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【論考】国家資本主義の超過利益は国に還元を-連載コラム「税の交差点」第146回
October 28, 2026
■4月10日に、森信茂樹シニア政策オフィサーは、佐藤主光上席フェロー、土居丈朗上席フェロー、小黒一正上席フェローとともに、政策提言「『給付付き税額控除』の導入に向けた具体的な制度設計」を発表いたしました。詳細はこちらをご覧ください。
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「税・社会保障研究 レビュー・論考・コラム」 |
| 1.国家資本主義の蔓延と経済リスクの拡大 2.AIのもたらす激変とセーフティネット 3.国家資本主義が生み出す超過利益は国に還元を 4.モデルは米国CHIPS法 |
1.国家資本主義の蔓延と経済リスクの拡大
1980年代から約40年間続いた新自由主義(市場への介入を最小限にし、人・モノ・金の移動を完全に自由化する思想)は、世界規模の経済成長を生み出した一方で、国家の枠組みを揺るがす深刻な副作用をもたらした。
新自由主義が掲げた「富裕層や企業が潤えば、富が下々まで滴り落ちる(トリクルダウン理論)」はどの国でも実現せず、中間層の2極分化が生じ、社会不安や分断が広がりつつある。
一方で中国は、国家主導の産業政策の下で、巨大な産業資本を武器に電気自動車、AIロボットなどハイテク市場で圧倒的なシェアを獲得することに成功した。
地政学リスクの拡大という事情が加わり、米国をはじめ先進諸国は、国家が前面に出て公的資金を投入しながら経済安保を視野に入れつつ自国の産業を育成するという国家資本主義・経済ナショナリズムの時代に突入している。
このような国家資本主義は、政府が経済への介入を強めて国民の支持を高めようとする点、自由市場による資源配分より政治的な分配を優先するという点などにおいて、財政ポピュリズムと密接な関係にある。いわば、互いを利用しながら拡大するサイクルを形成しているといえよう。
この結果生じるのが深刻な財政赤字で、際限のない歳出の拡大による国家債務の膨張がインフレや金利の上昇などマクロ経済の不安定化を招いている。これは先進国共通の事象である。
2.AIのもたらす激変とセーフティネット
このような中、ここ数年大きな課題となったのが、人工知能 (AI)にどう向き合うかということだ。AIは生産性を飛躍的に向上させるが、一方でAIを活用して利益を上げる資本家と雇用を奪われる労働者との間にかつてない巨大な格差を生じさせている。これが国民の不安を惹起させ、社会の分断につながっていく。最近ではAIが国家を滅ぼすとの論調も強くなってきた。
そこで必要となるのが、国民の不安を軽減させるセーフティネットをより強固にしていくことだ。具体的には、社会保障・税制・財政・成長政策を一つの体系として組み立て、成長と分配をバランスよくとる政策を導入することである。アベノミクスのトリクルダウン政策が失敗したように、「成長の成果を分配へ」という政策ではいつまでたっても分配には回らない。成長一辺倒ではなく、成長政策と同時に国民生活の安心につながる分配を図る政策だ。
筆者は、これにこたえる政策(セーフティネット)こそが給付付き税額控除(所得連動型給付)だと考えている。今国会で就業者負担金支援制度として立法化される見込みで、まずは2027年4月から小規模で実施が予定され、2029年度に本格導入されるが、これを大幅にバージョンアップしていくことである。
この制度は、所得再分配をさらに進め、就労を促進しつつ人的資本を高め、労働生産性の向上を賃上げにつなげていく政策である。フリーランスなどの所得が変動する場合、所得に連動した給付を行うことでそれをならす機能がある。今後この制度を、英国のユニバーサルクレジットのように、給付を職業訓練やリスキリングなど人的資本の向上に結び付け、AI時代の大量失業時代に備える必要がある。
3.国家資本主義が生み出す超過利益は国に還元を
給付付き税額控除の抜本的な拡充のためには兆円単位の恒久財源が必要となる。まずは、給付付き税額控除が所得税から波及したものである以上、所得税改革での財源調達が基本だ。このことは「はじまるか恒久財源の議論―法人税や金融所得課税―連載コラム「税の交差点」第145回」で述べたところである。
