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アメリカ大統領選挙UPDATE 1:オバマ大統領の再選戦略 『底』からの脱出へ (前嶋和弘)

October 5, 2011

9月上旬、バージニア州フェアファックス郡のオバマ支援の集会を訪ねた。強い雨の日だったが、集まった20人ほどの支援者からは「議会共和党にはもう、うんざりだ」「ティーパーティのやつらから、この国を取り戻そう」という勇ましい意見が続いた。

大統領選挙を約半年前に迎えた2008年春にもこのグループの集会に出向いた。当時の集会は、どこか和やかであり、楽しげにオバマ支持を訴えていたのだが、今回の場合、かなり殺伐とした雰囲気があった。集会後、なじみの参加者に話しかけてみると「2008年のような何かに突き動されるような高揚感がないのは本音」と言う。「声が大きいのは、空元気なのかもしれない」と伏し目がちに言葉を続けていたのが印象的だった。

たしかに、オバマ大統領をめぐる状況はかなり厳しく、支持者にとっては旗色が悪い。世論調査は最悪である。ギャラップの世論調査(9月29日から10月1日調べ)では、大統領の支持率は43%で、9月中旬の39%よりは少し改善したとしても就任後最低水準となっており、不支持率(50%)の方が以前大きい。ギャラップの過去のデータと比べてみると、トルーマン以降の大統領の中で、就任後980日前後の支持率でオバマの支持率を割っているのは、カーターだけである。

中間層だけでなく、リベラル派のオバマ離れも激しくなっている。特に、アフリカ系のオバマに対する期待はしぼみつつある。アフリカ系のリーダー的存在である、コーネル・ウエスト(プリンストン大教授)、トラビス・スマイリー(トークショーホスト)、マキシン・ウォーターズ(下院議員)らは今年春ごろから「大統領はリベラル派をないがしろにしている」として、厳しい批判を繰り返している。ワシントンポストとABCの調査によると、アフリカ系の中でこの春には「強く支持する」と回答したのが8割を超えていたのが、9月末には5割程度まで急激に数字を落とした。アフリカ系についてはこれまでオバマに対する熱烈な支持で一枚岩だったが、状況は急激に変化している。

数字に示されているように、オバマ陣営の再選戦略も難航している。再選戦略で重要なのが、現職として政策運営そのものが再選につながる「ローズガーデン戦略」だが、9月はじめに明らかにした雇用対策法案に対する共和党側の反発は強い。雇用創出が伸びない中、失業率は高止まりしている。外交でもイラクでの米兵の死はおさまったが、アフガニスタンは無法地帯に近い状態になりつつある。

もちろん、オバマ陣営は黙ってこの状況を見過ごしているわけではない。2012年に向け、オバマ陣営は「I’m In」というキャッチフレーズのオンライン選挙活動を本格化させつつある。大統領のツイッターのフォロワーは今年夏、1000万人を超えたほか、オバマ陣営のフェースブックのページの「like」(「これいいね」)をクリックした数はこの夏、2320万に到達した。

資金集めについては、2004年選挙でブッシュ陣営が行った多くの資金を集める「バンドラー」を使った戦略も取り入れつつある。2008年には5億ドルを超えたオンライン献金もさらに充実させ、今回はその倍の10億ドルを集金目標としている。さらに、オバマ支援のためのスーパーPACである「プライオリティーズUSA(Priorities USA)」との「連携」も進んでいる。この団体は形上、オバマ陣営や民主党全国委員会とは独立しているが、オバマ支援の意見広告を打つためのマシーン的な位置づけであるのは間違いない。

オバマ陣営にとって、再選のための核となるリベラル派のつなぎとめは急務である。大統領はこれまで慎重にやや中道寄りの政策姿勢を貫いてきたが、リベラル派への路線変更も進んでいくであろう。オバマの演説にも大きな変化が見える。黒人議員連盟を前にした9月24日の演説では、「不満や愚痴を言うな。戦え」と強い口調でたたみかけた。演説の激しさはこれまでの冷静な語り口とは一変し、情熱的なかつての候補者時代のオバマの姿につながるものだった。この変化の背後には、側近のデービッド・プルーフらの助言があるのはいうまでもない。

支持率からみれば現在は「底」だが、13カ月後をにらみ、オバマ陣営の動きは急になりつつあるといえよう。

    • 上智大学総合グローバル学部教授
    • 前嶋 和弘
    • 前嶋 和弘

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