タイプ
論考
プロジェクト
日付
2018/7/4

特別措置法の成立と今後の論点〔所有者不明土地問題を考える〕

 

吉原祥子

研究員

1.はじめに

所有者不明土地問題を巡る政策議論が新たな局面を迎えている。今期国会では、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が6月6日に可決・成立し、当面の対応策として、所有者不明土地の公共的目的のための利用を可能とする新たな仕組みが導入されることになった。概要は次のとおりである[1]

 

1.所有者不明土地を円滑に利用する仕組み
反対する権利者がおらず、建築物(簡易な構造で小規模なものを除く。)がなく、現に利用されていない所有者不明土地について、以下の仕組みを構築。
(1)公共事業における収用手続の合理化・円滑化(所有権の取得)
国、都道府県知事が事業認定した事業について、収用委員会に代わり都道府県知事が裁定
(2)地域福利増進事業の創設(利用権の設定)
地域住民等の福祉・利便の増進に資する事業について、都道府県知事が公益性を確認し、一定期間の公告に付した上で、利用権(上限10年間)を設定(所有者が現れ明渡しを求めた場合は、期間終了後に原状回復、異議がない場合は延長可能)

2.所有者の探索を合理化する仕組み
○土地の所有者の探索のために必要な公的情報について、行政機関が利用できる制度を創設
○長期間、相続登記等がされていない土地について、登記官が、長期相続登記等未了土地である旨等を登記簿に記録すること等ができる制度を創設

3.所有者不明土地を適切に管理する仕組み
○所有者不明土地の適切な管理のために特に必要がある場合に、地方公共団体の長等が家庭裁判所に対し財産管理人の選任等を請求可能にする制度を創設

 

震災復興や空き家対策などにおいて、所有者の所在の把握が難しい土地が地域の足かせとなる事象が各地で表面化するなか、本特別措置法はこの問題への当面の「対応策」として着実な第一歩といえる。

 

さらに、6月15日に閣議決定された「骨太の方針2018」では、今後、問題の拡大を防ぐため、所有権のあり方や登記制度など土地の基本制度に踏み込んで検討を進め、2018年度中に方向性を示した上で、2020年までに必要な制度改正を実現することが明記された。相続等が生じた場合に、これを登記に反映させる仕組み(相続登記の促進策)をはじめ、所有者が土地を手放すための仕組み(「受け皿」のあり方)、さらに所有者情報を円滑に把握する仕組み(情報基盤のあり方)など、中期的課題の検討が今後、本格化していくことになる[2]

 

これらの課題のうち、相続登記の促進策については、これまで関係各省による登記記録のサンプル調査等や民間の「所有者不明土地問題研究会」による将来推計などが行われてきた。また、2017年10月からは、法務省が関係する「登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会」において、民事基本法制の視点から論点を整理するための議論が進められている。

 

一方、「受け皿」の具体策や情報基盤のあり方については、実態把握のための調査や議論は、相続登記についての議論と比べると、現時点ではまだ少ない。そこで、本稿では、これら2つの点について実際に地域の現場ではどのような課題があるのか、筆者らがこれまで行った自治体アンケート調査の結果から、その一端を見てみたい。

2.「受け皿」創出の必要性――土地の寄付希望の実態

筆者らは、所有者不明土地問題の実態を定量的に把握するため、2014年秋に全国1,718市町村および東京都(23区)の税務部局を対象にアンケート調査を行った。相続未登記が固定資産税の納税義務者(土地所有者)の特定にどのような問題を生じさせているかを調べることで、間接的ではあるが、所有者不明土地問題の実態把握をめざした(回答数:888自治体。回答率52%)。本アンケート調査では、問題の有無、死亡者課税(死亡者に対する無効な課税)、課税保留などについて尋ねるとともに、土地所有者から自治体への土地の寄付希望およびその受け入れ実態について質問した。

 

自治体関係者によると、近年、土地所有者、とりわけ高齢者の方々から、所有を希望しなくなった土地について固定資産税の物納や自治体への寄付を希望する申し出や相談があるという。こうした土地はそのまま管理や相続登記が放置されれば、所有者不明となっていくおそれのある、いわば「不明化予備軍」でもある。

 

そこで調査票では、まず、「貴自治体へ土地を寄付したいというケースは年間どれくらいありますか。把握している範囲でご回答ください」「上記のうち、寄付を受け取る事例は年間どれくらいありますか」と尋ねた。その結果、個人からの寄付希望について、495自治体より回答があり、年間の申し出件数は「1~5件」が304自治体(61%)で最も多く、他方、実際に寄付を受け取った件数は、「0件」が220自治体(56%)と最多だった(表1)[3]

 

表1  土地の寄付希望と実際の受け付け(件数別)

件数

0件

1~5件

6~10件

11~20件

21件~

寄付の申し出を受けた自治体の件数別の数と割合

38

304

86

42

25

8%

61%

17%

8%

5%

実際に寄付を受けた自治体の件数別の数と割合

220

135

27

14

56%

34%

7%

4%

出所:筆者作成

 

