【イベント開催報告】施設見学会「地域密着型の営農型太陽光発電事業‐荒廃農地の活用につながる再生可能エネルギーの事例-」 | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

東京財団政策研究所

詳細検索

東京財団政策研究所

【イベント開催報告】施設見学会「地域密着型の営農型太陽光発電事業‐荒廃農地の活用につながる再生可能エネルギーの事例-」

【イベント開催報告】施設見学会「地域密着型の営農型太陽光発電事業‐荒廃農地の活用につながる再生可能エネルギーの事例-」

December 5, 2022

C-2022-003

匝瑳メガソーラーシェアリング第一発電所
ロンハーマン匝瑳支店
質疑応答

202010月、菅首相(当時)は所信表明演説において2050年までのカーボンニュートラルを目指す、いわゆる「カーボンニュートラル宣言」を発表した。その後、プライム市場においてTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づく情報公開が義務化されるなど、企業にとってカーボンニュートラルは喫緊の課題となっている。

この潮流を踏まえ、今年12月に発刊予定の『CSR白書2022』(監修者:平沼光主席研究員)では、カーボンニュートラルに向けた企業の取組についてアンケート調査を実施した。アンケートでは、カーボンニュートラルに向けて特に活発に取り組む企業は、その施策の中核に再生可能エネルギー調達を据える傾向があると明らかになった。再生可能エネルギーの調達のための多様なオプションの中でも、新たな再エネの創出を意味する「追加性」のある試みは、現状では自社の事業所や工場への太陽光パネルなどの設置を意味する「自社敷地内での自家発電」に集中している。他方で、将来的に自社敷地外での自家発電や、企業からの出資をもとに電力会社が発電所を新設するオフサイトPPAなど、自社敷地外の再生可能エネルギー発電設備への投資を見据えている企業も多い。しかし、追加性のある再生可能エネルギーの調達はコストや制度面での課題も多く、また大半の企業は地域密着型の先行事例・モデルについて知らない。こうした現状を踏まえ、東京財団政策研究所CSR研究プロジェクトは、千葉県匝瑳市で市民エネルギーちば株式会社が実施している、農業を主軸に据えた太陽光発電事業である営農型発電の施設見学会を928日(水)に実施した[1]。同社が展開するソーラーシェアリングは、畑に支柱を立てることで上空に細身の太陽光パネルを設置し、農業と発電を組み合わせる試みである。

 

匝瑳メガソーラーシェアリング第一発電所

115Wのパネルが1万枚以上並び、全体で1,200 kWのパネル容量を持つ。単管パイプ架台に支えられたソーラーパネルの高さは約3メートル20センチ。パネルの間から太陽光が地面に射し込み、有機栽培された大豆の葉が生い茂っている。柱と柱の間には4メートル20センチの幅があり、間を通るトラクターのサイズに応じて設計されている。

市民エネルギーちば株式会社は13万平方メートルほどで有機栽培を行っており、そのうち1万平方メートルは不耕起栽培だ。耕さないことで土に炭素が溜まり、それを用いた有機栽培が可能となる。

 

ここ5年間でパネルの変換効率は2割以上向上した。また、高い位置に設置される太陽光パネルは、野立て(地面の上に設置する畳ほどの大きさのパネル)と比べて、パネルの温度上昇が抑えられる。パネルの温度が10℃上昇すると4%ほど発電効率が落ちるが、営農型の太陽光パネルは下に植物があり、また風通しがよく涼しいため、発電効率の面でもメリットがある。

市民エネルギーちば株式会社は、細身のパネルしか用いない。理由として、第一に、細身のパネルを用いることで降雨時の雨だれが分散され、下の土壌への影響が最小化されることが挙げられる。第二に、細身のパネルを使用することで、パネルとパネルの間の空間をパネルの幅の2倍確保できるからである。これによって遮光率が3分の1ほどになり、大抵の作物が元気に育つ水準に抑えられ、元々夏場に土の中で育つサツマイモやジャガイモ、落花生の収穫率と品質の向上につながる。これらの作物は日陰に育つため、細身パネルの陰が大木の枝の陰に似た役割を果たす。第三に、パネルが細身であるため風の影響を受けにくく、安全性が高まることが挙げられる。