しかしそれだけでは将来の制度充実には十分ではない。そこで以下のようなことを考えてはどうだろうか。
政府はここ数年、AI半導体やGXに、つなぎ国債を発行して投資を支援してきた。2023年度には、グリーン投資支援などを目的として10年間20兆円規模の「GX経済移行債」が発行された。2025年度には、「先端半導体・人工知能関連技術債(半導体・AI債)」の発行により、次世代半導体(ラピダス等)やAIインフラ投資に対し2030年度までの7年間で10兆円以上の公的支援が行われている。AI・デジタルインフラの整備などの投資に補助金(委託費)、出資、租税特別措置による減税など莫大な公的支援が行われているのだ。
さらに高市政権は、大規模な成長戦略投資として、2040年度までに17の戦略分野(AI、半導体、防衛、宇宙など)を対象とした「官民累計370兆円超の投資計画」を予定し、毎年10兆円程度の公費投入を目論んでいる。
岸田内閣・高市内閣の先端技術支援スキーム比較
| 項目 | 岸田内閣(2021〜2024年) | 高市内閣(2026年〜現在) |
| 主要な成長戦略 | 「AI・半導体産業基盤強化フレーム」 「GX(グリーントランスフォーメーション)推進」 |
「日本成長戦略(骨太の方針2026)」 戦略17分野・62技術への370兆円規模の投資 |
| 活用する 「つなぎ国債」 |
① GX経済移行債(20兆円規模) ② 先端半導体・人工知能関連技術債(半導体・AI債) |
新設の「つなぎ国債」 (先端技術債などの名称で検討、従来のGX・半導体債の仕組みを拡充) |
| 公的資金(国費) の投入規模 |
総額10兆円以上(2030年度までの7年間) 内訳:補助金・委託費6兆円、金融支援4兆円以上 |
毎年度10兆円程度の追加支出を想定 (2040年度までの官民総投資370兆円超のうちの呼び水) |
| 主な支援企業・ プロジェクト例 |
・ラピダス(Rapidus):約9,200億円〜最大2.3兆円超支援 ・TSMC(熊本):約1.2兆円補助 ・マイクロン(広島):約5,360億円 ・さくらインターネット等(生成AI計算基盤開発) |
岸田路線の継続(ラピダスやTSMC等への継続支援・出資の積み増し) +フィジカルAI(ロボット・自動運転など新分野)、防衛、宇宙など17分野へ拡大 |
| 償還(返済)財源 | 明確な裏付けあり 将来の化石燃料への賦課金や炭素税(カーボンプライシング)などをあらかじめ法制化 |
現状、詳細は不明 具体的な国民負担・返済原資の明示なし |
このように、政府がAIや半導体などの戦略分野に補助金や税制優遇を通じてこれまでにない規模の支援を行う以上、支援を受けた企業が大きな利益を得た段階で、その成果を国民全体に還元することが必要ではないか。その資金を、給付付き税額控除を通じて、職業訓練やリスキリングなどに活用するという構想だ。
4.モデルは米国CHIPS法
この考え方のモデルは、米国バイデン政権時代のCHIPS法(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors Act(半導体生産促進のための有用なインセンティブ創出法))だ。米国で2022年に成立した「CHIPS法」には、5,000万ドル以上の補助金を受けた企業が予想を大きく上回る利益(超過利益)を出した場合、その一部を国に返還しなければならないという条項が盛り込まれている。
わが国でもそれに倣い、例えば一定の超過利益について、OECDのBEPS(税源浸食・利益移転)プロジェクトで合意した利益率10%を超えるものと定義し、そのうちの一定割合を法人税とは別に国庫に返還するのである。
あるいは補助金と引き換えに株式を得るスキームを作り、その管理・運用により利益を国民に分配することも考えられる。「産業革新投資機構(JIC)」などの官民ファンドの機能を拡張し、「日本版ウェルスファンド」として集約することも一案だ。
これらは、国と民間企業とがリスクを共有するという考え方である。損失も利益もお互いが折半するのである。超過利益が出るまでは時間があるので、国民的な議論をしてはどうか。