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【論考】海外の地域メディア施策最新動向~イギリス「地域メディア行動計画」~ 
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【論考】海外の地域メディア施策最新動向~イギリス「地域メディア行動計画」~ 

May 1, 2026

はじめに
①イギリスの地域メディア施策と「The Local Media Action Plan」の位置づけ
②イギリスにおける地域メディアの現状
③行動計画の3つの政策目標と具体的施策
おわりに

はじめに

人口減少社会における地域メディアの機能のあり方[1]」研究プロジェクトでは、現在、イギリス、フランス、ドイツ、韓国を中心に、海外の地域メディア施策の最新動向について調査中である。各国の施策を理解し、国内にどのように応用できるのか検討することを目的としている。

いずれの国においても、伝統メディアである新聞・放送業界が抱える課題は共通している。デジタルプラットフォームや大手配信サービスなどの市場支配力の拡大、メディア接触の多様化によるユーザー離れ、新聞・放送業界自身のデジタル化への対応の遅れによる競争力の低下、そして、特に拠点が都市部でない場合には、人口減少による経営環境の悪化も加わる。以上の“四重苦”に直面し、既存の地域メディアは、廃業に追い込まれたり、厳しい経営状況に直面したりしている。それに伴って、地域住民が信頼できる情報、特に、政治や行政情報などにアクセスできない状態に陥る、“地域情報の空白地”が増えている。その現象を表す「ニュース砂漠」という言葉も、世界的に使われるようになっている[2]

一方で、インターネット(以下、ネット)上には、スタートアップ企業や個人などによる新興の地域メディアや地域サイトも次々と登場している。これまでのように国による免許や大きな組織は必要でなくなり、誰でも身軽に手軽にメディアを始められるようになったためだ。その中には、デジタルテクノロジーを活用した新たな報道のかたちや、合意形成のためのコミュニティ作りを目指すものもある。一方で、取材機能を有していなかったり、倫理規定や綱領が不在だったりと、扱う情報の真正性やコンテンツの権利の取り扱いなどに懸念があるものもある。生成AIの活用で、地域メディアや地域サイトを巧妙に装うものも出現している。

伝統メディアの弱体化、中でも地域ジャーナリズムの空洞化(ニュース砂漠化)によって確かな情報が流通する仕組みが崩壊し、偽・誤情報の増加、対立や分断の深まり、地域の自治力の低下が起きているのではないか。冒頭に記載した国々では、政府や行政がこうした強い危機意識を抱いて、何らかの地域メディア施策が実行されている。もちろん、政府や行政から直接的な支援を受けることによって報道内容や編集権に影響が及ぶおそれがあるのではないか、支援の対象は伝統メディアのみでいいのか、支援の要件をどのように設定するのか、などの議論はある。

国内はどうか。既存の地域メディアが置かれている状況は、海外と同様、“四重苦”の只中にある。総務省の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会[3]」では、「放送の価値は、情報空間全体におけるインフォメーション・ヘルスの確保の点で、むしろこのデジタル時代においてこそ、その役割に対する期待が増している[4]」との問題意識で、地上テレビ局が取り組む配信サービスをネット上(コネクテッドテレビ上)に優先表示(プロミネンス)させる方法が検討されたり、地域メディアである民放ローカル局のインフラ維持に受信料財源を活用するなどの経営基盤の強化施策が打ち出されたりしてきた。また、2026年4月23日には、官民連携による実写コンテンツの製作力強化と海外展開の促進のための「実写コンテンツ展開力強化アクションプラン[5]」が打ち出され、地域コンテンツ製作力・発信力の強化が柱の1つとなっている。NHK受信料の還元目的積立金100億円を活用した基金も作られる予定だ。

