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【論考】人口減少社会の地域医療機関におけるDX・AI活用の展開
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【論考】人口減少社会の地域医療機関におけるDX・AI活用の展開

May 12, 2026

1.はじめに
2.HITO病院の取り組み
3.医療機関における生成AI活用の動向
4.医療機関における地域接続の取り組み
5.まとめ

1.はじめに

人口減少社会が進展し、地域医療機関には効率的・持続可能な医療提供体制の構築が求められている。2050年には総人口が5,000人未満の市区町村は2020年と比較して約1.7倍に増加すると推計されており[1]、そうした中で、患者数の減少や高齢化に伴う急性期から回復・維持期への医療ニーズのシフト、医療従事者の人手不足等の課題への対応を迫られている。

また、少子化や未婚の増加による単身世帯の増加や、地縁の希薄化による支え合い機能の低下が、地域医療機関を核とする地域包括ケアシステムに新たな課題を投げかけている。医療提供だけでなく、介護との連携や、入退院支援等を通じて在宅環境の維持を含めた包括的なサポートを提供する機能が求められている。

これらの課題に対処するために、地域医療機関ではDXの推進、特に近年ではAIの活用が幅広く模索されている。 

2.HITO病院の取り組み

DX推進やAI活用による業務効率化、地域連携に関して先進的な取り組みを進める地域医療機関として、病床数228床の急性期病院である、HITO病院(愛媛県四国中央市)[2]を紹介する。四国中央市は、愛媛県の東端の高速道路が交差する四国の交通の要衝に所在しており、製紙業が立地し、瀬戸内海の豊かな水資源に恵まれた自治体である。そのような地域であっても、総人口は2020年に約8.3万人のところ、2050年に5.1万人まで低下すると推計されており[3]、前述の課題が顕在化してきている状況である。 

1DX基盤の整備 

HITO病院では2008年に電子カルテを導入したが、その後2013年に新病院の開院を経て、2017年から「未来創出HITOプロジェクト」として本格的にDX推進を開始した[4]
そうした中で、脳神経外科の常勤医が1名に減少したことを契機として、iPhoneとグループチャットの導入が試験的になされ、その業務削減効果が明らかになったことから、2018年に院内PHSの更新タイミングでiPhoneとグループチャットの導入拡大を決定した。また、グループチャットの音声入力と電子カルテへの転送機能、iPhone用電子カルテを開発した。グループチャットの導入により、医師への相談やスタッフ間の患者情報の交換、日勤・夜勤交代時の申し送りの効率化を狙った。また、移動中のグループチャットや電子カルテへの音声入力による隙間時間の有効活用も期待された。

当初はリハビリテーション部を中心に導入し、業務効率化によるリハビリテーション実施単位数の増加により導入費用を捻出する計画を立て、計画通りにリハビリテーション実施単位数の増加を確認した上でiPhoneの導入を拡大(全職員11台配付)した。その結果、2020年には病院全体で時間外勤務が前年比54.1%削減と、大きな効果を上げることができた。また、看護師の病室とナースステーション間の移動が減少し、1日の移動距離が平均8kmから3kmに大幅に削減された。

電子カルテ導入に始まるDX基盤の整備を現実の業務削減に繋げたことが、その後のHITO病院の継続的なDX推進の基盤になっている。HITO病院は、iPhone導入そのものではなく、グループチャット導入時の適切な運用設計が、業務効率化を実現する上での要点であると評価している(図表1)。

 

図表1 グループチャット運用設計の要点(出典)HITO病院提供資料

 

2PHRで患者のヘルスケアをサポート

HITO病院は、DX基盤から抽出されるPHRPersonal Health Record)を活用して、地域の患者のヘルスケアのサポートを試みている。これは、人口減少社会における地域医療機関として、予防医療の促進により患者の増加を抑制し、医療提供体制の持続可能性を高めていくことを企図した自主的な取り組みである。

2017年には「HITO Bar」を開設し、患者のPHR管理アプリの導入の支援を開始した。その後、PSP社が提供する病院患者向けのPHR管理アプリ「NOBORI[5]を導入し、健康診断の結果やレントゲン・CT等の画像を患者自身が閲覧できる仕組みを提供している。

一方で、健診結果や検査画像等のデータは、患者自身が閲覧して理解することが難しく、患者のヘルスケア向上に向けた具体的な行動に繋がりにくい可能性がある。そこでHITO病院では、DX基盤から抽出されるPHRを直接開示するのではなく、生成AIを活用して患者向けの情報に再構成して提供する検討を行っている(図表2)。患者のヘルスケアを実効的にサポートする取り組みとして、実現が期待される。

 

図表2 生成AIを活用した医療情報の再構成 (出典)HITO病院提供資料

 

3)医療・介護の枠組みを超えた地域社会との連携強化

高齢者医療ニーズの増加に対応し、地域包括ケアの枠組みのなかで医療機関の地域、介護との連携が進んでいるが、HITO病院は従来の枠を超えて地域の行政・金融機関等との連携の強化を模索している。

