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【人材育成】あふれる「CHINA AID」 まるで中国植民地のトンガ<岡部伸の世界探訪トンガ、フィジー②>
バス停までCHINA AID(岡部伸撮影、以下同)

【人材育成】あふれる「CHINA AID」 まるで中国植民地のトンガ<岡部伸の世界探訪トンガ、フィジー②>

July 15, 2026

ヤングリーダー奨学基金プログラムは、日本財団が1987年に将来の世界を担うリーダーの育成を目指して立ち上げ、1997年からは東京財団が運営を行っている、世界の大学の人文社会科学分野の大学院生を対象に奨学金を給付する奨学制度。日本を含む世界44か国の69大学・大学連合に各々100万米ドルの基金を寄贈し、17,000名を超える奨学生(Sylff「シルフ」フェロー)を輩出してきた。Sylffフェローは卒業後、外相や中央銀行総裁などを務めたり、学術研究、ビジネス、非営利セクターなど様々な分野の第一線で活躍している。

美しいサンゴ礁と王政の伝統で知られる南太平洋の島嶼国トンガの首都ヌクアロファ郊外にある簡素な空港に、未明にようやく辿り着くと、1つしかないバゲッジクレームから最後に筆者のトランクが出て来た。

係員がトランクを通したX線手荷物検査機を見ると、赤字で大書きされていたのが「中国援助 CHINA AID」とロゴだった。

人口約10万人。南太平洋で唯一の王制が残るトンガは、王室と日本の皇室の親密な交流に支えられ、日本との結びつきが深い「親日国」である。

ラグビー交流はよく知られているが、それだけではない。親日家として知られた故トゥポウ4世国王は、日本のそろばん教育に着目し、小学校の算数教育に取り入れている。高校では、日本語を学ぶこともできる。日本の対トンガ無償支援協力は、オーストラリアに次いで世界第2位である。

「親日国」で進む中国支配

その親日国で、今急速に存在感を強めているのが中国だ。トンガは1998年に台湾と断交して国交を結んで以来、中国人が移り住み、現在約3,000人が暮らし、小売業の9割を中国系資本が握るようになった。最大の建設事業者は国営企業、中国土木行程公司(CCECC)である。福建省などから移住した中国人が永住権を得て、中国から仕入れた商品をトンガ人に販売。トンガ人は農業で芋類、野菜、果物などを生産し、路上で細々と販売するに留まっている。近年では中国野菜などの農業、家電や建材販売、パン製造まで中国人が進出し、産業の中国依存が進み、トンガでのビジネスは中国に独占されつつある。まるで中国の植民地のように感じた。筆者は、どこかで観たような既視感覚えた。ソ連が崩壊した1990年代のロシアに経済的、政治的に依存させられた中央アジアの旧ソ連共和国だ。バルト3国が一気に欧州に先祖返りしてNATO(北大西洋条約機構)とEU(欧州連合)入りする一方、タジキスタン、キルギス、ウズベキスタン、カザフスタンなど中央アジア5カ国はソ連から独立し、歴史上はじめて自分の国を持ったもののロシアの影響力が現在も続いている。

人々の目を引く「中国援助」の赤い文字

首都のあるトンガタプ島の至る所に「CHINA AID」の文字が目に入った。道路、公園、建設機械、太陽光発電など、その文字とロゴがないところがないぐらいあふれかえっていた。

ヌクアロファの中心部に聳え立つ政府合同庁舎を訪れると、玄関に、「CHINA AID」のプレートが光っていた。正面の記念碑には2017年に中国の無償支援で建てられたことが記されている。3階建ての庁舎には首相府や財務省、議会などが入っている。政府専用車も中国製の黒塗り高級車で、国内を走る車の約9割が日本から輸入した中古車だが、政府専用車だけは中国製だ。

政府庁舎から見えるブナ埠頭(ふとう)は、中国が約1,830万米ドル(約29億円)全額融資して、2012年に完成した。大型客船とともに軍艦も入港できる大きさと深さで、以降、中国による大型インフラ整備が始まった。

