2016年アメリカ大統領選挙UPDATE | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

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2016年アメリカ大統領選挙UPDATE

January 18, 2015

目的

東京財団では、2016年の米国大統領選挙を見据え、 2014年の中間選挙分析 に続き、アメリカ大統領選挙分析プロジェクトを立ち上げました。

オバマ政権の任期が残り1年と迫る中、オバマ政権は金融規制改革、医療保険改革などで一定の実績を上げましたが、依然として経済格差の拡大や財政赤字など多くの課題が残っており、また昨今白人警官による黒人の射殺事件が相次ぐなど、国内の人種的な対立も高まっています。
一方、外交に目を向けても、オバマ政権はイラクやアフガニスタンからの米軍の撤退を進めてきましたが、中国の経済的台頭や海洋進出、クリミア併合とウクライナ内戦、シリア内戦と過激派組織「イスラム国」の台頭など複雑な国際問題に直面しています。
米国が圧倒的な超大国であった時代から、中国やインドなどの新興国が台頭する時代へ移行する中、今後米国はどのような内政、外交を進めていくのでしょうか。それを占う上でも、2016年のアメリカ大統領選挙に注目していく必要があります。
2016年アメリカ大統領選挙分析プロジェクトでは、こうした背景から2016年のアメリカ大統領選挙の行方を追い、内政、経済、外交などさまざまな側面から選挙の行方についての論考を掲載していきます。「アメリカNOW」や「アメリカ経済を考える」、「2014年アメリカ中間選挙」などに掲載している他の論考と併せて、アメリカについての理解を深めていただければ幸いです。

(2015年10月)

執筆メンバー

久保文明 (東京財団上席研究員・東京大学法学部教授) プロジェクトリーダー
中山俊宏(慶應義塾大学総合政策学部教授) サブリーダー
渡辺将人(北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授) サブリーダー
飯塚恵子(読売新聞編集局国際部長)
加藤和世(米国笹川平和財団(Sasakawa USA) 教育事業、財務担当ディレクター)
高畑昭男(白鴎大学経営学部教授)
西川賢(津田塾大学学芸学部教授)
細野豊樹(共立女子大学国際学部教授)
前嶋和弘(上智大学総合グローバル学部教授)
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)
山岸敬和(南山大学外国語学部教授)

渡部恒雄 (東京財団上席研究員・笹川平和財団特任研究員)

「2016年アメリカ大統領選挙分析」プロジェクトを振り返って

イギリスのEU離脱が判明したのは2016年6月のことであった。

読者諸氏がそれに先立つ16年初めころ、このBrexitとトランプが共和党の大統領候補指名を獲得することと、どちらがより起こりえないと思うかと聞かれていたら、どのようにお答えになったであろうか。おそらく、多くの方が、トランプの共和党指名獲得の方がはるかに起こりえない、と答えたのではないかと思う。

実際には、トランプは共和党の指名獲得だけでなく、民主党のクリントンも下し、大統領に当選した。

2016年のアメリカ大統領選挙では、これほど起こりえないと思われたことが実際に起きた。本プロジェクトは、この「起こりえない」と思われたことの分析である。

大統領選挙に関心を寄せる多くの読者にとって、通常の新聞やテレビ・ニュースによる報道は、質量ともにやや物足りないものであろう。かといって、ほとんど無限に存在するアメリカでの報道や専門雑誌による分析まで目を通している時間のある日本人はごく僅かである。しかも、そこでの分析のほとんどはきわめてミクロな部分に入り込み、日本にとって重要かどうかといった視点を、当然ながら含んでいない。

本プロジェクトは、それなりに高い水準を維持しつつ、非常に短い論考のなかで、特定のテーマを掘り下げようと試みた。個々の論文は短いものの、総体としてはそれなりに重厚なものになっており、アメリカにおける時事的な選挙分析の提供という点では、日本の知識社会に一定の貢献ができたのではないかと自負している。内部では異論も存在したが、少なくとも比較的早い時期からトランプ現象を取り上げていたことは確かである。また公表前には全員参加の研究会を実施して、相互批判を行ってきた。

末尾になるが、プロジェクト参加者のみならず、このようなプロジェクトを採用し、また運営に様々な面からご協力いただいた東京財団とそのスタッフの皆様に心より感謝の気持ちを表したい。

