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【開催報告】医療人材の需要と働き方改革の現状<前編>医療サロン
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【開催報告】医療人材の需要と働き方改革の現状<前編>医療政策サロン

January 13, 2026

誰もが自由に医療機関を選べる「フリーアクセス」が日本の国民皆保険制度の魅力。しかし、人口構造の変化や地域格差により、医療を支える体制が揺らいでいる。制度の持続可能性確保に向けて、さまざまな角度から問題を深掘りする本シリーズ。今回は、医療人材の不足や偏在の本質を探り、医師の働き方改革が現場に与えた影響を踏まえて今後の政策の方向性について意見を交わす。現場では、どのような取り組みが進み、どのような声が上がっているのか――。


【出席者】(順不同・敬称略) ※肩書は2025年8月時点
橋本 岳(東京財団上席フェロー、川崎医療福祉大学医療福祉マネジメント学部特任教授、前衆議院議員)※コーディネーター
角田 徹(公益社団法人日本医師会副会長)
馬場 武彦(一般社団法人日本医療法人協会会長代行)
水谷 忠由(厚生労働省医政局総務課長)

医療政策サロンについて
東京財団では、日本の医療政策に関わる多様な立場の方々をお招きし、自由に意見を交わせる場として「医療政策サロン」を開催しています。医療政策は、医療提供者、患者、保険者、行政など、さまざまな関係者が関わる複雑なプロセスです。こうした関係者間の対話が不足すると、政策が現場に根づかず、望ましくない結果を招くこともあります。本サロンでは、公式な審議の場とは異なり、自由に意見交換できる場をつくり、「医療政策」をテーマに、さまざまな角度から深掘りしていきます。

必要な医療を届けるための現場の取り組み−−働き方改革の影響と偏在対策の現在

人材不足の本質は数の不足か偏在か

橋本岳 東京財団上席フェロー(以下、橋本) 今、日本の多くの業界で人材不足が深刻化しており、医療・社会保障分野においても同様です。特に医師やコメディカル(医師・歯科医師・薬剤師・看護師を除く医療関係職)では、人材不足と地域・診療科偏在が複雑に絡み合い、大きな課題となっています。これらの問題を整理し、原因を明らかにしながら議論を進める必要があります。
医師に対しては、20244月に働き方改革として時間外労働に上限を設ける制度が施行されました。約1年半が経過した今、その影響を振り返り、現場でどのような課題が生じているのか、意見を交わしたいと考えています。
まずは、ご出席のお3方に順番にお話しいただき、その後ディスカッションに移ります。最初に、角田さん、よろしくお願いします。

角田徹 日本医師会副会長(以下、角田) 日本医師会は、2007年より厚生労働省(厚労省)の指定を受け、「女性医師支援センター事業」として医師バンク事業「女性医師バンク」を運営してきました。2025年度からは「医師偏在是正に向けた広域マッチング事業」を新たに受託し、これを機に「ドクターサポートセンター(仮称)」を設立します。これまでの取り組みを統合・再編し、医師の偏在是正に向けたより効果的な取り組みを進めます。
日本医師会は、人材不足の本質を「絶対数の不足」ではなく「地域・診療科偏在」にあると捉えています。
診療科偏在の是正は喫緊の課題であり、現在、具体的な対策の検討を進めています。特に臨床研修後に保険診療を経ずに美容外科に進む、「直美(ちょくび)」と呼ばれる医師の増加が偏在を助長しています。これはモラルや倫理観だけでなく、経済的要因など複雑な背景が絡む課題です。日本医師会では、こうした状況を踏まえ、若手医師の意識調査を実施しており、その結果は今後公表する予定です。
地域偏在については、女性医師バンクの実績を活用し、全国規模で医師のマッチングシステムの構築を進めています。これまでの医師養成過程での取り組みの成果もあり、医師少数地域における若手医師数は相対的に増加傾向にあります。この結果、若手医師の地域偏在は改善されつつありますが、全体としては依然として偏在が大きく、中堅・シニア世代への対策が今後の鍵となります。

医師バンク事業、約20年の取り組みと今後

2007年に開始した女性医師バンクは、男性医師も対象としており、登録者の約9割が女性、約1割が男性医師です。20253月末時点で、登録医師約4,700名(うち有効求職者約600名)、求人施設約7,600件(有効求人数約2,200件)、累計成立件数は3,564件に達します。2024年の就業成立数は225件(常勤17名、非常勤181名、スポット勤務27名)でしたが、この件数は十分とは言えません。今後は全国的な周知を強化し、特に臨床意欲のあるシニア医師への参加呼びかけを進めます。
求人・求職、紹介から就業成立までのサービスはすべて無料です。結婚・出産、育児や介護などで一時的に臨床を離れた女性医師を対象に、再就業支援講習会やトレーニングなども実施しています。
2025年度からは、これらの事業を新たな枠組み「ドクターサポートセンター(仮称)」内に位置づけて、「女性医師バンク」は「ドクターバンク」として再編し拡充します。日本医師会(事務局)を中心に、全国を6つの地域ブロックに分けて各ブロックにコーディネーターを、さらに東西に統括コーディネーターを配置。都道府県単位のドクターバンクと業務提携し、全国ネットワークを構築します。
現在、有料紹介業者による高額手数料が病院経営を圧迫していることが問題となっています。日本医師会のドクターバンクはすべて無料で提供しており、信頼性と公益性を活かして広く登録を呼びかけていきます。

