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【人材育成】「音楽の都」で育つ民主化の指導者たち——ライプチヒ大学Sylffフェロー

【人材育成】「音楽の都」で育つ民主化の指導者たち——ライプチヒ大学Sylffフェロー <岡部伸の世界探訪①>

May 7, 2026

ヤングリーダー奨学基金プログラムは、日本財団が1987年に将来の世界を担うリーダーの育成を目指して立ち上げ、1997年からは東京財団が運営を行っている、世界の大学の人文社会科学分野の大学院生を対象に奨学金を給付する奨学制度。日本を含む世界44か国の69大学・大学連合に各々100万米ドルの基金を寄贈し、17,000名を超える奨学生(Sylff「シルフ」フェロー)を輩出してきた。Sylffフェローは卒業後、外相や中央銀行総裁などを務めたり、学術研究、ビジネス、非営利セクターなど様々な分野の第一線で活躍している。

ドイツ東部のライプチヒ中央駅に電車で降り立つと、ヨハン・セバスティアン・バッハのコラール「主よ、人の望みの喜びよ」が聞こえて来た。世界で最も美しいと称賛される欧州最大の中央駅の構内が、コンサート会場と錯覚するほど心地よい。ライプチヒが、ウィーン、パリに並ぶ「音楽の都」で「バッハの街」であることを実感させられた。

分断を統合させるバッハの音楽

バッハのみならず、ワーグナー、メンデルスゾーン、シューマンたちが活躍したライプチヒでは、250年以上の歴史を誇る世界最古の市民オーケストラ「ゲヴァントハウス管弦楽団」でベートーヴェン、ブラームス、ブルックナーら作曲家の作品が初演された。クラシックの聖地である。音楽院では、「荒城の月」で知られる瀧廉太郎も学んでいる。

バッハが教会音楽を取り仕切る「カントール」を、65歳で亡くなるまで27年間務めたのが聖トーマス教会だ。代表作「マタイ受難曲」が初演され、没後90年ほどたった1841年にメンデルスゾーンが同作を復活上演した。教会内にはバッハが永眠する墓碑があり、世界中から音楽ファンが訪れる。

 バッハの名を冠した音楽祭も1904年以降、毎年6月に開かれ、街の随所で様々なバッハ作品の演奏が聞かれる。聖トーマス教会隣にあるバッハ博物館のピーター・ウォルニー館長は、「昨年は来場者の42%が、計57カ国からの外国人だった」と多様性に胸を張る。バッハの音楽は「複雑でありながら美しく、深い表現力によって人々の魂に届く」。多義性ゆえに誰もが意味を見いだし、共感が生まれると説明した。 

世界最古の大学の一つ 最も名高い医学部 

1409年に設立された世界最古の大学の一つであるライプチヒ大学も街のシンボルである。哲学者ライプニッツ、数学者メビウスが教壇に立ち、ゲーテやニーチェ、思想家マルクス、メルケル元ドイツ首相らが学んだ欧州屈指の学府として知られる。

最も名高い学部は医学部で、エルヴィン・フォン・ベルツをはじめ、日本人では萩原三圭、三浦守治、森鴎外もここに留学して、ドイツ医学を学んだ。他にも物理化学研究のため留学した化学者、池田菊苗は後に「味の素」を発明した。またノーベル物理学賞受賞した朝永振一郎は、理論物理学者、ハイゼンベルクに師事して研鑽を積んでいる。

ゲーテや森鴎外も通ったレストラン

旧市街のアーケード街の一角に1525年創業の歴史あるワイン酒場兼レストラン、「アウアーバッハス・ケラー」がある。ライプチヒ大学で遊学していたゲーテもここへ足繁く通い、代表作「ファウスト」の悲劇第一部にこの店を登場させた。以来、ここは世界で最も有名なレストランの一つとなった。

1885年12月、軍医としてドイツに留学していた森鴎外もこの酒場を訪れている。ここで友人の井上哲次郎に勧められた鴎外はゲーテの「ファウスト」を翻訳することを決意した。店内の壁には森鴎外の絵もあり、「森鴎外、アウアーバッハス・ケラー訪問時の回想(明治181227日)」との説明があった。

もう一人、日本とゆかりの深い人物、カスパル・シャムベルゲルの銘板が旧市街の商店にあった。17世紀の江戸初期に来日したドイツ人外科医で、彼の技術は「カスパル流外科」として体系化され、蘭学発展の基礎となった。

留学生が多いライプチヒ大学のSylffフェロー

東西ドイツ統一後の1991年、同大学は日本財団と東京財団によるヤングリーダー奨学基金プログラム(Sylff)の基金校となった。中・東欧の精神的・文化的再建を担う民主化リーダーの育成を掲げ、多様な人材を受け入れている。

受給者の一人、旧ソ連カザフスタン出身のマハバット・ケンジェガリエワ博士(2000年~2003年)は、現在はライプチヒ大学教育学部の講師として教壇に立つ傍ら、三重大学との交換留学プログラムなどに携わり、日本、カザフスタン、ドイツを教育で結ぶ架け橋となることを目指している。

旧ソ連アルメニア出身のシラルピ・モヴシシャン博士(写真)もSylff修了生だ。2019年から3年間、Sylff奨学金を得て博士号を取得した。現在は祖国で外交官を志し、ロシアのくびきから脱却し、祖国を欧州連合(EU)とNATOへ導く外交に携わることが目標だ。

イタリアから留学したレベッカ・グロッシ博士もSylff奨学金(2022年~2024年)で学び、イタリア外務省やEUなど国際機関に入り、ルーマニアをはじめとする東欧の民主化を目指している。(文責:岡部伸)

Sylff Association公式ウェブサイト(英語)はこちら

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