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地域エネルギーの持続的活用に向けて(下)―地域主体による再エネ活用事業の創出:必ずしも要件とはならない社会関係資本の蓄積

April 19, 2017

平沼 光
研究員

再生可能エネルギー(以下、再エネ)の世界的な普及が見込まれる中、欧米諸国ではコミュニティーパワーという考えの下、地域に密着した担い手による再エネの普及が進んでいる。再エネは風や太陽光、地熱といった地域に分散して存在する地域エネルギーという性格上、その活用では地域が主体となって取り組むことが重要だ。欧米諸国にはまだ及ばないものの、日本においても市民出資による再エネ事業など地域主体の先駆けとなる取り組みが始まっている。本稿では筆者が現地調査を行った長野県飯田市(2016年8月)、および長崎県雲仙市小浜温泉(2016年9月)における取り組みを紹介するとともに、如何にすれば地域主体による再エネ活用の取り組みを創出できるのか、その要件を考察する。

飯田市における担い手の創出

地域の自治体と市民の連携により再エネ事業に取り組んでいる日本の事例として、飯田市における取り組みが注目されている。飯田市では自治体と市民が協力して2004年に地域エネルギー会社を設立し、日本の先駆けと言える市民出資による太陽光発電事業と省エネ事業を展開し、2012年12月には地球温暖化防止活動の環境大臣表彰も受けている。2016年8月現在、同社の太陽光発電の全設置箇所は351、設置容量合計6739・11キロワットとなっている。

飯田市の自治体における環境への取り組みは早くから始められており、1996年には地域全体で環境問題に取り組み持続可能なまちづくりを進める「21’いいだ環境プラン」が策定されている。市民においては2001年に太陽光発電の普及を進めようとする市民中心のシンポジウムが開催され、2004年2月には地球温暖化防止と地域づくりのためにエネルギーの地産地消を目指すNPO法人「南信州おひさま進歩」が設立されている。

NPO設立の中心となった人物は環境問題や地球温暖化問題の専門家ではなかったが、1997年の地球温暖化防止京都会議(COP3)の頃から地域の公民館の学習会などで地球温暖化防止などについて学び始めるとともに、公民館や自治会などの地域活動に積極的に参加することで地域の人脈と活動の場を広げられたことがNPOの立ち上げにつながったという。

こうした自治体と市民の活動は、環境省の公募事業「平成のまほろば事業」に飯田市の申請が選ばれたことで大きな転機を迎えることになる。平成のまほろば事業は全国の市町村から住民や事業者などの幅広い参加による二酸化炭素(CO2)排出削減等の環境保全と経済活性化を実現する優れた事業を募集し交付金を交付するもので、飯田市の申請はNPO法人「南信州おひさま進歩」設立と同年となる2004年に採択されている。飯田市の申請内容は、太陽光発電の導入や商店街のエネルギーコスト削減などの事業を市と民間企業、NPOと連携して実施するもので、具体的には2億円規模の市民出資を集めて市民共同発電を実施するというものであった。

平成のまほろば事業の採択を受けて市では事業の担い手を募ることになったが、そもそも経験のない電力事業を多額の市民出資を集めて行うことが可能か、また事業の採算性は確保できるのかなどの課題があり、事業の主体となる実施者がなかなか決まらなかったという経緯がある。長きにわたり大電力会社による電力事業の地域と市場の独占が続いてきた日本では電力事業のノウハウを一般人が持っているわけではなく、ましてや経験のない再エネ発電事業を地域が多額の市民出資で行うことに躊ちゅうちょ躇することは当然と言えよう。

飯田市ではこうした課題にも対処し事業の実現に至っているが、そこには地域外のNPOの協力が大きく貢献していると考えられる。飯田市は平成のまほろば事業への申請に当たって、その申請プロセスから自然エネルギーの普及啓発に専門的に取り組んでいる東京のNPO法人「環境エネルギー政策研究所(ISEP)」(以下ISEP)の協力を得ている。採択後の事業実施者の検討においてもISEPが事業の採算性を専門的知見から示すなどの協力もあり、最終的にNPO法人「南信州おひさま進歩」が母体となり事業の主体的な実施者となる「おひさま進歩エネルギー有限会社」(2007年に株式会社化)が2004年12月に設立され事業実施にこぎ着けている。