自グループでの取り組みとして、入院中の早期リハビリテーション、「地域包括ケア病棟」による機能回復・在宅復帰支援に加え、クリニック・在宅医療、施設・通所・在宅介護サービスを包括的に提供している。また、地域医療介護連携課を設置して入退院支援を実施している。

これらに加えて、整備したDX基盤を院外にも活用する取り組みを検討している。自治体に働き掛けて地域のケアマネジャーにiPhoneとグループチャットを展開する構想や、スマートグラスを活用した経験年数の浅いスタッフによる在宅介護業務の効率化、高齢者の自宅テレビを活用した訪問看護のオンコール業務効率化に関する実証実験なども積極的に推進している。また、20254月には、入院相談時に医療・介護以外の財産管理に関するニーズを持つ患者をサポートする目的で、地域金融機関との連携を開始している(図表3)。

 

図表3 行政・地域金融機関等との連携(出典)HITO病院提供資料 

3.医療機関における生成AI活用の動向

 医療機関における生成AIの活用も近年広がっている[6] [7]HITO病院でもグループチャットや電子カルテの音声入力、PHR情報の患者向け再構築などで活用されており、生成AIは人口減少社会の地域医療機関でも業務効率化や地域連携の文脈で活用が進むとみられる。

そこで本節では、医療機関における生成AI活用の動向を概観し、地域医療機関における活用の方向性を検討する。 

1)電子カルテとの連携

電子カルテに集約された臨床データを生成AIと組み合わせることで、これまで実現が難しかった高度な診療支援や業務効率化を目指すサービスが生まれている。特に、米国をはじめとする海外では、日本に先駆けて電子カルテの標準化とデータ活用が進められた結果、MicrosoftGoogleといった巨大テック企業が電子カルテベンダーと提携し、生成AIを活用したサービスの開発・導入を積極的に進めており、医師の業務負担軽減と診療の質向上を両立させるものとして注目されている。

例えば、「Microsoft Dragon Copilot[8]は、診療会話から診療録等の文書を作成して電子カルテに連携する機能や、電子カルテに蓄積された診療記録から退院時サマリや診療情報提供書のドラフトを自動作成する機能を提供している。

 日本でも、富士通は「Generative AI Services for Healthcare[9]として、電子カルテに蓄積された診療記録を基に退院時サマリや診療情報提供書のドラフトを作成する機能を提供している。 

(2) 電子カルテ入力時のコーディング支援

DPC(診断群分類別包括評価)においては適切なコーディングが求められるため、効率化と精度向上に生成AIが活用される。電子カルテに蓄積された診療情報を基にしたコードの提案により、コーディング業務の効率化と、収益機会の逸失を避ける効果を期待できる。

例えば、Ubieは「ユビーDPCサポーター」[10]として電子カルテに蓄積された構造化データに加えて自由記述(非構造化)データを用いてDPCコーディングを支援する機能を提供している。 

(3) 医学知識・文献検索

生成AIを活用したAI駆動型の検索ツールが、膨大な学術論文から医学知識やエビデンスの迅速な参照を可能にしている。学術論文等を情報源にしつつ、生成AIを活用することで複雑な検索式を用いず検索し、検索結果を要約して出力する。それにより、診療現場で生じた疑問へのエビデンスに基づいた回答を短時間で得ることができる。代表的なツールとして「OpenEvidence[11]Consensus[12]Elicit[13]等が挙げられる。 

(4) AI問診・救急トリアージ

患者が医療機関を受診する前や、救急外来での初期対応において、AIを活用する動きが活発化している。特にAI問診は普及が進んでおり、AIが対話形式で問診を行う際の質問の作成や、問診回答を電子カルテに連携する際の医療用語への翻訳やデータの構造化で生成AIが活用される。問診・電子カルテ作成業務の効率化や問診の質の均てん化に資するだけでなく、待ち時間の減少を通じた患者満足度を向上する効果も期待できる。 

(5) 地域医療機関における生成AI活用の方向性

主に業務効率化の観点から医療機関への生成AI活用が進む中で、地域医療機関においては地域連携の観点からも活用を検討する余地が大きい。例えば、入退院支援で介護との連携を検討する上で、AIケアプランの技術を活用するといった視点が検討しうるのではないだろうか。退院後に利用できる介護サービスが具体的に想定して退院支援の実効性を高める効果や、経験年数の浅いMSW(医療ソーシャルワーカー)の業務をサポートする効果を期待できると考える。 

(6) AIエージェント活用への期待

AI側で自律的にタスクを実行するAIエージェントや、複数のAIエージェントが協働するAgentic AIが注目を集めている[14]。医療においてもAIエージェントないしAgentic AIの活用が検討されつつあり、上述したような個別の機能だけでなく、医療の効率化や個人の予防に向けたサポート等様々な利用可能性が見いだされつつある。

4.医療機関における地域接続の取り組み

人口減少、単身世帯の増加により、地域医療機関による患者の退院後の生活環境の維持を実現する入退院支援が期待される。特に単身高齢者の場合は、退院後の生活環境の維持が難しいケースが想定される。退院後に利用する見守りや、日常生活支援などの介護保険外サービスだけでなく、身元保証、日常金銭管理、資産や住まい等の財産管理などの、生活環境の維持を包括的にサポートする機能の提供が求められている。