ただ、日本は欧州のように、メディア全体のあり方を包括的に検討する官庁が不在である。総務省の検討会は、放送とそれに関連する領域の議論にとどまっており、地域メディア施策も俯瞰的な視点では検討されていない。また、世界の主要国では、政治的中立の確保や競争上の公平性の観点から、通信・放送分野の規制を独立規制監督機関が担っているが、日本の場合は内閣の一員である総務大臣が担当・管理し、総務省が担っている。そうしたことも一因しているのだろうか、放送行政の議論の場では、以前から、放送内容、特にニュース・ジャーナリズムに関する論点や施策は、真正面から論じにくい雰囲気がある[6]

以上のように、海外と日本では、メディアを巡る制度も議論の進め方も異なる点が多い。そのため、海外の施策をそのまま輸入しようとしても、どうしても無理が生じてしまう。とはいえ、俯瞰的な地域メディアに関する議論や、ニュース・ジャーナリズム機能を維持するための議論は国内ではできないと諦めてしまうのも早計である。海外の優れた施策やそこにつながる学ぶべき議論を、日本にあった方法で、実効性を持つ形でどう生かしていけるかが問われているのである。

海外の地域メディア施策はめまぐるしく動いている。そのため、Reviewでは随時、各国の最新動向を報告していきたい。本稿では、2026年3月17日にイギリスの文化・メディア・スポーツ省(以下、DCMS)が公表した、「The Local Media Action Plan<地域メディア行動計画>(以下、行動計画)[7]」を取り上げる。地域メディアのデジタル・イノベーションやコミュニティラジオ、「ニュース砂漠」の対応に最大1,200万ポンド(日本円で26億円弱)の資金を支援するというこの計画を、DCMSは“一世代ぶり(20~30年ぶり)[8]”の地域メディア施策だと謳っている。どのような内容なのだろうか。イギリスのこれまでの地域メディア施策も振り返りながら紹介していく。

イギリスの地域メディア施策と「The Local Media Action Plan」の位置づけ

DCMSが公表した行動計画の政策文書(図表1)[9]は、Lisa Nandy大臣による序文から始まっている。

(図表1)「The Local Media Action Plan

「地域メディアは民主主義の『生命線』であり、人々の生活に直結する意思決定に必要な情報を提供し、権力に説明責任を負わせ、地域社会の声を与える存在である。視聴者がオンラインに移行するにつれ、地域ジャーナリズムの収益基盤が揺らぎ、地方紙の閉鎖、大規模な人員削減など『ニュース砂漠』が生まれ、偽・誤情報の拡散が増加している。地域ジャーナリズムが衰退すると、信頼も低下する。説明責任は弱まり、イギリス中の声が封じ込められてしまうおそれがある。

しかし、政府はこれを放置しない。この計画は問題を一気に解決するものではないが、地域ジャーナリズムの持続可能性へ向け、人々の生活にとって最も重要な問題に光を当て、国民的な議論を豊かにし、地域社会と社会的な結束を強化し、社会的な信頼を再構築し、地域経済の成長を支援する、活気ある地域メディアを維持するための道筋を示す、前例のない本格的な取り組みを定めたものである。これは力強く、多様性に富み、地域に根ざしたメディアが重要であるという私たちの信念に基づいている。

我が国は、あらゆる地域、あらゆる人々の多様な声、視点、経験によって豊かになっており、そうした声は必ず届くだろう」

文面からは、政府が地域ジャーナリズムの維持・発展に積極的に関与していくという強い意思が表れている。イギリスでは、この行動計画を公表する10年前以上前から、地域メディアへの公的な支援施策が実施、検討されてきた。行動計画と関係の深い2つの取り組みを紹介する。

1つ目は、公共放送BBCの受信許可料財源を活用した、「LOCAL NEWS PARTNERSHIP(以下、LNP)[10]」である。地方紙の経営状況の厳しさを何とかしたいというBBCの発意で[11]、2018年、BBCと地域ニュースメディアの大部分が所属する業界団体「NMA(the News Media Association)[12]」が合意し、スタートした。LNPは、⑴「DEMOCRACY REPORTING SERVICE(以下、LDRS)」(BBCによる出資で地域メディアが記者を雇用)、⑵「NEWS HUB」(BBCのニュース動画を地域メディアに共有)、⑶「THE SHARED DATA UNIT」(データジャーナリズムの共有とトレーニング)の3本柱で成り立っている(図表2)[13]

