東日本大震災と所有者不明土地問題

福島県双葉町のJR双葉駅(右下)周辺=2020年3月(写真提供:共同通信イメージズ)

東日本大震災と所有者不明土地問題

はじめに
被災地で見えた所有者不明土地問題
政策課題としての認知の広まり
近年の主な政策動向――土地制度の転換期
今後の課題――制度の普及と連携を

はじめに

2011年3月11日に発生した東日本大震災は、今なお続く復興の過程において、人口減少下のまちづくりや、地域経済の活性化、生活支援のあり方など、震災以前からある数々の課題をより深刻な形で露呈させた。

そうした被災地で表面化した課題の1つに、「所有者不明土地問題」がある。住宅の高台移転や土地の区画整理などの用地取得の過程で所有者不明・相続手続き未了の土地が多数見つかり、災害公営住宅の整備が遅れるなど復興事業に大きな影響を及ぼした。本稿では、この問題について改めて当時の状況を振り返り、震災以降の制度見直しを概括するとともに、今後の課題を考えたい。

被災地で見えた所有者不明土地問題

所有者不明土地とは、不動産登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、又は判明しても連絡がつかない土地を指す。実家の土地を相続したものの、利用見込みや資産価値が低い場合、相続人にとっては資産価値よりも管理負担のほうが大きく、相続登記の申請を行うインセンティブが働きにくい。現行法では相続登記は任意のため、もし登記申請が先送りされれば、不動産登記簿上の名義人は死亡者のままとなり、登記簿からは現在の所有者やその所在がわからなくなる[1]

こうした制度上の課題が近年もっとも大規模に表れたのが、東日本大震災の被災地であった。岩手県の資料によると、2013年11月末の時点で、復興事業の用地取得のための契約予定件数は、県・市町村合計で約2万件。そのうち、権利者調査の終わった約1万3000件について、こうした相続未処理や多数共有などにより、権利関係の調整が必要な事案が全体の約3割にあたる約4000件あった。登記簿上の名義人が死亡者のままであるのに加え、複数名の共有地でありながら「A外○名」とあるのみでほかの共有者名が記載されていない「記名共有地」や、大正時代に設定された数十円の抵当権が登記簿上そのままになり抹消登記を行わなければ権利移転ができない土地など、調整が難航するケースも多数見つかった。

復興庁によると、防災集団移転促進事業の用地取得率は2013年9月末時点で、岩手、宮城、福島3県の平均で48%にとどまった。土地取得が難しいため移転先用地の区域を変更したケースは、2016年3月末時点で、3県で603件(岩手165件、宮城379件、福島59件)にのぼった[2]

国は被災地からの相次ぐ要望を受け、東日本大震災復興特別区域法を改正して土地収用手続きの緩和を図ったが、それは震災から3年以上が経過した2014年4月末だった。

政策課題としての認知の広まり

こうした東日本大震災の被災地における用地取得の難航は、所有者不明土地問題を世の中に知らしめる大きなきっかけとなった。

実は、土地の所有者や相続人の探索が難航し土地利用の妨げとなるという問題は、決して新しいものではない。震災以前から、耕作放棄地の解消や公共事業の現場などでは人口減少を背景に同様の問題が発生し、対応を求める声が関係者の間で上がっていた[3]。そうした長年の課題が被災地で大規模に表面化し、復興の足かせとなったことで、問題の深刻さと制度改正の必要性が広く世の中に認識されることとなったのだ。

さらに、2010年代後半に入り、同時期に深刻さを増していた空き家問題においても、空き家の所有者や相続人と連絡がとれず地域で対応に困る事例が各地で報告されるようになると[4]、この問題は個人の相続と密接に関わる身近な問題であることも見えてきた。そして、2017年6月、「所有者不明土地問題研究会」(座長:増田寛也東京大学公共政策大学院客員教授)が所有者不明土地は九州の面積を超える約410万ヘクタールまで広がっているとの試算を公表すると[5]、この問題への社会的関心は一気に高まった[6]

