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ワシントンUPDATE 「マリにおける戦争」

January 23, 2013

ポール・J・サンダース
センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト常務理事
東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・海外メンバー


マリ国内情勢が悪化の一途を辿っている。しかし、シリア内戦に比べて、国際メディアの注目度は著しく低い。テロ組織アルカイダと結びついた反政府イスラム過激派に対抗するマリ政府を支援すべく、最近フランスはマリでの軍事行動に踏み切ったが、その後もメディアの姿勢に変化は見られない。しかし、米国をはじめとする西欧諸国の指導者は、マリにおける戦闘について、そして同国の危機的状況に国際社会がどう対処していくかを見極めることにより、得られるものがあるだろう。

まず、マリにおける戦闘は、「意図せざる結果の法則」―武力行使などの重大な決断には、意図せざる、そして予期せぬ深刻な結果をもたらす可能性が極めて高い、という法則―の実例と言えよう。米国-NATOによるリビア介入以前から、マリはすでに国内分裂および内部衝突にあえいでいたのは確かだが、リビアの政権崩壊がマリの暴動に拍車をかけ、激化させるという「意図せざる」結果につながったのはほぼ間違いない―ムアマル・カダフィ大佐の失脚により、重武装したトゥアレグ族傭兵が、リビアからマリに帰還したのである。反政府集団同士の分裂と再編の末に、はからずも昨今拡大しているイスラム派勢力が誕生したのだ。[参考リンク: http://www.washingtonpost.com/blogs/worldviews/wp/2013/01/16/9-questions-about-mali-you-were-too-embarrassed-to-ask/ ] 軍事行動を検討中の指導者は、決断に先んじて、二次的結果の可能性について検討するのが賢明だろう。

国際的レベルでは、フランスのマリ軍事介入と、シリア反政府勢力支援を求める米国の働きかけに対する、国連安全保障理事会(特に常任理事国)の対応を比較してみるのが有意義だろう。メディアの注目を集めることはほとんどなかったが、安保理はフランスによるマリでの軍事行動に対する「理解と支持」を全会一致で表明した。つまり、中国、ロシア両国がフランソワ・オランド大統領の武力行使を認めたということになる。改めて述べるまでもなく、これまで両国はシリアへの介入に関する安保理支援を阻んできたのにもかかわらず、である。

なぜ、マリへの軍事行動はOKでシリアは駄目なのか。これには2つの大きな理由が存在する。第一に、そして最も重要な理由は、フランスの軍事行動がマリ現政権の支援を目的としている、という点である。米国その他の国々はシリアのバッシャール・アサドを大統領の座から引きずりおろそうとしているが、そうした行動と今回のフランスの軍事行動は目的が異なるのだ。フランスの軍事介入は、マリ現政権の要請に沿ったものであり、現政権を支援するためのものである。中国、ロシア高官は、政権交代の手段としての武力行使に強く反発しているものの、こうしたフランスの行動を容認するのにやぶさかではない。

第二に、中国、ロシア両国は、西アフリカから中東、中央アジアにかけての弧におけるイスラム過激派の暴動拡大に強い懸念を抱いている、という点である。両国とも、イスラム過激派組織が関与した国内テロに見舞われた過去がある。そうした過激派がマリ現政権を転覆させる様を目にしたくはないだろう。同時に、どちらも自ら介入に乗り出すつもりはない。なぜなら、両国とも、示威行動に出る能力には限界があり、また介入によって報復を招く可能性をも辞さないという強い意志があるわけでもない。すでに他国が介入に出ようとしている状況であればなおさらだろう。フランスの軍事介入は、両国に恩恵をもたらすものであり、犠牲を払う必要もないわけだ。

オバマ政権にしても、フランス軍に物資支援を提供してはいるものの、マリ問題への関与についてはそれ程熱心ではないのが明らかである。ただ皮肉なのは、中国、ロシアが自国の利害からフランス政府に対して支援の言葉を述べ、軍事介入に国連のお墨付きを与えている中で、米国の原則もまた米政府の関与を限定的にしている一因となっている点だ。マリ現政権は、クーデターにより権力を掌握したという背景がある。米国法では、そうした政権に対する支援を制限しており、特に直接的な軍事支援は禁じられている。[参考リンク: http://www.washingtonpost.com/world/national-security/us-weighs-military-support-for-frances-campaign-against-mali-militants/2013/01/15/a071db40-5f4d-11e2-b05a-605528f6b712_story.html?hpid=z1 ] 従って、中国、ロシアが軍事介入を支援するというその時、米国は直接参加できないという、いささか屈折した状況にあるわけである。

フランスが、リビアでの米国-NATO軍事活動開始に先導的役割を果たしてから2年と経たずして、マリでの武力行使への強い意志をあからさまにしているという事実にも注目である。しかもこれらの介入は、対立関係にある政党出身の異なる大統領によって実施された。最近フランスで行われた世論調査によれば、回答者の75%が、オランド大統領の軍事介入の決断に賛成している。その結果、2,500名程のフランス軍兵士が派遣されることになろう。[参考リンク: http://www.bloomberg.com/news/2013-01-15/hollande-mali-intervention-backed-by-75-of-french-poll-finds.html ] こうした高い支持率は、旧植民地への関心、イスラム過激派への懸念、そして人道主義的衝動など様々な思いを反映したものと考えられる。リビアへの軍事介入と併せて考えると、一部の見解とは裏腹に、欧州の一部政府は、必要とあらば武力行使に全面的に打って出る覚悟があることが分かる。

しかし、フランス政府が、マリに長期間駐軍したいと望んでいるか、あるいはそうするだけの力を保持しているかは、全くの未知数である。長きに及んだリビア軍事介入で明らかになったことは、主導国であるフランスおよび英国には、長期間軍事行動を維持するだけの諸資源がなかった、ということである。また、フランスがもうひとつの旧植民地であるベトナムの内乱激化を抑えきれなくなったことが、米国によるベトナムへの関与の発端であったことを記憶に留めている者もアジアにはいるだろう。フランス指導者、そして、フランス軍事行動に更なる貢献を図ろうと考えている米国高官達は、その先にどのような可能性があるか考えてみるべきではないか。

■オリジナル原稿(英文)はこちら

    • Senior Fellow in US Foreign Policy at the Center for the National Interest President, Energy Innovation Reform Project
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