(図表2)「LOCAL NEWS PARTNERSHIP」の3つの柱

 

ここでは、直接的な民間の地域メディア支援にあたる⑶のLDRSの概要と最新状況を記載する。LDRSとは、BBCの受信許可料の財源を活用して、各地の地域メディア組織(regional news organizations)が「地域民主主義記者(以下、民主主義記者)」を雇用するものである。民主主義記者は自治体や公共サービス機関の意思決定を継続的に取材し、その記事は多数の報道機関によって共有される仕組みになっている。BBCから出資を受ける地域メディア組織は、厳しい審査の上で決定される。対象には、放送局、新聞社、そしてネットメディアも含まれる。現在、全国で15の地域メディア組織が契約を結び[14]、毎年最大で総額800万ポンド(約17億円)が拠出されている。

LDRSを開始した2018年から2025年8月までに、民主主義記者165人が雇用され、50万件を超える記事・コンテンツが提供されている。記事やコンテンツは、BBCを始め230 以上のパートナーメディアの1,100以上の地域ニュース媒体で活用されている[15]。編集基準は統一されており、共通のオンライン・プラットフォームを使って共有されるのが特徴だ。この取り組みは、BBCの現在の特許状[16]の期限である2027年12月末までとなっている。LDRSの成果と課題については別途、詳細を報告したい。

もう1つは、2019年2月にDCMSが公表した「ケアンクロス・レビュー(Cairncross Review)[17]」である。これは、ジャーナリストで経済学者でもあるDame Frances Cairncross氏が、当時のメイ首相から、質の⾼いジャーナリズムの持続可能性についての評価(review)を依頼され、メディア関係者や研究者などへのヒアリングや調査を行った上でまとめた提言書である。そこでは、「公益性の高いニュースや報道の減少は民主主義に深刻な影響を与えるとし、特に調査報道とキャンペーン報道はコストとリスクが大きく、地方の行政・司法のニュースは読者の規模や市場が小さく収益が見込めないことから、公的支援の対象になる[18]」とされた。こうした地域メディアに対する直接的な財政支援の必要性に加えて、新聞社とデジタルプラットフォームの均衡を回復する新たな⾏動規範を作成するといった環境整備や、BBCに対し、前述したLNPだけでなくテクノロジー分野での貢献(デジタルの専⾨性を地域紙のために⽣かす)の要請などが提言された[19]

DCMSでは、以上のようなLNPの成果やケアンクロス・レビューの結論、その後の多数の議会調査などを踏まえて、今回の行動計画を策定したとしている。

イギリスにおける地域メディアの現状

行動計画には、施策の前提として地域メディアの現状が述べられている。主な内容を挙げておく。

放送から見ていこう。まずローカルラジオである。イギリスでは、1995年に開始したデジタルラジオが浸透し、地域に密着したラジオ局が増大している。中でも2004年に制度化されたコミュニティラジオは急成長をとげており、加えて、低コストで放送を行うことを可能にする小規模デジタルラジオ規格によって、今後3年間で更に局数が増加する見込みである[20]。コミュニティラジオへの財政支援の強化や開局の促進は、今回の行動計画の1つの柱となっている。ただ、ローカルラジオ全体で見ると、広告収入は2019年から35%減となっている。

次に、ローカルテレビである。BBCは、イギリスで最も利用されている地域ニュースソースとなっているが、次に利用されているのは、BBC以外の公共サービス放送(Public Service Broadcaster=PSB[21])の地域ニュースである(ITV、STV、S4C)。ただし、BBCの受信許可料は2014年比で28%減、PSBの広告収入は2014年比で39%減と経営状況は厳しい。このことは各局のローカル放送の内容にも影響している。また、2013年~2017年に相次いで商業ローカルテレビが開局したが、いずれも視聴率・広告収入の確保に苦しんでいる。