しかし、現状では、医療機関がそのような機能を提供することは非現実的であるし、生活環境の維持を可能にするサービスを包括的に提案するAIの開発も難しい。  

ここで、ヘルスケアから一歩離れて他産業に目を向けると、人口減少や単身高齢者の増加は業界横断の課題であり、それに悩む産業が意外と多く存在することに気づく。例えば、金融機関は、資産を多く保有する高齢顧客との取引の維持や保有資産の活用が課題であり、ハウスメーカーは過去に開発した郊外団地住民の高齢化や、住宅の空き家化の抑制が課題となっている。そこで、顧客に成年後見制度等の各種支援情報を提供して心身機能の低下等による生活環境の悪化への備えを促したり、サービスの利用費用を確保するための金融サービスや、リフォーム・高齢者住宅への住み替えなどの自社サービスの活用を促す取り組みが始まっている。

東京大学高齢社会総合研究機構が推進する「Advance Life Planning調査研究」[15]は、高齢期の生活環境の維持を可能にする備えを包括的にアドバイスするアドバイザーの育成を目指している。また、京都府立医大に、銀行、信金、信託、保険等の幅広い金融機関が参加する「金融機関高齢顧客対応ワーキング・グループ」[16]は、認知症ケアパスに金融サービスによる備えを包含した進化版ケアパスを作成し、金融機関を介した高齢者への支援の充実を図っている。

これらの他産業における取り組みは、退院後の高齢者の生活環境の維持を志向する地域医療機関の参考になるだろう。 

5.まとめ

HITO病院のDXは、院内における業務効率化の枠を超えて、PHRによる患者のヘルスケア促進や、地域社会との連携を強化する基盤として活用されていることを紹介した。

医療機関の地域社会との連携強化は、予防医療の促進により地域の医療提供体制の持続可能性を高める。その上で、医療機関が入退院支援を通じて地域の行政、介護サービス、保険外サービス、金融機関、ハウスメーカー等とも連携して地域高齢者の支援ニーズに包括的に応えていくことができれば、その医療機関は「地域になくてはならない」ものになる。HITO病院における地域のケアマネや金融機関との連携を推進する取り組みは、その端緒として評価できる。整備したDX基盤を活用して実現可能な施策を矢継ぎ早に実施するHITO病院の事例は、人口減少社会で存続を目指す他の地域医療機関の参考になるのではないだろうか[17]HITO病院の石川理事長は、病院と企業、教育機関が情報を共有して課題を解決するための場づくりをするべく、2024年に日本病院DX推進協会[18]を設立している。日本における医療DXが成功するためには、政府主導のトップダウンだけでなく、こうした地域での持続可能な仕組みの共有が不可欠である。  


【注】

[1] 『日本の地域別将来推計人口』(令和5年推計). 国立社会保障・人口問題研究所.2024
[2] HITO病院のWEBサイト. http://hitomedical.co-site.jp/. (202642日アクセス)
[3] 前掲1
[4] HITO病院の取り組みの詳細に関しては、石川賀代『The purpose : VUCA時代の地方病院変革』幻冬舎メディアコンサルティング.2022
[5] PSPWEBサイト. https://nobori.me/ . (202642日アクセス) 
[6] 生成AIの医療分野での活用に向けた3つの提言 | 研究プログラム | 東京財団
[7] HIMSS2026 AI Forum総括|島原 佑基_Yuki Shimahara
[8] MicorsoftのWEBサイト. https://www.microsoft.com/en-us/health-solutions/clinical-workflow/dragon-copilot#tabs-oc9d67_tab1 . (2026年4月2日アクセス)
[9] 富士通のWEBサイト. https://docs.fujitsu/documents/003043/generative-ai-services-for-healthcare-brochure-ja.pdf . (202642日アクセス)
[10] UbieWEBサイト. https://intro.dr-ubie.com/hospitals/dpc-supporter . (202642日アクセス)
[11] OpenEvidenceWEBサイト. https://www.openevidence.com/ . (202642日アクセス)
[12] ConsensusWEBサイト. https://consensus.app/ . (202642日アクセス)
[13] ElicitWEBサイト. https://elicit.com/ . (202642日アクセス)
[14] AI Agents vs. Agentic AI: A Conceptual Taxonomy, Applications and Challenges
[15] 東京大学高齢社会総合研究機構のWEBサイト. https://www.iog.u-tokyo.ac.jp/news/5979/ . (202642日アクセス)
[16] 一般社団法人日本意思決定支援推進機構のWEBサイト. https://www.dmsoj.com/report . (202642日アクセス)
[17] 同病院はDX推進で蓄積した知見の外部提供も実施している。CareNectWEBサイト.https://www.carenect.jp/ . (202642日アクセス)
[18] 日本病院DX推進協会のWEBサイトhttps://jhdxa.or.jp/ . (202642日アクセス)

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