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【論考】東北から考える地域メディアの持続可能性
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【論考】東北から考える地域メディアの持続可能性

July 8, 2026

元テレビ朝日 報道局プロデューサー 江野夏平

人口減少社会において、地域メディアの持続可能性は、放送業界だけの課題ではない。地域住民に必要な情報を継続して届けることは、地域社会そのものの持続可能性とも深く関わる社会的課題である。
東北地方は、日本で最も人口減少が進む地域である。国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口(令和52023)年推計)』によれば、2020年の人口を100とした2050年の人口指数は、秋田県58.4、青森県61.0、岩手県64.7となっている。人口減少の進行と人口構造の変化は全国でも最も深刻であり、地域メディアがこうした社会変化の中で直面する課題を背負っている地域でもある。
東北エリアで、民放キー局の系列に属する放送事業者(以下、系列ローカル局)への調査を進めたところ、各局に共通していたのは、人口減少に伴う地域経済の縮小と人材不足への強い危機感であった。これらは放送事業者の経営基盤を左右する構造的な課題であり、制度改革だけでは解決できない現実が明らかになった。
こうした調査で得られた知見を手掛かりに、人口減少社会において地域メディアが直面する構造的課題を整理するとともに、国内外の先行事例も踏まえながら、その持続可能性を考察する。

人口減少社会における地域メディアの構造的課題

人口減少は、系列ローカル局の経営環境そのものを変化させている。地域経済の縮小はスポンサー企業の経営にも影響を及ぼし、広告市場を縮小させる。その結果、放送収入の確保は年々厳しさを増している。

こうした状況を受け、各局はイベントの企画・運営や物販事業、自治体や地域企業と連携した事業など、放送以外の事業にも取り組んでいる。しかし、総務省が20246月に公表した「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」の地上テレビ事業者アンケートによれば、系列ローカル局の売上高の9割以上をテレビ放送番組収入が占め、イベント収入やその他事業収入を合わせても1割に満たない。放送外事業の拡大は重要な経営戦略となっているものの、現時点では放送収入を補完するまでには至っていない。

経営面と並び、深刻さを増しているのが人材不足である。これは東北だけの課題ではなく、多くの系列ローカル局が共通して直面している。近年は放送業界そのものが若い世代から就職先として選ばれにくくなり、人材確保は一段と難しくなっている。採用後も人材の定着は容易ではなく、育成した若手社員の離職は組織運営に大きな影響を及ぼしている。

少人数体制で運営される系列ローカル局では、一人の社員がニュース取材、番組制作、中継、営業など複数の業務を担うことが常態化しており、人材不足は現場の負担をさらに増大させている。

東北エリアの放送事業者への調査では、人口減少や地域経済の縮小、広告市場の変化など、経営環境の厳しさは各局に共通する課題として認識されていた。一方で、地域によって人口構造や視聴実態には違いがみられ、それぞれ異なる経営課題を抱えていることも明らかになった。

例えば秋田県では、PUT(総個人視聴率)が全国でも高い水準にあり、テレビは現在も地域住民から高い信頼を得ているとの認識が示された。しかし、その背景には、高齢者層の視聴割合が高いという人口構造がある。現在の高い視聴率は系列ローカル局を支える重要な基盤となっている一方で、人口減少と高齢化が進めば、視聴者構成の変化は避けられない。現在の優位性が、そのまま将来の経営の安定につながるとは限らない。

こうした経営環境の変化は、東北に限ったものではない。近年、全国の系列ローカル局では、地元出身のプロパー社員や、営業部門などで地域企業や経済団体とのネットワークを築いてきた人材が社長に就任する例が目立つ。もちろん、人事の背景は各社で異なり、一概に論じることはできない。しかし、人口減少に伴う地域経済の縮小や広告市場の変化を背景に、地域との関係性や営業基盤を重視する経営姿勢が、人事にも反映される傾向がうかがえる。