(図表3)イギリスの絶対的ニュース砂漠地域

続いて新聞である。2005年~2025年までに、少なくとも業界の3分の1にあたる293紙の地方紙が廃刊している。地方紙の市場の6割を占める3大地域ニュース出版社が雇用するジャーナリスト数は、2007年〜2022年の間に約9,000人から約3,000人に激減している。地域の新聞・テレビ・ラジオ、そしてネットメディアが皆無である自治体が27、広域では何らかの地域メディアがカバーしているものの、当該地域専門のメディアはない自治体が10あり、最大440万人が「ニュース砂漠」に置かれていると報告されている(図表3)[22]。 

こうした中、地域ニュースに関心を持つイギリス市民のうち、自分のニーズが満たされていると感じる人は60%未満にとどまるという調査結果がある。

一方で、地域ニュースのオンライン視聴は拡大しており、2025年11月の調査結果によると、イギリスでは3,950万人が地域ニュースをオンラインで視聴している。これは成人のネット利用者の75%に相当するという。

行動計画の3つの政策目標と具体的施策

ここからは、今回の行動計画で示された施策をみていく。行動計画は、1)デジタル移行と経営の持続可能性の確保、2)長期的な視聴者・ユーザーとの関係性の構築、3)公共の利益のためのニュース取材の確保という3つの政策目標とその具体的な施策について示されている。文書は136のパラグラフからなるボリュームのある内容となっているので、筆者なりにポイントを整理した。

1)デジタル移行と経営の持続可能性の確保

地域メディア業界がイノベーションを進め、デジタル化を通じて持続可能なビジネスモデルへ移行できるよう、短期~中期に支援する。

「地域ニュース基金」の立ち上げ(年間600万ポンド(約13億円)×2年間)

<デジタル化の支援>
持続可能なデジタル・イノベーションに必要なツールやソフトウェア(オンライン広告・収益拡大のためのアドテクツール、ウェブサイトの改善、AIを活用した業務効率化、広告取引や記事の共有プラットフォームの開発など)の投資に活用。競争入札によって地域メディアに配分する。

<ニュース砂漠の解消>
基金のうち100万ポンド(約2億円)を使い、地域ニュースの不平等の解消と多様性の確保を目指す。初年度に適切な候補地域を特定し、地域のステークホルダーとともに選択肢を検討。例えば、現在休刊中の媒体の再生や、近隣の地域ニュース媒体に当該地域への拡張を促す、あるいは新たなコミュニティ所有型の媒体の立ち上げの支援などを行う。

<基金の独立性>
資金配分の決定は多様な業界専門家による運営委員会が行うことで、政府と一定の独立性を担保する。

地域メディアを政府の広告・広報キャンペーンに最大限に活用

<政府のこれまでの実績>
政府は公共コミュニケーションキャンペーンとして、地域メディアに年間約400万ポンドを出稿中。

成功事例としては、洪水リスクのある地域の地方紙での啓発を行い、洪水警報入手手段の登録者数が7%増加した事例や、労働年金省が低所得者への年金給付の利用促進のため、高齢者層を対象に地方紙やローカルテレビを利用した結果、制度利用が向上した事例などがある。

<政府の今後の行動計画>
*信頼できるジャーナリズムを維持するには、広告が果たす役割は重要。政府は広告主に模範を示すため、政府職員向けに、有料広告キャンペーンにおける地域メディアの価値を示す研修を導入する。

*小規模な地域メディアやラジオは、聴取率や利用率の測定リソースが不足。効果検証ができないことが、大手広告会社が地方メディアを利用しない主な理由となっている。小規模な地域メディアと協力して、共通の測定インフラと基準を開発し、政府広告市場で競争力を高めるよう支援する。

