【人材育成】自由勝ち取った東独で反移民政党台頭<岡部伸の世界探訪ドイツ③> | 研究プログラム | 東京財団

東京財団

詳細検索

東京財団

【人材育成】自由勝ち取った東独で反移民政党台頭<岡部伸の世界探訪ドイツ③>
シュタージ博物館で公開された簡素な執務室(岡部伸撮影、以下同)

【人材育成】自由勝ち取った東独で反移民政党台頭<岡部伸の世界探訪ドイツ③>

May 25, 2026

ヤングリーダー奨学基金プログラムは、日本財団が1987年に将来の世界を担うリーダーの育成を目指して立ち上げ、1997年からは東京財団が運営を行っている、世界の大学の人文社会科学分野の大学院生を対象に奨学金を給付する奨学制度。日本を含む世界44か国の69大学・大学連合に各々100万米ドルの基金を寄贈し、17,000名を超える奨学生(Sylff「シルフ」フェロー)を輩出してきた。Sylffフェローは卒業後、外相や中央銀行総裁などを務めたり、学術研究、ビジネス、非営利セクターなど様々な分野の第一線で活躍している。

 ※ライプチヒ大学のSylffフェローについては「『音楽の都』で育つ民主化の指導者たち」をご覧ください。

「平和革命」は、ライプチヒの市民が「Wir sind das Volk(われわれこそが国民だ)」と叫び、非暴力で独裁体制を打倒した。このスローガンは本来、主権が国家ではなく市民にあるという民主主義の原点を示すものだった。

しかし現在、反移民を掲げる右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が、この標語を掲げて旧東ドイツでの党勢を拡大している。

2025年2月の総選挙では、東部すべての州で第1位になり、旧東ドイツでの支持率が40%近くに達し、152議席を獲得して第2党へ躍進。旧東ドイツの自治体ではAfD系首長誕生が相次いでいる。独情報機関はAfDの民族主義的主張は、民主主義に背くと認定した。歴史の皮肉と言わざるを得ない。

旧東ドイツでAfD支持が広がる理由について、ライプチヒにあるシュタージ記念館のホリッツァー館長は、「政党と、それに投票する人々を同一視してはいけない」と冷静な視点を示す。多くはAfDの政策への賛成票ではなく、既成の政党への不満から『別の選択肢』を試す、いわば抗議票だと指摘した。背景には、統一後、埋まらない東西格差と景気低迷や移民増による現政権への不満がある。

東独ラストベルトのルサンチマン

統一から35年を経ても、旧東ドイツでは、旧西ドイツに比べて一人あたりGDPが約7割、賃金も約8割に留まる。大企業本社や意思決定機能は西側に集中する。統一直後の産業崩壊と失業の記憶も重なり、「自分たちは取り残された」という意識は根強い。

「東側の市民にはベルリンの壁崩壊からの35年は痛みを伴う移行期だった。そこに2015年、100万人を超える難民がなだれ込んだ欧州難民危機が起きた。しかし、政府に準備がなかった」と指摘する。

「自分たちはしてもらえなかったのに、政府は難民に住居を与え、生活費まで支給しているというルサンチマン(恨み)が噴き出した。東ドイツ時代、経済の競争力は西側より劣り、ドイツ統一で西側に吸収され、工場は閉鎖された」

冷戦時代、繁栄したライプチヒなどの国営工場は競争力を失い、倒産し、若くて有能な労働者は西側に出て行った。その数は150万人と推定されている。残されたのは低技能者か高年齢の労働者か失業者だった。多くの地域で過疎化が起こり、停滞した。旧東ドイツにも、トランプ米大統領を支持する米中西部と同様の高失業率に悩むさびついた旧工業地帯「ラストベルト」が出現していた。

取り残された「二等市民」ソ連に郷愁

「旧東ドイツ市民は資本主義のメカニズムを理解していなかった。若者や起業家は資本主義に順応できたが、適応できない中高年層は仕事を失い、年金も少なく、裏切られて取り残されたという思いを募らせていた」

ホリッツァー氏が力説する背景には、旧東ドイツ地域住民には再統一後、「二等市民」として扱われてきたとの被害者意識がある。だから「社会主義国の優等生」と誇れた冷戦時代、後ろ盾だったソ連に郷愁を感じる。共産主義時代、自由はなかったが、そこそこの暮らしが出来た格差のない「平等社会」を懐かしむ。ドイツ東部を基盤とする左派野党は、NATO(北大西洋条約機構)解体を訴えてきた。東部に残る親ロシア感情と反移民のAfDの関連を考慮する必要もあるだろう。共通するのはドイツ政治のメインストリームから見放されたという隔絶感だ。

転機となった難民危機とウクライナ侵略

2015年の欧州難民危機で中東シリアを中心に殺到した約100万人の難民に門戸を開いた。そこに22年2月、ロシアが侵攻したウクライナから難民、移民が押し寄せた。24年までの10年間で約300万人を受け入れた。ドイツは今もなお、この負の遺産と向き合っている。とりわけ旧東ドイツの外国人人口は、旧西ドイツと比べて急伸し、23年には2016年対比で約2倍になった。

