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【開催報告】医療DXとオンライン診療<前編>医療政策サロン
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【開催報告】医療DXとオンライン診療<前編>医療政策サロン

March 16, 2026

深刻な人材不足・地域格差に直面する中、地域医療を持続させるためにはオンライン診療の活用は不可欠だ。それは単なる「画面越しの診療」にとどまらない。医療DX(デジタルトランスフォーメーション) を背景に、AIを活用し、多職種が連携する診療プラットフォームへと進化させることができれば、限られた医療資源を最大限に活用する新たな地域医療の姿が見えてくる。オンライン診療と医療DXの先進事例と政策の最前線から現在地を整理し、次世代医療のあり方を展望する。


【出席者】(順不同・敬称略) ※肩書は2025年11月時点
橋本 岳(東京財団上席フェロー、川崎医療福祉大学医療福祉マネジメント学部特任教授、前衆議院議員)※コーディネーター
佐原 博之(公益社団法人日本医師会常任理事)
石川 賀代(一般社団法人日本医療法人協会副会)
森 真弘(厚生労働省大臣官房医薬産業振興・医療情報審議官)
伊関 友伸(城西大学経営学部教授)

医療政策サロンについて
東京財団では、日本の医療政策に関わる多様な立場の方々をお招きし、自由に意見を交わせる場として「医療政策サロン」を開催しています。医療政策は、医療提供者、患者、保険者、行政など、さまざまな関係者が関わる複雑なプロセスです。こうした関係者間の対話が不足すると、政策が現場に根づかず、望ましくない結果を招くこともあります。本サロンでは、公式な審議の場とは異なり、自由に意見交換できる場をつくり、「医療政策」をテーマに、さまざまな角度から深掘りしていきます。

オンライン診療は地域医療を未来へつなぐ新しい力

へき地の郵便局をオンライン診療の舞台に

橋本岳 東京財団上席フェロー(以下、橋本) 本日のテーマは「医療DXとオンライン診療」で、おもな論点は3つあります。第1に、過疎地域や高齢化が進む都市部でオンライン診療をどう有効活用するか。第2に、難症例を地元病院に任せ、オンラインで簡易な診療だけを行う「いいとこ取り」モデルへの批判にいかに向き合い対策するか。第3に、医療DXのあり方。すなわちオンライン診療と情報共有をセットで進め、質を高める仕組みをいかに構築するか。
まずはみなさまに順にご発言いただき、その後ディスカッションに移ります。最初は佐原さん、お願いします。

佐原博之 日本医師会常任理事(以下、佐原) 私は石川県七尾市の和倉温泉駅前で医院を営み、また能登島で特養やデイサービスなどの運営にも携わっています。本日は、私が取り組んできた「へき地の郵便局を活用したオンライン診療」についてお話しします。
オンライン診療は医療機関へのアクセスが難しい地域こそ効果的ですが、そういった地域の住民の多くはICTに不慣れな高齢者です。この課題は、近くにサポートしてくれる人がいる環境を整えれば解決できるのではないかと考えました。その条件、「どの地域にもある」「通信環境が整っている」「セキュリティ意識が高く金銭管理に長けている」――を満たしたのが郵便局でした。この着想は自見英子(はなこ)前地方創生相との雑談から生まれ、2020年に私が日本医師会の将来ビジョン委員会委員長を務めていた際、答申に盛り込みました。その2年後、総務省の実証事業として動き出し、私がお引き受けすることになりました。

スタッフのサポートで無理なく利用可能に

20235月、厚労省通知でへき地の郵便局などに医師の常駐しないオンライン診療所を設置することが認められ、同年11月に実証を開始しました。舞台は富山県境にある人口700人弱の七尾市南大呑(おおのみ)地区です。患者は郵便局へ行き、スタッフのサポートを受けながら画面越しに受診します。服薬指導から会計まで現地で完了し、薬は後日配送されます。診察中、スタッフは席を外し、プライバシーも確保します。
受診したのは60代〜80代の患者11名(のべ13回)。関係者間で「年明けからさらに周知を」と話していた矢先、202411日に能登半島地震が発生し、利用者が増えなかった点は心残りです。
特徴的だったのは、受診者の半数近くがスマホを持たない、あるいは通話専用であること。それでもスタッフの支援により無理なく利用できました。アンケートでは「通院時間の節約になる」と利便性を評価する声が多く、満足度は総じて高い結果でした。