コミュニティラジオへの財政支援(年間100万ポンド(約2億円)×4か年・2026年~2029年)

<コミュニティラジオの現状>
*現在イギリスでは、Ofcom[23]が認可した約400のコミュニティラジオ局が運営されている。

コミュニティラジオは免許の要件として、特定の地理的領域や関心領域に対し、特定の社会的利益をもたらすこと、運営は非営利であることが定められ、ボランティア(有償・無償)ベースで運営されている[24]

*多様な局、多様な番組が存在することで、信頼できる地域ニュースの提供、広域の地域メディアでは十分に届かない人へのリーチ、高齢者や排除されている人々への寄り添い、地域の芸術と文化の推進、重要な社会問題への取り組み、人とのつながりを生み出す能力があると評価されている[25]

<財政支援の現状と今後>
*政府は2010年から「コミュニティラジオ基金[26]」を通じ、希望する局に対して、審査の上、局の運営管理、事務業務、財務管理、地域コミュニティとの連携活動、ボランティアの組織化を支援中。

*2024年〜2025年度は45万ポンド(26局対象)だった基金を、2026年〜2029年度は年100万ポンドに倍増。サービスが届いていない地域に対しても、コミュニティラジオの展開を促進する。

2)長期的な視聴者・ユーザーとの関係性の構築

人々がオンライン上で情報・コンテンツに接触する変化に対して、地域メディア業界が適応し、若い世代にリーチできるよう支援。大手テック企業やBBCなどと協力して対策を取ることも支援する。

若者へのリーチの強化

<「Inspire the Future」キャンペーン>
地域メディアと学校をつなぎ、若者が地域メディアでのキャリアを目指すように促す。また、オンライン上のニュースリテラシーや、社会におけるジャーナリズムの役割を理解するための教育も提供する。まずはイングランド北西部で開始。同地域で最大220人のボランティアの確保、約1万人の若者へのリーチが目標。成功し資金が確保できれば、全国展開を目指す。

<ニュースアーカイブサイトの公立学校での利用促進>
あらゆる背景を持つ若者がジャーナリズムにアクセスできるようにする。具体的には、イギリス国内の全ての公立小中学校に対して、地方紙のライセンスを受けて運営されている過去のニュースを閲覧できるアーカイブサイト「Newspapers-for-schools [27]」へのアクセスを促す。現時点での利用は150校、登録は830校(全てで25,000校超)。文化大臣と教育大臣が全学校に活用を促す書簡を送付する。

デジタル規制

<「デジタル市場・競争・消費者法(DMCC法)[28]」(2024年成立)関連>
DMCC法によって、競争市場庁(CMA)は、デジタル市場で大きな支配力を持つプラットフォームを「戦略的市場地位(SMS)」に指定し、消費者や企業への対応に関する個別ルールへの準拠を求められるようになった。2025年10月にはSMSにGoogleが指定され、現在協議中。この制度によって、プラットフォームとローカルニュース会社との関係におけるバランスの再調整(プラットフォームに対して、アルゴリズムの透明性やユーザーデータへのアクセスなどを求めるなど)を目指す。

<「Online Safety Act[29]」(2023年成立)関連>
SNS企業や検索サービスに対して、違法コンテンツや子どもに有害なコンテンツからユーザーを守る法的義務を課すのがこの法律の主目的だが、ニュースとジャーナリズムについては、オンライン上で特別に保護する仕組みを実行することで、地域メディアのコンテンツ流通の確保を図る。プラットフォームが利用規定の違反などによってニュース媒体の原稿を削除したり編集したりすることを防ぐ、暫定的なマストキャリー(must carry)規定を、Ofcomは2027年までに実施する予定。

<「Media Act[30]」(2024年改正)関連>
*法改正によって、PSBが行う映像配信サービスがコネクテッドテレビ上で優先表示される措置と、イギリスで免許を持つ全てのラジオ局(コミュニティラジオも含む)が、主なスマートスピーカーで無料配信が行われ、広告などの差し込みを禁じる措置が定められた。