制度施行後の医療現場の声

次に、医師の働き方改革についてです。
厚労省の調査では、年間1,920時間以上の時間外労働を行う医師の割合は、2016年の9.7%から20198.5%20223.6%と減少傾向にあります。一方で、年間960時間以上働く医師は2022年時点で21.2%に上り、現場では依然「グレーな状況」との声もあります。
日本医師会は、2024年4月の制度開始直後の状況を把握するため、202489月に会員医療施設を対象にアンケート調査を実施しました。その結果、救急医療や宿日直、外来診療体制に大きなひずみは見られませんでした。
一方で、医師を派遣している672医療機関への調査では、「引き揚げる医師数が昨年度(2023年度)より増加しているか」という質問に対し、8.8%が「はい」、82.4%が「いいえ」、8.8%が「わからない」と回答しました。また、「2025年度以降に引き揚げる医師数が増加することが見込まれるか」という問いには8.5%が「はい」、41.2%が「いいえ」、50.3%が「わからない」と答えています。
医師を受け入れている2,927医療機関でも同様に、「引き揚げる医師数が昨年度(2023年度)より増加しているか」には11.2%が「はい」、83.5%が「いいえ」、5.3%が「わからない」、「2025年度以降に引き揚げる医師数が増加することが見込まれるか」には15.6%が「はい」、39.5%が「いいえ」、44.9%が「わからない」と回答しました。
この結果から、派遣側・受け入れ側の双方の医療機関で、将来的な医師確保に対する不安が残る状況がうかがえます。
日本医師会では、制度開始から1年を経た202589月にも、医療機関の実態や地域医療への影響を検証するための調査を実施しました。結果は今後公表予定です。

新たな地域医療構想を見据えて

現在、2040年頃を見据えた新たな地域医療構想の策定が進められています。外来医療機能のあり方も検討されており、これは医師の働き方改革とも密接に関わります。「治す医療」と「治し支える医療」の役割分担を明確にし、紹介受診重点医療機関とかかりつけ医機能を担う医療機関が連携することで、地域全体で持続可能な医療提供体制を構築していくことが求められています。

働き方改革の現在位置と未来

橋本 ありがとうございました。つづいて医療・介護施設を運営する立場から、馬場さん、お願いします。

馬場武彦 日本医療法人協会会長代行(以下、馬場) 私は2017年に始まった厚労省「医師の働き方 改革」検討会に初期から参加し、現在も継続しています。当初からの構成員は私を含め2名のみです。制度の背景や議論の経緯を正しく伝えることが、自身の責務だと考えています。
既に言及されている通り、医師の働き方改革は、医師の時間外労働に上限(原則的に年間960時間まで)を設ける制度です。2017年に検討会が発足し、20193月に報告書を公表、同年4月からの準備期間を経て20244月に施行しました。基本理念は「医師の健康と地域医療の両立」であり、今後、見直しをしつつ20363月までに、暫定特例水準「B・連携B水準(地域の中核を担う医療機関・地域医療を支える役割を持つ医療機関向け。年間1,860時間までの時間外労働が認められる)」の適用終了を目指しています。

宿日直と研鑽はどこまで「労働」か

宿日直の扱いは制度設計の中でも最も重要な論点です。労働時間への算入方法が病院のシフト運営に直結するためです。宿日直には、①寝当直型、②断続的業務型、③常時業務型の3タイプがあります。①は宿日直の許可が得にくく、③は得やすい傾向があります。中間の②の許可取得が焦点となりました。
201711月の段階では、36協定未締結の病院が15%存在し、タイムカード未導入の施設が多く、労働時間管理が不十分でした。当時から「宿日直の実態が法令基準と乖離している」と指摘され、実態に即した制度見直しが求められていました。
2019年2月の検討会で示された四病院団体協議会(四病院協)調査結果によると、大阪府のおもな二次救急医療機関において、当直医師の約4割が非常勤であり、夜間救急が非常勤医師に依存している実態が明らかになりました。非現実的な労働時間上限設定は、非常勤医師の派遣縮小を招き、患者の生命に関わるリスクを伴います。
こうした課題を踏まえ、厚労省は20197月に「医師等の宿日直勤務」に関する新通知(基発07018号)を発出。通常勤務からの解放や夜間の睡眠確保を条件に柔軟な運用を認めました。その結果、従来は許可取得が困難だった救急対応を含む宿日直でも許可が得やすくなりました。202567月の四病院協による調査では96.6%の病院が宿日直許可を取得しています。新通知が制度の円滑な導入(ソフトランディング)に大きく寄与しました。一方で、実態に見合わない「背伸び許可」も懸念され、今後の適正運用が課題です。
なお、特例水準(連携BBC-1C-2[研修や技能修得のため])では年間1,860時間・月100時間未満の労働が可能ですが、連続勤務時間やインターバル(一定の休息時間)の規制があり、シフト編成が難しくなります。そのため、私は「できるだけ標準水準(A[年間960時間以内])を選びましょう。そうすれば、宿日直許可の取得が必ず必要になります」とお話ししてきました。実際、多くの病院がその方針で宿日直許可を得ました。

