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第19回 現代アメリカ研究会報告

August 31, 2009

2009年8月3日に、第19回研究会が開催されました。本研究会では、小栗泉氏(日本テレビ)から、2008年の大統領選挙と今日までのアメリカのメディアの動向とともに、日米のメディアの比較についてのご報告をしていただきました。

報告「アメリカ大統領選から考える日米メディア比較」(小栗泉氏)

日本のメディアは不偏不党であることが求められている。ところがアメリカのメディアは、明確に特定の候補を厚く報じる傾向があり、さらには自らの立場をはっきりと表明することさえあるのである。

2008年の大統領選挙では、4大テレビ・ネットワークの報道の中で、オバマ候補に関するニュースの65%が好意的な評価をしていたのに対して、マケイン候補についてのニュースの中で好意的に報じられたのはわずかに31%であった。

そもそもメディアにはリベラル・バイアスがあると論じられているものの、2008年大統領選挙はとくにその傾向が顕著であった。有権者は選挙報道から、メディアが勝たせたいと思っている候補者が誰であるかを読みとるが、2008年大統領選挙では、約70%の有権者が、「メディアはオバマを勝たせたいのだ」だと理解していた。

「メディアは誰を勝たせたいのか」    (Pew Research Center調べ)

日本のテレビ報道であれば、各候補者への平等な配慮がメディアの倫理であると考えられており、それは各政党への均等な時間の配分といったような形で具体化されている。ところがアメリカのメディアの場合、上記の表に見られるように、メディアが明らかな政治的メッセージを発しているのである。

このようなアメリカのメディアにとって、「公平性」や「メディアの社会的責任」とは何を意味しているのだろうか。あるアメリカのメディア関係者の言葉を借りるならば、「大統領になるべき人物を手厚く報じることこそが、社会にとって有益であり、メディアとしての責任を果たすことになる」。このような報道関係者の考え方は、日米の非常に大きな差異である。

特定の候補者に肩入れしているのは、テレビ報道だけではない。新聞も、アメリカのメディアの特徴をよく表している。アメリカでは、日刊新聞の論説が、大統領選挙間近になると、大統領候補支持の表明をするのである。2008年の大統領選挙では、287紙(発行部数2309万部)がオバマ支持を表明し、159紙(930万部)がマケイン支持を表明していた。新聞においても、オバマは強力に後押しされていたのである。

オバマは、政権に就いた後にも、メディアから好意的に扱われている。従来、新大統領が政権についてからの100日間は、ハネ・ムーンとも形容されるように、高く評価されるものではあるが、同時期のクリントンやG・W・ブッシュに比べても、ポジティブな評価をオバマは受けている。具体的には、政権発足から60日間について、クリントンについての全報道の27%、G・W・ブッシュについての22%が好意的であったのに対して、オバマの報道の42%が好意的な内容であった。

2008年大統領選挙から浮かび上がったことは、アメリカのメディアと日本のメディアが、政治を扱う際のスタンスにおいて極めて異なっているということである。どちらの国のメディアと政治のありかたが、「中立性の原則」や「メディアの社会的責任」をうまく果たすことができるのかについては、今後も議論を重ねるべきテーマである。

<質疑応答の抜粋>

小栗氏への質問

Q アメリカのメディアが、特定の候補者を支持したり、政治的立場を表明とするというお話だったが、そのような立場表明はどのような効果を持つのか?

A 読者は、そもそも自分が好む新聞やテレビがどのような政治的傾向があるのかを知っているために、新しいインパクトというものは少ないかもしれない。ただし、読者の考え方の補強という作用はあるだろう。

Q 2008年の選挙戦報道において、シカゴ・トリビューンが従来の共和党支持の路線から、初めて民主党候補のオバマ支持へと転向したが、このようなケースをどう考えるべきか?

A 歴史のある新聞がこれまでとは異なる政党を支持したことは、読者にとって大きなインパクトであったと想像できる。シカゴ・トリビューンのようなケースでは、メディアの立場表明の意義が際だって大きかったと言える。

■報告:梅川健(東京大学法学政治学研究科博士課程)

    • 東京都立大学法学部教授
    • 梅川 健
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