デラウェア州での民主党会合でスピーチするバイデン前副大統領(2019年3月16日)  写真提供 Getty Images

2020年大統領選挙とシンクタンク(1)―民主党候補者争いとの関係を中心に―

帝京大学法学部准教授

宮田智之

大統領候補とシンクタンク

大統領候補にとって、シンクタンク研究員をはじめとする政策専門家の助言は不可欠である[1]。魅力ある選挙公約を打ち出さなければならず、討論会などを通じて政策的知識を十分有しているかも繰り返し問われる。また、シンクタンク研究員から助言を受けている事実は宣伝材料にもなる。シンクタンクに在籍する著名な専門家の「お墨付き」は政治指導者としての資質・能力を十分有している証しであると訴えることができるからである[2]

政権入りを目指すシンクタンク研究員にとっても、大統領選挙は極めて重要な機会である。アメリカの官僚制では政治任用制度が採用され、4000とも言われる高級官僚ポストが大統領によって直接任命される。すなわち、応援する候補が当選すれば高級官僚に任命される可能性が自ずと高まることから、シンクタンク研究員は早くから有力候補に対して自らを積極的に売り込んでいくのである。

このような事情から、予備選挙が始まる一年以上も前よりシンクタンク周辺も徐々に慌ただしくなり、大統領選への出馬を検討している者とシンクタンク研究員との間で会合が重ねられていく。

もっとも、2016年は以上の構図が崩れた選挙であり、当初からトランプ陣営と保守系シンクタンクの関係は希薄であった。トランプが提唱した「アメリカ第一主義(アメリカ・ファースト)」が共和党の伝統的路線に反し保守系シンクタンク関係者らが反対運動を展開したことや、トランプ自身がシンクタンクに象徴される「エスタブリッシュメント」の支持を必要としなかったことなどが、その主な理由であった。しかし、2020年では再びシンクタンクが大きな存在感を発揮するものと考えられる。なかでも、政権奪還を目指す民主党候補とリベラル系シンクタンクの関係は注目される。

民主党候補とリベラル系シンクタンク

リベラル系シンクタンクと一口に言っても、その中身は民主党穏健派に近いものから左派に近いものまであり、多様である。サードウェイ、ニューアメリカ、NDN、トルーマン・センターなどは穏健派と言って良い。一方、ローズヴェルト研究所、デモス、経済政策研究所などは党内左派に近い。リベラル派最大のシンクタンクであるアメリカ進歩センター(CAP)については、イデオロギー的立場はサードウェイなどのやや左側に位置していると言えるが、人材面では穏健派だけでなく、環境保護運動などの活動家まで幅広く含んでいる。なお、新アメリカ安全保障センター(CNAS)は元々民主党穏健派のシンクタンクとして生まれたが、現在ではリチャード・フォンテーン会長に象徴されるように共和党系人材も抱えており、リベラル系シンクタンクと表現することはもはや適切ではない。

ところで、各民主党候補を見ると、シンクタンクと既に密接な関係を築いている者が少なくない。たとえば、エリザベス・ウォーレンは、いずれもニューヨークに本部があるローズヴェルト研究所とデモスと以前から関係があり、ウォーレンの娘はデモスの理事を務めている[3]。カマラ・ハリスは、トルーマン・センターの顧問の一人であり、妹のマヤ・ハリスは2016年大統領選でクリントン陣営の政策顧問に就任する前はCAP研究員であった[4]。バーニー・サンダースについては、その実態は不明であるが、2018年に地元のヴァーモント州で夫人のジェーン・サンダースが立ち上げたサンダース・インスティテュートというシンクタンクがある。ただし、サンダースの立候補表明後、サンダース・インスティテュートはシンクタンクとしての活動中止を発表している[5]

以上のほかでは、近く立候補表明を行うと予想されているバイデン前副大統領が、2018年にペン・バイデン・センターという自身のシンクタンクを創設している。ペン・バイデン・センターには、後述のナショナル・セキュリティ・アクションのメンバーでもあるアントニー・ブリンケン元国務副長官らがおり、バイデンが出馬すれば、そのまま陣営の外交チームを構成する可能性が高い[6]

