タイプ
論考
日付
2018/9/25

トークラジオ化するケーブルテレビと政治的分極化

 

 朝日新聞編集委員

山脇岳志

 

前回の論稿では、米国の放送の中立性を定めていた「フェアネス・ドクトリン(公平原則)」の誕生から廃止までの経緯を記した。今回(下)は、廃止による影響を中心にみていきたい。メディア研究を行う識者の間には、フェアネス・ドクトリンの廃止によって分極化が加速するなど負の影響があり、廃止は間違いだったという見解が少なくないが、オンラインメディアやソーシャルメディアの発達もあって、放送分野だけの「公平性」を求めることの意味が薄れている面もある。

フェアネス・ドクトリン廃止とトークラジオの隆盛

フェアネス・ドクトリンの廃止は、言論の自由を促進し米国放送界の活性化と市場の拡大につながったと評価する見方もある一方、米国の分極化の高まりの原因の一つと見る人もいる。

 

フェアネス・ドクトリン支持者は、フェアネス・ドクトリンの廃止以降、公共の重要性を持つ問題に関する報道が減少し、全国/ローカル放送の両方においてニュース番組や公共問題に関する番組が減少したと指摘する。法律事務所メディア・アクセス・プロジェクトとベントン財団が2003年に実施した調査によると、ローカルニュース及び公共問題に関する番組を一切提供していない放送局が全体の25%にのぼったという。[1]

 

特に注目すべき変化は、政治トークラジオの急成長である。フェアネス・ドクトリンが廃止され、イデオロギー色の強い独断的な番組も放送できるなど、内容の自由度が大いに高まった。放送におけるこの新しい言論の自由を利用して、1980年代後半から1990年代前半にかけてラジオ情報番組が急増し、政治トークラジオというジャンルが作られていった。保守的な「過激トーク」形式のトークラジオ番組が増加し、膨大な量の保守的意見が公共の電波を通して流れるようになった。

 

【ラジオ情報番組の割合の推移(全米)】 

 

 

 

 

 

 

 

 

Jackson R. Witherill, “War of the Words: Political Talk Radio, the Fairness Doctrine, and Political Polarization in America”, Honors College, the University of Maine, DigitalCommons@UMaine, May 2012, p.19

 

トークラジオは、現在ラジオ業界で最も成功を収めているフォーマットである。1人か2人のホストが、ニュースや激しい対立の生じている政治問題について意見を述べ、リスナーからの電話を受けて対話する。挑発的で、常軌を逸した発言が多いのが特徴である。リスナー参加型の番組構成の人気は高い。実際に電話をしなかったとしても、リスナーは自分が現在放送中の議論に参加しており、議論の輪の中に入っているかのように錯覚できるからだと指摘されている。[2] 

 

下図のように、1998年から2009年の11年にかけて、ニュースを扱うトークラジオは著しい成長を遂げている。

 

【1998年から2009年までのニュース/トークラジオの成長】

日本でもラジオには根強い人気をもつ番組があるが、車社会の米国では、ラジオの影響力は、日本よりもはるかに大きい。特に地方では、車が唯一の移動手段であることも多く、車の中でラジオを聞いて過ごす人は多い。ニューヨークやワシントン、ロサンゼルスやサンフランシスコといった東海岸や西海岸の大都市は民主党が圧倒的に強く、地方では共和党が強いのが米国政治の現状だが、そういう意味では、ラジオ番組は特に保守層との親和性が高くなってくる。

 

フェアネス・ドクトリンの廃止は、イデオロギー的で強硬な主張を展開するトークラジオ番組隆盛の背景を説明する最も一般的な議論であるが、トークラジオの成長のもう一つの背景として、FCCの規制緩和によって全国規模の放送会社が一般化したことがある。1996年の電気通信法により複数の局の所有を制限する厳しい規制が解除され、一つの企業が全国で所有できる放送局の数が大幅に増加した。これによりラジオ局の大規模な統合が進み、1990年代半ばから2000年代にかけて、ローカルに所有され運営される小規模局が減少し、ラジオ市場における企業化が進んだ。[3]

 

また、1980年代後半は、音楽番組を中心とした既存のラジオ番組編成が行き詰まり、それに代わる新しい番組コンテンツが模索されていた時期でもあった。長期にわたり、米国の主要メディアはどちらかといえばリベラル寄りが中心であり、政治報道において保守派の声が十分に取り上げられていないと感じている保守派向けの政治情報番組の潜在的なニーズを開拓した結果行き着いたのが政治トークラジオだったという側面もある。[4]

 