2017年3月19日
久保文明

2016年アメリカ大統領選挙 update7

今回がこのプロジェクト最後の回である。当初、こういう状況が発生すると予想した人がこのプロジェクト構成メンバーの中にどれだけいただろうか。終末論的な就任演説、次々と発せられる行政命令、安倍総理との想定を超えた会談、そして、期待値が低かったこともあって、絶賛された議会演説。トランプを読み解く作業はこれからも紆余曲折を経ながら当分は続くことになるだろうと思う。オバマ前大統領は、よかれあしかれ論理的思考の持ち主で、その思考の痕跡をたどることが容易だった。それが大統領として優れた資質であるかはもしかすると意見が分かれるところかもしれないが、ある意味、予測可能性が高い大統領だった。しかし、トランプ大統領は違う。このプロジェクトも散々振り回された。

今回は、以下のエッセーが順次アップロードされていく。 高畑昭男 は、トランプ外交が「米国第一主義」と「力による平和」という相反する二つの顔を有しており、世界はその二面性に振り回されていると分析する。 渡部恒雄 は、期待以上の成果をあげた日米首脳会談を手掛かりに、トランプ外交が現実主義の路線に軌道修正するかどうか、その可能性を探っている。 中山俊宏 はトランプ外交が従来のアメリカ外交の伝統から大きく離脱するものであり、そのことに警鐘を鳴らす。

西川賢 は、トランプに抗する動きが色々伝えられる中、連邦議会において実際にトランプに反対している議員は誰なのか、その実態を投票行動に基づいて考察する。 前嶋和弘 は、反トランプの機運が盛り上がりを見せつつも、「反撃体制」が十分に整っていない民主党の弱さに注意を促す。 渡辺将人 はオバマ政権とトランプ政権を断絶としてとらえるのではなく、あえてトランプ政権誕生要因としてオバマ政権をとらえる視点を提供している。 細野豊樹 は、「ファクト・フリー」という新たな政治環境が二極化をさらに加速させ、それがファクト・フリー状況をさらに加速させていく、負のスパイラルを考察する。

安井明彦 は、保護主義や厳格な移民政策など経済にとって好ましくない「悪いトランプ」が先行しているが、これが「良いトランプ」に転じるきっかけはあるのか、注目すべき人物としてゲーリー・コーン大統領補佐官をあげながら論じている。 山岸敬和 は、「オバマケア廃止」を掲げて当選したトランプ政権の「廃止」に向けた取り組みの実態を検証しつつ、医療政策に関してはドグマティックではないトランプ政権が場合によっては、「第三の道」を切り開いていく可能性を指摘している。 加藤和世 は、トランプ政権とのパイプが希薄なワシントンのシンクタンク業界の戸惑いを指摘しつつも、議会などを介してその役割を担おうとする様子を紹介している。

トランプ政権はもう再選に向けて動き出しているとも伝えられる。2020年のアメリカがどうなっているのか。その前に2018年の中間選挙もあろう。アメリカの予測可能性が著しく低下したことによって、アメリカを見る目をより研ぎ澄まさなければならない。

中山俊宏(アメリカ大統領選挙updateプロジェクト・サブリーダー、
慶應義塾大学総合政策学部教授)

▼記事一覧 (2017年2月16日より随時更新)

2016年アメリカ大統領選挙 update6

アメリカ大統領選挙分析の第六回研究会が大統領選挙の終了を受けて開催された。各プロジェクトメンバーによる六回目の分析レポートの報告と議論が行われたが、その報告内容は本コーナーに数回に分けてアップデートしていく。

細野豊樹 は、ペンシルヴェニア、ミシガン、ウィスコンシンを分析する。トランプ現象は非大学卒の白人の共和党化を加速し、その対価として高学歴層の民主党化が今回の選挙でも進んだと論じる。 前嶋和弘 は、民主党クリントン陣営の敗北の原因を振り返る。今後の民主党の立て直しについてはまだ混沌としているのが現状であると述べ、議会指導部の人材不足についても触れている。

渡辺将人 は、両陣営と両党関係者への選挙後の現地での聞き取りをもとに、クリントン陣営と民主党の問題点を整理する。また、共和党主流派とトランプとの「溝」やトランプ支持者の生の声も伝える。 西川賢 は、共和党がトランプの主導下でどのような路線を歩むかは今後の党内の力学にかかっているとしつつも、トランプが共和党主流派の立場に同調して軟化する可能性には一定の留保を付けている。 中山俊宏 は「自身のツイートで道を文字通り切り開いてきた」トランプが、ホワイトハウスに入った後もツイッター依存度が高くなればなるほど、「分断の政治」が加速していく可能性があると指摘する。