トンガ高校の校舎にも「CHINA  AID」のロゴがあった。2017年に約2,400万米ドル(約38億円)を投じ、屋内スタジアム、屋外ネットボール・コート、水泳場2面、ローリングボール・コート1面、駐車場など「スポーツ複合施設」を整備した。2019年に開催予定だった4年に1度のパシフィックゲーム開催に合わせて建設したが、財政難のため開催権を返上、再度、2031年に開催が計画されている。しかし、2024年8月にトンガで開かれた太平洋諸島フォーラム(PIF)の首脳会議の会場として使用され、「中国援助 CHINA AID」の赤い文字が訪れる人々の目を引いた。

最前列の棚一面が中国コーナー

図書館に入ると、最前列の棚一面が中国から寄贈された中国コーナーで、パンダのぬいぐるみや陶器などとともに習近平国家主席の評伝や万里長城の歴史書など数十冊が所狭しと陳列されていた。対照的に東京財団がREAD JAPAN PROJECT(リードジャパン事業)で2025年に寄贈した十数冊はじめ日本の書籍コーナーは探しても容易に見つからなかった。探しあぐね、図書館奥まで辿ると、コピー機とソファーに囲まれた最後列の一段に申し訳なさそうに数十冊が目立たず、ひっそりと置かれていた。中国と比べ、10分の1のスペースだ。高校関係者に聞くと、学内に中国から派遣された中国人の中国語教師が日本の書籍を最後列に置くように指導したとのことだった。

首都の中心地を歩くと、バス停から公園、道路、太陽光パネル、重機など至る所に「中国援助 CHINA AID」の文字とロゴがあふれていた。

「CHINA AID」でかすむ日本の支援

トンガでは2022年海底火山噴火で、国民の8割が被災した。日本財団は、青年海外協力隊としてトンガに赴任した作家の湊かなえ氏らからの寄付をもとに被災民用に、2024年、コミュニティホール3棟を建設した。

このうち首都郊外にあるアタタ島からの避難民の再定住村「アタタ村」を訪問すると、日本財団のロゴが張られたコミュニティホールを避難民たちが重宝して使っていた。平日午前中は、婦人たちがトンガの伝統的な樹皮布「タパ」制作して、ホール全面で乾燥させる共同作業場として活用して、午後からは子どもたちが遊び場として利用していた。被災者の生活に欠かせない存在となっていた。

残念だったことは、多くの住民が「支援は中国から」と思い込んでいることだ。疑問を感じながら、再定住村の側道(砂利道)を車で走るとナゾが解けた。側道を整備したのが中国で、側道が走る再定住村の敷地内に「CHINA AID」の看板を掲げていた。側道を走れば、敷地内に「CHINA AID」と大書した看板があるため、村内のコミュニティホールまで中国支援と誤解してしまう。首都中心部に通じる本線には「アタタ村」の看板が立てられている。コミュニティホールを建築したのが日本(日本財団)であることが十分に住民に伝わらず、残念な想いがしてならなかった。

西側の支援を中国が上書き

「アタタ村」から英国のクック船長が上陸した地点に向けて、車をさらに郊外に走らせると、ロードサイドにオーストラリアが支援して建てた地域医療コミュニティセンターがあった。しかし中に入ると、「中国政府支援のスーパー地域医療センター 2010」と書かれた石碑があり、玄関前には中国製医療用段ボールが山積されていた。

オーストラリアが建てた地域コミュニティセンターを中国が2010年から「中国支援のスーパー地域医療センター」に上書きしている。中国は、医師らを定期的に派遣して無料で地域医療を行っているという。

インフラ有償支援で進む中国支配

トンガはじめ南太平洋諸国への活発化する中国による財政支援は、長らく中国輸出入銀行を通じた融資による大型インフラ建設が中心だった。港湾や空港、庁舎や競技施設などの大型インフラは整備されたが、その代償として受け入れ国は莫大な借金を中国から背負う。オーストラリアやニュージーランド、日本、米国などの無償支援と対照的だ。

また中国資本による建設ラッシュは中国企業や中国人経営者、中国人労働者の流入を伴ったが、トンガでの雇用拡大には繋がらず、中国から送り込まれた労働者と資材によって工事が完結し、利益の多くが中国へ還流して地元トンガに落ちる金は限られる。小売業などに従事していたトンガ人は職を奪われた。トンガ人から反発が高まったのも当然だ。

「このままでは数年以内にトンガが中国に乗っ取られる」。ポヒヴァ元首相が記者会見を開き、警鐘を鳴らしたのは2017年のことだった。

「負債の兵器化」で一帯一路参入?

