| ヤングリーダー奨学基金プログラムは、日本財団が1987年に将来の世界を担うリーダーの育成を目指して立ち上げ、1997年からは東京財団が運営を行っている、世界の大学の人文社会科学分野の大学院生を対象に奨学金を給付する奨学制度。日本を含む世界44か国の69大学・大学連合に各々100万米ドルの基金を寄贈し、17,000名を超える奨学生(Sylff「シルフ」フェロー)を輩出してきた。Sylffフェローは卒業後、外相や中央銀行総裁などを務めたり、学術研究、ビジネス、非営利セクターなど様々な分野の第一線で活躍している。 |
一帯一路構想を通じた巨額融資が、債務の泥沼に陥れ、「経済的侵略」の象徴となっているトンガでは、返済不能に陥ったスリランカがハンバントタ港を中国に99年間貸与させられたように、債務を戦略的拠点確保の梃子(てこ)にする「負債の兵器化」を回避するため国内総生産(GDP)の25%を占める約1億2,000万米ドル(約191億円)の対中債務の元本返済が2023年から始まった。
返済期限の2030年まで毎年1,500万米ドル(約24億円)を超える返済が続く。2025年は1,700万米ドル(約27億円)を返済したという。
サイクロンや地震など自然災害が頻発し、歳入を在外トンガ人の送金や外国からの支援に頼る小国が、返済することは容易ではない。どのようにして返済を続けられるのか。ファカファヌア首相に直接問いただそうとインタビューの約束を取り付けた。約束した時間に首相府を訪ねると、秘書から「米国から帰国便が天候不良で欠航となったので、戻れなくなった」と中止を告げられた。
「中国は親しい友人。脅威ない」と副首相
筆者は翌朝にはフィジーに向けて出国することが決まっており、「空港でインタビューできるように空港内で首相の帰国をお待ちします」と粘り強く面談を申し入れると、翌朝の出国2時間前、首相に代わりラトゥ副首相兼貿易相兼司法相が滞在先のホテルに現れた。
「私が首相に代わってお答えします」。文部科学省国費留学生として立命館アジア太平洋大学大学院に留学して博士号を取得した「親日家」というラトゥ副首相は、フアカヴァメイリク政権時代の2023年から債務返済が始まったことは認めた。しかし、「具体的な数字は把握していない」と返済方法や財源の詳細は明かさなかった。
そして「中国からの借款を返済する義務があり、我々は、その返済に取り組む決意がある」と述べる一方、「トンガは発展途上国であり、国家予算の約50%近くは、他国からの支援によって支えられている」と釈明し、自力返済ではなく、他国の支援が返済を可能にしていることをにじませた。
ラトゥ副首相はさらに、「中国は、日本と同様、トンガにとって非常に親しい友人だ。彼らが将来的にトンガを所有する脅威があるとは考えない」と説明した。そのうえで「我々は主権国家として自国民の利益のために行動する」と強調した。GDPの約4割まで膨らんだ対中債務について「節度ある歳出で債務を削減する」と述べ、当面は中国を含む外国から融資は受けない方針も明言した。
しかし、中国への「借金漬け」により、「一帯一路」構想に参加し、「一つの中国の原則固持」や「台湾独立反対」など中国の外交政策に同調して、国家としての発言権を失っている事態への「説明」はなかった。
豪とNZ「教育支援」名目で返済肩代わり
では、実際の返済原資はどこから来ているのか。あらためて日本トンガ外交筋に確認すると、「オーストラリアとニュージーランドが年間数千万米ドル規模の追加援助を行い、その結果としてトンガの対中返済を可能にしている」との見方が示された。
「イエス・アンド・ノー」。オーストラリアのシドニーにあるローウィー研究所のライリー・デューク研究員に尋ねると、こんな答えが返って来た。
デューク氏は、オーストラリアがトンガへの財政支援を増額したことは認めた。ただし、それは「対中債務返済」ではない。「資金は融通可能。お金は動く。オーストラリアが追加支援を行うことで、結果的にトンガは中国への返済が可能になった。直接的ではない形で、返済を助けた」ことは事実だが、オーストラリア国民にとって自分たちの税金がトンガの債務返済金として中国に渡る構図は容認できない。このため、オーストラリアとニュージーランドは、『トンガの教育、医療支援』名目で追加支援を行い、その結果としてトンガの財政余力を生み出しているのである。