安井明彦 は、トランプの経済政策には、拡張的な財政政策(「良いトランプ」)と保護主義的な通商政策(「悪いトランプ」)が混在し、前者が中心となるかは、議会共和党との連携がカギを握ると指摘する。 山岸敬和 は、トランプが掲げるオバマケアの破棄について、説得力のある代替案を示すことができないと、次の中間選挙で弱者切り捨ての党として共和党に大きな打撃になりかねないと指摘する。

加藤和世 は、ワシントンの専門家の反応を現地から伝える。「実利主義者のトランプは「政治的適切性(Political Correctness)」を好まず、問題解決を好む」と語る安全保障専門家の見方などを紹介する。 渡部恒雄 は、トランプの政権移行チームが「現実との折り合い」をつけはじめている背景にヘリテージ財団の影響を指摘する。台湾総統との電話会談にまで広がる同財団の関係者について論じる。 高畑昭男 は、トランプ外交をレーガンとの比較で検討する。保守本流、現実派、ネオコン等を含む政策知識人の集団も、国務長官にロムニーが指名されれば、政権に協力する可能性が強いと指摘する。

渡辺将人(アメリカ大統領選挙updateプロジェクト・サブリーダー、
北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授)

▼記事一覧(2016年12月13日より随時更新)

2016年アメリカ大統領選挙update5

本選挙が本格化する中、第1回テレビ討論が終了した段階で、アメリカ大統領選挙分析の第五回研究会が開催された。各プロジェクトメンバーによる五回目の分析レポートの報告と議論が行われたが、その報告内容は本コーナーに数回に分けてアップデートしていく。

高畑昭男は、レーガンのスローガン「力による平和」を題にしたトランプの外交演説を分析しているが、第1回テレビ討論会の結果を見る限り、保守派の期待は裏切られたも同然だったと論じる [1] 。加藤和世は、共和党の外交・安全保障専門家は積極的に「アンチ・トランプ」という状況だが、ワシントンの専門家の努力がトランプの当選を阻止することは期待はできないだろうと指摘する [2] 。渡部恒雄は、同盟国への姿勢について、両候補の明らかな違いが明確となったとしているが、特にクリントンの同盟国への明確な態度は外国向けだけではなく有権者へのアピールでもあることを明らかにしている [3]

安井明彦は、経済政策においてトランプの未熟さに注目が集中するあまり、クリントンの公約は精査の眼を免れているが、大きな幹が不在であるとしている [4] 。山岸敬和は、討論会でも論じられた人種問題をめぐる経緯を分析し、人種問題は行き詰まりの状態にあることを指摘している [5] 。細野豊樹は、3つの大票田の激戦州について高学歴層の動向を軸に終盤戦を分析し、オハイオ州でトランプが非大学卒白人の間で支持を大きく支持を伸ばしていると指摘する [6]

前嶋和弘は、両候補の立ち位置が大きく分かれるのが、環境・エネルギー政策だと注目する。(トランプが)「環境破壊の人物を任命する」という殺し文句は、迷っている民主党の潜在的な支持者には有効であろうと述べる [7] 。西川賢は、副大統領候補によるテレビ討論を論じるが、トランプとペンスの政策にはどの程度の統一性が存在するのか、今回の討論会から明証は得られなかったとしている [8]

渡辺将人は、インターネット選挙をめぐる新たな工夫としてクリントン陣営によるテレビ討論「ファクトチェッカー」、ネット世論形成の試行錯誤を報告する [9] 。中山俊宏は、トランプ現象の実相に迫り、それは人々の意識の間で起きている現象、いわばアイデンティティの喪失が生み出した社会的病理であると指摘する [10]

渡辺将人(アメリカ大統領選挙updateプロジェクト・サブリーダー、 北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授)

記事一覧 (2016 10 11 日より随時更新 )

