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【論考】災害に備える情報基盤 官民連携が支える情報到達
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【論考】災害に備える情報基盤 官民連携が支える情報到達

June 30, 2026

元テレビ朝日 報道局プロデューサー 江野夏平

防災というと、堤防や河川整備、耐震化、非常用備蓄など、目に見える備えを思い浮かべる人が多い。しかし、人命を守るためには、それと同じくらい重要な備えがある。それは、災害が発生した際に、必要な情報を必要な人へ確実に届けるための仕組みを平時から整えておくことである。

災害時に住民が必要とする情報は、避難指示や津波警報だけではない。避難所の開設状況、道路の通行情報、停電や断水の状況、医療機関や給水所に関する情報など、その内容は時間の経過とともに変化し、多岐にわたる。これらの情報は、必要な時に必要な人へ届いて初めて、人命や生活を支える力となる。

今世紀に入ってからだけでも、日本は東日本大震災、熊本地震、北海道胆振東部地震、令和6年能登半島地震など、大規模災害を幾度となく経験してきた。さらに最近も各地で強い地震が相次いでおり、青森県では最大震度6強を観測する地震が発生したほか、山梨県東部を震源とする地震でも首都圏を含む広い範囲で揺れが観測された。災害への備えは、決して過去の教訓ではなく、現在進行形の課題である。

スマートフォンが広く普及して以降、大規模災害では多くの被災者が自ら津波や被害状況を撮影し、その映像や写真が報道機関やインターネットを通じて広く共有されるようになった。住民自身が災害の記録者であると同時に情報の発信者となったことは、情報伝達のあり方を大きく変えた。

一方で、どれほど多くの情報が記録され、発信されても、それを届ける通信網や放送網が機能しなければ、住民が必要とする情報は途絶えてしまう。情報は発信されるだけでは意味を持たない。必要な人へ確実に届いて初めて、その役割を果たす。

防災に求められるのは、災害発生後の対応だけではない。通信を維持する仕組み、情報を発信する体制、そして住民へ届ける手段を平時から整備し、それらが確実に機能する状態を維持しておくことである。以下では、総務省東海総合通信局の取り組みと地域メディアの実践を通して、人口減少社会における情報基盤のあり方を考える。

2026年624日、総務省東海総合通信局は名古屋市で「防災情報通信セミナー」を開催した。会場では、防災情報通信に関する講演に加え、災害時の通信確保を支えるさまざまな機器やシステムが展示されていた。

展示会場には、衛星携帯電話や衛星インターネット、簡易無線をはじめ、消防や警察、自治体などの災害対応機関が利用する専用通信システム、大容量通信を支える通信設備、停電時にも通信設備を稼働させる非常用電源などが並んでいた。

最新の通信機器を紹介するための展示ではない。災害時の情報伝達を担う自治体や通信事業者などの関係者に対し、通信網が被災した場合でも住民への情報提供を継続できるよう、通信手段を多重化する考え方と、そのための具体的な備えを共有することが目的である。

例えば、大規模災害によって携帯電話基地局が被災し、固定電話やインターネットが利用できなくなった場合でも、衛星通信や無線通信など複数の通信手段を確保することで、自治体は避難情報や生活情報を継続して発信することができる。

こうした備えを支えているのが、総務省と通信事業者による平時からの連携である。総務省は、通信事業者と協力して通信サービスの早期復旧体制を整備するとともに、復旧までの間、自治体へ衛星通信機器や無線機器を貸与する体制を全国で構築している。また、災害時テレコム支援チーム(MIC-TEAM)を派遣し、自治体や通信事業者と連携しながら通信手段の確保を支援する体制も整備している。

これらはいずれも、災害が発生してから考える取り組みではない。通信インフラが途絶えても情報を届け続けられるよう、平時から官民が役割を分担し、災害時を想定した備えを積み重ねているのである。

しかし、通信基盤が確保されるだけでは、住民へ情報は届かない。通信インフラは情報を運ぶための土台であり、その上で情報を収集し、整理し、地域住民へ届ける体制も同様に平時から整備されていなければならない。その実践例が、東海総合通信局管内にある三重県四日市市のコミュニティFMCTY-FM」である。

