アメリカの香港人権民主主義法案をサポートする香港のデモ隊(2019年10月14日、写真提供:Getty Images)

香港を巡る米国の動き

 同志社大学法科大学院嘱託講師
村上政俊

香港情勢の深刻度が増す中で、米国の動きに注目が集まっている。トランプ大統領は2019年8月18日、天安門事件と米中貿易交渉とに同時に言及し、中国を牽制した。9月24日には国連総会での一般討論演説でも香港情勢に触れ、中国政府に対して英中共同声明を尊重するよう求め、10月7日には香港情勢の米中交渉への影響に再び触れた。

9月初めには、デモ隊が香港の米国総領事館に向かって行進した。星条旗をはためかせながら、米連邦議会での香港人権民主主義法(Hong Kong Human Rights and Democracy Act)の通過などを求め、数万人が参加したという。10月14日にも米国からの支援を求める大規模な集会が開催された。

本稿では香港を巡る米国の政府、議会等の動きについて取り上げたい。

米要人の動向

8月初めの時点でトランプは、香港デモを暴動(riots)と表現していたが、冒頭で述べた通り強硬姿勢に転じた。これには香港情勢と米中交渉をリンクさせる意図があるものとみられる。ボルトン大統領補佐官(当時)も8月15日、Voice of America (VOA)とのインタビュー[1]に対して天安門事件に言及した。

トランプによる天安門発言の翌19日には、ペンス副大統領が英中共同声明に言及した上で、香港で暴力的なことが起こればディールは難しくなるとトランプに歩調を合わせて中国を牽制した。続いてポンぺオ国務長官が天安門に言及している。これらの発言は、ポンペオと急遽訪米した中国外交トップの楊潔篪共産党中央政治局委員との会談(8/13、於ニューヨーク)の直後に続いており、米国側は香港情勢に関する中国側の説明に納得せず圧力を強めたものと考えられる。

今秋には米有力シンクタンクのウィルソン・センターにおいて、中国政策に関するペンス演説が予定されている。元来は今年6月4日の天安門事件30周年に合わせる形で予定されていたが、6月末のG20大阪サミットでの米中首脳会談も考慮して延期されていた。昨年10月のハドソン研究所での演説に続く第二弾で、香港についてどのように言及するかも注目される。

議会からも声が上がっている。ペロシ下院議長は9月18日、香港民主派の黄之鋒(Joshua Wong)、羅冠聡(Nathan Law)、歌手の何韻詩(Denise Ho)らと記者会見に臨み、中国を牽制するカードとなる香港人権民主主義法案の重要性を強調した。

こうした米要人と独自のパイプを持つのが、民主党(香港)の創設者である李柱銘(Martin Lee)だ。香港返還直前の1997年4月に訪米してクリントン大統領に、そして今年5月にはポンぺオとペロシに面会しており、共和民主両党にわたる人脈で知られている。香港政府ナンバー2の政務官を務め、香港の良心とも呼ばれる陳方安生(Anson Chan)は今年3月、ペンスと面会している。また民主派寄りの香港紙蘋果日報(Apple Daily)創業者の黎智英(Jimmy Lai)は今年7月、ペンス、ポンペオ、ボルトンと面会し、保守系シンクタンクの民主主義防衛基金(Foundation for Defense of Democracies)で講演している。

李らの背後には、全米民主主義基金(National Endowment for Democracy, NED)がいるとの観測もある。レーガン政権期に設立されたNEDは民間非営利とされるが、実際には連邦政府、議会と強い繋がりを有している。雨傘運動(2014年)の頃の米紙ニューヨーク・タイムズによれば、2012年に75.5万ドル、13年に69.5万ドルが香港側に供与されたという[2]

香港政策法/英中共同声明/議会での動き

1997年に予定されていた香港返還を見据え、1992年に制定されたのが香港政策法(Hong Kong Policy Act)だ。同法に基づき米国は、WTOメンバーである香港を独立関税領域(separate customs territory)として扱っており、香港はいまトランプ政権が発動している対中関税措置の外に置かれている。ただし香港の自治が保たれていることがその前提であり、同法5722条によれば香港の自治が十分かどうかを大統領が判断できることとなっている。

国務省は同法に基づいて連邦議会に報告書を提出する。香港返還以降は2007年まで毎年提出されていたが、香港情勢の表面的な安定化に伴ってか、暫く空白期間が続いた。2015年から再び毎年提出され、2017年にはファクト・シートが発行されている。

今年3月に提出された最新の報告書では香港の自治について、前年度版の「十分以上(more than sufficient)」から後退し、「十分(sufficient — although diminished —)」に表現ぶりが改められた。また表現の自由に対する懸念が示され、香港政府が昨年10月、英紙フィナンシャル・タイムズのヴィクター・マレット(Victor Mallet)に対して査証更新を拒否した事例などが記載されている。