以上の調査・分析から見えてきたのは、人口減少社会における地域メディアの持続可能性は、放送制度だけでは語れないということである。 制度改革は不可欠であるが、それだけでは十分ではない。地域経済、人材、視聴者構成といった経営環境の変化を踏まえた経営のあり方まで含めて考えなければ、地域メディアの持続可能性を確保することはできない。

地域メディアを支える人材の確保・育成

東北エリアの放送事業者への調査では、人材不足に対する強い危機感が多くの局から示された。だが、この危機感は東北固有のものではない。人口減少社会の進展に伴い、系列ローカル局全体に共通する構造的な課題として顕在化している。

人口減少や広告市場の縮小は、ある程度予測されてきた課題であった。しかし、それ以上に深刻なのは、地域メディアを支える人材を採用し、育成し、定着させること自体が難しくなっている現実である。

系列ローカル局は少人数で運営されているため、一人の社員が担う役割は極めて広い。報道記者であれば、日々のニュース取材だけでなく、選挙報道やスポーツ中継、特別番組の制作まで担当することも珍しくない。災害が発生すれば、通常業務を超える長時間の報道対応も求められる。人口減少が進み、限られた人員で放送を維持しなければならない状況では、一人当たりの業務負担はさらに大きくなる。

一方で、若年人口の減少に加え、放送業界そのものが就職先として選ばれにくくなっている。系列ローカル局では人材確保が年々難しくなり、採用後も人材の定着は容易ではない。これは一時的な採用難ではなく、人口構造や就業意識の変化を背景とした構造的な課題である。

この問題は、系列ローカル局だけのものではない。新聞社やコミュニティFMなどを含め、地域メディア全体に共通する課題となっている。地域を取材し、地域の出来事を継続的に伝える担い手そのものが不足し始めているのである。

こうした課題に対し、英国では公共放送BBCLocal Democracy Reporting ServiceLDRS)を通じて地域メディアを支援している。BBCは地域メディアに所属する記者の人件費を負担するとともに、BBCShared Data Unitを通じて、データジャーナリズムや情報公開請求(FOI)の活用などに関する研修や取材支援を行い、地域メディア全体の取材力向上を後押ししている。

注目すべきなのは、特定の放送事業者を支援する制度ではなく、地域メディア全体を社会的な情報基盤として位置付け、その担い手を育成・支援している点である。この考え方は、人口減少社会を迎えた日本においても大いに参考になる。

東北エリアの調査で明らかになった人材不足の実態は、人口減少社会において地域メディア全体が直面する構造的な課題であることを示している。放送制度や経営改革は重要である。しかし、それだけでは十分ではない。地域メディアを支える人材をどのように育成し、地域社会全体で支えていくのか。その視点なくして、地域メディアの持続可能性を確保することは難しい。

地域特性を踏まえた放送事業者の再編・統合

人口減少社会への対応として、総務省ではマスメディア集中排除原則の見直しをはじめ、放送制度改革の議論が進められている。その背景には、従来の経営体制のままでは、系列ローカル局の持続可能性を維持することが難しいという現実がある。

制度改革は避けて通れない。しかし、東北エリアの放送事業者への調査を通じて見えてきたのは、放送事業者の再編・統合には全国一律の解が存在するわけではないということである。

系列ローカル局は、系列ネットワークを構成する放送事業者であると同時に、それぞれの地域で独自の経営基盤を築いてきた。地方新聞社や地域を代表する企業、金融機関などが資本参加し、地域社会との信頼関係を積み重ねながら経営を続けてきた歴史がある。
実際、東北には、有力地方紙が複数の放送局へ資本参加し、地域メディア全体を支えてきた地域もある。そのような地域では、系列ネットワークを前提とした再編だけでなく、長年にわたり放送局を支えてきた地域の出資基盤や地域企業との関係を生かした再編の方が現実的であるとの見方も聞かれた。
また、系列ローカル局の資本構成を見ると、キー局系の持株会社が主要株主となる傾向が強まる一方で、地元の地方新聞社や金融機関、有力企業も依然として重要な株主として経営を支えている。さらに、開局当時のクロスネット編成の歴史を背景に、現在の系列を超えて他系列の放送局や新聞社が資本参加する「クロス持合い」が続いている例も少なくない。こうした多様な資本構成は、系列という枠組みだけでは捉えきれない地方の放送事業者の特徴であり、再編・統合のあり方を考える上でも重要な前提となる。