ロンハーマン匝瑳店

市民エネルギーちば株式会社はオフサイトPPAを請け負っており、パタゴニア日本支社や株式会社サザビーリーグ リトルリーグカンパニーと協力関係にある。上の写真は株式会社サザビーリーグリトルリーグカンパニーが日本事業を展開するアパレルブランド、ロンハーマンの出資で建てた発電所である。「ロンハーマン匝瑳店」と名付けられ、ロンハーマン社員による農業体験なども行われている。ロンハーマン匝瑳店の看板は、1階が有機栽培を示す「ORGANIC FARMING」、それを支える地下1階の「SUSTAINABLE EARTH」、2階部分が細形の太陽光パネルを指す「SOLAR POWER」、さらに一番上の3階が「LOVE」という構造になっている。

質疑応答

発電所の見学中およびその後のコミュニティーセンター(匝瑳市)での質疑応答時間(司会:平沼光主席研究員)には、市民エネルギーちば株式会社の東光弘代表取締役、宮下朝光専務取締役/環境事業部本部長と、施設見学会参加者の間で活発な議論が交わされた。

Q.単位面積当たりの収穫量を正しい手順で測定し比較しているか。それがないとうまくいっている(農業生産として科学的に立証できている)とは言えないのではないか。

A.正しい手順での測定および比較をしている。茨城大学と連携して行っている調査によると、昨年は太陽光パネル下の収量が少なかったが、今年は太陽光パネルのもとで育てた大豆の収穫量は通常の農地で育てるよりも良くなっている。調査が始まったばかりのため、その理由はまだわからないが、今後はさらに信頼のできる評価を目指している。

 

Q.営農型太陽光発電におけるソーラーパネルの設置には、どのような条件があるのか。

A.実証実験の結果、論理的には遮光率が3分の1以下であれば設置が可能であると明らかになった。地方によって、例えば東北地方であればもう少し遮光率を抑える必要があり、四国や九州であればもう少し高くても良い、ということはあるかもしれない。また、空からの光と地面からの光の両面で発電できるソーラーパネルの技術も有しており、これを利用すれば、雪によって地面から光が反射する北海道などの豪雪地域の方が発電に適しているのではないかという仮説も持っている。今後は、より定量化していきたい。

私たちは農業が最も重要だと考えており、ソーラーシェアリングが、農業資材として農業制度を支えるものになってほしい。今後も地元の間伐材や自然塗料を活用し、環境負荷の低い事業として進めていきたい。今日見てもらった地域は、8年前には4分の1が耕作放棄地だった。しかし、現在ではソーラーシェアリングのエリアが13万平米程度に増え、今後はさらに6万平米ほど増やす予定でいる。

 

Q.色々な企業からの投資を原資にソーラーパネルを設置していくということだったが、企業側にとってのリターンは何か。

A.金利は1.2~1.5%ほどで、投資としてお返ししている。また、投資していただいた発電所については通常の電力料金の支払いをしていただいているが、そこに対してはネーミングライツを提供している。

 

Q.立地に関して、太陽光発電のことだけを考えるのであれば日射量の多い土地を選べば良いが、農業も併せて考えるとどのような制約があるか。また、今後ソーラーシェアリングを展開できる場所としてどこを見込んでいるか。

A.匝瑳市の取組に関しては、耕作放棄地を選んで発電所を設置したため、立地がバラバラである。経済効率の観点からは、田んぼは傾斜が少なく、日射量が多いところに分布する傾向にあり、また県道や国道の近くにあることが多く電柱との接続が容易であるため、ソーラーシェアリングに向いていると考えている。また、傾斜がある場所についても、ペロブスカイト太陽光電池が実装されれば、今まで不適地だと考えられていた場所にソーラーパネルを設置する可能性は出てくる[2]

 

Q.現在、肥料の価格が高騰しており、農家としては副業的にソーラーパネルを設置したいという気持ちがあると思う。他方でメンテナンス費用や設備投資の問題もある。農業の収支とエネルギーの収支がどれくらいのバランスであればエネルギー事業として黒字になるか、また一般の農家でも簡単に導入できるものなのか。