さらにウクライナ侵攻を機に、エネルギー高騰とインフレにより国民が生活苦に直面し、「移民への政府支援が手厚い」と人々はスケープゴートを難民、移民に求めた。こうした不満を巧みにすくい上げたのがAfDだった。

「われわれこそが国民だ」というスローガンは、もはや自由の宣言ではなく、「外部の他者を排除する主体」という意味に変質した。かつて体制に向けられた抗議の言葉が、いまは移民や政治エリートへと向けられている。

「AfDが主張していることは事実ではない。感情に過ぎない。支持を広げているが、長期的に持続できる戦略ではない」。ホリッツァー館長は、この現象を東独特有の問題に矮小化すべきではないと訴える。

「これは全ドイツ、トランプ大統領を再び選択した米国や欧州に共通している。時代の変化やグローバル企業が生み出す恐怖を人々は管理できていない」。                                    

総人口約8500万人中、2250万人が外国人か移民の背景をもつ国籍保持者で国民の30%、約3分の1が外国にルーツ持つ移民社会となったドイツは、米国に次ぐ移民大国となった。反移民感情の高まりが、全国的なAfDの台頭を後押したといえる。

トランプ米政権とも一定の協力

ドイツの連邦憲法擁護庁が2025年2月、AfDを右翼過激派に指定すると、マルコ・ルビオ米国務長官が「偽装された専制」と批判するなどAfDとトランプ米政権は一定の関係があるようだ。確かに欧州ではポピュリズム政党が躍進している。オーストリアでは2024年9月の総選挙で反移民「極右」と称される自由党が第1党になり、英国でも反移民を掲げるリフォームUKが第1党と支持を強める。またAfDの支持は旧西ドイツでも広がっている。2026年3月、西部ラインラント・プファルツ州議会選の得票率が前回から2倍超の19.5%と躍進した。

その上で、ホリッツァー館長は「1989年には社会に活発な議論の文化があった。しかし今は、特定の問題を語るだけで『極右』とレッテルを貼られる」と保守的な意見と極右思想を安易に同一視する風潮に警鐘を鳴らす。

「民主主義とは意見を交わすことだ。『平和革命』では、誰もが意見を表明できる社会のために街頭に立った」。平和革命の記憶は、対話によって社会を変えるという原点を、いま改めて問いかけている。

神通力失ったドイツ経済

右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の台頭の背景には、長期化するドイツ経済の低迷がある。かつて欧州経済を牽引した「成長モデル」は、いまや揺らいでいる。

戦後ドイツは、ロシア産天然ガスという安価で安定したエネルギーを基盤に、化学、鉄鋼、製造業など競争力の高い産業構造を築いてきた。しかし、ウクライナ侵攻で対露融和から脱却し、制裁に踏み切ったことで、この前提は崩れた。代替として液化天然ガス(LNG)や再生可能エネルギーへの転換を急いだものの、エネルギーコストの急騰は避けられず、企業の国際競争力を大きく損なった。

さらに追い打ちをかけたのが、福島第一原子力発電所事故後の脱原発政策である。原子力発電の停止により電力価格は上昇し、企業の国外移転を招いた。エネルギー供給は産業需要に追いつかず、石油、化学、金属、製紙といった基幹産業の生産は落ち込みが続く。

主力の自動車産業も苦境に立つ。かつて最大の市場だった中国は、いまや最大の競争相手へと変貌した。技術移転を通じて中国メーカーが急速に力をつけ、電気自動車(EV)分野では欧州市場を席巻しつつある。一方でドイツ勢はEVシフトへの対応に苦慮し、産業基盤の地盤沈下が進んでいる。

安全保障を米国に依存し、エネルギーをロシアに頼り、輸出市場を中国に求める―この三位一体の成長モデルは、もはや機能不全に陥った。同盟国を軽視するトランプ政権の再登場で「力の論理」が強まる中、世界秩序の不確実性は一段と高まっている。

では、打開策はあるのか。元ドイツ外国政策協会(DGAP)ロシア部長で、ユーラシア協会会長のアレクサンダー・ラールはこう指摘する。「欧州の結束を優先した『脱ロシア』は重要だ。しかし、ウクライナ戦争が停戦に向かえば、エネルギー政策の観点からロシアとの対話再開も選択肢となり得る」。現実主義に立った再調整を求める声である。

かつて「経済の奇跡」と称されたドイツは、いまや構造転換の岐路に立つ。神通力を失った経済モデルをいかに再設計できるか。その成否は、欧州全体の将来をも左右する。(文責: 岡部伸)

▼<岡部伸の世界探訪ドイツ①、②>はこちら

【人材育成】「音楽の都」で育つ民主化の指導者たち——ライプチヒ大学Sylffフェロー <岡部伸の世界探訪ドイツ①>

【人材育成】冷戦終結導いた「月曜デモ」<岡部伸の世界探訪ドイツ②>

Sylff Association公式ウェブサイト(英語)はこちら

ヤングリーダー奨学基金プログラムSylff Association)の詳細はこちら

    • ヤングリーダー奨学基金プログラム / Sylff
    • ヤングリーダー奨学基金プログラム / Sylff

注目コンテンツ

BY THIS AUTHOR

この研究者のコンテンツ

0%

INQUIRIES

お問合せ

取材のお申込みやお問合せは
こちらのフォームより送信してください。

お問合せフォーム