さらに、「土地の寄付を受け取る場合と、受け取らない場合のそれぞれについて、どのような事例がありますか」と尋ねた(記述式)。「受け取る土地事例」については365自治体より回答があり、「公的利用が見込める場合」が343自治体(94%)だった。

 

公的利用の具体例は、人口規模や地域を問わず道路用地がほとんどであり、ほかに、「自治体がすでに所有する土地の隣接地であり、取得することで有利になる場合」「更地で、除雪などで活用できる場合」「文化的価値又は公共性があると判断された物件」といった記述が散見された。

 

「受け取らない土地事例」については、420自治体より回答があり、「公的利用が見込めない場合」(266自治体)のほか、「個人の都合による場合」(39自治体)、「権利関係に問題がある場合」(37自治体)、「維持管理が負担となる場合」(34自治体)といった回答が見られた。「原則として受け取らない」とする回答も50自治体あり、その理由として、「公共資産を処分しているなか、不要な土地の受け取はしない」(2万~5万人)、「合併以降、使っていない市有地を払い下げなどで処分しているので寄付は受け取らない」(5万~10万人)といった記述があった(カッコ内の数字は回答した自治体の人口規模。以下同)。

 

また、欄外や自由記述欄には、所有者が寄付を申し出る理由として、「固定資産税が支払えない、土地の管理ができない、老朽化して住めないなどにより当該土地・家屋は不要であり行政が管理・受け取ってほしい、といった自己都合による場合がほとんどである」(2万~5万人)、「相続人が市外在住である、または高齢のために金銭的体力的に維持管理が難しいため、が多数である」(20万~30万人)といった記述が見られた。

 

こうした結果から、利用見込みや資産価値の低い土地の処分に所有者が苦慮している一方で、行政が個人からの土地の寄付を受け取るのは、道路用地など公共的な利用見込みのあるごく一部の事例に限られていることがわかった。

 

今後、こうした土地が使われないまま放置されることで、物理的な荒廃や、相続未登記による権利関係の複雑化が進まないよう、地域の土地を適切に保全する観点から、新たな仕組みを作っていくことが必要だ。具体的には、所有者が管理できずに持て余す土地の寄付先として、土地の荒廃や不明化を回避するための最低限の管理を行う非営利組織を各自治体に設置することなどが考えられる。

 

行政主導ですべての新たな仕組みを作り出すことは難しい。また、都市部と中山間地域など地域の多様性を考えると、同一の仕組みを全国一律に適用することは困難だろう。まずはモデル地区を作り、民間の専門家の知恵を活用しながら、実験的な取組みをいくつかの地域で試行することからスタートするのが現実的と考える。

3.免税点未満の所有者情報は更新されず――土地情報基盤のあり方への示唆

所有者不明土地問題をめぐる今後の中期的な課題のなかで、重要な論点のもう1つが、土地の所有者に関する情報基盤のあり方である。

 

これまでの議論でも繰り返し指摘されているように、現在の不動産登記制度による所有者情報の把握には限界がある。そのため、空き家対策や農地台帳の整備などにおいては、近年、所有者情報源として固定資産課税台帳の相続人情報が重視され、その利用が法的にも位置づけられてきている。今般の特別措置法においても、所有者探索のために固定資産課税台帳等の情報を行政機関が利用できる制度が創設された。

 

しかし、固定資産課税台帳も万能ではない。本アンケート調査では、複数の自治体から、「免税点未満」の土地所有者については情報を十分に把握していないという指摘が寄せられた。(同一名義人が同一自治体内に所有する土地の課税標準額の合計額が30万円未満の場合は、「免税点未満」として固定資産税が免除される。)

 

総務省の統計によると、課税対象となる個人所有の土地のうち、免税点未満となる土地は、面積比率では全国で9%程度と小さい。だが、納税義務者数で見ると全体の19%(免税点未満741万人/総数3,940万人)を占め、とくに町村部では37%(211万人/572万人)に上る[4]

 

アンケート調査では、こうした免税点未満の土地所有者について、自治体の税務部局から、「事務処理簡素化のため免税点未満の物件所有者の相続人調査は以前から行っていない」(1万~2万人)、「免税点未満の場合は、費用対効果を理由に所有者の特定事務を実施しない場合が多い」(1万~2万人)、さらに、「免税点未満の約4万2,000人の納税義務者のうち、どの程度死亡者がいるかまったく把握していない」(10万~20万人)といった回答があった。

 

土地所有者にとっても、所有している土地の課税標準額が免税点未満であれば、納税通知書が届かない。そのため、土地の存在自体に相続人が気づかないおそれもある。たとえば、次のような回答があった。「課税標準額が免税点未満であると納税通知書も送付されないため、土地の存在を知らない相続人が増加すると思われる」(2万~5万人)、「免税点未満または非課税の土地の場合、納税通知が送られないことから土地を所有しているという認識が低い」(2万~5万人)。

 

