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日本企業はCSRをどのように捉えているか?―「CSR企業調査」からの示唆―

日本企業はCSRをどのように捉えているか?―「CSR企業調査」からの示唆―

January 31, 2024

C-2023-011

  •  CSRワーキンググループメンバー
    清水剛
1.はじめに
2.「CSR企業調査」から見る日本企業のCSRの捉え方
3.これからの日本企業のCSRの方向性

1.はじめに

なぜ企業には社会的責任がある(と考えられている)のだろうか。あるいは、なぜ企業は例えば環境問題や社会問題に取り組まなくてはいけないのだろうか。ミルトン・フリードマンのように企業の唯一の社会的責任は利益を増大させることだ(Friedman, 1970)、と割り切るのであれば別だが[1]、おそらく多くの人はこの意見には何らかの抵抗を覚えるだろう。そうであれば、企業に社会的責任がある理由をあらためて考えなくてはならない。
この問いに対しては様々な答え方がありうるが、基本的には二つの方向に分けられるだろう。一つは、企業がその社会的責任を果たすことは、企業の利益につながるから、というものである。例えば、環境問題や社会問題は企業にとっての課題であると同時に、新しいビジネスチャンスでもあり、これを解決していくことを通じて企業は利益を上げることができる。近年の「共有価値の創造(CSV)(Porter and Kramer, 2011)は基本的にこのような発想に基づいているが、このような発想そのものは特に米国においてそれ以前から存在していたものである。
もう一つは、企業が社会の中で、存在し、活動することを認められるためには、社会から求められる責任、すなわち社会的責任を果たさなくてはならないから、というものである。社会が企業という存在を認める際の条件として、社会から求められる役割を果たすことが求められる、と言い換えても良いだろう(高・ドナルドソン, 2003)。例えば、近年問題になっているサプライチェーンにおける人権保護の取り組みなどは、少なくとも短期的には利益につながるわけではないが、これらの問題に対応することは社会の中の様々なアクターが企業に要求あるいは期待するものであり、これに応えられないと社会における企業の評価は低下するだろう。こちらは、どちらかと言えば欧州でより多く見られる考え方と言える(例えば寺崎, 2014)
この問いは、言い換えれば企業がCSR[2]というものの本質をどのように捉えているか、ということでもある。すなわち、前者であればCSRは本質的には企業の利益と一致するものであり、一方で後者であればCSRは企業の利益と(少なくとも短期的に)一致するとは限らないが、社会から期待される内容であり、言い換えれば社会的な義務ということになる。
さて、それでは日本企業はこの問いに対して、どのように答えてきたのだろうか?言い換えれば、日本企業はCSRの本質をどのように捉えてきたのだろうか。2000年代ぐらいまでの日本企業について言えば、その答えは必ずしも明確ではなかった(清水, 2010)。すなわち、ある時期には企業の社会的責任の本質を企業の社会的義務、あるいは社会からの期待に求め、ある時期には企業の利益との一致に求め、必ずしも安定しなかった。また、企業の社会的責任に対する取組みそのものも、景気が悪くなるとしばしば弱まってきた。
それでは、2010年代以降の日本企業についてはどうなのだろうか?本稿では、2010年代以降の企業がCSRの本質をどのように捉えていたのかを、過去のCSR白書に掲載された「CSR企業調査」のデータを参照しながら考えてみよう。

2.「CSR企業調査」から見る日本企業のCSRの捉え方

実は、CSR企業調査の質問内容はしばしばアップデートされてきており、いわゆる定点観測的な質問はそこまで多いわけではない。しかし、そのような中で、企業の社会的責任の本質あるいは根拠に関係する質問を探してみると、直接に応えるものではないが1つの質問を見つけることができる。すなわち、2022年度の第9CSR企業調査に含まれている質問として、調査に回答する企業が「重点的に取り組んでいる社会課題」(5つまで)について、 

選択した重点課題の解決のために、貴社ではどのような取組を行っていますか。重点課題ごとに、次の選択肢(社会的課題解決に向けた企業の取組の3分類)から選んでください(複数回答可)。 

a.製品・サービスの提供を通じて
b.事業プロセス、雇用・人事管理を通じて
c.社会貢献活動を通じて
という質問を見つけることができる(2022年度の第9回調査であれば質問II(3))[3]