A.非常に複雑なパラメーターがあり、一概には言えないが、現状基本的にはプラスであり、今後ますますプラスになっていくと考えている。第一に、発電による金銭的なインカムがある。第二に、農業に関しては、日本は諸外国と比べて助成金が少ない現状があり、安全保障の観点から制度が是正されれば、今後もっと活性化すると考えている。その中で、ソーラーシェアリングが柱となり、シナジーが生まれることでより野心的な農家が増えていくことを期待している。例えば、現在自動運転の共同研究をしており、ソーラーパネルは正確に設置しているため、GPS情報であるとズレが出るがアイサイト情報であれば間を通るトラクターが非常に良い成果を出す。他にも、そこにスプリンクラー機能を入れ込むなど、機械化との相性も良い。廃れていく地方を守ろうという高い志があるのであれば、ソーラーシェアリングは強力な武器になる。

 

Q.今回見学した場所は元々耕作放棄地だったが、例えば北海道の場合、農業が行われている場所にもソーラーパネルが設置されている。国の規制なども踏まえ、そうした両立は可能なのか。また、雪国に最適化されたソーラーシェアリングが気になるのだが、もう少し説明してほしい。

A.現在我々の発電所がある場所はいわゆる農業振興地域であり、規制が最も厳しいところ。そこでも実施できているため、制度としては問題がない。ただし、北海道などのケースだと超大型耕作機械が入る可能性があり、そうなると別の設計を考えなければならない。パーテーションで仕切るような農業には向いていると思う。

 雪国用のソーラーパネルは幅が20センチほどで、角度が30度ほどあるため、まず雪が上に積もりにくい。元々ソーラーシェアリング向けのパネルの方が、野立ての畳ほどの大きさがあるパネルよりも雪は積もりづらく、少し暖かくなるだけで雪が落ちる。外気温が低い方が発電効率は良く、また雪で反射した太陽光を二面で活用することで、匝瑳市の場合だと25%ほど発電量が増加するため、雪国の場合はよりポジティブな結果が出ると考えている。小規模で良いので、早く雪国での実証がしたい。

 

Q.農業においては、農業従事者の不足が大きな問題だと思われるが、そこに対してはどのような取組を実施しているのか。

A.従来の、一反あたりいくら、農作物1キロあたりいくらという農業は破綻していると考えている。農業経営ベースの、例えば時間あたりいくらなのか、ということを考えた方がいい。これまでは農家とは「農産物生産家」の略であったが、これからは「農業経営家」に概念を変える必要がある。よって、例えば観光的な農業、6次産業化なども見据えて、それらも地域で生まれた生産率や収穫率の一部と捉え、楽しい未来のシナリオを描くといいと考えている。

そういった観点から村づくり、農村づくりを生業にしたいと考える人が増えれば、自ずと雰囲気も明るくなるし、知的好奇心の高い人が農業に携わることになる。

このような包括的な農業の枠組みは、家族経営でもいいし、法人単位でも、ハイブリッドでもいい。最終的にどのような技術がどのような順番で普及するかは予測しきれないところもあり、ある程度幅を持って、どのような未来が訪れてもうまくいくようなデザインをしている。

 

Q.地域によっては、耕作放棄地が飛び地になっていることもあると思う。どの程度の分散具合であれば、ビジネスとして成り立つのか。

A.電動化への動きが活発化する中で、軽トラも電気自動車(EV)化していく。EVは移動距離が短いが、分散的なソーラーシェアリングを作れば、畑で充電をし、帰宅後にV2H(Vehicle to Home)[3]で自宅の電気を供給するという形でマネタイズができる。また、施設園芸は除湿等のための電力が多く必要であるが、これもソーラーシェアリングを用いればその電気をそのまま使える。

 

Q.今日の見学で、ソーラーシェアリングの個々の恩恵についてはイメージがついた。より大きなビジョン、社会や都市というレベルで、どういうイメージを持っているのか。

A.現在ほど、自然界に多くの田んぼがあることは今まではなかった。これは大きな自然破壊だが、それを全面的に否定しても仕方がない。それを多層的に活用した方が合理的であり、ソーラーシェアリングを作り、各企業に電源を開発していただき、それが地域おこしにつながり、お金が回り、そこでできたお米を投資していただいた企業様の社食で使ってもらうというようなことがまずは一つの理想。あとは、例えば物流の観点で、宅配に来た車がここで充電を行って帰り、それによって電気が移動するようなフェーズや、食糧を生産するというフェーズ、さまざまなフェーズがハイブリッド化していくと、地方でも経済性が高まる可能性がある。よって、どれだけ複合的にものを見られるか、ということがある。それが都内の省エネや、都市部でも可能な発電技術、例えば水素などと接続する可能性もある。今は、どんどん可能性を拡げていいフェーズだと考えている。

