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【論考】消費税減税と国民の本音?
July 8, 2026
■4月10日に、佐藤上席フェローは、森信シニア政策オフィサー、土居上席フェロー、小黒上席フェローとともに、政策提言「『給付付き税額控除』の導入に向けた具体的な制度設計」を発表いたしました。詳細はこちらをご覧ください。
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「税・社会保障研究 レビュー・論考・コラム」 |
高市総理が前回の衆議院選挙で自身の「悲願」として公約に掲げた食料品に対する消費税減税が実現するかもしれない。総理は社会保障国民会議で夏に結論が出れば、「次の国会で、できるだけ早く改正案」を提出する意向を表明した。レジシステムの改修などに要する期間を考慮し、与野党が参加する社会保障国民会議の実務者会議では、税率をゼロではなく来年4月から2年間限定で1%とする案が有力視されている。ただし、中低所得者には1%分の税収相当額(約6千億円)を給付し、「実質ゼロ」を実現する方針とされる。これは、「給付付き税額控除」の簡易版としての先行導入と位置付けられている。その結果、減税と給付を合わせた財政負担は、食料品をゼロ税率とした場合と同程度の5兆円超に達する見込みである。さらに、減税の対象外となる外食産業や、仕入れに係る消費税負担が残ることによって収益の減少が見込まれる農家に対しては補助金を支給する方針であり、このうち農家への支援額は3,800億円余りに達するとの試算もある。
もっとも、その経済効果は不透明だ。減税によって食料品需要が増加しても、供給が拡大しなければ課税前価格が上昇し、減税の恩恵が十分に消費者へ還元されない可能性が高い。人件費や原材料価格が上昇するインフレ局面では、その効果も一時的なものにとどまるだろう。リーマンショックや新型コロナウイルス感染症拡大時には、欧州でホテル・レストラン等を対象とした付加価値税(消費税)の時限的減税が実施されたものの、消費者価格の下落を通じた還元効果は限定的あるいは一時的であったことは、以前のReviewで紹介したとおりである。[1]
小売りの現場でも混乱が生じるかもしれない。その典型例が、玩具付き菓子やファーストフードの取扱いである。現行制度では食料品との税率差は標準税率との差で2%に過ぎないが、これが9%(標準税率10%に対して食料品税率1%)へ拡大すれば、玩具が付属する食料品なのか、あるいは玩具が主たる商品なのかというグレーゾーンの判断が、これまで以上に問題となるだろう。その都度、1%税率の適用可否を判断しなければならないとすれば、事業者のみならず税務当局にとっても極めて大きな事務負担となりかねない。「正直者がバカをみる」ような事態もありうる。コンビニでは利用客の申告に基づいてイートインなら消費税率10%、持ち帰りの場合、8%を適用する仕組みを採用しているが、減税後は正直な申告は減るかもしれない。とはいえ、コンプライアンスの徹底を求めるのもコンビニにとって負担が重い。
また、減税が2年間に限定される保証もない。1%の税率を適用した食料品を一気に8%へ戻すことは政治的に現実味を欠く。経済的にも駆け込み需要やその反動減が懸念されるためである。そうなれば、税収減は長期化する可能性が高い。加えて、減税終了後に本格導入されるとされる「給付付き税額控除」は、現役世代の中低所得層を主な対象とする見込みであり、高所得層や高齢者層には恩恵が及ばない。これらの層から強い政治的反発が生じることも予想される。さらに、財政悪化への懸念が国債金利の上昇や円安を招く可能性も否定できない。既に財政は政治と市場との間で「板挟み」の状況にある。高市政権は財政規律を重視する旨を繰り返し表明している。しかし、財政規律を担保する具体策がなければ、市場からの信認は得られそうにない。
かつて積極財政論者として知られ、財政赤字に対して肯定的だったとされる米国の経済学者ブランシャール氏も、3月の経済財政諮問会議において短期的な消費税減税には消極的な見解を示し、「今はそういう状況ではない」と述べた。「優先課題は1年や2年だけ付加価値税を下げることではなく、構造調整を行うこと」とする。これは同氏が考えを転換したわけではない。日本経済がコロナ禍後にデフレからインフレへ、需要不足から人手不足等を背景とする供給制約局面へと移行したことを反映したに過ぎない。経済協力開発機構(OECD)も、少子高齢化に伴う財源確保の観点から、中長期的には消費税率を最大18%まで段階的に引き上げるよう提言している。さらに防衛費の拡充や半導体分野への成長投資など、新たな財政需要も拡大してきた。