この質問には企業の取組みの分類についての説明がついており、

「社会的課題解決に向けた企業の取組」の3分類について
本調査では、CSR活動を「社会課題解決に向けた企業の取組」と捉えた上で、社会的課題解決に向けた企業の取組内容を以下の3つのカテゴリーに分類しています。

a.製品・サービスの提供を通じて:社会課題解決に直接的に寄与する製品・サービスの提供を通じた社会的課題解決
b.事業プロセス、雇用・人事管理を通じて:研究開発、調達、製造、物流、販売等の事業プロセスや、雇用・人事管理を通じた社会的課題解決(自社だけでなく、サプライヤーやベンダー等取引先の課題解決を含む)
c.社会貢献活動を通じて:金銭や物品の寄付、無償提供、社員のボランティア参加などといった社会貢献(社会支援)活動を通じた社会的課題解決

としている。ここから明らかなように、この質問はCSRに関する企業の実際の取組みを聞くものであり、企業がCSRの本質をどのように捉えているかという問いに直接答えるものではない。しかし、この中でc.の社会貢献活動を通じた課題解決は短期的な利益と一致しないことが明らかであり、その意味で社会的な義務としてのCSR(あるいはフィランソロピー)の側面が強い。また、b.の事業プロセス、雇用・人事管理を通じた課題解決も社会的義務としての側面が相対的には強いが、これは例えば人事管理の適正化のような形で利益につながる部分もある。一方で、a.の製品・サービスの提供を通じた課題解決は製品を提供することで社会的価値を創造するとともに経済的価値も創造するものであり、企業の利益と一致するものとしてのCSR(あるいはCSV)の側面が強い。
ゆえに、この質問を使って重要な社会課題に対する企業の取組みの方向性を見ることで、企業がCSRの本質をどのように捉えているかもある程度分かるだろう。
この質問は2017年度の第5回調査から入ったものであり、その前のデータとは比較ができない。しかし、2013年度の第1回調査では、9つの社会課題(「人権の尊重」「貧困と飢餓の撲滅」「乳幼児死亡率の削減・妊産婦の健康改善」「児童の貧困解消」「女性の地位向上」「HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止」「環境の持続可能性確保」「地域の風土・文化の尊重」「その他」)のそれぞれについて、「貴社のCSR活動は、貴社の事業とどんな関連性を持っていますか」という質問があり(質問IV(8))、それぞれについて

a.自社が生産・提供する製品・サービスが利用されている
b.自社の事業活動(例えば、生産、販売、営業、雇用)のプロセスにおいて実践されている
c.自社の製品・サービスおよび事業活動とは関連を持たないが、事業活動において得た利益を用いている
d.その他

という選択肢が用意されている。ここで「CSR活動」とは「社会課題解決のための実践」とされているため、取組みという言葉と大体同じ意味で使われている。すなわち、重点的に取り組んでいる社会課題と全ての社会課題という違いはあるものの、上で紹介した第5回調査以降の企業の取組みに関する質問とかなり近い質問となっている。また、同じ第1回調査では、「優れた成果を発揮している」社会課題解決の取組みについて、「上記の取組みは、貴社の事業とどのような関連性を持っていますか」という質問があり(質問II(5))、これは優れた成果を発揮している取組みに限定しているものの、これも同様に上記の第5回調査以降の質問と近い質問になっている。そこで、これらの質問に対する答えと第5回調査以降の企業の取組みに関する質問への答えを比較しながら、日本企業がCSRをどのように捉えていたかを考えてみよう[4]

 

図1 社会課題に向けた企業の取組み (2017-2022)あるいは事業との関連性(2013) 

 

