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【論考】適正社会システムという考え方 ―人口減少時代の地方行政体制の再設計―
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【論考】適正社会システムという考え方 ―人口減少時代の地方行政体制の再設計―

September 24, 2026

【この記事のポイント】
・人口減少社会に必要なのは、既存制度の維持を前提とした部分的な修正ではなく、制度の目的に立ち返り、社会条件の変化に応じてその仕組みを継続的に再設計する「適正社会システム」の視点である。

・地方行政では、「自治の単位」と「行政サービス供給の単位」を分け、行政機能ごとに適切な供給規模と担い手を選ぶ必要がある。

・市町村が幅広い行政機能を担う「フルセット型」から、市町村間の広域連携、都道府県、国が機能ごとに役割を分担する「多層型」への転換が求められる。                                                                           

1. 社会の前提が変わっている

日本社会はいま、大きな構造変化の過程にある。人口減少、少子高齢化、経済の低成長、地域間の人口偏在、担い手不足、価値観の多様化が同時に進んでいる。さらに、デジタル技術の進展は、人々の生活や経済活動だけでなく、行政サービスの提供方法そのものを変えつつある。

問題は、こうした社会環境の変化に対して、社会を支える制度の側が十分に適応しているかということである。

現在の日本の社会制度の多くは、人口が増加し、経済が成長し、行政需要や社会インフラが拡大していく時代に形成された。年金、医療、雇用、税制、地方行政、都市計画、社会資本整備など、私たちの生活を支えるさまざまな制度には、人口増加期に形成された基本構造が現在も残されている。

もちろん、制度はその後も繰り返し改正されてきた。しかし、その多くの場合、改正は既存制度の基本的な枠組みを前提とした部分的な修正として行われてきた。社会の前提そのものが変化しているにもかかわらず、制度の基本構造は維持され、その上に新たな仕組みや例外措置が積み重ねられてきた。

その結果、制度は次第に複雑化し、制度が前提としてきた社会条件と現実の社会との間に不整合が生じている。

人口減少社会において問われているのは、個々の政策の改善だけではない。社会を支える制度そのものが、現在および将来の社会条件に適合しているのかという、より根本的な問題である。

2. 制度には「慣性」がある

制度理論、とりわけ歴史的制度論では、一度形成された制度が、その後の選択肢を方向づけ、容易には変更されなくなる現象を「経路依存」として説明してきた。法律、組織、財政制度、行政実務は長い時間をかけて形成され、その周囲に行政組織、専門職員、予算、施設、各種の権利義務関係が組み込まれる。こうした要素が相互に制度を支え、変更に伴う費用を高めるため、社会環境が変化しても制度には強い慣性が生じる。

したがって、社会環境が変化したからといって、制度が自動的にそれに適応するわけではない。漸進的な制度変化に関する議論では、既存制度の上に新たな仕組みを重ねていく「レイヤリング(layering)」や、制度の基本構造が維持されたまま社会環境が変化することで制度の効果や意味が変質する「ドリフト(drift)」といった変化の形も指摘されている。

人口増加期に形成された制度を人口減少社会で維持する過程では、こうした現象が重なって生じやすい。既存制度を残したまま新たな措置を付け加えれば制度は複雑化し、制度そのものを大きく変えなければ社会環境とのずれが拡大する。その結果、制度が本来実現しようとしてきた目的と、実際の制度運用との関係が次第に見えにくくなる。

もちろん、制度の安定性は重要である。制度が頻繁に変更されれば、人々の生活や経済活動の予測可能性は損なわれる。しかし、制度を維持すること自体が目的となってはならない。

制度は、本来、一定の社会的目的を実現するための手段である。社会条件が変化すれば、その目的を実現するために必要な制度の形も変わり得る。

したがって、人口減少社会において必要なのは、既存制度を前提として部分的な修正を続けるだけではなく、制度が実現すべき目的と機能に立ち返り、現在および将来の社会条件への適合性を改めて点検することである。

3. 「適正社会システム」という考え方

そこで提起したいのが、「適正社会システム(Adaptive Social Systems)」という考え方である。

ここでいう適正社会システムとは、社会環境の変化を前提に既存の制度構造を多面的に点検し、現在および将来の社会条件に適合するよう、制度の目的と手段、負担と給付、制度やサービスの規模、運営主体、サービスの供給方法などを継続的に見直し、再構成していく社会システムを意味する。

この考え方の中核にあるのは「持続可能性」である。

持続可能性とは、現在の制度や行政サービスを可能な限りそのまま維持することではない。

現在の制度を維持するために、将来世代に過度な財政負担を残したり、維持更新できない社会インフラを抱え続けたり、確保できない人員を前提とした行政サービスを維持したりするのであれば、その制度は長期的に持続可能とはいえない。