市民の活動を〝支援〟する仕組み

地域の担い手となった「おひさま進歩エネルギー有限会社」(以下、おひさま進歩エネルギー)では、官民連携の事業として市民出資による太陽光発電事業が行われている。この事業は市民から募った出資を基に飯田市の公民館や保育園などの行政施設や私立保育園など市民が多く集う施設とパートナーシップを締結し、その屋根に太陽光発電パネルを設置して再エネの普及を進め、設置施設からの電気代とグリーン電力販売による収入を得るとともに、出資者に配当を還元することで事業を成り立たせるというモデルになってる (図表1) 。この事業の特徴は、行政施設に太陽光パネルを設置するという行政財産の目的外使用を市が認めていることにある。本来、行政財産をその目的外で使用することは認められないが、飯田市では平成のまほろば事業の趣旨によりおひさま進歩エネルギーの活動に行政が協力する連携体制が構築されている。

図表1

出典:内閣官房 第2回ふるさと投資プラットフォーム推進協議会(平成24年9月26日)資料3 おひさま進歩エネルギー提出資料

おひさま進歩エネルギーでは地元金融機関からの融資を基にした地域の住宅へ太陽光発電パネル設置事業「おひさま0円システム」も行っている。この事業は太陽光発電を設置したくてもお金がない個人の住宅に対しおひさま進歩エネルギーが初期投資無しで太陽光発電を設置することで太陽光発電の普及を進めるとともに、設置した個人の住宅からは9年間定額の支払いを受けるというものだ。設置した個人住宅は10年目以降は太陽光発電設備が譲渡され自分のものになるほか、余剰電力は売電できるため節電努力により年間の支払いを削減できるメリットもある。おひさま0円システムでは個人住宅に設置するパネル費という原資が必要になるが、それは市民出資と飯田市からの補助金、そして地域金融機関である飯田信用金庫からの低金利融資により賄われている。特に飯田信用金庫からの融資は、地域のお金を地域内で循環させるという意味で重要である。飯田市が事業に補助金を出すなどの関与により実質的な公的信用がおひさま進歩エネルギーの事業に対し付与されることで融資が得やすくなっていると考えられ、おひさま0円システムはおひさま進歩エネルギーと飯田市、そして地域金融の飯田信用金庫の連携により成り立っている事業と言える。

この他にもおひさま進歩エネルギーでは、商店街のエネルギーコスト削減事業や、固定価格買い取り制度(FIT)を利用した全量売電の太陽光発電事業などが推進されている。飯田市では、こうした活動を一過性のものとせず持続的なものとするため、地域を主体とする再エネ事業を 図表2 のように支援するための条例「飯田市再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例」(以下、条例)を2013年4月1日に施行している。この条例が意図するところは、自治体が行う事業に環境影響評価や公聴会、パブリックコメントなどにより市民を〝参加させる〟という従来型の手法ではなく、地域の住民やNPO、企業など市民が行う活動を〝支援〟することで地域の主体的な取り組みを実現していくことにあると言える。

図表2

出典:「飯田市 平成26年度環境計画年次報告書」p6図表に一部加筆

社会関係資本が反対した温泉熱利用

再エネの活用事例の中には、小浜温泉のように失敗から始まっているものもある。小浜温泉は「肥前風土記」(713年)に記されているほど古く、温泉宿などを営んできた住民が今日まで温泉を中心にして地域自治を担ってきた温泉街だ。その意味で温泉組合や観光協会、自治会など、信頼関係と相互性に基づく市民のネットワークである社会関係資本が蓄積された地域と言える。小浜温泉の泉温は約100度、湧出量約1万5000トン/日という豊富な温泉資源に恵まれた温泉街である。しかし、その温泉熱の約70%が未利用であったことから、住民の間にはなんとか有効活用したいという思いがあった。そこで長崎大の研究チームと地元の温泉事業者、そして雲仙市が連携し排水となる温泉水を利用して沸点の低い触媒を温泉水の熱で沸騰させ、その蒸気の力でタービンを回して発電を行う温泉バイナリー発電に地域が主体となって取り組んでいる。温泉バイナリー発電は、地中1000~3000メートルまで井戸を掘り下げて蒸気を取り出して行う大規模な地熱発電と違い、温泉資源に与える影響は小さい。小浜温泉では温泉バイナリー発電の実証実験に先駆的に取り組むとともに実験後は事業化にまでたどり着いているが、当初は地域の温泉事業者をはじめとする地元住民による反対運動が起こり頓挫してきたという経緯がある。