アメリカ進歩センター(CAP)の動き

アメリカ政治における保守優位が一層鮮明になった1990年代後半、保守派の「成功」をモデルに、リベラル派は自らの政治インフラの強化に乗り出した。こうして、整備されたリベラル系シンクタンクが2008年大統領選でオバマ陣営を支え、その後オバマ政権のための人材供給源として機能したことは周知の事実である。2016年大統領選でも、クリントン陣営にリベラル系シンクタンクから多くの人材が集結した。クリントン政権が誕生していれば、リベラル系シンクタンク関係者の多くが政府要職に起用されていたはずである。そして、これら一連の動きの中で最も存在感を発揮したのがCAPであった。

CAPは、2020年に向けた動きをすでに開始している。たとえば、2017年より「新たなアイディアの創造」を目的としたアイディア・カンファレンスという年次大会を開催しているが、ここに早くから大統領選への立候補が取り沙汰されていた民主党政治家を招いてきた。第一回大会では、エイミー・クロブシャー、キアステン・ジリブランド、カマラ・ハリス、エリザベス・ウォーレン、コリー・ブッカーが参加し、二回目となる昨年は、これらの政治家に加え、シェロッド・ブラウン、フリアン・カストロ、バーニー・サンダースが参加した。このような参加者の顔ぶれから、アイディア・カンファレンスは関心を集め、保守派が毎年開催している保守政治行動会議(CPAC)に匹敵するとして「左派のためのCPAC」と呼ぶ向きもあるほどである[7]

次のような動きも2020年を意識したものと考えられる。CAPは、メディケア・エクストラ・フォー・オールいう医療保険改革案を発表しているが、これは元々サンダースが提唱し、現在民主党内で急速に支持が広がる、メディケア・フォー・オールに類似するものである。また、アレクサンドリア・オカシオ=コルテスが中心になって訴えているグリーン・ニューディールという政策案についても、ニーラ・タンデン現所長とポデスタ前所長の連名で称賛する声明を発表している[8]

ナショナル・セキュリティ・アクションの誕生

2018年初頭に、オバマ政権で政府高官を務めたジェイク・サリヴァンとベン・ローズが中心となり誕生したナショナル・セキュリティ・アクションは、民主党系外交専門家の具体的な動きとして注目される。

ナショナル・セキュリティ・アクションは、「アメリカのグローバルなリーダーシップを推進するとともに、アメリカの安全を危険に晒し、且つ世界におけるアメリカの強さを損なっている無謀なトランプ外交に反対する」ことを使命として掲げており、オバマ政権高官などを歴任した民主党を代表する専門家50名以上が関わっている。既存のリベラル系シンクタンクとも関係が深く、CAP、ニューアメリカ、サードウェイなどのシンクタンクに所属する研究員も参加している[9]

ナショナル・セキュリティ・アクションが従事している主な活動は、外交政策に関する専門知識や情報、そして人材を民主党政治家に提供することである。先の中間選挙から各民主党候補に対してこれら支援を行なっていたが、2020年ではより大々的に展開するものと予想される。なお、ローズは、ナショナル・セキュリティ・アクションについて、トランプ外交への反対を目的とした「期間限定の試み」と位置づけており、創設から「三年後(2020年大統領選後)には解散することが希望だ」と『ワシントン・ポスト』紙に述べている[10]

 【ナショナル・セキュリティ・アクションのメンバー(一部)

ベン・ローズ、ジェイク・サリヴァン、アントニー・ブリンケン、ビル・バーンズ、カート・キャンベル、トム・ダシュル、トム・ドニロン、ミシェル・フロノイ、フィリップ・ゴードン、キャスリーン・ヒックス、コリン・カール、ハロルド・コー、デニス・マクドノー、サマンサ・パワー、ペニー・プリツカー、スーザン・ライス、ウェンディ・シャーマン、アン=マリー・スローター、ジェームズ・スタインバーグなど。

民主党左派の「圧力」

今後、リベラル派の動きはますます活発化していくと見られるが、その一方で中間選挙を受けて民主党内の左派が一層勢いづく状況がリベラル系シンクタンクの活動にどのような影響を及ぼすのかも注視すべきである。過去の大統領選ではリベラル系シンクタンクは民主党左派の「圧力」に晒されることはほとんどなかったが、2020年ではそのような影響に直面するかもしれない。