社会システムに求められるのは、社会環境の変化に応じて制度自体を変化させる能力である。この適応性を表すために、筆者は「Adaptive Social Systems」という表現を用いている。制度を一度設計して維持するのみではなく、変化を前提として検証と修正を組み込むという意味である。

ここでいう「適正」とは、ある一時点における唯一の「最適解」を意味するものではない。人口構造、社会経済状況、技術、国民の価値観などが変化すれば、適正な制度の姿も変化する。何を適正と評価するかも、効率性だけではなく、公平性、サービスへのアクセス、民主的統制、持続可能性、危機や環境変化に対する強靭性など、複数の基準から判断される必要がある。

したがって、適正社会システムとは、完成された固定的な制度体系ではなく、社会環境の変化に応じて制度の目的と手段の関係を不断に見直し、制度自体が適応し続ける仕組みである。

4. 「適正化」は単純な縮小ではない

ここで確認しておくべきは、「適正化」は単なる歳出削減や行政組織の縮小を意味するものではないという点である。規制緩和と同義でもなければ、行政サービスを一律に削減することでもない。

重要なのは、制度が何のために存在するのかという目的に立ち返り、現在の社会条件の下でその目的を実現するには、どのような制度が適切なのかを改めて考えることである。その際には、効率性や財政負担だけを基準とするのではなく、住民の権利、公平性、地域社会の維持、民主的な意思決定などとの均衡を図る必要がある。

社会条件の変化によって必要性が低下した制度は、縮小すべきかもしれない。一方で、新たな社会的課題に対応するために、制度を強化したり、新しい仕組みを構築したりする必要が生じる場合もある。

また、同一の制度を全国一律に維持することが常に適切とは限らない。国土構造の変化、地域間の人口分布、地理的条件、行政資源などに応じて、異なる制度設計が必要となる場合もある。

したがって、適正化とは、「残すか、なくすか」という二者択一ではない。

何を維持し、何を変更するのか。どの規模で実施し、誰が担い、どのような方法で提供するのか。これらの組み合わせを社会条件に応じて再構成することが、適正化の本質である。言い換えれば、制度が「適正」であり続けるためには、社会環境の変化に対して「適応的」でなければならない。

5. 地方行政制度に当てはめると何が見えるか

この考え方を地方行政制度に適用してみると、現在の地方行政が抱える問題を別の角度から捉え直すことができる。地方行政は、適正社会システムという考え方を具体化するための一つの入口である。

戦後の日本の地方自治制度は、市町村を住民に最も身近な基礎的な地方公共団体として位置づけ、それぞれの自治体が幅広い行政サービスを担う仕組みを発展させてきた。

福祉、教育、消防、都市計画、道路、上下水道、廃棄物処理、産業振興など、多くの行政分野を市町村が総合的に担う構造である。人口が増加し、職員数や税収も一定程度確保できた時代には、この仕組みには一定の合理性があった。

しかし、人口減少により自治体の人口規模が縮小し、専門人材の確保も難しくなるなかで、すべての市町村が従来と同じ範囲の行政機能を単独で保有し続けることが持続可能なのか、改めて検討する必要がある。

ここで鍵となるのが、「自治の単位」と「行政サービス供給の単位」を分けて考えることである。

住民が地域のあり方を自ら決定する自治の単位は、住民に身近であることが望ましい。しかし、行政サービスの供給単位まで、すべての行政機能について自治体の単位と一致させる必要はないのではないか。自治の単位を維持しながら、供給の単位は行政機能ごとに組み替えるという発想が必要となる。

情報システム、一部の公共施設、上下水道、消防、専門性の高い福祉行政、地域交通などは、市町村の区域を越える規模で提供した方が、効率性や専門性、一定のサービス水準、持続可能性を確保できる場合がある。

都道府県が担うことが適切な機能もあれば、複数の自治体による広域行政の仕組みが適するものもある。全国共通のデジタル基盤を活用する方が合理的な行政サービスも増えていくだろう。

行政サービスには、機能ごとに適切な規模がある。行政分野ごとに必要となる人口規模、専門人材、財政基盤、施設設備、地理的範囲は異なる。しかも、その適切な規模は、人口構造や交通条件、デジタル技術などの変化によって動き得る。それにもかかわらず、すべての行政機能を一つの自治体区域の中に収めることを前提とすれば、人口減少が進むほど制度の維持は困難になる。

6. 「自治体の適正規模」から「行政機能の適正規模」へ

これまで地方行政分野では、自治体そのものの「適正規模」が繰り返し議論されてきた。とりわけ、明治・昭和・平成の各時期に進められた市町村合併は、自治体組織の規模を拡大することで行政能力を確保しようとする政策であった。