こうして、所有者不明土地問題は、人口減少時代の政策課題の1つとして「経済財政運営と改革の基本方針2017」に具体的な検討事項が盛り込まれるなど[7]、国における対策が進み始めた。

近年の主な政策動向――土地制度の転換期

日本の土地制度は、明治以来、人口増や「土地は有利な資産」という前提のもとで構築されてきた。従来の土地政策は、戦後の高度経済成長やバブル経済を背景に、地価高騰や乱開発など市場の「行き過ぎ」を抑制することが主眼であり、低未利用の土地の管理や相続のあり方など、市場原理では解決が難しい、個人の所有権にも関わる課題については、十分な検討が行われてきたとは言い難い[8]

所有者不明土地問題とは、そうした従来の制度と、人口減少に伴う土地需要の低下という社会の変化との狭間で広がってきた構造的な課題である。そのため、問題の解決には、すでに不明化してしまった土地への対応策に加え、土地政策の理念や民事基本法制にも踏み込んだ抜本的な制度見直しが必要となる。

そこで、国は2018年1月に関係閣僚会議を設置し、関係省庁連携のもと共通の基本方針と工程表に沿ってこの問題への対策を進めることとした(図1)。これまで進んできた数々の取り組みの中で、とくに大きな政策の節目と言えるのが、(1)所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の制定、(2)土地基本法の改正、そして(3)民法・不動産登記法の改正である。順番に見ていこう。

図1 所有者不明土地等問題 対策の推進のための工程表


出所:内閣官房「所有者不明土地等対策の推進のための関係閣僚会議」第2回会合資料(2018年6月1日)(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shoyushafumei/index.html

(1)所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の制定

まず、所有者不明土地への対応策の第一歩となったのが、2018年6月に成立した「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」(所有者不明土地法)である。本法では、所有者不明土地の活用に向け、地域の公共的な事業のために10年を上限として所有者不明土地に使用権を設定できる制度が創設された。制度の利用には厳格な要件を満たす必要があるが、対象となる事業は公園、広場、購買施設など幅広く想定され、営利事業も可能だ。事業の実施主体は、国・地方公共団体をはじめ地域コミュニティや民間企業等も含まれる。例えば、被災地で購買施設が不足している場合に、この制度を使って所有者不明土地に短期間コンビニを開設することも考えられよう。さらに、同法では、所有者不明土地の収用手続きの合理化や、所有者探索にあたって利用できる公的情報の拡大が図られたほか、相続登記が長期間未了である土地について登記官が申請を促す制度なども創設された。

(2)土地基本法の改正

土地政策のもう1つの大きな節目と言えるのが、2020年3月に行われた土地基本法の改正である。1989年(平成元年)にバブル期の地価高騰や投機的な取引の社会問題化を受け制定された同法は、その後の人口減少、空き地・空き家の増加、自然災害の多発といった社会環境の変化の中で、「時代遅れ」な法律となっていた。

そこで、今回の改正では、所有者不明土地の発生抑制や、東日本大震災のような災害の予防・復興など、持続可能な地域の形成を図る観点から、目的規定が大きく見直され(表1)、法全般で土地の適正な「利用」と並んで新たに「管理」の必要性が明示された。そして、適切な利用・管理を促進する観点から、国・地方公共団体の責務規定が見直され、新たに土地所有者の責務として、登記等権利関係の明確化と境界の明確化に努めることが規定された[9]。土地に関する施策の政府全体としての総合的な推進を図るため、「土地基本方針」(閣議決定)を定めることも盛り込まれた[10]。まさに、今後の土地政策の新たな立脚点を定めた、日本の土地制度の画期となる改正といえる[11]

表1 土地基本法の新旧対照表(第一条部分)

(下線は改正部分)

改正後

改正前

(目的)

