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【開催報告】医療DXとオンライン診療<後編>医療政策サロン
March 23, 2026
深刻な人材不足・地域格差に直面する中、地域医療を持続させるためにはオンライン診療の活用は不可欠だ。それは単なる「画面越しの診療」にとどまらない。医療DX(デジタルトランスフォーメーション) を背景に、AIを活用し、多職種が連携する診療プラットフォームへと進化させることができれば、限られた医療資源を最大限に活用する新たな地域医療の姿が見えてくる。オンライン診療と医療DXの先進事例と政策の最前線から現在地を整理し、次世代医療のあり方を展望する。
【出席者】(順不同・敬称略) ※肩書は2025年11月時点
橋本 岳(東京財団上席フェロー、川崎医療福祉大学医療福祉マネジメント学部特任教授、前衆議院議員)※コーディネーター
佐原 博之(公益社団法人日本医師会常任理事)
石川 賀代(一般社団法人日本医療法人協会副会)
森 真弘(厚生労働省大臣官房医薬産業振興・医療情報審議官)
伊関 友伸(城西大学経営学部教授)
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医療政策サロンについて |
医療DXが目指すもの――「誰一人取り残さない」医療を実現する社会のかたちへの変革
「医療DX」「オンライン診療」「多職種連携」三位一体で新しい地域医療をつくる
橋本 本日の議論を総括するような示唆に富むお話でした。ではつづいて森さん、お願いします。
森真弘 厚生労働省大臣官房医薬産業振興・医療情報審議官(以下、森) これからの医療における最大の課題は、「財源」以上に「人材」をどう確保するかです。医療DX、オンライン診療、多職種連携・タスクシフトを一体的に進めることが、生産性向上や処遇改善につながり、ひいては人材確保にも寄与します。厚労省としては、1人あたりの生産性を高めるあらゆるツールを生み出すための取り組みを進めているところです。
まず、医療DXの大枠を整理します。

現場では、依然として多くの事務作業や情報共有が手作業に依存しています。これを電子化し、標準化し、外部保存まで一体的に行い大規模解析を可能にする。医療DXが目指すのは、こうした仕組みにより、より良質な医療・ケアを受けられる社会のかたちに変えていくことです。
医療DXの柱の一つが、医療・介護・行政のデータを横断的につなぐ基盤「全国医療情報プラットフォーム」の構築です。つなぐ情報は、医療分野のオンライン資格等確認システム、電子処方箋、電子カルテ情報、特定健診等データ、また介護分野の資格・要介護認定・ケアプラン、科学的介護情報システム(LIFE)、さらに行政分野の公費助成情報、予防接種、母子保健、自治体検診等を蓄積する情報基盤(PMH)などです。これが整備されれば、例えば緊急時に禁忌情報や接種歴を即座に参照できるようになります。
第2の柱は「電子カルテ情報の標準化」です。健診結果、診療情報提供書、退院時サマリーの3文書と、疾病名・検査・処方など6種類の情報を「電子カルテ情報共有サービス」で共有し、医療機関や患者が閲覧できる環境を整備します。
ただし、電子カルテ普及率は一般病院66%、診療所55%と依然として低いのが現状です。そのため、国として「標準型電子カルテ」を開発しています。導入しやすい「エントリーモデル」や、費用負担を抑える「クラウドネイティブ型」を準備し、2025年度中に仕様確定、2026年夏に普及計画を策定する予定です。
電子処方箋は、薬局での導入は進んでいますが、医療機関側は遅れています。標準型電子カルテと併せての導入を促し、地域での情報連携を強化します。
第3の柱は「診療報酬改定DX」です。医療機関の負担を最小化するため、共通マスタ・コードや共通算定モジュールを提供し、全国医療情報プラットフォームと連携させます。中小医療機関でも導入しやすいよう、標準型レセプトコンピュータの提供も検討しています。
また、既存のレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)、診断群分類別包括評価(DPC)、介護データベースなどを仮名化して統合し、創薬・研究・政策立案に活かせる巨大データ基盤を構築します。
医療法改正案のポイント
こうした取り組みを加速させるため、医療法改正案を国会に提出しています。おもなポイントは3つです。第1に、オンライン診療の標準化。これまで行政通知で運用されてきたオンライン診療を法律に明記し、手続きや実施場所(公民館、郵便局など)を明確化します。