*その後、Ofcomは公共サービスメディア(PSM)[31]に関する報告書[32]で、ユーザーがネット上のプラットフォームで膨大なコンテンツに接する中、Media Actだけでは PSMの将来を保証できないとしている。政府は今後、ソーシャルメディアプラットフォーム上などでも、地域ニュースの注目度を上げる取り組みをより広く探求したいと考える。まず、信頼できるニュース(地域・全国共に)をオンライン上でより目立たせるための自主的な選択肢を業界が検討することを支援する。

<生成AI関連>
AIが生成するニュース要約という新たな課題に対して、地域ニュース媒体が適応できるように支援する。AI 開発者と地域ニュース媒体を含む権利者の間で健全なエコシステムを構築する取り組みを後押しするとともに、業界と協力して適切な透明性を確保する。

ローカルメディアのエコシステムにおけるBBCの役割

<BBCのオンラインシフトとその課題>
BBCは、全ての地域の多様なコミュニティを反映し、代表し、奉仕するという広範な義務を果たすために利用可能なあらゆるデジタルプラットフォームを活用する必要があると主張している。オンラインローカルニュースにおけるシェアも、2022年の26%から2024年初頭の38%へと拡大中。しかし、こうしたBBCの動きと、地域の商業メディアの目的や課題が一致しない(ビジネスを脅かす)リスクが存在している[33]

<次期特許状(2028年1月~)に向けて>
*政府はBBCに対して、質の高いローカルメディアとのパートナーシップ戦略の策定の義務付けや、ローカルラジオサービスにおけるニュース・音声コンテンツの量に関する具体的要件の設定、BBCのローカルメディア市場への過剰な影響を防止するための規制強化などを検討中。

*LDRSについては、今後も全ての人に地域ジャーナリズムを提供し続けるための施策とするため、サービスに必要な改革や改善点を特定していく。

)公共の利益のためのニュース取材の確保

ジャーナリストが地域の公共サービスやその他の機関を監視し、調査報道を行い、いかなる圧力にも屈することなく報道できるようにする。

地域ジャーナリズムの役割

<役割の再確認>
地方自治体を監視する伝統的な監視役を果たし、意思決定の透明性と説明責任を高め、公共の信頼と理解を高め、サービス提供の効率化とコスト削減を促進し、腐敗を暴露し、市民参加と社会的結束を促進するのが地域ジャーナリズムの役割である。これは、他の地域ニュースや地域情報と区別して位置付ける必要がある。

<役割に関するエビデンス>
地域ジャーナリズムが地域の民主主義や自治にどう貢献しているのかという実証調査は少ないが、地域ニュースへのアクセスと民主的参加の強い関連、具体的には地域ニュースの提供の増加と地方選挙の投票率の向上とに相関が明らかとなった[34]。更なる定量、定性調査も実施し、2026年4月に公表[35]

自治体・公共サービスとの課題と改善施策

<自治体などとの関係性の悪化>
近年、地方自治体や公共サービスの広報・コミュニケーションチーム自らがソーシャルメディアなどで発信するオウンドメディア化が加速。地域ジャーナリズムが衰退する中、地域ニュース企業と自治体の間で力関係に変化が見られ、関係性の悪化による取材の難航などの課題が散見される。

<関係性の枠組みの構築へ>
西イングランド広域自治体と連携して「地域メディアフォーラム」を開催予定。地域ジャーナリストと公共サービスとの関係性について、地域住民なども巻き込んで議論し、ベストプラクティスを検討、この議論をきっかけに枠組みを構築して全国展開を目指す。

地域ジャーナリストの安全性確保

<直面する課題>
ジャーナリストの身体的またはオンラインでの虐待や嫌がらせの課題は深刻であり、中でも、不正行為を暴露する記事の追及を抑止するためのスラップ訴訟[36]による脅迫は、地域メディア企業にとって経済的・心理的にも大きな負担になっている。

