タイプ
論考
日付
2018/6/11

トランプ政権と白人福音派

 

首都大学東京法学部教授

梅川健

 

トランプ政権が重視する支持基盤の一つに、白人福音派(white evangelicals)がある。図は2015年から2018年にかけての、白人福音派によるトランプ支持率の変遷を示したものである。2016年9月以降、2018年3月にかけて白人福音派のトランプ支持は高い水準を維持している。トランプ大統領には2度の離婚歴があり、不道徳なエピソードも尽きない。白人福音派が好みそうな政治家には見えない。本稿ではこの不思議な結びつきについて考えてみたい。

 

図 白人福音派によるトランプ支持率の推移

出典:Robert P. Jones, “White Evangelical Support for Donald Trump at All-Time High,” PRRI, April 18, 2018(https://www.prri.org/spotlight/white-evangelical-support-for-donald-trump-at-all-time-high/).

 

さて、そもそも福音派とはどのような集団だろうか。キリスト教の教派と誤解されることもあるが、福音派は教派ではなく、保守的なキリスト教信仰を持つ教派横断的な集団である。聖書を文字通りに理解し信仰することや、霊的な生まれ変わりである「ボーン・アゲイン」を体験していることに福音派の特徴がある[1]

 

福音派は1970年代に台頭し、共和党の活動家が組織化を促すことで、1980年代以降の共和党を支える宗教右派の諸団体(モラル・マジョリティなど)が誕生した。福音派はアメリカ社会に広く存在し、政治的に組織化されると宗教右派と呼ばれる。

 

現在、アメリカの福音派は人口の約30~35%、約1億人程度と見積もられている[2] 。ただし、福音派であることがただちに保守的であり共和党支持を意味するわけではない。黒人福音派(人口の約8%~9%[3])は民主党を支持しており、2016年選挙ではヒラリー・クリントンに投票した者が多かった。長年にわたり共和党を支持してきたのは、白人福音派である。白人福音派は、1980年大統領選挙では80%がロナルド・レーガンに投票し、2004年には78%がジョージ・W・ブッシュに、2012年にはやはり78%がミット・ロムニーに投票した。そして2016年選挙でもその傾向は変わらず、80%がドナルド・トランプに投票した[4]

白人福音派と2016年大統領選挙

2016年選挙において、トランプ陣営と福音派との結びつきは自明のものではなかった。トランプは、福音派が支持しやすい候補ではなかった。2度の離婚を経験したトランプは何年も教会に通っていなかったし、アクセス・ハリウッドのビデオ・テープはトランプの女性蔑視と不道徳さを示していた。

 

福音派指導者には、候補者トランプと距離を取る者も多かった。例えば、ジェイムズ・ドブソン(Focus on the Family代表)は、長く賭博に反対しており、カジノ経営をしていたトランプを支持せず、テッド・クルーズを支持していた(ドブソンはトランプが共和党候補者になると支持を表明)。あるいは、アクセス・ハリウッドのビデオ・テープが公開されると支持をとりやめた指導者もいた。

 

トランプ陣営は福音派に関心を持っていることを示そうと、2016年6月、福音派指導者諮問委員会(Evangelical Executive Advisory Board)を組織した。ただし、この諮問委員会の25名のメンバーは必ずしもトランプを支持していたわけではなかった。委員会の筆頭は元議員のミシェル・バックマンであり、ジェリー・ファルウェルJr(リバティー大学学長)、ラルフ・リード(信仰と自由連合設立者)と続き、ここにドブソンの名前も含まれていた[5]。委員会に名前を連ねた福音派の指導者は一枚岩ではなく、トランプ陣営が福音派の指導者との結びつきを深めるために、この委員会は設置された。

 

他方、白人福音派の有権者は共和党予備選では、ベン・カーソン、テッド・クルーズ、マルコ・ルビオを支持していた。2016年5月、共和党候補としての指名を確実にした段階では白人福音派のトランプ支持率は46%に過ぎなかった。トランプは福音派の第一候補ではなかったが、6月に福音派指導者諮問委員会を設置し、7月に副大統領候補にマイク・ペンスを指名すると、9月には白人福音派の61%がトランプを支持するようになっていた。11月の本選挙では白人福音派の80%という圧倒的な多数がトランプを支持した。

 