[1] 「力による平和」はリップサービス? (掲載日:2016年10月19日)
高畑昭男/白鴎大学経営学部教授

[2] 2016年大統領選の「悲喜劇」 (掲載日:2016年10月17日)
加藤和世/米国笹川平和財団(Sasakawa USA) シニア・プログラムオフィサー

[3] 三回のディベートが示した両候補の決定的な違いは同盟国への姿勢 (掲載日:2016年10月25日)
渡部恒雄/東京財団上席研究員・笹川平和財団特任研究員

[4] クリントンの経済政策には「太い幹」がない (掲載日:2016年10月11日)
安井明彦/みずほ総合研究所欧米調査部長

[5] 黒人:もうひとつの忘れられたグループ (掲載日:2016年10月17日)
山岸敬和/南山大学外国語学部教授

[6] 大統領選終盤の10月サプライズと激戦州の動向 (掲載日:2016年10月18日)
細野豊樹/共立女子大学国際学部教授

[7] クリントンの環境・エネルギー政策:目立つトランプとの差 (掲載日:2016年10月11日)
前嶋和弘/上智大学総合グローバル学部教授

[8] 副大統領候補討論会から見えたもの (掲載日:2016年10月11日)
西川 賢/津田塾大学学芸学部教授

[9] 大統領選挙ディベート「ファクトチェック」と党派的ネット論壇 (掲載日:2016年10月11日)
渡辺将人/北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授

[10] トランピストたちの実相 (掲載日:2016年10月11日)
中山俊宏/慶應義塾大学総合政策学部教授

共和党・民主党全国大会レポート

7月18日から21日までのクリーブランド州オハイオでの共和党全国大会と25日から28日までのペンシルバニア州フィラデルフィアでの民主党全国大会について、プロジェクトリーダーの久保文明上席研究員、サブリーダの渡辺将人北海道大学准教授が現地を取材し、その評価・分析を行う。

渡辺将人 北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授

    • 現地報告 共和党全国大会(上)――ハイライト、トランプの指名受託演説 (掲載日:2016年7月28日)
      久保文明/東京財団上席研究員、東京大学法学部教授

2016年アメリカ大統領選挙update4

共和民主両党の大統領候補が事実上確定し、両党全国大会の開催が間近に迫る中、2016年7月1日にアメリカ大統領選挙分析の第四回研究会が開催され、各プロジェクトメンバーによって四回目となる分析レポートの報告と議論が行われた。今後、それぞれの原稿を適宜修正の上、本コーナーに随時アップデートしていく。

西川賢は、共和党側の予備選挙を振り返り、なぜトランプの台頭を予測できなかったのか、その原因を考察し、今回の予備選挙では幾つかの例外があったことを指摘する [1] 。前嶋和弘は、民主党側の予備選挙を振り返り、なぜ圧倒的優位に立っていたはずのクリントンが、なぜサンダース相手にここまで苦戦したのか、その原因を考察する [2] 。細野豊樹は、全米レベルの世論調査ではなく、ペンシルヴェニア州に着目し、同州における僅差だが安定した民主党優位が流動化しつつある状況を指摘、トランプ旋風がそのような状況を加速させていると論じている [3]

山岸敬和は、今回の選挙では医療問題をめぐる対立の構図がこれまでとは異なっている点を指摘する。共和党の改革案は皆保険の実現を全面的に否定する姿勢を軟化させ、クリントンは、サンダースの影響もあり、オバマケアに対する改革案をより左に位置づけざるをえなくなったという [4] 。安井明彦は、共和党、民主党双方の側で生じている経済政策に関する「左旋回」について論じている。安井は、この「大きな政府」への左旋回は、クリントンの「中道回帰」を難しくするかもしれないと論じている [5] 渡辺将人は、オーランドの乱射事件をめぐる両陣営のポジション取りを分析し、この事件が「常道」を部分的に修正し、選挙の論戦に影響を与える可能性につき考察している [6] 。加藤和世は、一般のアメリカ人と隔絶したところで活動しているワシントンのシンクタンク業界の自己反省につき考察を行っている。今回の選挙ではっきりと表明された専門家への不信感にワシントンは衝撃を受けているようである [7]

渡部恒雄は、予備選挙における外交政策論議がいかに不毛な空白であったかを、主要争点をマトリックスの上に配置しつつ、2008年の予備選挙と比較して考察している。そして、大衆の感情が本選挙に影を落とす可能性について警告を発している[8]。高畑昭男は、BREXITが大統領選挙におよぼす影響についての考察を行っている。さらにBREXITがもたらす波紋を経済や金融の問題だけに限定して捉えることは誤りであり、それが軍事・安全保障面に及ぶす影響についても意識すべきだとする [9] 。中山俊宏は、トランプの台頭が同盟に及ぼす影響、とりわけ仮にトランプ政権が発足した場合、日本としてはトランプを「乗り切る」という発想を持つことが肝要だと論じる [10]

