【論考】副首都構想をどう考えるか ―人口減少時代の国土構造と広域ガバナンス― | 研究プログラム | 東京財団

東京財団

詳細検索

東京財団

【論考】副首都構想をどう考えるか ―人口減少時代の国土構造と広域ガバナンス―
画像提供:Getty Images
  • Review

【論考】副首都構想をどう考えるか ―人口減少時代の国土構造と広域ガバナンス―

September 14, 2026

この記事のポイント
・副首都構想には、首都中枢機能のバックアップと多極分散型経済圏の形成という、性格の異なる二つの政策目的が含まれている。
・1990年代の首都機能移転論では、既存の都道府県境を越える地域が候補地として検討された。人口減少時代の国土構造を考える際にも、行政区域ではなく「機能を担う圏域」から考える視点が重要である。
・副首都構想を特定都市の誘致競争に終わらせず、国家・社会機能をどの地域単位で担い、その圏域をどのように統治するのかという広域ガバナンスの議論につなげる必要がある。                                                                             

1. 制度として動き始めた副首都構想

20267月、「国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進に関する法律」が成立し、同月31日に公布された。

法律は、大規模災害によって東京圏で首都中枢機能を維持することが困難となった場合に備え、「首都中枢機能代替地域」と「副首都」という二つの仕組みを設けている。

首都中枢機能代替地域は、首都中枢機能の一部を一定期間代替する地域である。これに対し、副首都は、首都中枢機能の全部又は大部分を代替するとともに、「多極分散型経済圏の形成の中核となる機能」を担う道府県とされている。副首都の指定に当たっては、東京圏との同時被災の可能性が低いことに加え、国の行政機構の立地、人口・経済の集積、地方行政体制について、政令で定める要件を満たす必要がある。

今後、指定要件の具体化に伴い、どの地域が副首都になるのかという議論が活発になるだろう。

しかし、副首都構想を「どの都市を選ぶのか」という問題として捉えるだけでは不十分である。

問うべきなのは、人口減少と大規模災害という構造的リスクを抱える日本で、国家や社会を維持するために必要な機能をどこに配置し、それをどのような統治の仕組みで支えるのかという問題である。

2. 首都機能移転からバックアップへ

東京への国家機能の集中を見直す議論は、今回が初めてではない。

199011月、衆参両院は「国会等の移転に関する決議」を行い、1992年には「国会等の移転に関する法律」が制定された。その後、国会等移転審議会による検討が進み、199912月には「栃木・福島地域」と「岐阜・愛知地域」が移転先候補地として選定された。「三重・畿央地域」についても、将来の交通条件などが整えば候補地となる可能性があるとされた。

ここで注目したいのは、候補地の設定方法である。例えば「岐阜・愛知地域」は岐阜県東濃地域と愛知県西三河北部にまたがり、「三重・畿央地域」も三重、滋賀、京都、奈良の府県境付近を含む地域として設定されていた。既存の都道府県をそのまま単位とするのではなく、首都機能を配置するのに適した地域を設定していたのである。

また、1999年の答申は、移転先だけで首都機能を完結させることは容易ではなく、東京や仙台、名古屋、大阪、京都などとの「広域的な連携」が必要であるともしていた。

結局、移転先は決定されなかった。その後、議論の重心は、全面移転から、分散移転や防災・危機管理機能、すなわちバックアップ機能の中枢を優先的に移転する方向へと移った。2004年の政党間両院協議会の取りまとめでも、この方向でさらに調査・検討を行うこととされている。

現在の副首都構想は、こうした議論の流れの延長にあるものとして捉えることができる。かつての議論の中心が「東京からどこへ首都機能を移すか」であったとすれば、現在の議論は「東京が機能しなくなったときに、国家機能をどのように継続するか」へと重心を移している。

3. バックアップと成長拠点は同じ論理ではない

今回の制度で特徴的なのは、副首都に、首都中枢機能のバックアップと、多極分散型経済圏の形成の中核という二つの役割を明示的に担わせている点である。

しかし、この二つは同じ政策論理に立つものではない。

首都中枢機能のバックアップで重要なのは、東京との同時被災を避けること、電力、通信、交通などの冗長性を確保すること、危機発生時にも指揮命令系統を維持できることなどである。これは、リスクを分散するための政策である。

一方、経済拠点の形成には、一定規模の人口、企業、人材、大学・研究機関、交通、金融などの集積が必要になる。こちらは、集積の経済を利用する政策である。

つまり、副首都制度は、リスク管理の観点から分散が望ましい機能と、経済効率の観点から集積が望ましい機能を、一つの地域に同時に担わせる。この関係を整理しなければ、指定の要件も評価の基準も曖昧になりかねない。

4. 人口減少時代の「多極分散」

さらに重要なのが、人口減少という条件である。

人口増加期であれば、新たな成長拠点を形成し、そこへ人口や産業を誘導する政策にも一定の合理性があった。

しかし、日本全体の人口が減少する中では、副首都となった大都市圏が成長しても、そこに集まる人口や企業が東京から移転してくるとは限らない。周辺の地方都市や中小都市から吸収される可能性もある。