一方で、系列ネットワークを軸に経営資源を集約し、再編・統合を進める考え方にも合理性がある。番組制作や送出システム、マスター設備などを共同化することで、限られた経営資源を効率的に活用できる可能性があるためである。

東北エリアの調査から見えてきたのは、いずれか一方が唯一の正解ということではない。人口減少社会における放送事業者の再編・統合では、系列ネットワークによる効率化と、長年にわたり築かれてきた経営基盤の双方を踏まえながら、それぞれの地域に適したあり方を検討していくことが求められる。

東北における広域放送の可能性と限界

地上テレビ放送は、長年にわたり県域を基本とする放送対象地域の下で発展してきた。東北でも、各県を放送対象地域とする系列ローカル局が、それぞれの地域で放送事業を担っている。

人口減少が進む中、複数の県域放送事業者を再編・統合し、関東や近畿のような広域放送体制へ移行する考え方がある。番組制作や送出システムなどを共同化するため、経営の効率化という観点から見れば、有力な選択肢の一つである。

しかし、東北エリアの放送事業者への調査を通じて見えてきたのは、東北では広域放送が必ずしも最適解にはならないという現実である。

東北は一つの地域として語られることが多い。しかし、各県は藩政時代から異なる歴史や文化を育み、それぞれ独自の産業構造や生活圏を形成してきた。住民が日常的に必要とする情報も、行政や防災をはじめ、暮らしに密着した情報が中心である。地域の祭りや文化、スポーツなど、自らが暮らす地域を取り上げる番組は高い視聴率を維持しており、地域密着型の放送に対する視聴者の期待の大きさがうかがえる。

実際、人口減少社会をテーマとした研究会では、便宜的に東北を「北東北」と「南東北」に区分して議論することがある。この南北の区分には、藩政時代から続く歴史的なつながりに加え、高速道路や新幹線など交通網の整備が大きく影響している。一方、東西には南北に連なる奥羽山脈が横たわり、日本海側と太平洋側では気候や産業、生活圏が大きく異なる。放送事業者への調査を重ねる中でも、こうした歴史的・地理的条件が現在の情報需要に大きく影響していることが確認された。

加えて、東北は豪雪地帯、山間部、沿岸部など多様な地理条件を抱えている。東日本大震災をはじめ、豪雨や豪雪など自然災害も多く、地域によって必要とされる防災情報や生活情報は大きく異なる。

こうした地域特性を踏まえると、再編・統合で懸念されるのは、地域メディアとしての独自性が失われることである。経営効率だけを優先すれば、住民が必要とする情報との距離が広がり、地域に根差した情報発信機能は損なわれかねない。

重要なのは、「広域放送か県域放送か」という二者択一ではない。共同化できる機能は共同化し、地域情報は守る。その両立こそが、放送事業者の持続可能性を支える鍵となる。

東北で見えてきた現実は、日本の地域社会の未来でもある。放送制度の見直しによって経営の選択肢は広がる。問われるのは、その選択肢をどう生かすかである。地域ごとに放送事業者の成り立ちや経営基盤は異なり、再編・統合のあり方も大きく異なる。その地域固有の特性を踏まえた再編・統合こそが、地域メディアの持続可能性を左右する。

  • 研究分野・主な関心領域
    • メディア論(映像表現論)
    • 放送法(危機管理)
    • 政策広報戦略
    • 社会実装プロセス

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