白人福音派はその76%が共和党支持者であり、70%がヒラリーを嫌っていた。白人福音派にとってヒラリーは中絶の権利の擁護者であり、フェミニズムの象徴だった。敬虔な福音派として知られるペンスを副大統領候補に据えたことも、福音派がトランプを支持することを容易にした。政策争点という観点からは、白人福音派は経済と国防に関心を持ちつつ、保守的な最高裁判事の任命に関心を持っていた[6]。白人福音派によるトランプ支持の背景にはこのような理由があったとされる。

白人福音派とトランプ政権1年目

白人福音派のトランプ支持率は、2017年を通して高い水準を維持した。2018年4月の調査では、白人福音派の69%が2020年共和党大統領候補としてトランプが望ましいと答えている[7]。白人福音派の高い支持率は、トランプ政権の振る舞いを見ていると不思議ではない。トランプ政権は白人福音派指導者たちを丁重に扱い、福音派の望むアジェンダの実現のために行動を起こしてきた。

 

トランプ大統領のホワイトハウスには、福音派の指導者が頻繁に訪問している。選挙中の福音派指導者諮問委員会(同委員会はトランプ当選とともに解体)の一員であったファルウェルJrはトランプ大統領について、「これまでで最も信仰に理解を示す大統領だ」と褒めそやし、やはり委員会の一員であったジョニー・ムーア(リバティー大学出身、福音派コンサルティング会社Kairos Company[8]設立者)は福音派の指導者と「ホワイトハウスの間には、特別の関係がある」という[9]

 

トランプ政権と会合を持つ福音派指導者の集団には、公的な名前がつけられていない。解体された福音派指導者諮問委員会のメンバーを中心に、およそ50名からなる新たな非公式諮問委員会が作られており、2017年7月10日にはアイゼンハワー行政府ビルにて会合が開かれている。一員であるポーラ・ホワイト-ケインは自らのウェブサイトで、自分は「福音派諮問委員会(Evangelical Advisory Board)の議長に任命された」と書いているが、公式名称ではない[10]

 

公式の委員会として設置されていない理由は、連邦諮問委員会法(Federal Advisory Committee Act)にあるかもしれない。同法は、行政府のメンバーに対してアドバイスをするあらゆる委員会やタスクフォースなどについて、手続き規定と透明性の規定を設けている。例えば、オバマ大統領がホワイトハウスに設置した信仰に基づく諮問委員会(Advisory Council on Faith-Based and Neighborhood Partnerships)には同法が適用されていた[11]

 

2017年8月にバージニア州シャーロッツビルで起きた白人優越主義団体と反対派の衝突事件後、トランプ政権の二種類の諮問委員会は異なる道をたどった。ビジネスに関する二つの諮問委員会(Strategy & Policy ForumとManufacturing Council)は、トランプが白人優越主義を批判しなかったことを受けて解散した[12]。他方、非公式の福音派諮問委員会は存続した。

 

福音派の非公式諮問委員会が政権の政策決定にどれほど影響を及ぼしたのかは定かではない。ただし、トランプ政権が、福音派の望む政策の実現に向けて行動したことは事実である。保守派であるニール・ゴーサッチ最高裁判事の任命を始めとして、多くの保守派連邦判事の任命は大きな成果だった。加えて、トランプ政権のホワイトハウスは誇らしげに政権の業績を列挙している。曰く、「トランプ大統領は宗教上の自由のチャンピオンである」[13]。トランプ政権は、福音派寄りの政策の実現を、「宗教上の自由(Religious Freedom)」と呼ぶところに特徴がある。以下、「宗教上の自由」のために実施されたとする政策をいくつか挙げておきたい。

 

・2017年5月4日 行政命令13798号

従来、税法上の規制により宗教団体は選挙候補を支持・支援することはできなかったが、トランプ大統領は表現の自由の行使だとして、それらを可能にした[14]。トランプ大統領が行政命令で示した法解釈は、法律制定時の議会の意図に明らかに反している。この新解釈は、宗教団体の選挙活動を大きく変える可能性があり、2018年中間選挙は最初の機会となる。

 

・訴訟における「宗教の自由」の擁護

2012年、コロラド州のケーキ屋であるジャック・フィリップスは、同性婚カップルからのウェディングケーキ作成の依頼を、宗教的信念を理由に断った。現在、同性カップルへの差別であると訴訟が争われている[15]。トランプ政権は、フィリップスの「宗教上の自由」を守るためのサポートをしている。

 

・メキシコ・シティ・ポリシーの撤廃

アメリカ政府による対外支援金を、中絶にかかわる事業に用いることを禁止した。

 

いずれも、福音派が求めるアジェンダである。特に、行政命令13798号は、宗教団体による政治活動の道を開くものであり、これまでの政権とは一線を画している。

 