その場合、「東京一極集中」が「東京といくつかの大都市への集中」に変わるだけになるかもしれない。

法律は「多極分散型経済圏の形成」を、人口・経済機能が特定の圏域に過度に集中することなく、各圏域が連携しながら発展する国土の形成と定義している。

この定義を実質的なものにするには、「極」をいくつつくるのかだけではなく、人口減少を前提として、それぞれの都市圏や地域がどのような機能を担うのかを考えなければならない。副首都構想は、本来、国土構造全体の議論の中に位置付けるべきである。

5. 行政区域と機能圏のずれ

現在の制度では、一定の要件に該当する「地域」を含む道府県が副首都として指定される。すなわち、要件適合性は「地域」について問われる一方で、制度上の指定対象は「道府県」である。しかし、大都市圏の実際の機能は、都道府県の区域で区切られているわけではない。

経済活動、通勤・通学、鉄道、道路、空港・港湾、大学・研究機関、高度医療などは、複数の都道府県や市町村にまたがって形成されている。

関西圏で考えても、大阪府だけで大都市圏の機能が完結しているわけではない。大阪、兵庫、京都、奈良など、府県域をまたぐ機能が相互に結びついている。

この点では、1999年の首都機能移転構想で、県境を越える「栃木・福島地域」や「岐阜・愛知地域」を候補として設定した発想は、現在でも示唆的である。行政区域から機能を考えるのではなく、必要な機能を担うのに適した圏域から行政空間を構想する発想である。

法律も、副首都の区域を含む「圏域」と「当該圏域内の他の地方公共団体との連携」を予定している。問題は、道府県を指定単位とすること自体ではなく、実際の機能圏と制度上の主体とのずれを、どのような仕組みで調整するかにある。

6. 必要なのは広域ガバナンスである

もっとも、複数の自治体が「連携」すれば、それだけで問題が解決するわけではない。例えば、広域交通網をどこに整備するのか。空港や港湾をどう役割分担させるのか。大規模災害時の医療・物流体制をどの範囲で構築するのか。国、都道府県、市町村はそれぞれどこまで財政負担を行うのか。こうした政策には、地域間の利害調整が伴う。

必要なのは、単なる「広域連携」ではなく、意思決定、財源、執行、責任を含む「広域ガバナンス」である。誰が政策を決め、費用を負担し、執行し、その結果について住民に説明責任を負うのかを明確にしなければならない。

副首都構想は、「副首都をどこに置くか」という選択である以上に、日本の大都市圏をどのような仕組みで統治するのかという、地方行政の制度上の問題を浮かび上がらせている。

7. 自治の単位と機能の単位を分けて考える

人口減少下の地方行政では、住民が自治を行う単位と、公共サービスや社会機能を供給する単位を必ずしも一致させる必要はない。住民に身近な自治や政治参加には比較的小さな単位が適していても、高度医療、公共交通、デジタル基盤、産業政策、防災、インフラ管理などは、より大きな圏域で担う方が合理的な場合が多い。

副首都についても同じである。「どの道府県を副首都にするのか」という問いから始めるのではなく、どの機能を、どの空間的単位で担うのが適切なのかを先に考えるべきである。

その上で、その圏域を運営する統治の仕組みを設計する。自治の単位と機能の単位を分けて考えることが、人口減少時代の制度設計の出発点となる。

8. 「どこを副首都にするか」から始めない

副首都構想には、大規模災害時にも国家・社会機能を維持するという重要な目的がある。東京への過度な集中を見直すことも、中長期的な国土政策として必要である。

したがって、副首都構想は、日本の将来を考えるうえで避けて通れない論点である。しかし、議論を「どの都市を副首都にするか」から始めれば、各地域による誘致競争に終始するおそれがある。

過去の首都機能移転論を振り返れば、すでに1990年代には県境を越えた地域が候補として検討され、その後には全面移転だけではなく、分散移転やバックアップという考え方も議論されていた。

こうした蓄積を踏まえれば、副首都構想を「第二の東京」をつくる議論にすべきではない。

まず、国家と社会を維持するために必要な機能を明確にする。

次に、それぞれの機能を担うのに適した圏域を考える。

そして、その圏域を運営するための統治制度を設計する。

副首都構想を、特定地域の選定をめぐる議論に終わらせるのか。それとも、国家機能の分散、人口減少時代の国土構造、広域ガバナンスを再設計する契機とするのか。

問われているのは、「第二の首都」の所在地ではない。人口減少時代の日本を、どのような国土構造と統治構造によって支えていくのかという問題である。

注目コンテンツ

BY THIS AUTHOR

この研究者のコンテンツ

0%

PROJECT-RELATED CONTENT

この研究者が関わるプロジェクトのコンテンツ

INQUIRIES

お問合せ

取材のお申込みやお問合せは
こちらのフォームより送信してください。

お問合せフォーム