図1は2017年度の第5回調査以降の上記質問に対する回答、および2013年度の第1回調査における、全ての社会課題に対する事業との関連性に対する回答を示している[5]。第1回調査と第5回調査以降では取組みの範囲が異なることに注意しながらこれを見てみると、まず社会貢献活動を通じた課題解決については驚くほどに答えが安定していることが分かる。この間、2012年から18年までが景気の上昇局面、その後2020年までが景気の後退期となるが、そのような景気変動や、COVID-19の流行のような大きな課題に直面したにもかかわらず、この答えが安定していることは、社会的義務としてのCSRが一定程度根付いていることを示唆している。
この点は、事業プロセスを通じた課題解決の変動からも示唆される。こちらの方は2013年から比べて2017年が微増になっており(61%65%)、これは対象となる社会課題の範囲が異なることによるものかもしれないが、2017年から2022年でもさらに増加し(65%69%)、全体として安定的に増加している。この点からも、社会的義務としてのCSRが確立しつつあると言える。
一方で、企業の利益との一致としてのCSRあるいはCSVについてはどうだろうか。 2013年と2017年以降で最も異なるのがこの点である。すなわち、2013年では社会課題への取組みにおいて「自社が生産・提供する製品・サービスが利用されている」としていたのは29%に過ぎないのに対して、2017年以降の重点的な取組みにおいては2017年で64%2022年には70%となっている。すなわち、2013年の段階では、少なくとも全ての社会課題と自社の製品・サービスとの関連性はそこまで強くなかったが、2017年以降の重点的な取組みにおいては製品・サービスを通じた課題解決が拡がっており、この意味でCSV的な取組みが広まった、あるいは強化されてきたとは言えるだろう。
ただし、ここで興味深いのが2013年の第1回調査における「優れた成果を発揮している」社会課題への取組みと事業との関連性である。ここでは、自社の製品・サービスの利用が78%、事業プロセスにおける実践が80%、利益の利用が33%となっており、自社の利益を使った社会貢献については安定的であるものの、とりわけ製品・サービスとの関連性では2013年における全ての社会課題に対する回答(29%)だけでなく、2017年以降の重点的な取り組みにおける製品・サービスを通じた課題解決(65-70%)を上回っている。
すなわち、2013年時点でも成果を上げているCSR活動については自社の事業やサービスを通じたものであり、そのような取組みの有用性が理解され、広まっていった結果として、2017年以降の重点課題に対する「製品・サービスを通じた社会課題解決」の拡大につながったと解釈できる。
ここから、最初の問いである日本企業がCSRの本質をどのように捉えているか、という問題に戻ると、CSR調査の結果から考える限り、2010年代以降、日本企業は社会的な義務としてのCSRを受容する一方で、そのようなCSRを社会的義務として捉えるだけではなく、製品・サービスの提供を通じて共有価値を創造していくものとして捉えるようになってきていると思われる。既に2013年の時点で成功している取組みについては製品・サービスとの関連性が強かったが、とりわけ近年においては重点的な取組みにおいて製品・サービスを通じた課題解決が多くを占めるようになっている点はこのことを示している。
このような解釈は、CSR白書における企業調査の分析や個々の論考の内容の動向とも整合的である。例えば、第1回企業調査の結果の分析を含む「CSR白書2014」において、亀井は次のように記している(亀井, 2014)。「本書で紹介する『CSR企業調査』の分析では、多くの企業が『社会課題解決への貢献』と『事業活動への貢献』を両立していくこと、つまり両者の『統合』を目指すという理念を持ちながら、個別の活動に落とし込んでみると、それがなかなか実現できていないことがわかった。」そして、「CSR白書2014」における企業事例では、いかにこの統合を進めるか、すなわち、いかに社会課題を同定し、自社の強みを活かしてそこに貢献していくか、そしてそれをどうビジネスに結び付けていくかということを各社の立場から論じている。
ところが、最新の「CSR白書2022」の企業事例では、住友金属鉱山㈱における資源循環やカーボンニュートラルの取組みは同社のまさに本業に組み込まれており、㈱富士通ゼネラルの取り組みを見ても、自社のカーボンニュートラルの取組みは単なる社会的義務ではなく、そのような取組みが同社の主要製品の一つであるエアコンの販売戦略に組み込まれていることが述べられている。さらに、中小企業である石井造園㈱の取組みのキーワード「ついでに、無理なく、達成感」は、まさに本業の中にCSRを組み込み、環境への取組みが事業と結び付いていることを示している。また実際同社の事例では、カーボンオフセット付工事の提案という形で同社の事業にCSRが組み込まれている。
もちろん、この企業事例はランダムに選ばれたものではないため、ここで取り上げられた事例の傾向が全体の傾向を反映していると断言することはできない。しかし、2013年の企業事例と2022年の企業事例を比較すると、「本業への組み込み」がより自然に行われるようになったことを見て取ることはできるだろう。事業・サービスを通じた社会問題解決の拡大により、事業の中で自然にCSRが行われ、経済的価値と社会的価値が同時に生み出されるという動きが見えてきている。