これらに加えて、エルサレムへのアメリカ大使館移転も福音派にとって重要だった。選挙中の福音派指導者諮問委員会と、その後の非公式委員会にも参加しているロバート・ジャフレス(ダラスのFirst Baptist Churchの主任牧師)は「エルサレムは、神がユダヤの人々に与えた」と主張する。福音派にとって、エルサレムはキリストの再臨という聖書の予言の実現にとって重要な土地なのである[16]

 

2017年12月、トランプ大統領はエルサレムをイスラエルの首都だと認定し、2018年5月14日、大使館をテル・アヴィヴから移転した。1995年にはエルサレム大使館法(Jerusalem Embassy Act of 1995)が成立していたが、これまでの大統領は、同法の「6ヶ月の移転延期」を更新し続けることで、大使館を動かさなかった。トランプ大統領は、従来の政権が踏みとどまった一線を、ここでも越えたのである。

 

トランプ大統領は、本人の信仰はともかくとして、就任から今日まで、福音派の期待に応えるべく行動してきたと言えるだろう。福音派の人々のトランプ支持率が高止まりしている理由として、そのような政権の行動に対する評価があると考えてよいだろう。

 

 

 

[1] 藤本龍児『アメリカの公共宗教:多元社会における精神性』(NTT出版、2009年)、154頁。

[2] 福音派の人口については議論がある。そもそも「福音派」の定義が宗教学者の間で定まっておらず、福音派を特定するための方法(特定教派に所属、宗教的実践の有無、自己認識の有無)についても議論が分かれるためである。ここでは以下の2つを参考にした。Institute for the Study of American Evangelicals, "How Many Evangelicals Are Threre?"<http://www2.wheaton.edu/isae/defining_evangelicalism.html#How%20Many>;Robert D. Putnam and David E. Campbell, American Grace: How Religion Divides and Unites Us (Simon & Schuster, 2012), 16.

[3] Institute for the Study of American Evangelicals, "How Many Evangelicals Are There?"

[4] John Ehrenrich, "White Evangelicals’ Continued Support of Trump Feels Surprising. It Shouldn't," Slate, May 7, 2018. <https://slate.com/technology/2018/05/white-evangelicals-would-keep-supporting-trump-even-without-roe-v-wade.html>.

[5] Nick Gass, "Trump's evangelical advisory board features Bachmann, Falwel," Politico, June 21, 2016, <https://www.politico.com/story/2016/06/trump-evangelical-advisory-board-224612>.

[6] Philip Gorski, "Why Evangelicals Voted for Trump: A Critical Cultural Sociology," American Journal of Cultural Sociology, Vol. 5, Issue 3, 2017.; Sarah Pulliam Bailey, "White evangelicals voted overwhelmingly for Donald Trump, exit polls show," Washington Post, November 9, 2016.

[7] “White Evangelical Support for Donald Trump at All-Time High” <https://www.prri.org/spotlight/white-evangelical-support-for-donald-trump-at-all-time-high/>.

[8] Kairos Company, “Who We Are.” <https://thekcompany.co/who-we-are/>.

[9] Adelle Banks, Emily McFarlan, Yonat Shimron and Jerome Socolovsky, “All the president’s clergymen: A close look at Trump’s ‘unprecedented’ ties with evangelicals,” USA Today, September 5, 2017.

[10] “Pastor Paura White-Cain” <https://paulawhite.org/paula.html#news1-25>.

[11] White House, “About the President’s Advisory Council on Faith-based and Neighborhood Partnerships.” <https://obamawhitehouse.archives.gov/administration/eop/ofbnp/about/council>.

[12] Jena McGregor and Damian Paletta, “Trump’s Business Advisory Councils Disband as CEOs Abandon President over Charlottesville Views,” Washington Post, August 16, 2017.

[13] White House, “President Trump Has Been a Champion for Religious Freedom,” February 8, 2018. <https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/president-trump-champion-religious-freedom/>.

[14] 梅川健「乱発される「大統領令」」東京財団政策研究所監修、久保文明、阿川尚之、梅川健編『アメリカ大統領の権限とその限界:トランプ大統領はどこまでできるか』(日本評論社、2018年)70-71頁。

[15] Lenley Sanders, “Who is Jack Phillips? Meet the Christian Baker in the Masterpiece Cakeshop Supreme Court Case,” Newsweek, December 5, 2017.

[16] Philip Bump, “Half of Evangelicals Support Israel Because They Believe It is Important for Fulfilling End-Times Prophecy,” Washington Post, May 14, 2018.