中山俊宏(アメリカ大統領選挙updateプロジェクト・サブリーダー、

慶應義塾大学総合政策学部教授)

▼記事一覧(2016年7月6日より随時更新)

▼ 関連記事

2016年アメリカ大統領選挙update3

2016年3月14日、スーパーチューズデー(3月1日)などの予備選の進展を受けて、アメリカ大統領選挙分析の第四回研究会が開催され、各プロジェクトメンバーによって三回目となる分析レポートの報告と議論が行われた。今後、それぞれの原稿を適宜修正の上、本コーナーに随時アップデートしていく。
中山俊宏は共和党のトランプ候補が優位な状況を継続していることを受けて、今回の予備選では「アンチ・エスタブリッシュメント」という表現が、有権者の渦巻く不満を的確に反映していると指摘してその意味するものを考える [1] 。渡辺将人は予備選を実際に体験した経験から、クリントン支持者の中でも「初の女性大統領を」という意識が希薄なことに着目し、候補者の「属性」の希薄化が進んだことで、エスタブリッシュメントとの距離の差が対立軸にもなった可能性を示唆する [2] 。西川賢は、トランプとサンダースが資金面でもスーパーPACという大口の選挙資金に頼らずに、それぞれ自己資金と小口献金で費用を賄っている状況を指摘した [3]
安井明彦は、米国の中間層の所得が伸びずに所得の再配分が進まないという経済政策の敗北が、トランプ現象の背景にあると指摘する [4] 。山岸隆和は、トランプの医療保険への政策は、矛盾はあっても、全ての市民に対する医療保障を何らかの形で実現することに含みを持たせ、既存の共和党イデオロギーには脅威だが、ブルーカラー労働者には安心感につながるという肯定的な側面も指摘する [5]
前嶋和弘は、「サンダース現象」は民主党予備選がトランプ現象の加熱する報道に埋没するのを防いだ効果があると指摘し、クリントン陣営が今後対トランプでどのような選挙戦略・戦術をとるのかを展望する [6] 。細野豊樹はトランプの予備選での勝利が続くことを受けて、共和党執行部がトランプの指名に納得していない現状や、世論調査では本選でクリントンが優位であることなどから、本当にトランプが指名を確実にしたのかと疑問を持ち、今後の展開を考察する [7] 。渡部恒雄も121名の共和党の安全保障専門家が公開書簡でトランプ候補の政策と姿勢を批判したことで、今後の共和党の分裂の可能性を示唆する [8] 。加藤和世は、トランプ・サンダース現象が示すように専門家と一般の有権者が乖離していることに、ワシントンのシンクタンクが関心を持ち、今後の人口動態を調査していることを紹介している [9] 。 高畑昭男は、トランプ陣営が発表した5人の外交政策アドバイザーがそれぞれに問題含みで、ワシントンでの厳しい批判に晒されていることを指摘する [10] 。ただし飯塚恵子は、トランプの同盟国のタダ乗り批判は、トランプ外交の特異性ではなく、むしろオバマ政権も含めた米国全体の気分を反映したものであるとして、日本も真剣に捉えるべきだと警告している [11]

渡部恒雄 東京財団上席研究員兼政策研究ディレクター

▼記事一覧(2016年3月23日より随時更新)