しかし、今後は自治体そのものの適正規模だけを議論するのではなく、行政機能ごとの適正規模を考える必要がある。

自治体には、住民自治を担う政治的単位としての側面と、行政サービスを提供する組織としての側面がある。両者は密接に関係するが、すべての行政機能について常に同じ地理的範囲で完結させなければならない理由はない。

住民自治や民主的統制を担う自治の単位としての自治体は維持しつつ、行政サービスは機能ごとに最も適した規模で供給する。そのためには、市町村、市町村間の広域連携、都道府県、国といった複数の主体や仕組みを、固定的ではなく、行政機能ごとに柔軟に組み合わせることが求められる。

その先に見えてくるのは、一つの自治体が幅広い行政機能を担う「フルセット型」の地方行政から、複数の行政主体が機能ごとに役割を分担する「多層型」の地方行政への転換である。

7. 個別の政策課題を共通の構造から捉える

この視点に立つと、人口減少社会をめぐるさまざまな政策課題に、共通する構造があることが分かる。

地方行政では、市町村間の広域連携、都道府県の役割のあり方、公共施設の再編、地方公営企業の経営健全化、自治体DXの推進、地域交通の維持、医療提供体制の確保などが、政策課題として議論されることが多い。

都市政策でも、区域区分(市街化区域・市街化調整区域)を中心とする土地利用制度のあり方、空き家対策、都市インフラの維持、コンパクトシティ化の推進などが論じられている。さらに国土政策では、東京一極集中、副首都、地方中枢都市、広域的な都市圏形成などが議論されている。

これらはいずれも、別個の政策課題として議論されることが多いが、人口増加期に形成された制度や空間構造を、人口減少社会に適合するよう再設計するという共通の課題として捉えることができるのではないか。個別の政策領域だけを見れば異なる問題に見えても、その背後には、制度の規模、担い手、負担、供給方法を社会条件に合わせて組み替えるという共通の問いがある。

本稿では、これらの政策課題について個別の結論を示すことを目的とはしていない。共通の構造を示した上で、行政サービスの供給単位、広域ガバナンス、都市・国土構造、公共施設・インフラ、デジタル基盤などの論点を、それぞれ具体的に検討していく必要がある。

地方行政体制のあり方を見直せば、自治体と都市政策の関係も変わる。土地利用のあり方を見直せば、公共施設や交通にも影響が及ぶ。行政の広域化を進めれば、国、都道府県と市町村の役割分担も変化する。

人口減少社会に必要なのは、個別の制度改革だけではない。地方行財政制度、税制、都市制度、公共サービス、社会インフラなどを相互に関連する一つの社会システムとして捉え、社会条件との整合性を全体として点検する視点が必要である。

8. 人口減少を制度再設計の契機に

人口減少は、日本社会にさまざまな制約をもたらす。しかし、人口が減少する社会が必ずしも衰退する社会になるわけではない。

人口規模が縮小しても、それに適合した制度と社会インフラが形成され、限られた人的・財政的資源が適切に配分されれば、生活の質や社会の活力を維持し得る。

逆に、人口増加期に形成された制度や社会インフラをそのまま維持しようとすれば、それらを維持すること自体が社会にとって大きな負担となる。

人口減少時代に必要なのは、「これまでの制度をどう守るか」だけを考えることではない。

何を守り、何を変えるのか。

何を自治体単独で担い、何を広域化するのか。

どの社会インフラを維持し、どのように再編するのか。

そして、現在の世代と将来の世代との間で、負担をどのように分かち合うのか。

こうした判断を行うためには、既存制度の維持そのものではなく、制度の目的との整合性、持続可能性、世代間の公平性、サービスへのアクセス、民主的統制、社会環境への適応力といった複数の基準から、制度を再評価する必要がある。

「適正社会システム(Adaptive Social Systems)」とは、特定の制度改革案を指すものではない。社会環境が大きく変化するときに、既存制度を当然の前提とせず、制度が実現すべき社会的目的に立ち返り、社会システム全体を継続的に再設計するための考え方である。

人口減少は、日本社会にとって大きな課題である。しかし同時にそれは、これまで当然とされてきた制度のあり方を問い直し、次の時代にふさわしい社会システムを構想する契機でもある。

地方行政制度の再設計は、その入口の一つである。統一的な視点のもとに個別分野の検討を積み重ねながら、それらを再び一つの社会システムとして結び直すことによって、人口減少時代における制度再設計の全体像が見えてくるはずである。

適正社会システムという考え方は、その検討をつなぐための共通の枠組みとして位置づけられる。


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