小浜温泉における地熱利用に対する住民の本格的な反対運動は、2004年に小浜町が国の構造改革特区に認定され小浜町とNEDO(新エネルギー総合開発機構〈当時〉)による温泉バイナリー発電計画が持ち上がった頃に始まった。当初、計画実施者となる小浜町およびNEDOと源泉所有者の間では温泉掘削に係る協約書が取り交わされていたが、事態を懸念した近隣の雲仙温泉が「雲仙温泉を守る会」を結成し反対運動を始め、次いで小浜温泉でも「小浜温泉を守る会」が結成され反対運動が展開された。その結果、最終的な地元の了解が得られず2005年に計画は頓挫することになった。源泉所有者との間に協約が交わされていたにもかかわらず頓挫してしまったのは、①掘削地点についての十分な説明がなされなかったこと②掘削はあくまで調査のためだったはずが恒常的・営業運転のための掘削であることが判明したこと──という二つの理由による。これら二つの理由は明らかに計画実施者(小浜町・NEDO)からの住民への説明不足による失敗と言える。このことは、いかに社会関係資本が蓄積されている地域であっても、その地域で経験のない再エネの導入により地域のエネルギー自治を促そうとした場合、社会関係資本を成り立たせている地元関係者との合意形成を十分に図らなければ、社会関係資本そのものが再エネ導入の障害になるということを示している。

〝よそ者〟が促した地域内連携

一度は頓挫してしまった小浜温泉の温泉バイナリー発電計画だが、2007年に入って新たな展開が起きている。2007年4月、長崎大環境科学部と雲仙市、そして長崎県の3者の間で雲仙市を再エネの活用も含めた持続的な社会にすることを目的とした連携協定が締結された。長崎大環境科学部は連携協定を実行するための体制として研究会を設立し、再エネを活用する地域新エネルギービジョンの策定と温泉バイナリー発電の実証実験実施のための各種事業への申請を進めるとともに、小浜温泉の地域住民との協議を行っている。協議は2010年7月から2011年3月まで計8回開催され、地熱発電と温泉利用の共生の在り方などについての話し合いが十分な時間をかけて行われている。併せて、実証実験についての地域理解促進のため、2010年度に計10回のリレー講座と2011年3月にはシンポジウムが開催されている。

その結果、反対していた温泉事業者の理解が得られ、2011年3月に温泉熱利用を推進する「小浜温泉エネルギー活用推進協議会」(以下、協議会)が反対していた住民も参加して設立されることになった。さらに協議会で検討した内容を具体化するための実行組織として、温泉事業者と産学による「一般社団法人小浜温泉エネルギー」が2011年5月に設立されている。これら地域主体の協議会と社団法人に対し、雲仙市、長崎県、国が支援するとともに長崎大が研究成果の還元などにより協力するという地域内連携体制の下、2011年11月に環境省の温泉発電実証事業に採択され、2013年4月に小浜温泉バイナリー発電所を開所し実証実験が実行されるに至っている。こうした一連の経緯の中で、毎週長崎市内から小浜温泉に通い積極的に地域内連携を促していた長崎大の中心人物が小浜温泉への移住を決めている。長崎大という〝よそ者〟として促した地域内連携を、今度は〝身内〟として運営していくということになる。

実証実験は2014年3月に無事終了し、実証実験を行った発電施設はまちおこしの発電事業のモデル構築の意志を持つ事業者が買い取り、小浜温泉バイナリー発電所として2015年9月から売電が開始されている。小浜温泉バイナリー発電所は、一般家庭の約220世帯分(出力100キロワット、稼働率90%、家庭の消費電力3600キロワット/年で計算)を発電する規模の発電所で、電力を地域内外へ供給するとともに、小浜温泉観光協会と協力して見学ツアーを企画するなど、地域に根付いた発電事業に取り組んでいる。さらに、発電後に排水される60~70度程度の温泉水を利用し、高級魚クエの陸上養殖など地域振興につなげるための施策を検討している。