案の定、中国への債務返済に窮したトンガは、2018年、バヌアツとともに「一帯一路」構想に参入するように合意させられる。対中債務の一部帳消し交渉の中で、中国側の戦略的枠組みに組み込まれたのだった。2019年には、ソロモン諸島とキリバス、2024年はナウルが台湾と断交し、中国と国交樹立した。台湾と外交関係を継続しているのはマーシャル諸島、パラオ、ツバルだけとなった。

ソロモン諸島の台湾断交の背景で中国共産党から5億米ドル(約800億円)の支援がソロモン政府に渡ったと、オーストラリア国営放送は伝えている。さらにソロモン諸島は2022年4月、中国と安全保障協定締結を発表。協定により、中国は軍や警察をソロモンに派遣できるため、ソロモンが中国軍の拠点になると懸念を強めた。

しかし、2026年5月に就任したマシュー・ワレ新首相は6月、オーストラリアと包括的な戦略条約交渉に入り、中国との安全保障協定を見直す方針を表明、米豪など西側からはひとまず安堵(あんど)の声が上がった。

ソロモン諸島ほどトンガは中国に傾斜していないが、中国は、トンガを、一帯一路政策の模範事例として、重視している。

国際社会からは債務免除や返済猶予を求める声が上がるが、中国は返済を要求しつつ、見返りとして建設したブナ埠頭港湾施設の利用権や外交的譲歩を迫る姿勢を崩していない。返済不能に陥ったスリランカのハンバントタ港が中国に99年間貸与される事例と同じく、債務を戦略的拠点確保の梃子(てこ)にする「負債の兵器化」と見る向きもある。

GDP4分の1、「天文学的」な対中債務

「それを防ぐためトンガは、2023年から、中国に多額の債務の返済を始めた」。取材を進めるうち、複数の日本トンガ外交筋から、このような情報を得た。

では、トンガの対中債務はどれほどか。そして、トンガはどのようにして返済しているのか。シドニーのローウィ研究所に尋ねると、トンガの対中債務は約1億2,000万米ドル(約191億円)で、国内総生産(GDP)の25%を占めるという。対外債務の48%を中国が占め、国家予算規模に匹敵する累積債務がトンガの経済的自立を揺さぶっている。

トンガの年間対中債務返済額はGDPの約4%に達し、世界で3番目に高い水準で、中国債務の重さは「天文学的」と形容される。一帯一路構想を通じた巨額融資が、トンガを債務の泥沼に陥れ、「経済的侵略」の象徴となっている。

そもそもの発端は、2006年に起きた民主化を巡る市民の暴動だった。荒廃した首都の再建に、融資を申し出たのは中国だった。トンガは、中国の国有債権者である中国輸出入銀行に対し、利息のみの支払い期間を延長するよう交渉したが、中国は返済期限を延期せず、2023年から元本返済が始まった。返済期限である2030年まで、毎年1,500万米ドル(約24億円)を超える返済が続き、2025年の返済額は1,700万米ドル(約27億円)だった。

 自然災害が頻発し、歳入を在外トンガ人の送金や外国からの支援に頼る小国が、なぜ返済を続けられるのか。疑問を感じざるを得なかった。(文責:岡部伸)

▼<岡部伸の世界探訪トンガ、フィジー①>はこちら
【人材育成】フィジーの「ミスター・エデュケーション」と呼ばれるSylffフェロー<岡部伸の世界探訪トンガ、フィジー①>

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