2021年 歴史の分岐点:深まる分断、米中対立と緊張する台湾海峡・尖閣諸島

緊張の高まりを見せる尖閣諸島(写真提供:共同通信)

2021年 歴史の分岐点:深まる分断、米中対立と緊張する台湾海峡・尖閣諸島

分断の潮流 危機誘発

今から20年前の2001年、21世紀が幕を開け、アメリカではブッシュ(⼦)政権が誕⽣した。9・11テロ事件が勃発するのは半年以上先のことだ。世界にはまだ、冷戦後に国際社会が結束して、ひとつの世界をつくることができるという楽観的な空気が残っていた時代である。

この頃中国では、「中国のゴルバチョフ」と呼ばれた朱鎔基⾸相のもとで経済改⾰が進められていた。中国が正式にWTO(世界貿易機関)に加盟して、本格的に経済⼤国となる道を歩み始めたのも、この01年のことであった。

だが、20年という時間の経過とともに、中国に対する楽観的で友好的な眼差(まなざ)しは、失われてしまった。

世界はいまや分断の時代へと向かっている。この20年間、世界中で内戦やテロが吹き荒れた。リーマン・ショック以降の⾦融危機は⺠主主義諸国の政治的安定性を揺さぶり、経済格差の拡⼤も相まってポピュリズムの台頭につながった。

トランプ前⽶⼤統領は、メキシコとの国境に壁を築いた。イギリスのジョンソン⾸相はブレグジット(EU離脱)によって、英仏海峡に「障壁」を設けた。それらは、グローバル化がもたらす統合のベクトルとは、逆⽅向の⼒学である。

分断は、国際社会にとどまらない。⽶⼤統領選や、EU離脱の是⾮を問うイギリスの国⺠投票が⽰すように、⺠主主義諸国の国内における分断も深刻だ。

それゆえ、新たに⽶⼤統領に就任したバイデン⽒は、アメリカと⺠主主義諸国間の結束を回復することを、何よりも重要な政治⽬標に掲げている。そして、デモクラシーが結束するための⾸脳会議(サミット)の開催を⾃ら提唱してきた。

とはいえ、崇⾼な政治的な理想を語ることはできても、バイデン⽒ひとりでこれらの分断を解消して結束をもたらすことは、とてもできないであろう。

他⽅、今年の先進7か国(G7)サミットで議⻑国を務めるイギリスのジョンソン⾸相は、6⽉に予定されるサミットに三つの⺠主主義国、すなわちインド、オーストラリア、そして韓国を招いて、⺠主主義10か国による「D10サミット」にしたい意向である。

⽶英両国はともに、これまで進⾏してきた分断を⾷い⽌めるために必要な⽅策を模索しているのだろう。このようにして、現代の世界では分裂を志向する⼒学と、結束を求める⼒学の⼆つがまざり合う形で事態が動いている。

尖閣「現状変更」の懸念

アメリカなど⺠主主義体制の諸国と、中国やロシアなど権威主義体制の諸国とのイデオロギー的な対⽴も世界を分断している。中でも重要かつ深刻なのが、⽶中の対⽴である。

アメリカの国際NGO団体のフリーダムハウスは、14年連続で「⺠主主義の後退」がみられる状況に警鐘を鳴らす。他⽅で中国はいち早く新型コロナウイルスの感染拡⼤を抑制して、経済活動を再開した。当初の予想より早く、2028年には名⽬国内総⽣産(GDP)で中国が⽶国を追い抜くとの予想もみられる。

はたして、権威主義体制は、強⼒な国⺠の管理と監視により、現代世界でよりよい統治モデルとなっているのだろうか。あるいは、依然として⾃由⺠主主義体制が、実現可能な最良の政治体制なのだろうか。

そうしたことを考えるにつけ、21年が歴史の分岐点になるのではないかとの思いを強くしている。

今年は中国共産党が結成されて100年となる。中国共産党政権は、国家統⼀の歩みを振り返りながら、対⽴する国内外の勢⼒に、これまでより安易に武⼒を⾏使する恐れがある。そこで最⼤の焦点となるのが、台湾と東沙諸島、さらに尖閣諸島をめぐる軍事衝突の可能性だ。

特に警戒しなければならないのは、⾃らの勢⼒圏を拡⼤するために、偶発的な「事件」を勃発させ、それを機に躊躇(ちゅうちょ)なく実⼒⾏使に踏み切ることである。その場合、国際世論の批判など考慮せず、強硬な⼿段を選択するはずだ。

これは、今から90年前の1931年9⽉に、⽇本の関東軍が起こした満州事変と重なる。⽪⾁にも、それと同じようなことを、東シナ海や南シナ海で、中国の海警局や海軍が⾏うリスクは排除できない。世界が経済的な困難や政治的混乱にもがいている中で、正式な宣戦布告もなく、強硬措置により⾃らの政治⽬的を達成しようとするのだ。

90年前に⽇本が中国で起こしたようなことを中国が現代で⾏えば、まさに歴史への復讐(ふくしゅう)といえる。当時の国際連盟は⽇本の軍事⾏動をめぐり議論が紛糾し、主導権を発揮できなかった。今の国連安全保障理事会では中国が拒否権のカードを持つ。実⼒⾏使に制裁を発動するのは困難だろう。

なぜここまで緊迫したのか。重要なのは、台湾海峡における緊張状態が、1世紀以上続いてきたことだ。現在の危機について考える際、地政学的な歴史を振り返る意義は⼤きい。

19世紀末は⽇清戦争によってこの地域は戦⽕に包まれた。20世紀半ばを過ぎると、⽶軍と中国軍が海峡を挟んでにらみ合った。海洋国家と⼤陸国家の間の勢⼒圏争いにおいて、台湾海峡はいつも「最前線」に位置し、国際的緊張の舞台になってきたのだ。

パワーバランスの急速な変化は、平和と安定性を⼤きく損なう。19世紀末には清帝国の衰退と、⽇本の軍事的台頭が、この地域に緊張と戦争をもたらした。第2次世界⼤戦後は、中華⼈⺠共和国の成⽴と、アジアにおける中国共産党の影響⼒の拡⼤が、台湾海峡に危機をもたらした。

⽇本にとってより切実なのは、東シナ海における尖閣諸島をめぐる緊張の⾼まりである。中国の指導部が、⽇本の国⼒が衰退していると考えて、この地域における⽶国の影響⼒が後退しているとみなせば、尖閣諸島周辺で現状変更の試みが⾏われる可能性は、著しく⾼まろう。

偶発的事故を契機に尖閣諸島を実効⽀配すれば、東シナ海全体の海域で⾃らの優位を確⽴したい中国は、この地域のパワーバランス⾯で格段に有利になるだろう。宣戦布告のない現状変更の試み。すなわち「満州事変の再来」を許してはならない。

菅政権には、中国の「現状打破」の動きを抑⽌し、武⼒衝突を起こさせないという重⼤な使命がある。経済的混乱や、感染症などによる社会不安が広がる時ほど、紛争は起こりやすい。その現実を踏まえて、対中政策を進めるべきだ。

2021年2月7日 読売新聞「地球を読む」より改題

細谷 雄一/Yuichi Hosoya

細谷 雄一

  • 研究主幹/政治外交検証研究会幹事/ポピュリズム国際歴史比較研究会幹事

研究分野・主な関心領域

  • 国際政治学
  • 国際政治史
  • 日本の安全保障政策
  • 現代イギリス外交史

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