CTY-FMは、四日市市、桑名市、菰野町、朝日町、川越町、木曽岬町と災害時における情報発信に関する協定を締結し、自治体と連携した情報提供体制を構築している。東海豪雨や東日本大震災などの経験を踏まえ、「災害時に放送する」ことではなく、「災害時にも放送できる体制を維持する」ことを重視し、平時から設備や運用体制の整備を進めてきた。

その象徴的な取り組みが緊急告知ラジオである。四日市市、桑名市、菰野町では約18千台が整備され、市役所や町役場から送信される起動信号により、自動的に電源が入り緊急放送を受信できる仕組みとなっている。利用者がラジオの電源を切っていても、緊急時には自動で起動し、防災行政情報を受信できる。さらに、定期的な起動試験や保守点検を実施することで、災害時に確実に機能する状態を維持している。

情報を届ける手段も一つではない。CTY-FMでは、気象予報士が常駐し、台風や大雨時には二人体制で災害対応に当たるほか、ケーブルテレビ、テレビのデータ放送、スマートフォンアプリ「CTYコネクト」、インターネット配信など、多様な媒体を組み合わせた情報提供体制を構築している。近年はAIアナウンスシステムも導入し、気象庁が発表する特別警報や震度速報、津波情報などを自動で放送できる環境を整備した。夜間や休日を含め、迅速な情報提供を可能とするとともに、放送現場の人的負担軽減にもつながっている。

さらにCTY-FMは、東海地区のコミュニティ放送局で構成するJCBA東海地区協議会において、防災ネットワーク協定の締結や相互応援体制の構築にも取り組んでいる。大規模災害時には、一つの放送局だけで情報提供を継続することが難しい場合も想定される。そのため、地域を越えて放送局同士が支え合う体制を平時から構築しているのである。

これらの取り組みが示しているのは、情報を届ける仕組みは災害時に突然機能するものではなく、平時から整備され、維持されて初めて実効性を持つということである。自治体との協定、緊急告知ラジオ、多様な情報媒体の整備、放送局同士の相互応援体制など、一つ一つの取り組みは異なるように見えるが、いずれも災害時に住民へ情報を届け続けるための平時の備えにほかならない。

この考え方は、臨時災害放送局の運用にも共通している。臨時災害放送局は、大規模災害時に自治体が臨時のFM放送局を開設し、避難情報や生活情報などを住民へ伝える制度である。しかし、その価値は制度そのものにあるのではない。災害発生時に速やかに開設し、確実に放送を開始できるよう、平時から運用体制を維持していることにある。

東海総合通信局では、自治体と連携し、開設手続きの確認だけでなく、放送設備の設置、電波の発射、住民による受信までを想定した実践的な訓練を継続して実施している。制度や設備を整備するだけでは、防災力にはならない。実際の運用を想定した訓練を積み重ね、関係機関がそれぞれの役割を共有することで、災害時に情報を届ける体制は初めて機能する。

総務省による通信基盤の整備、通信事業者による通信の確保、自治体による情報発信、そしてCTY-FMをはじめとする地域メディアによる情報伝達は、それぞれ独立した取り組みではない。災害時に必要な情報を住民へ確実に届けるという共通の目的のもと、有機的に結び付いて初めて、一つの情報基盤として機能するのである。

人口減少が進むこれからの地域社会では、行政、通信事業者、地域メディアのいずれも人的・財政的資源の制約を受けることになる。そのような時代だからこそ、一つの主体だけで地域の情報を支えることは難しい。それぞれが役割を分担し、相互に補完しながら情報を届ける体制を維持することが、地域防災の持続可能性を左右する。

政策研究機関の役割は、新たな制度を提案することだけではない。現場で積み重ねられている優れた実践を社会へ伝え、その意義を共有し、全国へ展開していくことも重要な役割である。

情報は、災害が発生した瞬間から住民の命を守る。しかし、その情報は災害時になって初めて届くようになるものではない。通信基盤、制度、訓練、地域メディア、そして官民の連携という平時からの備えがあってこそ、情報は必要な人へ確実に届けられる。災害に備える情報基盤とは、まさにその不断の積み重ねによって支えられているのである。

  • 研究分野・主な関心領域
    • メディア論(映像表現論)
    • 放送法(危機管理)
    • 政策広報戦略
    • 社会実装プロセス

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