<実態調査の実施>
今後、地域ジャーナリストに対する具体的なリスクや影響について調査し、その結果は2026年に公開する予定。ジャーナリストの安全のための国家行動計画の刷新に活用し、地域ジャーナリスト支援にも重点を置いて取り組んでいく。

おわりに

冒頭にも述べたように、イギリスと日本ではメディアを巡る制度も議論の進め方も異なる点が多いため、今回の地域メディア行動計画が、国内の施策にそのまま生かされることは難しいだろう。しかし、今回、行動計画を読み込んで改めて感じたのは、地域の民主主義や自治に資する実効性のある地域メディア機能維持の施策を考えるには、メディア横断的な俯瞰的視点が不可欠だということである。引き続き、筆者の研究ではその視点を心がけていきたい。

また、財政支援や対プラットフォーム施策などの政策を実行するための根拠として、既存メディアによる存在意義のアピールと支援策の要望ではなく、社会における実績を、政府自身が力を入れて委託事業などを通じて収集していることが強く印象に残った。地域メディアは、地域にどのように価値・効果、もしくは公共的利益をもたらしているのか、それを市民、社会が納得する方法でわかりやすくエビデンスとして示していく努力を、イギリスではメディア研究者や調査・コンサルタント会社、そして業界自身が行っていた。多面的な視点での客観的なデータがあるからこそ、具体的な行動計画を策定することができるのだと感じた。国内においても、既存メディア業界自身が、自らの存在意義を裏付けるエビデンスを収集する必要性を強く感じるとともに、本研究でもこうした調査手法は大いに参考になった。

個別のテーマについては、今後、本プロジェクトとしてまとめていく報告や政策提言に反映していきたい。そして今後はイギリス同様に、ドイツ、フランス、韓国についてもReviewで最新状況を報告していきたい。

 


[1] 人口減少社会における地域メディア機能のあり方 | 研究プロジェクト | 東京財団

[2] アメリカのノースカロライナ大学は、地域メディアに関する調査報告書として2018年、「The Expanding News Desert(拡大するニュース砂漠)」を公表。この報告書以降、日本国内も含めて、世界的に「ニュース砂漠」という言葉が使われるようになった。 https://www.usnewsdeserts.com/reports/expanding-news-desert/loss-of-local-news/loss-newspapers-readers/

ノースカロライナ大学による調査は継続中。 https://localnewsinitiative.northwestern.edu/projects/state-of-local-news/2025/

イギリスでも同様の調査が行われている。注)22参照

[3]総務省|デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会|デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会

[4] 「デジタル時代における放送の将来像と制度の在り方に関する取りまとめ」(デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会 2022年8月5日公表)  

soumu.go.jp/main_content/000831138.pdf P4から引用。

[5] 総務省「「実写コンテンツ展開力強化アクションプラン」の公開」(2026年4月23日)https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu04_02000254.html 

[6] これまで15年間、総務省の検討会を傍聴してきた筆者の所感である。

[7] 文化・メディア・スポーツ省によるプレスリリース。

Future of news is local, says Culture Secretary, as she launches the first action plan to back local news in a generation - GOV.UK (2026年3月17日)

[8] 注4)の「Future of news is local, says Culture Secretary, as she launches the first action plan to back local news in a generation」下線部分にあたる。

[9] Amplify: The Local Media Action Plan - GOV.UK (2026年3月26日更新)

[10] https://www.bbc.com/lnp/partners/

[11] 田中孝宜・青木紀美子「英米メディア 新たな地域サービスを目指して⑵ BBCの取り組みと地域ジャーナリズムの課題」『放送研究と調査』2019年8月号(NHK放送文化研究所)に、BBCのLNP担当者のインタビューが掲載されている。