実用化に向けた課題

一方、費用負担の問題は避けて通れません。今回は実証実験のため無料でしたが、今後手数料が発生すれば利用をためらう声があります。機器の設置費用に加え、通信費やアプリ利用料、郵便局の場所代、人件費などランニングコストは少なくありません。これらを誰が負担するのか。社会インフラとして定着させるには、公的補助が欠かせません。
また、地域医療への影響にも配慮が必要です。オンライン診療はあくまで「かかりつけ医の対面診療の補完」であるべきです。今回は地元医院の患者が対面の合間にオンラインを利用するかたちに徹しました。重症化や急変時への対応を考えると地域医療機関との連携は必須です。利便性だけを追求して地元の医院が衰退しては本末転倒です。地元医師会など関係者が密に協議し、地域医療の質を底上げするための「公益的取り組み」として育てていく視点が欠かせません。
「オンライン診療の指針」では、医師が都度、実施の可否を医学的に判断し、不適切なら速やかに対面へ切り替えること、また、オンライン診療を実施する医師自らが対応できないことが想定される場合、事前に紹介先医療機関への情報共有体制を整えることが明記されています。こうした情報共有と連携も重要な課題です。

公益的に進めることが必要

20256月、医療四職能団体や日本郵便、各省庁などによる「公益的なオンライン診療を推進する協議会」を設立しました。へき地などに住むICTに不慣れな高齢者らを対象に、郵便局などを活用した公益的オンライン診療を官民で推進します。
実証でへき地等の郵便局におけるオンライン診療の有効性は示されました。今後求められるのは補助金などによるコスト支援であり、そして地域医療と患者の安全を守るために地域医師会など関係者が連携しながら公益的に進めることです。

多職種協働×生成AI×電子カルテで拓くNext Stage

橋本 実証実験を行い、好評を得られたとのことで、震災がなければさらに大きな成果につながっていたのではないかと推察します。ではつづいて石川さん、お願いします

石川賀代 日本医療法人協会副会長(以下、石川) 私どものHITO病院は愛媛県四国中央市(人口8万人弱、高齢化率34%)にあります。当院では2017年から院内DXを徹底的に進めてきました。オンライン診療そのものを大規模に展開しているわけではないものの、未来型オンライン診療へ進化させるための土台は既に整っています。本日は、私たちが描くオンライン診療の未来像についてお話しします。
今、オンライン診療を語る必要がある背景には、日本の医療が直面する「3つの制約」があります。第1に人口減少による医師・看護師の不足、第2に高齢化による医療ニーズの急増、第3に働き方改革による医師の労働時間制限です。これらは構造的な問題であり、単に人を増やすだけでは解決できません。地域医療を持続させるためには、遠隔医療の活用が不可欠です。
これまでのオンライン診療は「医師と患者の11の遠隔診療」として理解されてきました。しかし、多疾患を抱える高齢患者が増える中で、医師1人が全てを担うのは限界があります。また、診療中の情報整理や記録が医師の手作業に依存し、業務負荷や情報の断絶も生じがちです。
これからのオンライン診療は、「1人の医師による診療」から「多職種が協働し、AIが支える診療プラットフォーム」へ進化させていく必要があります。


院内DXから得た知見

当院では将来の人手不足を見据え、2017年からDXを本格化させました。
具体策の一つは、全スタッフへのスマホ貸与です。リアルタイムで情報を共有できるようになり、各職種が専門性を活かして即時判断できるようになりました。これにより、医師・看護師の負担は大きく軽減されました。
2つ目は、マイクロソフトのTeams(チームズ)とスマートグラスの活用です。専門職が遠隔で現場を支援できるようになり、例として言語聴覚士(ST)が施設での食事場面を遠隔指導した結果、誤嚥性肺炎による再入院率ゼロという成果も出ています。
3つ目は、電子カルテへのAI活用です。この半年ほどで、音声入力や自動要約が実用レベルに達し、カルテ記録のあり方そのものが変わりつつあります。
こうした現場の負担を増やさず質を落とさない仕組みの上に、私たちは次世代のオンライン診療像を描いています。 

