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アメリカ大統領選挙UPDATE 8:「右派言論人・コラムニストの大統領選挙をめぐる評価3」(中山 俊宏)

October 30, 2012

選挙まで残すところあとわずかだが、第一回目のディベート以来、ロムニー候補が態勢を立て直し、両者は肉薄している。RCP平均値では、ロムニー候補の方がわずかながらオバマ大統領を上回っているかたちだ。いまやロムニー・キャンペーンのイベントは、これまで欠けていた「熱気」が充満しているとも評されるまでになった。そもそもイベントに集まる人の数も激増したようだ。

わずか一月前、保守派の論客たちが挙ってロムニー候補のことをほぼ見限る発言をしていたことがまるで嘘のようだ。9月下旬から第一回目のディベートが行われるまでの間、保守派の論客たちは、手厳しいロムニー批判を繰り広げた。彼らは、客観的状況は共和党に有利な風が吹いているにもかかわらず、それにほとんど乗り切れないロムニー候補に対する苛立ちをストレートに吐き出していた。

彼らの発言には、ロムニー候補の負けを見通し、その敗北の原因を「候補者の資質」に還元することによって、いわれのない「保守主義」に対する批判を事前に回避しようとする意図が見え隠れしていた。もともとロムニー候補は、その保守的なスタンスにもかかわらず、保守派の支持を固めることができずにいた。現代アメリカ政治の文脈で「保守」であるということは、なによりもある種の「精神的態度」を体現していなければならない。保守的な政策をただただ積み重ねていっても、その人物が保守派の間でリーダーとして受け入れられるとは限らない。その「精神的態度」をひとつの雛形に還元することはできないが、あえていえば「ゴールドウォーター的な心性」とでもいえばいいのだろうか、ある種の「技術的な知」に対する不信感と「険しくもたくましい個人主義(rugged individualism)」を兼ね備えていなければならないだろう。

ロムニー候補は、その限りにおいてはどこまでいっても「保守派」ではなかった。彼は、あくまで保守的な政策を「受容」したに過ぎず、その気質においては慎重な中道右派のプラグマティストであることを保守派は直感的に察知していた。ロムニー候補にとって幸いだったのは、党内でオバマ大統領に対する嫌悪にも似た不信感が強く、そのことがロムニー候補に対する疑念をある程度封印する効果をもってきたことだろう。

しかし、9月下旬、その不信感が一気に噴出する。レーガン大統領のスピーチライターであったペギー・ヌーナンは保守系のウォールストリート・ジャーナルの紙上で世界観らしきものをまったく持っていないロムニーの小ささを情け容赦なく批判した(Peggy Noonan, “Time for an Intervention,” Wall Street Journal, September 18, 2012)。チャールズ・クラウトハマーもワシントン・ポスト紙上で、似たような趣旨の厳しい批判を繰り広げた。クラウトハマー曰く、「彼(ロムニー)が、大胆な一歩を踏み出せず、大きな議論を展開できずにいることは、もうただ驚くばかりだ」と。まだ遅くはないと締めくくってはいるものの、その不信感は隠しようがない(Charles Krauthammer, “Go Large, Mitt,” Washington Post, September 28, 2012)。

さらに批判は続いた。9月30日、保守系の大手シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所の副会長であるヘンリー・オルセンは、有権者をあたかもクライアントのようにしかとらえられないロムニーの心性に言及し、それがまったく保守的な態度とは相容れないと批判した。アメリカにおける保守的精神の基底には、イデオロギー的な信条よりかは、「アメリカン・ハートランド」における生活信条が横たわっており、ロムニー候補にはそれが欠けているというのがオルセンの批判だ。彼もやむをえずロムニー候補に一票を投じるとは述べているものの、そこに思想的な共感は一切ない(Henry Olsen, “Romney’s Drift from the True Heart of Conservatism,” Washington Post, September 20, 2012)。外交についても保守派の論客たちは手厳しい。オルセン同様、アメリカン・エンタープライズ研究所の副会長であるダニエル・プレトカ副所長は、オバマ政権の失策ばかりを批判し、世界政治の中におけるアメリカの役割に関するビジョンを具体的に語ろうとしないロムニーに対する不満を露にしている(Danielle Pletka, “Romney’s Missing Foreign Policy,” New York Times, October 7, 2012.)。

この他にも数多くの批判が噴出した。しかしながら、第一回目のディベートで予想外の中道旋回を果たし、オバマ候補を追い込んで以来、保守派のロムニー候補に対する疑念は一見したところ雲散霧消してしまったかのように見える。奇妙なことに、中道旋回したことに対する保守派のロムニー候補に対する怒りはほぼ皆無で、むしろオバマ大統領をやり込めたことに驚喜しているようだ。しかし、根底にあるロムニー候補への不信感は完全に消え去ったわけではなく、仮にロムニー候補が勝つとするとロムニー政権の政策選択の幅を大きく拘束し、また仮に負けるとすると次の選挙においては「(ロムニーならざる)真性の保守」を見つけようとする方向に作用することになるのだろう。

    • 慶應義塾大学総合政策学部教授
    • 中山 俊宏
    • 中山 俊宏

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