい知ることができる。最新の資料によれば、2026年度の地域放送時間は、1日あたり総合テレビが1時間45分程度、AM放送が2時間15分程度、FM放送は40分程度となっている[13]。ちなみに、2023年度は総合テレビが3時間程度、ラジオ第1放送が2時間40分程度、FM放送は1時間20分程度である[14]。この3年で、総合テレビとFM放送の地域放送時間は、ほぼ半減していることがわかる。そして、地域放送にあてる予算も、2026年度は、2023年度に比べて約45億円減少し、410億円となっている[15]

NHKの経営は、人口減少やメディア環境変化などの外的要因に加えて、受信料の値下げ[16]やインターネット活用業務の必須業務化[17]などといった制度改正の影響も大きく受ける。このため、地域放送局のあり方も、NHK全体の経営方針の中で変化し続けている。ただ、公共放送としてのNHKは、市場経済の中で格闘する民間の地域メディア以上に、地域でメディア機能の空白地を作らないためにどういう役割を果たすべきかという視点を持つことが求められていることは言うまでもないだろう。

また、既出の筆者のReview[18]でも少し触れたが、NHKの還元目的積立金の中から100億円を拠出し、制作人材の育成などメディア産業全体の発展に貢献することが決まっている。その対象には地域メディアも含まれている。イギリスでは、受信許可料を活用した地域ジャーナリズム支援の枠組みもある。今後、どのような議論が行われていくのか注目していきたい。

おわりに

先に触れた通り、次回は、総務省で進むローカル局を巡る制度議論について、より詳細に述べていきたい。そして3回目は、市町村エリアを主なサービス対象地域とする、地域紙、ケーブルテレビ、コミュニティ放送局の業界の置かれた状況を概観したい。地域紙の全体像はなかなか把握できないが、地域紙図書館が運営する地方紙情報サイト[19]によると、現在、197紙の地域紙が確認できる。ここ数年、歴史が古く規模の大きな地域紙の廃刊が相次いでいる[20]が、地域でのシェア7割を誇る社や、「地域協創プラットフォーム構想」を発表する社など、個性的な経営を行うところもある。ケーブルテレビは、業界団体である日本ケーブルテレビ連盟が2021年に『2030ケーブルビジョン[21]』を策定し、バックキャスティング思考[22]で事業モデルの転換を図っており、業界としての売上は上昇中だ。コミュニティ放送局は、2025年に8局廃局するなど厳しい状況が続いているが、聞き逃しサービスのプラットフォームを開始したり、災害時の自治体との関係の強化を図ったりするなどの取り組みを進めている。

既存メディア業界は、他の業界と比較すると、事業者の再編・統合がほとんど起きていない業界である。そのため、既存の業界を守ろうとする守旧的な論か、逆にそうした業界のあり方を根底から否定するような極端な論が目立つ。筆者はその両論にも依らずに、丁寧に論を組み立てていきたい。


[1] 前坂俊之「太平洋戦争下の新聞メディア」(日本マス・コミュニケーション学会編「マス・コミュニケーション研究」No.66 5-192005)金子智樹「戦後日本の新聞と政治:地方紙と全国紙の分析」

[2] 読売新聞「MEDIA GUIDE 20252026
https://adv.yomiuri.co.jp/media/files/9027_data2025.pdf

[3] 2025年は2000年の約7190万部の4割程度の約2824万部となっている 日本新聞協会「新聞の発行部数と普及度」
https://www.pressnet.or.jp/data/circulation/circulation05.php

[4] 日本新聞協会「新聞の発行部数と世帯数の推移」
https://www.pressnet.or.jp/data/circulation/circulation01.php

[5] 地方紙では夕刊を廃刊していない事業者の方が少数となっている。現在も夕刊を発行しているのは、河北新報、東京新聞、中日新聞、北國新聞、京都新聞、神戸新聞、西日本新聞

[6] 朝日新聞社メディア事業本部マーケティング部「2024年新聞およびWeb利用に関する総合調査結果集計」

[7] 静岡県の「静新SBSグループ」、山梨県の「山日YBSグループ」など

[8] 日本新聞協会メディア開発委員会は、こうした特例ではなく、3事業支配禁止規定そのものの撤廃をくりかえし要望している。
https://www.pressnet.or.jp/statement/broadcasting/080218_3.html

[9] 村上聖一「民放ネットワークをめぐる議論の変遷~発足の経緯,地域放送との関係,多メディア化の中での将来~」(NHK放送文化研究所編「NHK放送文化研究所年報」 7-54, 2010

[10] 総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」第38回事務局資料

[11] 民放オンライン「村上圭子の「持続可能な地域メディア」へ⑥総務省の地上テレビ事業者へのアンケート結果から」を参照
https://minpo.online/article/post-666.html

[12] NHK INFORMATION「日本放送協会番組基準」
https://www.nhk.or.jp/pr/keiei/kijun/index.htm

[13] NHK「令和8年度 収支予算と事業計画の説明資料」P21
https://www.nhk.or.jp/info/pr/yosan/assets/pdf/2026/siryou.pdf

[14] NHK「令和5年度 収支予算と事業計画の説明資料」P17
https://www.nhk.or.jp/info/pr/yosan/assets/pdf/2023/siryou.pdf

[15] 13)、14)参照

[16] 202310月から1割値下げを実行

[17] NHKNHK ONE とは」
https://www.nhk.or.jp/nhkone/about/

[18] 東京財団Review「【特集】2026年の課題と展望人口減少社会と地域放送メディアの論点
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4865

[19] 「ろこねっと」日本地域紙図書館
https://www.loco-net.info/user_data/news_area.php

[20] 2025年に伊和新聞(三重県名張市)、大衆日報(千葉県銚子市・茨城県神栖市の一部)、東武よみうり新聞(埼玉県越谷市)、秋北新聞(秋田県北秋田市)、十日町タイムス(新潟県十日町市)など、2026年に南海日日新聞(三重県尾鷲、紀北両市町)が廃刊

[21] 日本ケーブルテレビ連盟「『2030ケーブルビジョン』(第3版)」
https://www.catv-jcta.jp/jcta_news/detail/3398

[22] あるべき未来を描き、そこから逆算して、行うべき活動や歩むべき優先順位を決める手法のこと。1980年前後に、地球環境問題やエネルギー分野において用いられ始めた。逆に、現状のデータや過去の経験から未来を描く思考は「フォーキャスティング思考」という。

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