医師の「研鑽」が労働時間に該当するかは、「使用者の指揮命令下にあるか」で判断されます。第12回検討会(20181119日開催)で区分基準が明確化され、労働時間削減に一定の効果がありました。

制度施行の影響

四病協の調査によると、医師の派遣中止・削減を受けた病院は202412月時点で9.3%、制度開始直後の202567月には21.3%に倍増。報酬引き上げを要請された病院も約1割に上り、医師派遣体制や病院経営への影響が懸念されます。 

魅力ある職場づくりと多様性の受け入れが鍵

医師の労働量削減に取り組む上で、医療関係職によるタスク・シフト/シェア(医療従事者の合意形成の下での業務の移管や共同化)は不可欠です。病院によっては「業務の押し付け」と受け取られる一方、「職種の地位向上」と前向きに捉えるケースもあります。
医療関係職の賃金は他産業より低く、特に介護職員や看護補助者は全産業平均を下回っています。厚労省資料によると、2022年の月額給与(賞与込み)は全産業平均36.1万円に対し、医療関係職平均32.7万円、介護職員29.3万円、看護補助者25.5万円でした。過去には優位にあった看護師でも他産業との年収差が縮まり、他業界への流出が増えています。医療関係職は生涯年収が伸びにくく、キャリアに応じた給与体系が整っていないため、優秀な人材の確保が困難で、離職率も高い傾向にあります。
2040年に向けて高齢化が進み、経営難で賃金アップが難しい中、医療・介護の需要と人材供給のギャップを埋めるには、魅力ある職場づくりと多様性の受け入れが鍵となります。当院では、性別・国籍・年齢・働き方・キャリア・障害の有無を問わず多様な人材を採用しています。特に、看護補助者の約3分の2は外国人、障害者、定年後の再雇用者で構成され、韓国、中国、ベトナム、フィリピン、タイ、ネパール、インドネシア、ミャンマー、台湾、ガーナ、ブラジル、ペルーなど、多国籍の職員が協働し、国際的な職場環境の中で医療を提供しています。

2025828日開催。編集・構成・撮影 東京財団)
⇒後編(近日公開予定)

 


【出席者略歴】

角田 徹(かくた とおる)
公益社団法人日本医師会副会長
東京医科大学卒業。愛知県がんセンター放射線診療部、山梨医科大学第一外科などを経て、1990年には米国カルフォルニア州立大学ロサンゼルス校(UCLA)外科Liver Transplantation ProgramへVisiting Fellowとして留学。1991年に角田外科消化器科医院開設。三鷹市医師会長、東京都医師会理事を経て、2015年より東京都医師会副会長。2018年より1期、日本医師会監事を務め、2022年から日本医師会副会長。

馬場 武彦(ばば たけひこ)
一般社団法人日本医療法人協会会長代行
大阪府出身。昭和58年、九州大学医学部卒業。平成6年、医療法人ペガサス(現社会医療法人ペガサス)設立、理事長に就任。平成29年より、厚生労働省医師の働き方改革に関する検討会、医師の働き方改革の推進に関する検討会構成員。日本医療法人協会会長代行、大阪府私立病院協会副会長、大阪府医療法人協会会長、全日本病院協会常務理事・大阪府支部長。

水谷 忠由(みずたに ただゆき)
厚生労働省医政局総務課長
1997年厚生省入省。主に医療政策や公的医療保険制度、高齢者介護や障害保健福祉分野の政策に携わり、在米国日本国大使館一等書記官、老健局認知症施策推進室長、厚生労働大臣秘書官、内閣官房長官秘書官、保険局医療介護連携政策課長、医政局医薬産業振興・医療情報企画課長等を経て、2025年7月より厚生労働省医政局総務課長。

橋本 岳(はしもと がく)
東京財団上席フェロー、川崎医療福祉大学医療福祉マネジメント学部特任教授、前衆議院議員
1996年慶應義塾大学環境情報学部卒業、1998年同大学大学院政策メディア研究科修士課程修了、株式会社三菱総合研究所入社。2005年衆議院議員初当選(以降当選5回)。その間、厚生労働大臣政務官、厚生労働副大臣などを歴任。2025年より川崎医療福祉大学医療福祉マネジメント学部特任教授。

  • 研究分野・主な関心領域
    社会保障政策/医療DX

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