【アメリカ大統領選 論調Update第3回】中国はトランプ大統領の再選を望む?

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【アメリカ大統領選 論調Update第3回】中国はトランプ大統領の再選を望む?

世界が注目する2020年11月のアメリカ大統領選挙。アメリカ国内では今、何が論点となり、どのように論じられているのでしょうか。主要メディアによる記事や、シンクタンク報告書、学術論文の要点など、アメリカ国内の最新論調をわかりやすくまとめ、シリーズで紹介します。


ジョー・バイデンは中国の脅威を無視し、アメリカの雇用と国家安全保障を危うくしている」。トランプ大統領の再選を支援する政治行動委員会(PAC)、アメリカ・ファースト・アクションは民主党大統領候補指名を確実にしたバイデン前副大統領を「北京バイデン」と呼び、上院議員・副大統領時代の投票・発言や次男ハンター・バイデン氏と中国の国営企業の関係に触れ、バイデン氏を「親中派」として激烈に批判している。トランプ大統領本人も「中国は『寝ぼけたジョー』を熱望している……お人よしのジョーは中国にとって夢のような候補だ!」とツイートし、関税戦争など中国に対し厳しい対応をとってきた自身と対照的に、バイデン氏の「軟弱さ」を強調している。

一方のバイデン氏も、トランプ大統領が新型コロナウイルス(Covid-19)への対応において習近平国家主席を繰り返し称賛し、中国に説明責任を果たさせず、アメリカをパンデミックに対して無防備な状態にしたと批判した。バイデン陣営幹部はトランプ大統領の「強硬な発言と弱い行動」のギャップを追求する方針を示した。

対中強硬姿勢を競うかのような両陣営の応酬の背景には、専門家と世論の両方のレベルにおいて中国に対する否定的な見方の高まりがある。対中政策の専門家の間では、近年の中国の対外拡張主義と国内での抑圧的体制の強化を受けて、中国が国際社会のルールを受容して「責任あるステークホルダー」として振る舞うように働きかける「関与」政策から転換を図る必要があるとする議論が主流になっている。また、ピュー・リサーチ・センターによると、トランプ氏の大統領就任以降、中国に対して否定的な見方をする市民が増えており、Covid-19の急速な感染拡大が見られた今年4月には66%に上った

こうした中、トランプ大統領の再選バイデン政権の成立より中国にとって望ましいとする議論が登場している。これらの記事において、取材を受けた中国の外交当局者や学者たちは、トランプ氏とバイデン氏のどちらが次期大統領になっても、米中関係が改善される望みは薄いが、トランプ大統領の政策や発言がアメリカとその同盟国との関係を悪化・不安定化させていることがアメリカとの競争において中国に有利に働くとみなしている。他方で、トランプ大統領が仕掛けた貿易戦争は中国当局を混乱させ、負担を強いているという声も紹介されている。

トランプ大統領の再選が中国を利するという議論を強化しているのが、トランプ大統領の行動とアメリカの国益の乖離についての指摘である。タカ派として知られ、トランプ大統領との対立のため政権を去ったジョン・ボルトン元大統領補佐官は、出版予定の著書においてトランプ大統領が習主席に自身の再選を支援するよう要請したと主張した。これを受けて、ニューヨーク・タイムズ紙はアメリカの対中政策における最大の障壁は大統領自身であるとして厳しく批判している。

ますます存在感を増す中国にどう向き合うかは、アメリカの将来にとってきわめて重要な選択であることは間違いない。トランプ政権の成果と課題、またバイデン候補の具体的な対中政策は今後も選挙戦において注目を集めるであろう。


◇参照記事◇

宇野 正祥

  • 東京大学大学院法学政治学研究科博士課程