地域主体の取り組みの創出要件

これまで見てきた飯田市、小浜温泉などの事例から地域の再エネを活用する地域内連携を創出する過程を考察すると、植物が種子から発芽し、成長して実を結ぶまでの過程に例えて、種子期、発芽期、成長期、結実期という四つの段階に区分けすることができる。地域の再エネを活用する地域内連携の創出要件を図表3で四つの段階に区分けして説明する。

①種子期

まず、地域の再エネを活用したいという意志のあるプレーヤー(以下、プレーヤー)の存在が必要になる。プレーヤーが再エネ活用の地域連携を生み出す〝種子〟となるわけで、飯田市の事例ではNPOを立ち上げた市民と自治体であり、小浜温泉の場合はよそ者と言える長崎大ということになる。

②発芽期

しかし、いくらプレーヤーがいるからといって、それだけでは先に進まない。飯田市の事例において平成のまほろば事業への申請や事業の主体的な実施者となるエネルギー会社の設立に専門家からのアドバイスと事業採算性の提示が不可欠であったように、再エネ事業の経験のないプレーヤーが事業を計画するには、専門家の協力やモデルとなる先行事例の参照など専門的なノウハウへのアクセスが必要となる。植物の種子が発芽するには水が必要なように、プレーヤーにとって専門的なノウハウは再エネ事業の芽となる事業計画を作成するために必要な水だと言える。小浜温泉の事例では、プレーヤーである長崎大自身が研究成果を発電事業に還元するなど専門的なノウハウを持ち合わせていたと言える。

③成長期

再エネ活用の事業計画ができたら今度はそれを実行するために、プレーヤーが活動する場が地域に必要になる。植物が発芽し成長するには豊かな土壌が必要なように、地域におけるプレーヤーの活動の場は再エネ事業を実行し成長させる土壌である。地域で活動する場を構築するには、住民の合意を得なければならない。そのためにも専門的知見に立って、事業によってどのようなメリットが地域にもたらされるのか、丁寧に説明をしなければ理解は得られないだろう。それは小浜温泉の事例のように、たとえ社会関係資本が蓄積されている地域であっても、十分な説明による合意がなければ社会関係資本を構成する住民が反対勢力となったことからも分かる。その意味で、プレーヤーが専門的なノウハウにアクセスすることは成長期においても重要な要件だと言える。小浜温泉の事例では、長崎大という専門的知見を持ったプレーヤーが十分な時間をかけて住民と話し合いを行ったことにより協議会という活動の場の構築に成功している。飯田市の事例においても、NPO法人「南信州おひさま進歩」が「おひさま進歩エネルギー有限会社」という活動の場の設立に踏み切った背景にはISEPから専門的知見に立った事業採算性が示されたことが大きく影響したと考えられる。

④結実期(確立期)

種子期から成長期を経て創出された再エネ事業は、一過性のものであってはいけない。創出した再エネ事業を持続的なものにするには、その活動を標準化する仕組みを確立する必要がある。その手法として、飯田市が地域として再エネ事業に取り組む根拠となる地域を主体とする再エネ事業を支援するための条例を定めたことは参考にできる。成長した植物が実を結ぶように、創出された地域の再エネ事業が持続的なものとして確立されることが地域にとっての果実となる。

以上、各段階を経ることで地域の合意形成が図られ、地域主体で再エネを活用するという地域内の連携も強くなっていく。地域の一般的な諸課題を扱ってきた住民自治では社会関係資本の蓄積を重要な要件とする考えもあるが、住民にとってなじみの薄い再エネ事業を地域主体で創出するというエネルギー自治においては、小浜温泉の事例のように社会関係資本の蓄積があるというだけでは必ずしもエネルギー自治を促す要件とはならない点には注意が必要である。

地域主体による再エネ活用事業を創出するために必要なのは、 図表3 にまとめた段階構造と必要な要件を頭に入れ、地域が今どの段階にあるか確認するとともに、各段階で必要となる要件をそろえていくことであると考える。

図表3

出典:筆者作成

時事通信社『地方行政』2016年12月15日号より転載

(上)地球温暖化対策本格化で重要度増す地域エネルギーの活用―再生可能エネルギー普及における日本の課題とコミュニティーパワーという考え方

(中)地域が主役のドイツの再生可能エネルギー事業―経済循環を促す市民エネルギー協同組合とシュタットベルケ


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