これらの記述から、免税点未満の土地は、税務部局、所有者(相続人)双方から関心の対象外とされ、登記簿上も課税台帳上も所有者情報が更新されない可能性の高いことがうかがえた。資産価値の低い土地が、所有者による「管理放置」「権利放置」に加え、一定の目的にかなっているとはいえ、行政情報のなかからも抜け落ち、「情報放置」されていくおそれがあるのだ。

 

今後、情報基盤の議論にあたっては、こうした実態にも留意する必要があろう。今般、政府の基本方針で示された、登記簿と戸籍等の連携システムの構築をはじめ、現在ある各種台帳を有効活用し、所有者情報の精度を高めていくことが求められる。既存の各種台帳はもともと情報連携を想定した設計にはなっていない。そのため、今後の検討においては、情報の基本単位(氏名、住所、生年月日、性別など)の標準化、データの互換性の確保、そして利用ルールの整備なども課題となろう。

4.次世代に土地を適切に引き継ぐために

ここまで、自治体アンケート調査の結果から、使われない土地の「受け皿」の必要性と情報基盤のあり方への示唆を考えてみた[5]

 

いずれの課題も、個人や市場に任せているだけでは解決は困難である。国土保全の土台となる制度を国が構築し、その上で、各自治体が地域の特性に応じた自律的な取り組みを促進できるよう、国と自治体が役割分担をして取り組んでいくことが必要だ。国として標準化すべき土台と、地域の特性に応じて柔軟に対応する部分を丁寧に整理していくことが求められる。制度の構築時には、国による財政的な支援のほか、法的・人的なサポートも不可欠である。

 

そして、私たち一人ひとりも、問題解決を国や自治体任せにすることなく、所有者としての責務を考えていくことが大切だ。土地が個人の財産であるとともに公共性の高い存在であることを、普段から学び、次の世代にどう継承していくのかを考えていくことが必要である。

 

今般成立した特別措置法は、こうした制度見直しに向けた第一歩である。次世代に土地を適切に引き継ぐために、国、自治体、そして一人ひとりが、自らの役割を考え、地道に取り組むことが求められる。


 

[1] 国土交通省報道発表資料(2018年3月9日)http://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo02_hh_000106.html

[2] 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2018」(62~63頁)。基本方針については、内閣官房「所有者不明土地等対策の推進のための関係閣僚会議議事次第」(2018年6月1日)を参照(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shoyushafumei/dai2/gijisidai.html)。

[3] 回答欄には、「寄付したいという依頼自体は複数の課の窓口で聞くため、その総数は把握できていない」「寄付は担当課が違うためわかる範囲」という但し書きが散見された。そのため、役所全体での総数はこの集計結果よりも多い可能性がある。

[4] 総務省「平成28年度 固定資産の価格等の概要調書」の「I. 土地」の「1. 納税義務者数に関する調」および「2. 総括表」。

[5] 自治体アンケート調査結果の詳細については、報告書「土地の『所有者不明化』~自治体アンケートが示す問題の実態~」(東京財団政策研究所、2014年)を参照されたい。

 

 

 

吉原祥子(よしはら  しょうこ)

東京外国語大学卒。タイやアメリカへの留学などを経て、1998年より東京財団政策研究所勤務。国土資源保全プロジェクトなどを担当。著書に、  『人口減少時代の土地問題――「所有者不明化」と相続、空き家、制度のゆくえ』(中公新書、2017年)。

 

 

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国土資源保全PJの成果

・(研究報告)「土地の『所有不明化』 ~自治体アンケートが示す問題の実態~」(2016年3月発表)

・(研究報告)「国土の不明化・死蔵化の危機~失われる国土III~」(2014年3月発表)
・(政策提言)「空洞化・不明化が進む国土にふさわしい強靭化対策を~失われる国土II~」(2013月2月発表)
・(政策提言)「失われる国土~グローバル時代にふさわしい『土地・水・森』の制度改革を~」(2012年1月発表)

・(論考)要らない土地が“所有者不明”に人口減時代の「受け皿」作れ (2017/9/6)

・(インタビュー)土地の『所有者不明化』問題の実態に迫るーー著者 吉原祥子研究員に聞く(2017/7/26)
・(論考)「所有者不明化」問題から見える土地制度の根本課題―人口減少時代に対応した制度構築を―(2016/11/30)
・(論考)自治体アンケートが示す土地の「所有者不明化」~人口減少時代の土地法制整備が急務(2016/4/27)
・(論考)農地集積に向け土地制度の再考を~高齢化・地価下落を見据えた国土保全の仕組みが必要~(2014/12/22)
・(論考)土地の所有者不明化の実態把握に向けて~相続未登記と固定資産税実務に関する全市町村アンケートを実施~(2014/9/18)
・(論考)水循環基本法を読み解く~抜け落ちた「土地所有者」の観点~(2014/4/8)
・(論考)国は「所有者不明化」の実態と土地制度の不備を直視すべき~なぜ11道県は水源地域保全条例を制定したか?~(2013/4/16)