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消費増税対策(ポイント還元策)を考える

December 3, 2018

政府・与党は、2019年10月に消費税率を8%から10%に引き上げる予定だが、増税ショックを緩和するという「名目」の下、様々な対策が決定しつつある。例えば、幼児教育や保育の無償化、軽減税率の導入のほか、低所得者等へのプレミアム商品券の発行、住宅ローン減税の延長など住宅・自動車購入支援、キャッシュレス決済でのポイント還元、国土強靭化(防災・減災のための公共事業)等である。

全てを考察することは難しいため、本コラムでは「キャッシュレス決済でのポイント還元」について簡単に考察してみよう。

まず、キャッシュレス決済は、第4次産業革命の鍵を握るエンジンの一つで、ビッグデータ等の利活用に向けた成長戦略とも深く関係する。だが、現金信仰の強い日本ではなかなか進まない。実際、経産省の資料「キャッシュレスの現状と推進」(平成29年8月)によると、民間最終消費支出に占めるキャッシュレス決済額の割合は、2008年の12%から、2016年で20%にまで増加したが、アメリカ・中国・韓国と比較すると、その半分以下の利用しかない。例えば、2015年では、アメリカが41%、中国が55%、韓国が54%もの利用状況だが、日本は18%しかない。早急な対策が必要だ。

このため、当初、政府は、次のような方向性で対策の検討を進めていた。具体的には、1)大企業以外の小売店で現金を使わないキャッシュレス決済をした場合、1年間という期限付きで、増税分(2%分)をポイントとして還元する、2)ポイント還元の対象としては、クレジットやデビットカードのほか、電子マネーやQRコードでの決済も含める、というものだ。

ポイント還元策はキャッシュレス決済を促進させる起爆剤となる可能性があり、筆者もその政策的意義は理解していたつもりだが、先般(2018年11月22日)、安倍首相がキャッシュレス決済で5%のポイント還元の検討を表明したことから、状況が一変した。

ポイント還元の期間は、「1年」から「増税から2020年夏の東京オリンピック前の9か月」に短縮しているが、これは増税ショックを増幅するリスクがある。その理由は以下のとおりだ。

まず、キャッシュレス決済の対象につき、ポイント還元をする前の消費税率の推移は、図表の実線のとおり、2019年10月以前は8%、2019年10月以降は10%であった。また、当初のプランは、2019年10月から1年間という期限で、増税分(2%)のポイント還元を行うというもので、消費税率の推移は、図表の点線のとおり、2020年10月以前は8%、2020年10月以降は10%になる。

他方、最新のプランは、2019年10月から2020年夏の東京オリンピック前の9か月間という期限で、5%のポイント還元を行うというもので、消費税率の推移は、図表の太線のとおり、2019年10月以前は8%、2019年10月から2020年夏までの9か月間は5%、2020年夏以降は10%になる。

図表から一目瞭然だが、点線(当初プラン)は、キャッシュレス決済につき、増税(消費税率8%→10%)の時期を2019年10月から2020年10月に延期する政策と理論的に同等だ。また、太線(最新プラン)は、2019年10月から2020年夏までの9か月間、一時的に減税(消費税率8%→5%)を行い、2020年夏から増税(消費税率5%→10%)を行う政策と理論的に同等である。

すなわち、実線や点線の増税幅は2%だが、最新プランでは、一時的な減税によって増税幅が2%から5%に上昇しており、増税の反動減を増幅するリスクがある。これでは、増税の反動減対策が切れたときのために、その反動減対策が必要になるという本末転倒なものに陥る可能性が高く、ポイント還元の幅を見直す必要があろう。

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