第2に、電子カルテ情報共有の推進。全医療機関でデータ活用を可能にし、感染症発生届の自動化なども進めます。
第3に、医療情報の二次利用推進と組織刷新。先述した、医療・介護データを仮名化して統合し、創薬や研究に活用できる仕組みを整えます。また、このデータ基盤を運用するために、社会保険診療報酬支払基金を医療DX推進型の組織へと刷新します。
業務改善・生産性向上の実例
DX基盤に現場の取り組みが加わることで、確かな成果が現れています。
聖マリアンナ医科大学病院では、音声入力や病棟スマホ導入により、1人あたり月間残業が11時間削減しました。
「看護DX計画」を策定した4病院においても、バイタル自動入力により日勤看護師1人あたり月間残業が12時間削減、患者見守りのスマートグラス活用で夜勤看護師の移動距離が平均1.7km削減しました。また、問診業務において電子予診を活用することで患者受付から会計終了時間が平均11分短縮しました。電子予診と電子カルテの連携が進めば、診療フロー全体の効率化はさらに進むと考えられます。
このように個々の取り組みを積み上げることで業務改善と生産性向上が期待できます。あわせて、オンライン診療を上手に組み合わせていくことも必要になります。
オンライン診療は対面診療を補完するもの
ただし、オンライン診療は、「収益目的のいいとこ取り」ではなく、あくまで対面診療を補完し、質を高めるための手段です。対象は、安定した慢性疾患、医療資源の少ない地域、ひきこもり状態の方、感染症流行期のリスク回避などに限られます。
特に「医師間(D to D)」の遠隔医療は、専門医不在の地域を支える重要な手段です。今後拡大が想定される中で、報酬配分や契約形態など制度整備が必要となります。国は2025年度予算で、D to Dの遠隔病理・画像診断、遠隔手術指導に加え、「医師・患者間(D to P)」、「医師・看護師等といる患者間(D to P with N)」のオンライン診療まで幅広く支援しており、実施を通じて課題の洗い出しを進めています。
まずDX基盤を構築する。その上で各取り組みを積み上げていくことで、人口減少地域でも質の高い医療を維持する新たな地域医療のかたちをつくっていきたいと考えています。
地域の事情に即した最善策を探る――へき地における医療DXとオンライン診療
橋本 厚労省として未来を見据えた取り組みを進めていることが伝わってきました。つづいて伊関さん、お願いします。
伊関友伸 城西大学経営学部教授(以下、伊関) へき地医療の実情と、私が実際に関与した地域の取り組みについてお話しします。
日本は本格的な少子高齢社会を迎えています。都市部では後期高齢者の急増により救急搬送が滞り、地方では人口減少が加速し、自治体の存続すら危ぶまれる地域も現れています。
特に深刻なのが18歳人口の減少です。1992年の205万人から現在は120万人前後、2041年には約72万人にまで減少すると見込まれています。従来と同規模で人材を確保するのは不可能です。
また、若手医師の都市志向も強まっており、特に女性医師ではその傾向が顕著です。地方との格差は大きくなる一方です。
こうした背景の中で、へき地医療は既に限界に達しているといえます。主な課題は3つあります。第1に、医師不足の深刻化。無医地区が生まれ、訪問診療にも限界があります。専門科対応は難しく、特に精神科医が一人もいない地域は少なくありません。第2に、移動困難な高齢者への医療提供。交通機関の廃止やタクシー不足、また家族による送迎も難しいという状況です。第3に、救急診療維持の高コスト化。例として北海道・中標津病院では、夜間・休日対応のため札幌から非常勤医を空路で招く必要があり、年間約5億円のコストが生じていました。
医療MaaSの取り組み:熊本県小国町「柴三郎号」
地方での移動困難者の医療アクセスを支える取り組みとして、熊本県・小国公立病院の医療MaaS(次世代移動サービス)「柴三郎号」を紹介します。
北里柴三郎博士の故郷であり、彼の言葉「病を未然に防ぐのが医の道」「人に報いる恩に報いる」「熱と誠」などをあしらった車両「柴三郎号」が地域を巡回しています。
ただし、課題もあります。診療報酬上、過度の加算への警戒があり、全体として抑制的にならざるをえません。公共性は高いのものの、外来より効率性が低いところがあります。また、補助金の多くは車両整備など初期費用に限られており、運営費の継続確保が難しいのが実情です。持続化には行政の主体的な関与が不可欠です。
夜間オンライン診療の取り組み:埼玉県秩父医療圏