香港政策法と台湾基本法を比べればどうだろうか。台湾への武器売却という軍事分野での手段を用意する後者がより強力なのは、香港が中国の一部であるという事実に照らせば仕方がなかろう。だが実効的なツールに乏しい台湾旅行法アジア再保証推進法(ARIA)との比較においては、香港政策法はやはり意義深いといえよう。

加えて、香港政策法に登場し、ペンスそしてトランプも言及した英中共同声明を巡って、鞘当てが展開されている。オルタガス国務省報道官は今年6月、香港における人権、基本的自由や民主的価値の基盤として、香港の憲法といわれる中国国内法の香港基本法だけでなく共同声明にも言及した。8月初めにルビオ上院議員(共)、カーディン上院議員(民)、マクガヴァン下院議員(民)、スミス下院議員(共)はトランプに対して香港情勢につき書簡を発出したが、その中でも共同声明について触れられている[3]

トランプも出席した今年8月のG7ビアリッツ・サミットでは、土壇場で発出に漕ぎ着けた首脳宣言で、香港情勢が取り上げられ、英中共同声明の存在と重要性が再確認された。報道によれば、共同声明への言及は安倍晋三総理の提案によるという[4]。対して中国側は、共同声明は歴史的文書であって中国政府に対して拘束力を持たないとしている[5]

香港返還交渉はサッチャー政権の英国と鄧小平を最高指導者とする中国との間で行われ、同声明は1984年にサッチャー、趙紫陽両首相によって署名された。これによって今に至る一国二制度の基礎が築かれている。また同声明は、トランプが国連総会で述べた通り国連にも登録されている国際条約であって、中国がその効力を否定することは、法の支配に対する重大な挑戦といえるだろう。

今年6月には香港人権民主主義法案が、ルビオ、マクガヴァン、スミスによって連邦議会に提出された。香港への優遇の前提となっている香港の自治について、毎年検証することとしている。中国政府に対しては、香港政府のトップである行政長官の普通選挙による選出を求めている。特に中国政府当局者への制裁という選択肢は、実効的な措置となり得るだろう。また同法案は、市民的及び政治的権利に関する国際規約(International Covenant on Civil and Political Rights)、世界人権宣言にも言及している。

総領事館、米軍を巡る動き

北京寄りの論調で知られる香港紙大公報(Ta Kung Pao)は今年8月、在香港米国総領事館で政務を担当するジュリー・イーデー(Julie Eadeh)領事が、黄之峰、羅冠聡ら民主派政党の香港衆志(Demosisto)と接触しているとして写真と人名入りで報じた。中国外交部の出先機関である香港駐在特派員公署は、米総領事館の幹部に対して不満と反対を表明した[6]

米側はオルタガス国務省報道官が、暴力的な体制(thuggish regime)の行為だと強く非難し、米国外交官は世界中で政府職員とも反対派とも会っていると強調した[7]。イーデーはサウジアラビア、レバノン、イラクといった中東での勤務経験もある外交官だが、彼女の個人情報、写真に加えて子供の名前までもが流出したのは、常軌を逸しているといわざるをえない。

米軍を巡る動きとしては、原子力空母ロナルド・レーガンが昨年11月、香港に寄港している。アルゼンチンでの米中首脳会談が間近だったことが背景にあったとみられる。一方でその2か月前には強襲揚陸艦ワスプの寄港が拒否され、今年8月にも輸送揚陸艦グリーン・ベイとミサイル巡洋艦レイク・エリーの寄港が拒否されている。直後には駆逐艦の青島への寄港拒否がシュライバー国防次官補によって明らかにされている。

まとめと今後の動き

林鄭月娥(Carrie Lam)行政長官が逃亡犯条例改正案の完全撤回を表明したものの、デモが終息する兆しはみられず、事態は長期化の様相を呈している。

米国政府首脳は天安門事件への言及、香港情勢と米中交渉のリンケージをちらつかせることで中国を牽制したのに続き、英中共同声明を持ち出すことで中国を法的に拘束しようとしているものとみられる。連邦議会では、香港人権民主主義法案の通過に向けての動きが見どころだ。いずれにしても香港情勢を巡る米国の動きには引き続き注目が必要だろう。 

 


[1] https://www.voanews.com/usa/voa-interview-john-boltons-take-worlds-hotspots

[2] https://www.nytimes.com/2014/10/11/world/asia/some-chinese-leaders-claim-us-and-britain-are-behind-hong-kong-protests-.html

[3]https://www.rubio.senate.gov/public/_cache/files/d1c43160-a875-44c0-89bf-e74b72f5af6e/83702833D946C343D24F8051C7F53C34.20190801-letter-to-potus-re-hong-kong.pdf

[4] https://www.yomiuri.co.jp/world/20190828-OYT1T50105/

[5] https://www.mfa.gov.cn/web/fyrbt_673021/t1474476.shtml

[6] http://www.fmcoprc.gov.hk/chn/gsdzywtdbthlc/t1687250.htm

[7] https://hk.usconsulate.gov/n-2019080801/

村上 政俊

  • 同志社大学法科大学院嘱託講師