タイプ
論考
プロジェクト
日付
2017/8/14

アメリカ大統領権限分析プロジェクト:トランプ大統領の「実績」と大統領権限

梅川健(首都大学東京教授)

 

トランプ大統領は自らの業績をしばしば自慢する。2017年6月12日、初めてトランプはキャビネット・ミーティング(日本風に言えば閣議だが、アメリカ大統領は決定のために閣僚の同意を必要としない。行政権が大統領個人に与えられているため)を開いた際には、自分がフランクリン・ローズヴェルト大統領以来の「活発な」大統領だと述べた。

 

大統領が「活発」であることがアメリカの民主主義にとって望ましいかというそもそも論については別に論じることとして、本稿では、立法、行政命令、署名時声明という観点から、トランプが就任以来、大統領権限をどのように行使してきたのかについて論じたい。

 

実際に法律を数えると、トランプ大統領が最初の100日間に署名した数は、FDR以来の大統領の中で3番目になるという[1]。ただし、8月7日に迎えた就任200日という区切りでみると、法律数は下から3番目に後退する[2]。議会が大統領のアジェンダ(例えば健康保険改革)について激しく対立しており、大統領の手元まで法案が送られにくい状況になっているためである。

 

立法数とは対照的に、トランプ大統領による行政命令(executive order)[3]の数は、就任200日にあってもFDR以来の大統領の中で3番目の多さを誇る。トランプ大統領が就任早々発令した特定7カ国からの入国を禁止する行政命令が大きな混乱をもたらしたことは記憶に新しい。

 

本来、行政命令とは、大統領が憲法や法律の定めにより法を執行するにあたって、行政組織に下す命令である。その中では、具体的な法執行の方法が定められ、当然、その執行方法は憲法や法律に違反することはない(できない)とされる。もしも違反が疑われ、訴訟が提起された場合には裁判所による判断が下される。先の入国禁止令は差止処分の後に、その一部については最高裁に認められることになった。

 

ここでは、今後大きな変化をもたらす可能性のある2つの行政命令について論じたい。ひとつは、3月27日に出された "The Revocation of Federal Contracting Executive Orders" [4]である。オバマ大統領は、性指向・性自認による差別を行う企業との政府取引を禁じる行政命令13672 [5]を出していたが、トランプ大統領はこの撤回を命じた。

 

アメリカの大統領はこれまでにも、政府と取引する企業に条件をつけることで、マイノリティに対する差別の是正を試みてきた。例えばFDRの行政命令8802 [6]は、国防産業における人種差別を禁じた。オバマ大統領の行政命令はこの流れに位置づけることができるが、トランプ大統領の行政命令は明らかな逆行となる。

 

もうひとつは、5月4日に出された行政命令 "Promoting Free Speech and Religious Liberty" [7]である。アメリカでは、宗教団体などの非営利団体は、税法上の501(c)(3)団体として連邦所得税が免除される。ただし、政治活動を行った場合にはその資格が取り消される。トランプ大統領は、この行政命令によって、税法上の資格を判断する内国歳入庁に対して、501(c)(3)団体が政治活動を行ったとしても、従来の資格を認めるように命じた。この措置によって今後の選挙の様相が変化する可能性もある。この行政命令は、本来であれば法律の改正を必要とする事柄を変更しようとしており、本来の行政命令の運用から逸脱している。今後の推移を見守る必要がある。

 

最後に、数の上では少ないものの重要な意味を持つものとして、トランプ大統領による署名時声明(signing statement)がある。署名時声明とは、大統領が法案に署名する際に出す法的な文書であり、その中で条文の違憲性を主張し、時には不執行を宣言する[8]。トランプ大統領は8月2日に成立したロシア制裁強化法に、この署名時声明を用いた。ホワイトハウスのウェブサイトではこの法律について、トランプ大統領の2つの "statement" を伝えている。ひとつは大統領の一般的な声明[9]であり、「トランプ節」もきいている。"Statement by President Donald J. Trump on the Signing of H.R. 3364" [10]は、署名時声明であり、法律文書の体裁をとる。

 

署名時声明で、大統領は法律に多くの「違憲な条文」があると主張する。例えば、大統領がロシア制裁を解除しようとする際にその旨を議会に通知し、議会による判断を待たねばならないとする条文は議会拒否権に相当するのだと言う。確かに、議会拒否権という仕組みは1983年の最高裁判決によって違憲とされている。トランプ大統領はいみじくもその判決に言及し、条文の違憲性を指摘している。

 

興味深いのは、そのような違憲性を認識しつつも、そのプロセスを尊重する、としているところである。下院民主党院内総務のナンシー・ペロシは、この署名時声明に、トランプ大統領が同法を遵守しない危険性を見て取っている。今後、トランプ大統領が上述のプロセスに従うのかどうかが焦点となる。

 

ここまで、法律、行政命令、署名時声明という観点から、トランプ大統領がどのように権限を行使してきたのかを概観してきた。法律については、議会による法案審議を待つ必要があり、署名するという権限を行使する機会は限られている。法律の執行内容を定める行政命令については活発に用いており、その中には法律の内容の変更につながる可能性のあるものも見つかる。署名時声明は数こそ少ないものの、大統領が法に従うのかどうかについての不穏な空気を醸し出している。トランプ大統領による権限行使については、今後も注意深く見守る必要がある。

 

[1] “Trump has signed more bills in 100 days than any president since Truman, Spicer says,” Politifact.

[2] “Here's how many laws Trump signed in his first 200 days compared to past presidents,” Business Insider.

[3]日本語の「大統領令」は、行政命令(executive order)と大統領覚書(presidential memoranda)を含むものとして使用されている点に注意を要する。

[4] “Presidential Executive Order on the Revocation of Federal Contracting Executive Orders”

[5] “Executive Order 13672” 

[6] “Executive Order 8802” 

[7] “Presidential Executive Order Promoting Free Speech and Religious Liberty”

[8] 梅川健『大統領が変えるアメリカの三権分立制:署名時声明をめぐる議会との攻防』(東京大学出版会、2015年)

[9] “Statement by President Donald J. Trump on Signing the “Countering America’s Adversaries Through Sanctions Act” 

[10] "Statement by President Donald J. Trump on the Signing of H.R. 3364"