次に、夜間救急を守るためのオンライン診療導入の事例を紹介します。
埼玉県秩父医療圏(秩父市、横瀬町、皆野町、長瀞町、小鹿野町の1市4町)では、2025年7月から夜間オンライン診療を民間委託で開始しました。従来は地域の3病院が輪番で二次救急を担当していました。しかし、医師確保の困難から2025年4月に1病院が離脱。残る2病院――秩父市立病院(165床、常勤医25人)・医療法人徳洲会皆野病院(150床、常勤医13人)だけでは負担が重すぎる。特に皆野病院は徳洲会の派遣医に依存しています。こうした状況を受け、地域医療崩壊を防ぐためのやむをえない選択としてオンライン診療窓口が設置されました。
実施主体は、定住自立圏構想の医療部門「ちちぶ医療協議会」(会長・清野和彦秩父市長)。毎日19時〜翌8時に東京都内の医師がスマホで内科・小児科診療を行い、軽症はオンラインで完結。緊急度の高い場合のみ二次救急へつなぎます。
年間運営費は約1,000万円。特別交付税(定住自立圏構想)を財源とし、各自治体の分担金を医療協議会が委託企業へ支払うかたちで運用しています。
現実的で必要性の高い選択肢
地方では夜間救急の維持が年々難しくなっています。医師の高齢化が進み、大学医局からの応援も働き方改革で困難になっている。非常勤医の確保も高コスト化しているため、オンライン診療は現実的で必要性の高い選択肢となりつつあります。もちろん、慎重な運用は必要です。しかし、地域の事情に即した最善策を探ることが求められています。
ディスカッション:DXを背景に訪問とオンラインを組み合わせて
橋本 ありがとうございました。ここからディスカッションに入ります。今ご紹介いただいた秩父圏のように、切実な状況を背景にオンライン診療の活用が広がりつつあります。佐原さんはこの動きをどうとらえていますか。
佐原 秩父圏の事例は、まさに公益的なオンライン診療であり、非常に良い取り組みだと思います。懸念するのは、ビジネスライクなオンライン診療が無秩序に参入し、地域の医療機関を経営難に陥れるリスクです。能登半島地震の復興でも、地元の医療機関が再建へ動き出す中で無秩序な介入があれば妨げになります。今後、医療法改正で制度整備が進む中で、地域の関係者が連携して進めることが重要です。
山口県でも休日オンライン診療を実施しています。東京の医師が地域の医療機関を通じて診療することで、データの継続性を確保しています。診療の継続性は極めて重要です。
橋本 医療DXを背景に、訪問医療とオンライン診療を組み合わせていくのが未来の正しい姿だと思います。石川さん、自院の取り組みや地域連携について補足いただけますか。
石川 現在は当グループ内での運用が中心ですが、地域のケアマネジャーとの連携を始めています。期待しているのは共通カルテです。10年ほど前に地域の医療者間の連携を試みましたが、当時は時期尚早でした。データ共有が本格化すれば、地域連携の景色は大きく変わるはずです。
佐原 電子カルテ情報の共有には、国が進める「全国医療情報プラットフォーム」と「地域医療情報連携ネットワーク(地連NW)」の併用が有効です。石川県では、すべての基幹病院が地連NWの「ID-Link(アイディリンク)」を導入しています。能登半島地震の際には、転院患者のカルテ、画像や検査結果を即座に共有でき、たいへん役立ちました。ただし、維持費が重い面があります。一方、全国医療情報プラットフォームはより薄く幅広い情報を把握できます。同じく地震時には、オンライン資格確認等システムから薬剤情報を得ることができて重宝しました。両者を併用すれば大概のことに対応できます。

国の補助だけでなく地方財源の活用も
橋本 森さん、こうした取り組みに対してどのような支援が見込まれるでしょうか。
森 公民館でのオンライン診療など、地域ニーズに基づく事業は公益性が高く、自治体が主体となる中で国として支援する余地はありえます。
電子カルテを導入して所内機器との接続に必要な改修費は、既に医療情報化支援基金(ICT基金)で対応しています。標準型電子カルテについては先ほど触れた通り、普及を後押しする仕組みを整える方針です。医療DX推進体制整備加算などと組み合わせ、医療機関に過度な負担を強いない仕組みを構築したいと考えています。
伊関 国の一律の補助だけでなく、特別交付税などの地方財源を使いやすくメニュー化することも有効だと思います。
森 MaaSの領域ではデジタル田園都市国家構想の交付金を自治体が自由に活用し、運営している例があります。自由度の高い自治体系の予算と組み合わせるのは自然な形だと感じています。