第一条 この法律は、土地についての基本理念を定め、並びに土地所有者等、国、地方公共団体、事業者及び国民の土地についての基本理念に係る責務を明らかにするとともに、土地に関する施策の基本となる事項を定めることにより、土地が有する効用の十分な発揮、現在及び将来における地域の良好な環境の確保並びに災害予防、災害応急対策、災害復旧及び災害からの復興に資する適正な土地の利用及び管理並びにこれらを促進するための土地の取引の円滑化及び適正な地価の形成に関する施策を総合的に推進し、もって地域の活性化及び安全で持続可能な社会の形成を図り、国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

(目的)

第一条 この法律は、土地についての基本理念を定め、並びに国、地方公共団体、事業者及び国民の土地についての基本理念に係る責務を明らかにするとともに、土地に関する施策の基本となる事項を定めることにより、適正な土地利用の確保を図りつつ正常な需給関係と適正な地価の形成を図るための土地対策を総合的に推進し、 もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に 寄与することを目的とする。

(3)民法・不動産登記法の改正

国による一連の対策のもう1つの大きな山場が、民法・不動産登記法の改正である。所有者不明土地問題の背景には、相続登記や共有制度のあり方など個人の権利義務に関わる多くの法的課題がある。そのため、問題の発生予防や解消には民事基本法制に踏み込んだ根本的な対応が必要となる。そこで、2019年3月より法制審議会民法・不動産登記法部会(部会長:山野目章夫早稲田大学大学院法務研究科教授)にて法改正に向けた審議が行われ、2021年2月に法務大臣へ改正要綱が答申された[12]

要綱では、問題の発生予防のため、相続登記の義務化ともに、登記手続きの簡素化策の導入や、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する制度の創設が盛り込まれた。また、土地利用の円滑化のため、所有者不明土地に管理人を選任し、(現行の人単位の財産全般の管理制度とは別に)個々の土地に特化した管理を行える制度や、共有者の一部が不明でも残りの共有者の同意で共有物の変更行為や管理行為を可能とする制度を創設するとされた。さらに、遺産分割協議を促進するための相続制度の見直しや、電気・ガス等のライフライン設置における相隣関係規定の明確化など、幅広い分野について大幅な見直しが進められた。答申に基づく法律案は3月5日に閣議決定され、今国会での成立が見込まれる。

今後の課題――制度の普及と連携を

以上、本稿では、東日本大震災で表面化した所有者不明土地問題について、当時の状況とその後の政策動向を概観した。これまでの過程を振り返ると、短期間に制度見直しが着実に進んでいることがわかるとともに、今後の課題も浮き彫りになってくる。とりわけ重要なのが、問題の発生予防である。

一連の制度見直しでは、所有者不明土地の円滑な利用を図るため、上述のとおり、所有者不明土地法において、所有者不明土地を一定期間使用できる仕組みや、民法改正案では所有者不明土地の新たな管理制度が盛り込まれている。だが、こうした仕組みの利用には、厳格な手続きや、補償金や予納金などの初期コストが必要であり、それを負担するのは地域住民など土地の適正な利用や管理を求める側である。こうした負担は、本来、土地が適切に管理されていれば発生しなかったものであり、言い換えれば、放置された土地が将来世代にもたらす負の遺産である。

今後、所有者不明土地問題への対応においては、新たな制度を使って土地利用の円滑化を図ると同時に、将来世代にこうした負担をかけないよう、問題の発生を予防していくことが何より重要だ。そのためには、まずは一人ひとりが自分や親族が所有する土地の登記や境界などについて日頃から関心を持つことが第一歩になる。そして、所有者、地域、地方公共団体、国が連携して、土地の適正な利用・管理を実現していけるよう、社会全体で議論を深め、共通認識を醸成していくことが必要だ。それは、人口減少時代における、土地の新たな利用・管理のサイクル(循環)を模索していくことともいえよう。