2016年アメリカ大統領選挙update2

2016年1月15日、アメリカ大統領選挙分析の第三回研究会が開催され、各プロジェクトメンバーによって二回目となる分析レポートの報告と議論が行われた。今後、それぞれの原稿を適宜修正の上、本コーナーに随時アップデートしていく。
中山俊宏は1月12日のオバマ大統領による最後の一般教書演説に、「トランプ現象」を引き起こしている「異質なものへの不信感」等、米国社会の「負のエネルギー」への警告、というメッセージをみている。渡部恒雄は同演説でオバマがクルーズ候補の「イスラム国」への「絨毯爆撃」という非寛容で、非現実的な政策を暗に批判したことに着目して、主要候補の政策を比較した。飯塚恵子も、今後のテロ対策と中東政策が、白熱する共和党指名候補争いにおける各候補者の立ち位置を色濃く反映していくであろう点に着目する。
高畑昭男は、北朝鮮が誇張された「水爆実験」の成功を発表する中、オバマ政権の「戦略的忍耐」という北朝鮮政策が、共和党候補からやり玉に挙げられている一方で、北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止する代替案については、いかに候補者の間でも乏しいかという現実を指摘。加藤和世は、共和党系シンクタンクAEI(アメリカン・エンタープライズ研究所)が、混迷する世界情勢下における、アメリカのリーダーシップの重要性について報告書を発表したことを取り上げ、米国を「地球上最も強い国」としたオバマ演説が有権者には言い訳がましく聞こえる背景をワシントンから報告した。
細野豊樹は、オバマがアメリカ衰退論に反論する必要があるのは、有権者が将来に不安を感じており、特にブルーカラー層が経済的な不安を感じているためだと考え、州別の学歴構成から予備選挙の帰趨を展望する。安井明彦は、争点としての経済問題の重要性が低下して、テロ問題が急上昇していることに着目して、有権者全体のトレンドを見る。山岸隆和は、テロ対策の関心が高まっても、依然として医療政策への関心が強いことを再確認し、オバマケアは民主党と共和党のアイディアが複雑に絡んでいることから、クリントンのサンダース提案への攻撃、トランプの国民皆保険重視、他の共和党候補のオバマケアへの代替案の乏しさという複雑な状況を俯瞰する。
西川賢は候補者が乱立する共和党内において、エスタブリッシュメントが、トランプやクルーズに対抗できる候補を選べない現象を背景に共和党予備選の帰趨を考える。前嶋和弘は、共和党ティーパーティー系の財政保守派がトランプを嫌い、ルビオやクルーズを支援している現象に着目し、大統領選本選ではクリントン候補が磐石であるという神話が民主党支持者の間で広がっているが、それは甘い幻想ではないか、と疑問をはさむ。渡辺将人は予備選の最初となるアイオワ党員集会において、スマホとソーシャルメディアの普及、マイクロソフトが開発した集計アプリ、海外からの電話参加(テレコーカス)などの「新技術」がどう影響するかに着目する。

渡部恒雄 東京財団上席研究員兼政策研究ディレクター


▼記事一覧 (2016年1月18日より随時更新)

2016年アメリカ大統領選挙update1

〔概観〕 2016年アメリカ大統領選挙分析の第二回研究会で、各プロジェクトメンバーが執筆した分析レポートの報告と議論が行われた。その後、適宜修正をしたものを本コーナーに随時アップデートしていく予定だ。
中山俊宏は、トランプ現象は米国の政治不信が肥大化した怪物のような存在と喝破する。一方、過激な発言で注目されてきたトランプ氏だが、安井明彦は、トランプの税制改革案は共和党の本流に沿ったものであり、これがむしろ型破りゆえの人気の「終わりの始まり」ではとも示唆する。社会民主主義者を標榜しながらも、民主党の次点で健闘するサンダース候補の選挙運動を取材した渡辺将人は、その反エスタブリッシュメントの強い色彩を報告している。山岸敬和は、サンダース人気の背景には所得格差の問題が大きく影響していると指摘し、焦点となる税制とオバマケア(医療保険改革法)に各候補の政策を概観した。
外交・安保政策においては、高畑昭男は、多くの共和党候補に政策を提供している政策集団「ジョン・ヘイ・イニシアチブ」等に注目し、ネオコン系の専門家がイラク戦争を主導した頃とは趣を変えて、穏健派を取り込もうとしていると指摘する。ワシントンDC在住の加藤和世は、当地における外交・安保政策の動向と超党派のシンクタンクの動きを報告し、渡部恒雄は外交・安保政策の戦略性を計る尺度として共和党が反対するイラン核合意に着目した。
この研究会では、予備選以前に利益集団や社会運動家などの政策要求者が支持を固める「影の予備選」にも着目している。西川賢は、支持率では低迷しているジェブ・ブッシュ候補たちが資金集めでは圧倒的な強さを見せ、「影の予備選」ではクリントン候補が圧倒的な強さをみせていることを指摘し、支持率だけが選挙を見る指標ではないことを示唆する。前嶋和弘はメディアにおける「『影の予備選』の『サーカス化』」を指摘し、観客を楽しませるトランプとサンダースの強さを指摘しつつ、政策論が置き去りにされたことを懸念した。細野豊樹は、日本にも衝撃をもたらしたクリントン候補の環太平洋経済連携協定(TPP)不支持表明を例に、近年の大統領選挙においては、反自由貿易政策のポピュリズムは選挙戦術的には有効である事実を指摘している。

渡部恒雄 東京財団上席研究員兼政策研究ディレクター

▼記事一覧 (2015年10月14日より随時更新)

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