上述したメディケア・フォー・オールやグリーン・ニューディールへのCAPの支持表明は、明らかに民主党左派を意識した動きである。また、CAPは中間選挙後、ジョージア州知事選で善戦し党内左派で高い人気を誇るステイシー・エイブラムスを理事に迎えている。こうしたCAPをめぐる例は、民主党左派を過度に意識するあまりそのエネルギーにリベラル系シンクタンクが引きずられる可能性を示唆している[11]

また、ナショナル・セキュリティ・アクションが難しい局面に立たされることも十分考えられる。その顔ぶれを見れば明らかなように、ナショナル・セキュリティ・アクションは、民主党穏健派に属する団体である。したがって、安全保障や通商をめぐり左派からの激しい反発を浴びるかもしれない。

いずれにせよ、2020年が近づくにつれ、党派・イデオロギーを問わずシンクタンク周辺でもさまざまな動きが生じていくものと予想される。そこで、この場を借りて2020年に向けたシンクタンクの動きを定期的に分析していきたい。

 


[1] アメリカにおいてシンクタンクは非営利団体であり、その大半は内国歳入法上の第501条(c)項3号団体である。501(c)3団体は税制面で最も優遇されている代わりに、高い公益性が要求され政治的活動については厳しい制約が課されている。たとえば、団体として選挙に直接関与し特定候補を応援することは断じて許されない。しかし、501(c)3団体の職員が本来業務から離れて「個人の立場」で候補者の政策アドバイザーを務めることに関しては、一切制約はない。そのため、シンクタンクは主にこのような経路を通じて特定候補を事実上支え、大統領選挙で影響力を及ぼしていると考えられる。

[2] 宮田智之「米国政治とシンクタンク-スコット・ベイツ国家政策センター(CNP)理事長 に聞く」『アステイオン』第83号、2015年、270273頁。

[3] Gideon Lewis-Kraus, “Could Hillary Clinton Become the Champion of the 99 percent?” The New York Times, July 23, 2016<https://www.nytimes.com/2016/07/24/magazine/could-hillary-clinton-become-the-champion-of-the-99-percent.html>; Demos, <https://www.demos.org/board-trustees>

[4] Truman Center, <http://trumancenter.org/about/board-leadership-staff/>

[5] Danny Hakim, “Sanders Institute Suspends Operations as Senator Runs for President,” The New York Times, March 14, 2019<https://www.nytimes.com/2019/03/14/us/politics/bernie-sanders-public-policy-group.html>

[6] Penn Biden Center for Diplomacy & Global Engagement, <https://global.upenn.edu/penn-biden-center>

[7] CAP Ideas Conference, <https://capideas.org>; David Weigel, “Democrats, including 2020 some hopefuls, to gather at ‘Ideas Conference’,” The Washington Post, March 1, 2018.

[8] Center for American Progress, <https://www.americanprogress.org/press/release/2018/02/22/447082/release-cap-proposes-new-medicare-extra-plan-guarantee-universal-health-coverage-americans/>; <https://www.americanprogress.org/press/statement/2019/02/07/465988/statement-caps-john-podesta-neera-tanden-praise-green-new-deal-resolution/>

[9] National Security Action, <https://nationalsecurityaction.org/who-we-are>

[10] Christiano Lima, “Obama alums form group to target ‘reckless’ Trump foreign policy,” Politico, February 27, 2018<https://www.politico.com/story/2018/02/27/trump-foreign-policy-obama-officials-426643>; Anne Gearan, “Democrats marshal strike force to counter Trump on national security in 2018, 2020 elections,” The Washington Post, February 27, 2018<https://www.washingtonpost.com/politics/democrats-marshal-a-strike-force-to-counter-trump-on-national-security-in-2018-2020-elections/2018/02/26/6b08540a-1b5b-11e8-b2d9-08e748f892c0_story.html?utm_term=.1ac5a96560f6>

[11] Center for American Progress, <https://www.americanprogress.org/press/statement/2018/12/19/464502/statement-stacey-abrams-joins-center-american-progress-board-directors/>

宮田 智之

  • 帝京大学法学部准教授