東日本大震災の復興事業の遅れは、従来の土地制度の課題を大規模に表面化させ、土地政策に大きな転換点をもたらした。今後は、この10年の間に進展した新たな政策の普及を図り、関係者が連携して地道に制度を育てていくことが大切だ。被災地での困難を二度と繰り返さないよう、これからが新たな局面のスタートである[13]

 


[1] 亡くなった被相続人に相続人が複数いた場合、相続財産は共有となる。その後、遺産分割協議が行われないまま相続人が死亡すると、共有の範囲は次の世代に広がり権利関係はさらに複雑になっていく。

[2] 復興庁「住宅再建・復興まちづくりの 加速化のための施策集」2016年7月(https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-15/20160708_sesakusyu.pdf)。

[3] 例えば、安藤は2007年の論文で、「ただでさえ追跡が困難な不在地主問題を絶望的なまでに解決不能な状態に追い込んでいるのが相続未登記であり、これは農地制度の枠内だけではいかんともしがたい問題なのである」と指摘している(安藤光義「農地問題の現局面と今後の焦点」『農林金融』740号、2007年10月、2頁)。

[4] 国土交通省によると、2015年5月に全面施行された空家対策特別措置法にもとづく、行政による所有者不明の空き家の強制撤去(略式代執行)は、2017年3月末時点で全国で34件あった。その後も件数は増え、2020年3月末時点では合計191件に上る(国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について」)。こうしたケースでは撤去費用は所有者から回収できないため、税金で賄うことになる。

[5] 所有者不明土地問題研究会「中間整理(概要)」2017年6月、16頁。

[6] 全国の自治体での問題の実態については当研究所の報告書「土地の『所有者不明化』~自治体アンケートが示す問題の実態~」(2016年)を参照されたい(https://www.tkfd.or.jp/files/product/2015-03.pdf)。

[7] 「所有者を特定することが困難な土地に関して、地域の実情に応じた適切な利用や管理が図られるよう、(略)長期間相続登記が未了の土地の解消を図るための方策等について、関係省庁が一体となって検討を行い、必要となる法案の次期通常国会への提出を目指す。さらに、今後、人口減少に伴い所有者を特定することが困難な土地が増大することも見据えて、登記制度や土地所有権の在り方等の中長期的課題については、関連する審議会等において速やかに検討に着手し、経財政諮問会議に状況を報告するものとする」(「経済財政運営と改革の基本方針2017」37~38頁)。

[8] 例えば、本間は、「実際にわが国の戦後土地政策が全く機能しないできたのは、できるだけこの土地所有権に触れないで済まされる施策のみ重点的に行ってきたからであった」と指摘している(本間義人『土地問題総点検〔増補版〕』有斐閣、1990年、77頁)。

[9] 土地基本法と同時に改正された国土調査法においては、土地の境界や面積等を確定する地籍調査の円滑化・迅速化に向け、調査手続きの見直しや、地域特性に応じた効率的調査手法の導入が規定された。そして、これらを盛り込んだ新たな国土調査事業十箇年計画(2020年度~)が策定された。

[10] 国土交通書土地・建設産業局「『土地基本法等の一部を改正する法律案』を閣議決定」(2020年2月4日)(https://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo02_hh_000149.html)。

[11] こうした改正土地基本法の考えは、後述する民事基本法制の見直しにおいても、その理論的根拠として重要な役割を果たしている。

[12] 「 民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」(2021年2月10日、法制審議会第189回会議、配布資料2)(http://www.moj.go.jp/content/001341542.pdf

[13] この問題に関する各分野の専門家や研究者のこれまでの議論について、当研究所のウェブ論考シリーズ「所有者不明土地問題を考える」を参照されたい。(https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=198

吉原 祥子/Shoko Yoshihara

吉原 祥子

  • 研究員

研究分野・主な関心領域

  • 国土資源
  • 土地制度
  • 地域文化

研究プログラム

所有者不明土地問題に関する政策動向の分析・発信