3.これからの日本企業のCSRの方向性

さて、最後に日本企業のCSRの今後の方向性について少し考えてみよう。社会的義務としてのCSRを踏まえつつ、それをCSVにも拡大していこうとしている日本企業にとって、次に来る課題は社会的義務としてのCSR、すなわちフィランソロピーのような社会貢献の部分や事業プロセスにおける社会的責任(狭義のCSR)をいかにビジネスと結び付けるか、ということになろう。この意味では、一つの重要な方向性として、いわゆる戦略的フィランソロピー(e.g., Porter and Kramer, 2002)のようなアプローチ、あるいは具体的な取組みとしてのデジタル・フィランソロピー(金田, 2021)のようなものが考えられる[6]
ただし、フィランソロピーにせよ狭義のCSRにせよ、必ずしも企業の事業に組み込まれ、あるいは利益につながるものばかりではない。そのような意味での伝統的なフィランソロピーやCSR、言い換えれば上記に述べたような意味での社会的義務としての(広い意味での)CSRはやはり必要であろう。社会的義務としてのCSRをベースにしつつ、企業のCSR活動全体を企業の事業に組み込んでいく、言い換えればCSRを本業化することが今後の日本企業のあるべき姿なのではないかと考えている。



執筆者:清水 剛(しみず・たかし)
CSRワーキンググループメンバー、主席研究員
東京大学 大学院総合文化研究科 国際社会科学専攻 教授

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参考文献
伊藤公二 (2023) 「『CSR企業調査アンケート』から読み解くCSR活動の現在地」東京財団政策研究所 CSR研究プロジェクト10周年記念連載企画.  https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4357.
岩井克人 (2020) 「会社の新しい形を求めて――なぜミルトン・フリードマンは会社についてすべて間違えたのか」『一橋ビジネスレビュー』68(3), 8-28.
岩井克人(2023) CSRと私の会社論研究」東京財団政策研究所 CSR研究プロジェクト10周年連載企画. https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4321.
亀井善太郎 (2014) 「統合を目指すCSR ――その現状と課題」東京財団CSR研究プロジェクト編『CSR白書2014 統合を目指すCSR その現状と課題』公益財団法人東京財団, 8-32.
金田晃一 (2021) SDGsループとデジタル・フィランソロピー」東京財団政策研究所CSR研究プロジェクト編『CSR白書2021 大規模な社会変動と企業の対応~アフターコロナを見据えて~』公益財団法人東京財団政策研究所, 132-143. https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3891
倉持― (2023) CSRを巡る議論はこの10年間でどう変化してきたのか」東京財団政策研究所 CSR研究プロジェクト10周年連載企画. https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4308.
高巌・T. ドナルドソン(2003)『ビジネス・エシックス[新版] 企業の社会的責任と倫理法令遵守マネジメント・システム』文眞堂.
寺﨑直通 (2014) 「企業価値創造につながるサステナビリティ情報開示」東京財団CSR研究プロジェクト編『CSR白書2014 統合を目指すCSR その現状と課題』公益財団法人東京財団, 212-226.
Friedman, Milton (1970) “The Social Responsibility of Business Is to Increase Its Profits.” New York Times Magazine, Sep. 13.
Porter, Michael E., Mark R. and Kramer (2002) “The Competitive Advantage of Corporate Philanthropy,” Harvard Business Review, 80(12), 56-68.
Porter, Michael E., Mark R. and Kramer (2011) “Creating shared value: How to reinvent capitalism—and unleash a wave of innovation and growth,” Harvard Business Review, 89(1/2), 62-77.


[1] ただし、記事の本文中では、フリードマンは(企業ではなく)経営者の責任は、企業の所有者である株主の意向に従い、社会の基本的なルールに従ったうえで利益をできるだけ大きくすること、であるという形で述べている。このフリードマンの考え方の妥当性については例えば岩井 (2020; 2023) を参照。
[2] 本稿では、CSRという言葉を広い意味で、すなわちCSVやメセナ、フィランソロピーなどを含めて、企業が環境や社会、あるいは様々なステイクホルダーにかかわる社会課題の解決に向けて取り組むことを意味するものとして使用する。CSVやメセナ、フィランソロピーなどを除き、企業がステイクホルダーや環境・社会に配慮し、責任ある行動を取ることを意味する場合には狭義のCSRと呼ぶことにする。この点についてはなお倉持(2023)も参照。
[3] この質問については伊藤 (2023) でも取り上げられている。
[4] なお、第2回、第3回調査には類似する質問があるがCSR白書ではこの質問に対する集計結果等は示されておらず、第4回調査にはそもそも近い質問が存在しないため、本稿ではこれらの調査のデータは利用しない。
[5]CSR白書2014」では社会課題ごとの集計結果しかなかったため、筆者が再集計を行った。
[6] この点は、同じワーキンググループのメンバーである金田晃一氏からの示唆による。記して謝意を表したい。

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