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【論考】人口減少時代の地方議会 ―「要望を届ける議会」から「選択と合意形成を担う議会」へ―
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【論考】人口減少時代の地方議会 ―「要望を届ける議会」から「選択と合意形成を担う議会」へ―

October 14, 2026

1. はじめに

地方議会をめぐっては、議員のなり手不足、投票率の低下、議員定数や報酬のあり方などが繰り返し議論されてきた。しかし、その前に問うべきことがある。それは、首長と議会議員をともに住民が直接選ぶ現在の二元代表制は、その役割を十分に果たしているのか、そして人口減少時代において、地方議会は何のために存在するのか、ということである。

2. 二元代表制は本当に機能しているのか

近年、二元代表制が想定する首長と議会との関係を改めて考えさせられる事例が相次いでいる。 

福岡県では2026年、県職員による議会質問情報の他会派への提供や質問原稿の作成などが明らかになり、県は議会と執行部との「悪しき慣例・慣行」との決別を掲げた。執行部と議会が近づきすぎ、本来別々の役割を担うはずの両者の境界が曖昧になっていることを印象づけた。 

一方、兵庫県では2024年9月、県議会が知事に対する不信任決議を可決した後、失職した知事が同年11月の知事選挙で再選された。不信任を議決した議会が存続する一方で、県民が同じ知事を改めて選んだのである。

前者は議会と執行部が近すぎる問題であり、後者は、住民に選ばれた議会が知事を不信任とする一方で、同じ住民がその知事を再び選んだ問題である。二つの事例は、「首長も民意、議会も民意」と説明するだけでは、両者の適切な距離の取り方や、意見が衝突した場合の調整方法が見つけられないことを示している。

3. 「二つの民意」ではなく「異なる役割の委任」と捉え直す

二元代表制を、二つの民意が並立する制度ではなく、住民が首長と議会にそれぞれ異なる役割を委ねる制度として捉え直す必要がある。 

首長選挙では、有権者の選択は最終的に一人の首長に集約される。行政組織を指揮し、政策を一貫して実行し、その成果について責任を負うためには合理的な仕組みである。 

これに対し議会は複数の議員によって構成される。そこには異なる地域、世代、職業、価値観、政策についての考え方が持ち込まれる。首長が有権者の選択を一人の長に集約する単独機関であるのに対し、議会は複数の意見や選択肢を持ち寄り、議論して決める機関である。 

選挙による民意を、それぞれの機関への役割の委任と捉えることは、現行法上の議会の位置付けとも大きく離れるものではない。2023年の地方自治法改正では、議会は「議事機関」として地方公共団体の「重要な意思決定に関する事件を議決」すること、議員は「住民の負託を受け」職務を行うことが明記された。議会を、住民から地域の重要な意思決定を委ねられた機関として捉えることには、現行制度上も根拠がある。 

首長と議会の違いは、どちらが「本当の民意」なのかではない。首長には主として政策の企画・提示と行政執行が委ねられ、議会には、多様な意思を踏まえながら、提示された選択肢を検討・修正し、地域社会としての重要な意思決定を行う役割が委ねられている、と考えるべきである。 

4. 「何をやるか」から「何をやめるか」へ

人口と税収が増加し、行政需要も拡大していた時代には、政治の中心は「新たに何を行うか」であった。道路を造る、施設を建てる、サービスを増やす。議員が地域の要望を行政に届け、新たな事業や予算を求めることには大きな意味があった。

しかし、人口減少、財源制約、人手不足、公共施設やインフラの老朽化が同時に進む時代には、もはやすべてをそのまま維持することは不可能である。自治体は、何を残すのか、何を縮小するのか、残すとしても広域化・共同化など、どのように残すのか、そして何をやめるのかを選ばざるを得ない。これは、筆者が「選択する自治」として示してきた問題である。 

「何かを始める」決定よりも、「これまであったものをやめる」決定にはより大きな困難が伴う。施設の廃止やサービスの縮小は、特定の地域や住民に具体的な不利益をもたらす。そのため、行政執行を担う首長が決めれば住民が納得するとは限らない。 