[12] The News Media Associationウェブサイト  https://newsmediauk.org/

[13] BBCウェブサイトより引用。

[14] 契約している会社のリスト https://www.bbc.co.uk/lnp/documents/reporter_contract_distribution_2025_v3.pdf 

[15] パートナーメディアのリスト https://www.bbc.co.uk/lnp/partners/directory 

[16] BBCの存立については、国王からの「特許状(Royal Charter)」に依拠しており、10年~15年ごとに更新される。現在の第9次特許状の期間は2017年1月1日~2027年12月31日である。

[17] The Cairncross Review: a sustainable future for journalism - GOV.UK

[18] 岡本洋太郎「公益ジャーナリズムと民主主義の持続可能性に関する考察 ―プラットフォームと情報戦に脅かされる公共圏 ―」(駒澤大学 博士(メディア学) 甲第116号 2024-03-20)P18

[19] 三菱総合研究所デジタル・イノベーション本部「英国及び東南アジアにおける フェイクニュース及び偽情報への対策状況」 https://www.soumu.go.jp/main_content/000635164.pdf P12~16

[20] 2025年7月現在、AMまたはFMで放送しているコミュニティラジオ局は合計308。小規模デジタルラジオ放送のコミュニティラジオライセンス(C-DSP)申請が185件受付され、現在、164のライセンスを取得し107局が放送中、57局が開局を待っている。

 Ofcomによるコミュニティラジオ局のリスト

https://static.ofcom.org.uk/static/radiolicensing/html/radio-stations/community/community-main.htm 

[21] イギリスでは、公共放送のBBCだけでなく、公共の利益を目的として、報道、地域、文化、教育等の番組を提供することが課せられている地上放送局については、公共サービス放送事業者(Public Service Broadcaster=PSB) と位置付けられている。

[22] Public Interest News Foundation 「UK Local News Report」(2025年12月)

https://storage.ghost.io/c/27/ee/27ee876d-8f09-407d-8f7d-d7506b4bb036/content/files/2025/12/PINF-Local-News-Report-2025--8-December-.pdf

[23] イギリスで通信・放送に関する規制・監督を行う組織。独立規制監督機関。免許の付与、番組の規制、市民の苦情の取り扱いと裁定、新しいメディア政策に関する政府への助言などの機能を持つ。

[24] Ofcom「The licensing of community radio」(2004年2月)https://www.ofcom.org.uk/tv-radio-and-on-demand/community-radio/comm_radio

イギリスのコミュニティラジオの成り立ちについては、松浦さと子『英国コミュニティメディアの現在~「複占」に抗う第三の声』(書肆クラルテ 2012年発行)が詳しい。

[25] コミュニティラジオが提供する「社会的利益」について、コミュニティラジオ自身が測定する方法についてもOfcomがガイダンスを出している。コミュニティラジオはどのような社会的利益の提供を目指すのかについての理解にもつながる。Research into the measurement of social gain

[26]Ofcom「Community Radio Fund

[27] https://www.nlamediaaccess.com/newspapers-for-schools/

[28] イギリスの消費者法。デジタル時代に対応して2024年、大改正が行われた。

Digital Markets, Competition and Consumers Act 2024

[29] Online Safety Act - GOV.UK

[30] Media Act 2024

[31] PSBは現在、ネット上で同時配信サービス(IPTVも含む)も行っているため、Public Service Media=PSMとも呼ばれる。

[32] Ofcom「Transmission Critical The future of Public Service Media」(2025年7月)

[33] ロンドンの調査会社のリポート。地域ジャーナリズムの現状とBBCとの関係について考察している。Signs of local life - A new phase for local media [2023-083]

[34] Research into recent press sector dynamics - Plum Consulting

[35] Local news provision and local public service performance - GOV.UK

[36] 法律上認められないことが明らかな内容について、権力側などが言論や運動を威圧する目的、見せしめにする目的等で訴訟を行うこと。記者会見やメディアの記事への名誉棄損や、権利行使への報復的損害賠償など。

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