オンライン診療の未来像

私たちが構想するオンライン診療モデルでは、診療の各プロセスをAIと多職種が支えます。
診療前にはAIによるトリアージと専門職の選定を行います。AI問診で緊急度を判断し、最適な専門職を自動で選定します。
診療中にはチームズ等で多職種が同時参加します。医師、看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士などが状況に応じて参加し、在宅療養への多面的なアプローチをその場で提供します。
診療後にはAIが資料を自動生成。診療内容をAIが解析し、病状説明や生活指導、服薬管理などの資料を作成。患者や家族と共有することで再入院の抑制につながります。
特に人材の限られる地域では、訪問診療とオンライン診療の組み合わせが不可欠になります。医師は対面必須の場面に集中し、それ以外は多職種がオンラインでフォローする――この役割分担により、医師の移動負担を減らしながら、より多くの患者を診ることが可能になります。今後、省力化が重要なフェーズになる中、地域医療を持続させる上で、このモデルは適していると考えています。

医療を支える「OS」として

2026年から本格化する医療DXでは、電子カルテ情報の標準化と利活用が大きなテーマになります。これまでカルテは診療報酬のための書類という側面が強くありました。しかし今後は、蓄積されたデータをいかに患者に還元し、予防医療や地域全体の健康寿命延伸につなげるかという視点が欠かせません。
オンライン診療を通じて得られる音声や記録がデータとして蓄積されれば、「ナレッジが循環する医療」が現実のものとなります。オンライン診療は医師不足や地域格差を埋める国家的インフラになりえます。それは単なる効率化の技術ではなく、地域医療を未来へつなぎつづける「新しい力」です。
私たちは、AIと多職種連携を活用し、院内DXで築いた基盤を地域へ拡げることで、オンライン診療を「医療を支えるOS(基盤)」として再定義し、限られた医療資源の中でも「質の高い医療」を提供し続けられる未来を実現できると考えています。

 (20251127日開催。取材・構成・撮影 東京財団)
⇒後編(近日公開予定)


【出席者略歴】

佐原 博之(さはら ひろゆき)
公益社団法人日本医師会常任理事
石川県出身、群馬大卒。石川県七尾市でクリニックや特養等の運営に携わり、石川県医師会で13年理事を務める。
日本医師会では医師会将来ビジョン委員長を3期務め、医師会組織強化や医療政策関連の複数の委員会に参加のほか、医療IT委員会の委員長として医療DX推進に関する議論も進めた。現在、医療法人社団和泉会 さはらファミリークリニック院長、医療法人社団和泉会理事長、社会福祉法人石龍会理事長。

石川 賀代(いしかわ かよ)
一般社団法人日本医療法人協会副会長
2002年医療法人綮愛会石川病院(現・社会医療法人石川記念会HITO病院)入職、2010年より理事長・病院長。2012HITO病院開設。現在、石川ヘルスケアグループ総院長を兼務。病院にスマートフォンを導入し、地域における積極的なICT活用による働き方改革を推進、ひとの「いきるを支える」医療提供を目指すとともに、医療分野におけるDX推進に尽力する。公職として日本医療法人協会 副会長の他、202410月より日本病院DX推進協会を発足、代表理事を務める。

真弘(もり まさひろ)
厚生労働省大臣官房医薬産業振興・医療情報審議官
1995年に厚生労働省に入省。2005年に在アメリカ日本大使館一等書記官、2013年に岡山市保健福祉局長、2015年にJETRO ニューヨーク年金部長、2018年に総理大臣官邸内閣参事官、2022年に保険局総務課長を歴任。2023年には大臣官房会計課長、2024年に大臣官房審議官に就任。20257月から厚生労働省医薬産業振興・医療情報審議官。

伊関 友伸(いせき ともとし)
城西大学経営学部教授
1987年埼玉県入庁、県立病院課、精神保健総合センターなどを経て、2004年城西大学に入職。研究テーマは、公立病院の経営、保健・医療・福祉のマネジメント。博士(福祉経営)日本福祉大学より授与。著書に『新型コロナから再生する自治体病院』(ぎょうせい)、『自治体病院の歴史―住民医療の歩みとこれから』(三輪書店)など。

橋本 岳(はしもと がく)
東京財団上席フェロー、川崎医療福祉大学医療福祉マネジメント学部特任教授、前衆議院議員
1996年慶應義塾大学環境情報学部卒業、1998年同大学大学院政策メディア研究科修士課程修了、株式会社三菱総合研究所入社。2005年衆議院議員初当選(以降当選5回)。その間、厚生労働大臣政務官、厚生労働副大臣などを歴任。2025年より川崎医療福祉大学医療福祉マネジメント学部特任教授。

  • 研究分野・主な関心領域
    社会保障政策/医療DX

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