 少なくとも匝瑳市では現状のところまではできており、さらに今の2倍くらいはできると確信している。まずはこれを一般化して、どの都道府県でもモデルケースを作り、さらにそれをつなげていく。そこにマーケットがあるのであれば、大企業も参加できるようなプラットフォームがあればいいと思う。

 

Q.農家がソーラーシェアリングを導入した場合、減価償却のような形で賄えるのか。

A.いくつかのパターンがある。普通の家庭につける小規模の設備であれば5kWほどの発電で十分。もし自宅の近くに畑があればソーラーシェアリングで作られた電気を自宅で使い、さらに余剰分を販売する。この、農家の軒先対応が一番小さいタイプ。

規模を大きくすれば、年間でそれなりのお金が入るため、農業の応援ができる。さらに1,000kW規模のものになれば、村全体での地域おこしタイプになる。

 

Q.太陽光発電は天候に左右されると思うがこの点はどう捉えているか。

A.今後は蓄電池やEVが増える。EVが一台あれば相当量の電力が貯められるため、平準化も進む。

 

Q.プラットフォーム化など将来を見据えた展開において、政策面や制度面での課題があれば教えてほしい。

A.現在農業委員会の許可は10年だが、これを20年などに延長してほしい。ファイナンスが10年単位だと、返済だけで必死になり、最初の数年は投資をしてもキャッシュフローがプラスにならない。また、認定農家がソーラーシェアリングを導入する場合、売電収入が農業収入に加算されるように昨年制度が変わった。これと20年の許可が合わさると、日本政策金融公庫のスーパーL資金[4]が使える。そうなれば、ソーラーシェアリング導入の際の金利が低くなり、インセンティブが働く。

 

Q.不耕起栽培を実施する際の難しさを教えてほしい。

A.アメリカやヨーロッパの先行事例を見よう見まねで実施している。しかし、日本は温帯であり、環境が大きく異なるため、日本型の不耕起栽培を見つけるために試行錯誤を続けている。ただし、大豆の栽培によって雑草などの成長を抑制したり、不耕起栽培用の播種機の実験がうまくいっていたりと、部分的に成功はしている。

 

Q.他の企業などと協力して実験等を進めているが、そこで溜まった特許や知見はプラットフォームの中で共有する形を考えているのか。

A.はい。例えばパタゴニア日本支社から投資を受ける際、厳しい環境基準を与えられる。私たちは完璧ではないが、お互いに交わるところを共有し、ビジネスを通じて前進できる方針が望ましく、そのためには情報も出す。

 

Q.匝瑳市全体のカーボンニュートラルにどの程度貢献できているか。事業のボリューム感をどのように捉えているか。

A.個人的には、2030年には匝瑳市の100%を目指すと野心的に考えている。ボリューム感で言うと、投資を呼び込んで事業を行う場合は通常は内部収益率が問題になるが、再生可能エネルギー100%であることが前提となる場合、電源の統一が問題になる。そうすると、マネーの量も変わり、広く農村部のソーラーシェアリングにマネーが移り、それがお金・環境・エネルギー・食糧を含めて社会全体として寄与できるものになれば、社会全体のカーボンニュートラルにもつながると考えている。


[1] 市民エネルギーちば株式会社の事業の詳細については、20223月に当プロジェクトで開催した研究会の内容を参照されたい。

「カーボンニュートラルに必須な再生可能エネルギーの普及における企業の社会貢献のあり方:営農型太陽光発電に取り組む企業3社の事例検証」https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3952

[2] ペロブスカイト太陽電池とは、結晶構造を用いた新型の太陽光電池であり、薄く曲線を描けるため風に強く、1日の発電量のムラが少ない。

[3] 電気自動車やプラグインハイブリッド自動車の電池に蓄えられた電力を家庭で使用するシステム

[4] 日本政策金融公庫が認定農業者に提供する、農業経営改善計画達成のための資金

注目コンテンツ

BY THIS AUTHOR

この研究員のコンテンツ

0%

PROGRAM-RELATED CONTENT

この研究員が所属するプログラムのコンテンツ

VIEW MORE

INQUIRIES

お問合せ

取材のお申込みやお問合せは
こちらのフォームより送信してください。

お問合せフォーム