タフツ大学のジェフリー・ベリーとサラ・ソビライは、2011年にラジオ企業役員を対象としたインタビューを実施した際、トークラジオ番組の急増は需要主導型ではなく、供給主導型だと感じたという。全国展開する大企業が所有する個々のラジオ局は、利益を出せなくなってくると、安価で制作ができ全国的に放送できるトークラジオ番組に切り替えるという。[5]

 

トークラジオのフォーマットは、音楽番組に比べ、長期的に広告収入を期待できるという点も見逃せない。それは、トークラジオのリスナーが広告主にとってより魅力的だからだ。トークラジオのリスナーは、ある程度の教育があり、経済的にそれなりの余裕があり、自分が居住する地域以外のニュースに関心を持てる程度に十分な収入を得ている層だと考えられる。そして、単にBGMを求めている音楽番組のリスナーに比べ、より放送に注意を払い、内容を積極的に聞いているはずだ。広告主が求めているのは、情報を積極的に求め、広告主のメッセージを受け取り、繰り返し聞きに来てくれるリスナーである。

 

保守的なリスナーの割合が高ければ、シンジケートで多数の放送局に同時配給される保守的な番組の評価が高くなり、広告収入も増加する。保守的なリスナーに合わせた番組を増やし、保守的な考え方を支持・強化することにより、ますます偏向したリスナーを引き付ける、という循環がある。

 

米シンクタンク、アメリカ進歩センターの調査によると、2007年5月で、上位5位のラジオ企業が所有する保守的なトークの時間は、リベラルなトーク番組の10倍にも達していた。また、全国の資本系列に入っていないローカルラジオ局や、マイノリティーや女性が所有するラジオ局では、保守的な政治トーク番組の割合が低かった。[6]

 

Conservative vs Progressive Hosts by station owners. Center for American Progress, 2007

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

下表はトークラジオのホストの週間リスナー数トップ10をまとめたものである。中でも、首位のラッシュ・リンボウは2012年時点で1,475万人、次点のショーン・ハニティは1,400万人と非常に多数のリスナーから人気を博している。[7]  

 

 

トークラジオ化するケーブルテレビと政治的分極化

フェアネス・ドクトリンの廃止以来、政治トークラジオを含め、公然と党派的な立場をとるニュースを選択することを通じて、人々は影響を受け、分極化が進んでいる。選択的接触に関しては、メディアが人々に与える影響は限定的であることが強調されてきたが、最近の研究では、選択的接触は既存の見解の強化と分極化に強い影響を与えることが示されている。[8]

 

つまり、ラッシュ・リンボウに代表される保守的なトークラジオのホストは、リベラルの人々に対し保守的な視点を与えるのではなく、保守派の人々がより極端に保守的な行動をするように仕向けている、という考え方である。

 

保守的なトークラジオほどの人気はないが、リベラル派のトークラジオもその点は同じである。米国政治研究の前嶋和弘教授は、2011年から12年にかけて全米的に話題になったウイスコンシン州のスコット・ウォーカー知事(共和党)に対するリコール運動について、リベラル派のトークラジオの代表格であるエド・シュルツの番組が大きく影響したとしている(シュルツは2018年に死去)。前嶋教授は、2011年7月から10月にかけ、保守系のリンボーとリベラル系のシュルツのラジオ番組を、それぞれ計100時間分聞いて内容を分析したところ、いずれも9割以上がそれぞれのイデオロギーに即した視点からの情報提供だったという。[9]

 

このように、党派的なラジオは、それが右であれ左であれ、アメリカ政治のイデオロギー的中心から次第に離れ、極端なものになっていく。トークラジオは、政治的な怒りをあおり、分極化の火に油を注ぐ形で成功してきたといえよう。

 

保守的なトークラジオの急増と軌を一にして影響力を増してきたのが、FOXニュースに代表される保守的なケーブルニュース番組である。日本では、ケーブルテレビが放送法4条の適用対象になっているが、米国では、ケーブルテレビがフェアネス・ドクトリンの対象になるのは、ケーブルテレビ事業者の自主制作番組のみであり、ケーブルテレビ事業者の編集が及ばない個々の番組に関しては、もともと対象外であった。さらに、FOXが設立されたのは1996年で、フェアネス・ドクトリン廃止後、放送事業者の自由裁量部分が大きくなってからであるから、最初から「公平性」にほとんど気を遣わずに放送をすることができた。

 

政治トークラジオと、ケーブルニュースには実際に共通点がある。討論中心の番組構成を採用することや、極端な見方をする議員の見解を頻繁に引用することなどだ。

 