経済効果が不透明であり、実務面での負担も大きいにもかかわらず、消費税減税への支持は依然として根強い。各種世論調査でも、ゼロ税率や1%税率への賛意が多数を占めている。しかし、その背景には経済効果への期待というよりも、衆議院選挙で掲げた公約は実現されるべきであるとの意識が存在するのではないか。6月の自民党税制調査会でも、「衆院選公約を重く受け止めるべきだ」との意見が示された。実際、時事通信のアンケート調査では食料品の消費税減税を巡り40.7%が「0%」を求めていた(時事通信2026年06月18日)。
一方、高市総理は赤字国債に依存しない方針を示しているものの、財源確保の見通しは依然として明らかではない。産経新聞社・FNNの6月世論調査によると「早く実現するなら1%でもよい」が45.1%で最多となった一方、財源確保について「不安を感じる」と回答した者は67.9%に達して「不安を感じない」の29.7%を大きく上回った(産経新聞2026年6月15日)。また、毎日新聞社が2月に実施した世論調査では、「どういう手段を用いても減税すべき」が29%であったのに対し、「確実に財源を確保できない場合は減税すべきではない」が47%を占めた。これらの結果からは、消費税減税への期待が高い一方で、財源に対する懸念も根強いことがうかがえる(毎日新聞社2026年2月26日)。そのためか世論調査において「減税は必要ない」(32%)という回答も一定程度ある(日本経済新聞2026年6月1日)
図表:消費税減税への世論調査
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メディア |
報道日時 |
(時間をかけても)ゼロ税率が望ましい |
(早期に)税率1%が望ましい |
減税すべきでない |
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JNN |
5月4日 |
24% |
47% |
26% |
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NHK |
5月12日 |
18% |
48%* |
25% |
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テレビ朝日 |
5月25日 |
26% |
40% |
30% |
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日経 |
6月1日 |
28% |
36% |
32% |
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産経 |
6月15日 |
27.7% |
45.1% |
25.9% |
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時事通信 |
6月18日 |
40.7% |
29.4% |
22.1% |
出所:各社のサイトから筆者作成
注1*は「「早く減税できるなら、ゼロでなくてもよい」への回答
注2:「わからない」等の回答もあるため合計は100%にならない
これらの結果を見ると、国民の間には減税への期待と財政への不安が同時に存在しているようにみえる。国民は高市内閣が消費税減税を実現すれば、それを支持するだろう。霞が関の圧力に抗した政治的な決断と評価するはずだ。他方、財政悪化に伴う国債金利の上昇や円安の進行に対する不安も抱いている。また、わが国を巡る地勢リスク(安全保障)の不確実性が高まる中、有事に備えた「財政余力」(機動的な財政出動の余地)の確保が求められるが、減税によって財政状況が悪化すれば、その余地は狭まってしまう。とはいえ、民主主義において公約は重要だ。公約を守らなくても良いとは誰も公には言えない。まして近年の政治はネット上の「露骨な声」に左右され易い。本来、「声なき声」(=国民の本音)に耳を傾けるのも政治の役割のはずだ。現実の経済情勢を踏まえた柔軟な政策判断が求められている。
さらに懸念されるのは、減税論議の背景にある政治の楽観的な姿勢である。現政権は財政状況だけでなく、中東情勢の緊縛に伴う石油消費について「国民に節約を呼びかける必要はない」とするなど国民に対して楽観的なメッセージを発信し続けてきている。「病は気から」ともいうが、国民の気分=期待が改善すれば、自ずから経済も好転するというところかもしれない。しかし、心配されるような有事は起きない、減税によって景気が回復し、財政も健全化するという見方は楽観を過ぎ、希望的観測と言わざるを得ない。仮にこうした希望的観測の下で政治的なメンツやリーダーシップの誇示を優先するのであれば、そのツケを最終的に負うのは国民自身である。そのとき政治は「国民の要求に応えただけ」と説明できるのだろうか?