2023年から27年まで、トンガには毎年1,500万米ドル(約24億円)を超える対中返済が続く。オーストラリアとニュージーランドは、教育支援などの名目で資金を出し、トンガが「第二のスリランカ」となる事態をギリギリのところで防いでいる。ロ―ウィー研究所によると、オーストラリアは2022〜23年度に追加で教育・医療目的として2,000万米ドル(約32億円)を支援したという。
豪が通信会社買収も阻止
太平洋における中国の野心を安全保障上の脅威として警戒するオーストラリアは通信インフラでも手を打っている。2021年、中国企業が南太平洋諸国で携帯事業を展開する通信会社デジセル買収を狙っていることが発覚すると、オーストラリアの通信最大手テルストラがオーストラリア政府と共同で、デジセルの南太平洋部門を16億米ドル(約2,544億円)で買収した。このうち83%の13億3,000万米ドル(約2,115億円)はオーストラリア政府が負担した。事実上、国家主導の防衛策だった。中国企業がデジセルを買収すれば、南太平洋の通信網が中国の影響下に置かれ、有事の際利用されかねないからだった。
拠点確保でANZUS同盟にクサビ
中国はなぜ南太平洋に関心を寄せるのか。デューク研究員は、「安全保障、外交、政治、経済の全ての目的がある」と指摘する。
安全保障上の狙いは、南太平洋に拠点を確保することにより、米国やオーストラリアによる第一列島線や第二列島線の抑止網を迂回し、ANZUS同盟(オーストラリア、ニュージーランド、米国間の安全保障条約に基づく多国間軍事同盟)に楔を打ち込むことにある。中国の海洋進出を支える後背地として、太平洋島嶼国の戦略的重要性は高まっている。
外交上の最大目標は、台湾の国際的孤立だ。中国は残るマーシャル諸島、パラオ、ツバルも台湾と断交させ、中国との外交関係樹立を迫る。さらに中国とロシアが望む国際秩序の再編を視野に入れ、米国や西側諸国が築いた国際秩序とは異なる中国に有利な国際システムを作るため、国連で一票を持つ島嶼国の取り込みは重要である。
政治的には、経済的依存が政治的沈黙を生む。トンガは中国の支援を失うことを恐れ、地域情勢や国際舞台での発言を制約される。かつては独自の文化と王制を誇った小国が、巨大な資本を背景とした新植民地主義的圧力に晒される。台湾に対する中国の政策を踏襲させられ、反台湾勢力とされている。
経済的には、融資を通じてインフラ整備に中国の巨大建設企業群を現地に根付かせ、漁業資源、海底資源、レアアースへのアクセスを確保する狙いだ。
国王訪中で「台湾独立に反対」と共同声明
首都にある中国人経営のコンビニ(雑貨小売店)を訪れると、約半年前の2025年11月、トゥポウ6世国王の中国公式訪問を伝える現地紙「トンガ・インディペンデント」が売られていた。
一般的に新聞は日付が変われば、商品価値を失う。ところが、在トンガ中国大使館職員が店を訪れ、「国王訪中の記念の新聞を販売せよ」と店主に命じ、定価の半額で売らせているという。中国はトンガを米豪から切り離すため、中国が王室と蜜月関係にあることを国民に印象付けたいのだろう。
習近平国家主席と会談した国王は、共同声明で「一つの中国の原則を堅持する」「台湾は中国の領土の不可分の一部」「台湾独立に断固反対し、中国政府による国家統一を支持する」「香港、新疆ウイグル、チベットの人権問題での中国の立場を断固支持する」などと表明した。経済的に依存するあまり、中国の台湾に対する政策をそのまま踏襲し、反台湾陣営の一角に組み込まれつつある。国際社会で多くの疑念を生んでいる新疆ウイグル、チベットの人権問題もトンガは中国の立場に同調したことになる。
政治的沈黙と引き換えに、「投資枠組み協力」として農業・貿易・医療・クリーンエネルギーなど幅広い分野での協力を得た。南太平洋の覇権を目論む中国に小国が選ぶ選択肢はあまりない。
民主主義の後退