佐原 一点、医師会は電子カルテの「義務化」には反対の立場です。特に高齢医師には操作やセキュリティへの不安が根強い。義務化せずともいずれ世代交代で普及します。今は標準化の推進が優先です。
森 法律上の整理としては、普及率100%を政府の努力目標とする法修正はありましたが、医療機関への義務化は行なっていません。
石川 オンプレミス型の電子カルテについては、更新費用が高額で、病院にとって大きな負担です。また、ベンダーロックインの問題もあります。クラウド化が進む中ですが、ベンダーが更新費用で収益を確保するビジネスモデルに対しては、一定の規制をお願いしたいところです。
地域が知恵を出し合い医療を守る
橋本 では最後に一言ずつお願いします。
佐原 医療DXの推進は必要です。ただ、そこでよくいわれる「誰一人取り残さない」とは、無理に全員をデジタル化することではありません。デジタル化によって、誰一人として日本の医療制度からこぼれ落ちないようにすることが大前提です。
石川 人が集まらない以上、地域医療は崩壊しかねないという危機感を早くから持っていました。DXとは単なるデジタル化ではなく、トランスフォーメーション(変革)です。手段を目的化しないよう、本質を見据える必要があります。
森 国はDXのメリットを十分伝えてきたとはいえません。医師、看護師、患者それぞれに利点があることを、事例を通じてしっかり示していきたいと思います。
伊関 DXは不足する医療人材を補う「ツール」です。オンライン診療は、野放図でも現状維持でもなく、地域の医師や住民が知恵を出し合い、適切に医療を残す努力が必要です。
橋本 「オンライン診療は地域医療を未来につなぐ新しい力」という石川先生の言葉は、これからの医療に明るい展望を与えるものです。日本全体でこの「新しい地域医療の姿」をかたちにできるよう、今後も議論を深めてきたいと思います。本日はありがとうございました。
(2025年11月27日開催。取材・構成・撮影 東京財団)
⇒前編はこちら
【出席者略歴】
佐原 博之(さはら ひろゆき)
公益社団法人日本医師会常任理事
石川県出身、群馬大卒。石川県七尾市でクリニックや特養等の運営に携わり、石川県
医師会で13年理事を務める。
日本医師会では医師会将来ビジョン委員長を3期務め、医師会組織強化や医療政策関連の複数の委員会に参加のほか、医療IT委員会の委員長として医療DX推進に関する議論も進めた。現在、医療法人社団和泉会 さはらファミリークリニック院長、医療法人社団和泉会理事長、社会福祉法人石龍会理事長。
石川 賀代(いしかわ かよ)
一般社団法人日本医療法人協会副会長
2002年医療法人綮愛会石川病院(現・社会医療法人石川記念会HITO病院)入職、2010年より理事長・病院長。2012年HITO病院開設。現在、石川ヘルスケアグループ総院長を兼務。病院にスマートフォンを導入し、地域における積極的なICT活用による働き方改革を推進、ひとの「いきるを支える」医療提供を目指すとともに、医療分野におけるDX推進に尽力する。公職として日本医療法人協会 副会長の他、2024年10月より日本病院DX推進協会を発足、代表理事を務める。
森 真弘(もり まさひろ)
厚生労働省大臣官房医薬産業振興・医療情報審議官
1995年に厚生労働省に入省。2005年に在アメリカ日本大使館一等書記官、2013年に岡山市保健福祉局長、2015年にJETRO ニューヨーク年金部長、2018年に総理大臣官邸内閣参事官、2022年に保険局総務課長を歴任。2023年には大臣官房会計課長、2024年に大臣官房審議官に就任。2025年7月から厚生労働省医薬産業振興・医療情報審議官。
伊関 友伸(いせき ともとし)
城西大学経営学部教授
1987年埼玉県入庁、県立病院課、精神保健総合センターなどを経て、2004年城西大学に入職。研究テーマは、公立病院の経営、保健・医療・福祉のマネジメント。博士(福祉経営)日本福祉大学より授与。著書に『新型コロナから再生する自治体病院』(ぎょうせい)、『自治体病院の歴史―住民医療の歩みとこれから』(三輪書店)など。
橋本 岳(はしもと がく)
東京財団上席フェロー、川崎医療福祉大学医療福祉マネジメント学部特任教授、前衆議院議員
1996年慶應義塾大学環境情報学部卒業、1998年同大学大学院政策メディア研究科修士課程修了、株式会社三菱総合研究所入社。2005年衆議院議員初当選(以降当選5回)。その間、厚生労働大臣政務官、厚生労働副大臣などを歴任。2025年より川崎医療福祉大学医療福祉マネジメント学部特任教授。