タフツ大学の社会学者グループは、2009年の10週間にわたってトークラジオ、ケーブルニュース番組、ブログ、多数の新聞社に同時配給されているコラムの内容を分析した。その結果、ケーブルニュース番組では100%、トークラジオ番組では98.8%の割合で、失礼な言葉遣い、誹謗中傷、誇張、嘲りなどを含む「outrage discourse(とんでもなく無礼な言説)」が含まれていた。[10]

 

また、2012年のピュー・リサーチセンターの調査では、ケーブルニュースの内容のうち意見に基づく報道の割合はCNNで46%、FOXで55%、MSNBCで85%に達している。解説と意見は放送の63%を占め、事実の報道(37%)よりもはるかに多かった。ケーブルテレビが視聴率を稼ぐために、「事実」よりも「意見」を重視していることがわかる。

 

また、近年、人気のトークラジオホストがケーブルニュースで番組を持つケースが増えている。ショーン・ハニティーや、グレン・ベック、ローラ・イングラハムといった人気のトークラジオホストがケーブルニュース番組のホストを務めている。

 

ジョージタウン大学教授で、メディアと政治との関係に詳しいダイアナ・オーエン教授は、筆者のインタビューに対して、「フェアネス・ドクトリンがあった時代も、適用にはむらがあったが、その廃止によって、メディアは『何でもあり』になり、分極化や、エンターテイメント政治の水門が一気に開くことになった」と話す。ジャーナリストを養成する大学のジャーナリズムスクールでも、公共のために働く人を養成するというより、どういう手法で読者やオンライン上のクリックを増やすかとか、広告や広報などのやり方を教えることが中心になっているのも、フェアネス・ドクトリンの廃止の結果だとみる。

 

オーエン教授は、フェアネス・ドクトリンの廃止は間違いだったという見解だ。しかし、近年急速に力を持つようになったオンライン上のデジタルメディアや、フェイスブックなどのソーシャルメディアに、フェアネス・ドクトリンを適用するのは現実的ではないという。

 

元CNNのワシントン支局長で、ジョージワシントン大学メディア広報学部長のフランク・セズノ氏も、「希少な公共の電波を使うメディアについては、多様な視点を示す責任を負わせるようなフェアネス・ドクトリンの復活を検討すべきだ」としつつも、「(公共の電波を使わない)オンラインやソーシャルメディアへの適用は難しい」と話す。

 

現在は、大統領も上下院の共和党であり、放送分野に、フェアネス・ドクトリンを復活させることは、政治的に難しい。加えて、オンラインメディアの分極化は激しく、仲間同士でつながるソーシャルメディアも分極化をむしろ助長する効果が指摘されており、メディア状況からみると、米国の世論や政治の分極化が改善される見通しはほとんどない。

 

 

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[1] Steve Rendall, “The Fairness Doctrine – How We Lost It, and Why We Need It Back”, FAIR, January 1, 2005 (http://fair.org/extra/the-fairness-doctrine/)

[2] Jackson R. Witherill, “War of the Words: Political Talk Radio, the Fairness Doctrine, and Political Polarization in America”, Honors College, the University of Maine, DigitalCommons@UMaine, May 2012,  http://digitalcommons.library.umaine.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1089&context=honors, p.30−p.33  

[3] 脚注2に同じ。p.26−p.27

[4] 前嶋和弘「アメリカにおける聴取者参加型『政治トークラジオ番組』とその社会的影響」、『人間科学研究』文教大学人間科学部 第34号(2012年)、p.107

[5] 脚注2に同じ。p.28

[6] 脚注2に同じ。p.44

[7] State of the News Media Report 2013, Pew Research Center,  http://assets.pewresearch.org.s3.amazonaws.com/files/journalism/State-of-the-News-Media-Report-2013-FINAL.pdf

[8] Natalie Jomini Stroud, “Niche News:The Politics of News Choice”, Oxford University Press, 2011, cited in Jackson R. Witherill, “War of the Words: Political Talk Radio, the Fairness Doctrine, and Political Polarization in America”, Honors College, the University of Maine, DigitalCommons@UMaine, May 2012,  http://digitalcommons.library.umaine.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1089&context=honors, p.49

[9] 脚注4に同じ。p.109-p.110

[10] Elise Shanbacker, “From incivility to outrage: Political discourse in blogs, talk radio and cable news”, Journalist’s Resource, Harvard Kennedy School Shorenstein Center on Media, Politics and Public Policy, October 20, 2011, https://journalistsresource.org/studies/society/news-media/outrage-in-media-politics