トンガは穏やかな民主化改革を進めてきた立憲君主国だが、国王はじめ王室の影響力がいまも少なくない。その王室は中国との関係が深い。トンガ王室の有力メンバーであるピロレブ王女(故トゥポウ4世国王の娘で、現国王トゥポウ6世の姉)は、トンガ・中国友好協会会長を務め、中国との友好交流を推進している。2006年の暴動後、政治改革による民主化で、王室の権限が縮小されたが、現在の国王のトゥポウ6世は、より多くの権力を求め、議会から権限を取り戻そうとしている。2025年12月にトンガ史上最年少の首相に就任したファカファヌア卿は母方を通じて王族の血筋を引き、父方では貴族の称号を継承する。妹が皇太子と婚姻関係にあり、国王に近い貴族出身である。トンガの民主主義に懸念が広がる。デューク研究員は、「“democratic backsliding(民主主義の後退)”」と表現し、「中国の援助は、ますます王室に集中している」と指摘した。
史上最大の無償援助プロジェクト
もう一つ興味深いのがフィジーへの対応だ。2022年末総選挙で、バイニマラマ前首相率いるフィジー第一党から、ランブカ首相主導の連立内閣へ政権が交代した。軍事クーデターで実権を掌握したバイニマラマ前政権は、クーデターに距離を置くオーストラリアやニュージーランドとの関係が悪化したことから中国に接近し、2011年には中国と警察協力協定を結び、中国警官派遣を受け入れ、フィジー警官を中国で訓練させるなどしてきた。
しかし、ランブカ政権はオーストラリアなど民主主義国家との関係を重視し、中国との警察協定の停止を検討するなど親中政策の見直しを進めた。
ロ―ウィー研究所によると、これに対して中国は、2024年、道路・橋梁建設の新規プロジェクトに署名した。総額1億4,000万米ドル(約223億円)。しかも全額が無償援助だった。
フィジーとの関係がやや冷え込んでいた時期に史上最高の無償援助で中国は再び関係強化を図ろうとしているのである。以前なら大型融資で支援していた場面で、現在は大型無償援助を行っている。フィジーは10年前の道路建設などを巡り、中国輸出入銀行に1億900万米ドル(約173億円)規模の債務を抱えている。中国は「債務の罠」への国際的批判を意識し、支援の形を変えつつある。
その意味では、日米豪印4カ国の協力枠組み「クアッド」が、2026年5月の外相会議で、中国の投資に傾きつつあったフィジーの港湾インフラ整備に乗り出すことを決めたことは画期的だ。
フィジーは、米国、オーストラリア、近隣島嶼国を結ぶ重要な海底ケーブルの経由地である。ところがフィジーの港湾には、ここ数年、中国の船が急速に増え、海底ケーブルにアクセスして情報を窃取しているとの疑いがもたれている。とりわけ首都スバにあるスバ港には約100隻の中国漁船が拠点を置き、中国海軍の宇宙遠洋測量船「遠望7号」の寄港地にもなっている。中国海軍は7月6日、南太平洋で非核地帯に向けて原子力潜水艦から長距離弾道ミサイルの試験発射を行った。
トランプ2.0で高まる日本への期待
ランブカ首相は、中国が威圧的な態度を示し、フィジーを利用して国際秩序を乱そうとしているのではないかと疑い、島嶼地域での中国の軍事拠点構築を認めないなど、中国に厳しい発言を繰り返している。
フィジーは、中国と国交を結んでいるが、昨年11月、フィジーのタラキニキニ国連大使が台湾の招待で訪台したところ、中国が「強烈な不満」を表明。フィジー側に抗議した。こうした中で、ランブカ首相は、同年11月訪日して高市首相と首脳会談を行い、「自由で開かれたインド太平洋」の実現や気候変動、安全保障などの分野での協力強化を盛り込んだ共同声明を発表した。
日本フィジー外交筋によると、ランブカ首相は、「最後に頼りになるのは日本」と日本への期待を寄せているという。バイデン前大統領時代に太平洋島嶼国の重要性を打ち出し、首脳会議を開催するなど太平洋地域にコミットしていた米国がトランプ第二次政権となって「米国第一主義」から対応を大きく変え、関心を示す余裕がなくなったからだ。フィジーはじめ数多くのグローバル・サウスの国々が、米国が「唯一の超大国」として依存を続けることに疑問を感じ、相対的に日本への期待感が高まっている。
ようやく中国の影響力から離れようとしているランブカ政権を日本は米国との懸け橋となって民主主義国家側に取り込む後押しをすべきだ。中国の大型無償支援に日本を含むクアッド4カ国で対応して中国覇権から守ることは今後のモデルケースとなるだろう。(文責:岡部伸)
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