このような場合、多様な立場を議論の場に取り込み、選択の必要性と負担の公平性について、幅広く丁寧な合意形成を図ることが求められる。ここに地方議会が担うべき固有の役割がある。 

首長も住民対話などを通じて合意形成を促進することはできる。しかし、最終的に一つの政策を提示・執行しなければならない首長に対し、議会は異なる地域や立場、価値観を背景に持つ複数の議員が公開の場で議論し、修正や妥協を重ねて意思決定する機関である。不利益を伴う選択が増える人口減少時代には、議会におけるこの過程自体に重要な意味がある。

5. 長期的な選択と合意形成を担う議会

執行機関は、日々の行政サービスを制度と財政・人的制約のもと継続的に提供する責務を負う。もちろん執行機関にも長期的な視点は必要であるが、日々の行政運営を担い、現行制度を継続的に運用する責任も負っている。 

また、首長は有権者の選択を一人に集約して行政を執行する機関であるのに対し、議会は多元的な民意を複数人で受け止め、中長期的な視点から社会的な合意形成を図り、地域としての意思を決定する機関である。日々の行政執行から一定の距離を置く存在であるがゆえに、10年後、20年後を見通しながら、「本当に必要か」「優先順位は高いか」「将来にわたって持続可能か」を問うことが期待される。 

そのような視点での問いを十分な議論につなげていくうえで、議会の多元的な代表性には重要な意味がある。ここでいう合意形成は全員一致ではない。異なる利害や価値観を可視化し、公開の場で議論し、修正や妥協を重ねながら、できる限り多くの住民が決定の理由を理解できる形にまとめていくことである。 

人口減少に伴って合意形成が困難な課題が増大するなか、多様な民意を集約する議会の役割が重要になることは、国の第33次地方制度調査会の答申でも指摘されている。 

これからの議会の中核的機能は「監視」だけではない。多元的な民意を受け止め、長期的な視点から選択肢を比較し、十分に議論したうえで合意形成を図り、重要事項を決定することにある。 

行政執行の監視や検証も議会に与えられた重要な機能である。しかし、人口減少時代には、それを事後的なチェックだけにとどめるべきではない。監視・検証によって得られた情報を次の選択と意思決定につなげるとともに、議会が決定した方向に沿って行政が適切に執行されているかを確認する。監視・検証は、成果と課題を次の選択に生かす役割も持つ。 

選択・決定と監視・検証を循環させることが、これからの議会には求められる。 

6. 「地域代表」から「地域の意思決定を託された機関」へ

こう考えると、地方議会を単なる「地域代表の集合」として説明することにも限界がある。 

地域の声を把握することは必要である。しかし、住民の要望を行政に届けることだけが議会の役割ではない。相互に両立しない要求を比較し、限られた資源の中で何を優先し、何を断念するのかを決めることこそ、複数の立場を持ち寄って議論する議会が担うべき役割である。 

自治体行政は住民の意思に基づいて行われるべきものである。しかし、議会は住民そのものではない。現在の住民から、多様な意思を踏まえながら、地域社会の中長期的な将来について選択し、合意形成を図り、決定することを託された機関である。そして、その判断に当たっては、現在だけでなく、将来の住民への影響も考慮すべきである。 

人口減少時代の地方議会のあり方についての議論は、議員を何人にするか、報酬をいくらにするかという視点だけでは足りない。 

首長に何を委ね、議会には何を委ねるのか。誰が長期的な選択を行い、どのように社会的な合意形成を図るのか。社会に必要とされる機能から二元代表制そのものを捉え直す必要がある。 

「行政に何かを求める議会」から、「何を残し、何を変え、何をやめるのかについて、多様な民意をもとに合意形成を図り、選択と決定を行う議会」へ。人口減少時代には、地方議会の役割は小さくなるのではない。むしろ、これまで以上に大きく、重くなる。

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