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2025年度以降の財政健全化目標をどうするか  ― 内閣府の中長期試算から読み取れるもの ―
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2025年度以降の財政健全化目標をどうするか ― 内閣府の中長期試算から読み取れるもの ―

January 27, 2025

R-2024-086

2025117日開催の経済財政諮問会議において、内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」(以下「試算」という)を公表した。試算は、経済成長と財政健全化の進捗具合や今後の改革の方向性を議論するために年2回公表するもので、昨年7月からの改訂として、今回はその最新版が出たことになる。

今回の試算では、前回と同様、名目GDP成長率に3つのシナリオを置き、2034年度までの国・地方の基礎的財政収支(対GDP)や公債等残高(対GDP)などの予測を明らかにしている。

3つのシナリオとは、「高成長実現ケース」「成長移行ケース」「過去投影ケース」であり、このうち、高成長実現ケースでは、2025年度から2034年度までの名目GDP成長率が3%強で推移、成長移行ケースでは3%弱で推移することを前提としている。他方、過去投影ケースでは、2025年度から2034年度までの名目GDP成長率が0.7%程度で推移することを前提としている。

どのシナリオが妥当なのかについて現時点で判断することは難しいが、内閣府が公表しているSNAデータ(国民経済計算データ)により、1995年度から2024年度の名目GDP成長率の平均を計算すると、年率平均0.64%となる。財政健全化は12年で達成するものでなく、何十年もの時間を要するほか、改革の途中でリーマンショックなどの景気後退が一定間隔で必ず起こるため、これまでのトレンドで保守的かつ慎重に評価するなら、成長率を0.7%程度とする「過去投影ケース」で判断することも一つの考えとなろう。

では、今回の試算から読み取れることは何か。まず一つは財政健全化目標との関係だ。目標の一環として、政府は、2025年度までに国・地方の基礎的財政収支の黒字化を目指している。既述の「過去投影ケース」でも、2025年度の国・地方の基礎的財政収支は4.5兆円の赤字だが、2026年度に国・地方の基礎的財政収支は0.8兆円の黒字になっており、1年遅れで財政健全化目標が達成できる可能性を示唆するものになっている。

このような状況のなか、テレビや新聞などの報道では、今後の財政状況について楽観的な見方も出てきているが、それは誤解である。というのも、基礎的財政収支を国と地方の合計でなく、国単独で評価すると、赤字が継続するためである。実際、今回の試算の「過去投影ケース」で、財政の詳細計数表を確認すると、以下の図表のとおり、国のみの基礎的財政収支(対GDP)は、2026年度から2034年度で約1%の赤字となっており、国単独での基礎的財政収支は均衡していない。国単独の基礎的財政収支(対GDP)が約1%の赤字で均衡していないにもかかわらず、2026年度以降、国・地方の基礎的財政収支が概ね均衡しているのは、地方の基礎的財政収支(対GDP)が1%程度の黒字になっているからである。

 

図表:財政の詳細計数表(過去投影ケース)

(出所)内閣府(2025)「中長期の経済財政に関する試算」(2025年1月17日開催の経済財政諮問会議)から抜粋

 

また、日銀は現在、金融政策の正常化を進めており、段階的に利上げを行っていく予定である。このような状況のなか、長期金利が上昇していけば、国債などの公債等残高に関する利払い費も増加していくことが見込まれる。その場合、基礎的財政収支に利払い費も加えた「財政収支」がどうなっていくのかも見定める必要がある。

過去投影ケースで、この予測を確認すると、国・地方を合わせた財政収支(対GDP)は、2026年度の0.7%の赤字から、2034年度には1.9%の赤字に拡大していくことが読み取れる。しかも、財政収支(対GDP)の赤字幅も、基礎的財政収支と同様、国・地方の合計でなく、国単独で評価すると、国単独の財政赤字(対GDP)は、2026年度の1.8%から、2034年度で2.7%まで拡大していく予測になっている。

この状況が継続すると、国の債務残高(対GDP)はどうなっていくのか。この予測は、ドーマー命題から簡単に計算できる。ドーマー命題とは、「名目GDP成長率が非負の経済では、財政赤字(対GDP)を一定に保ちさえすれば、債務残高(対GDP)は一定値に収束する」というもので、予測される今後の名目GDP成長率をn、財政赤字(対GDP)をδとすると、債務残高(対GDP)は「δ÷n」に収束することが理論的に示せる。例えば、財政赤字(対GDP)がδ=5%で、名目GDP成長率がn=2%のとき、「δ÷n」は2.5のため、債務残高(対GDP)は250%に収束することになる。

では、現実的な事例ではどうか。既述の図表では、2034年度における国の財政赤字(対GDP)は2.7%であったので、δ=2.7%としよう。また、1995年度から2024年度の名目GDP成長率の平均を計算すると、年率平均0.64%であるから、名目GDP成長率をn=0.64%としてみよう。すると、「δ÷n」は4.82のため、長い時間をかけて、国の債務残高(対GDP)は482%にまで膨張していく可能性があることが分かる。

先の図表のとおり、2024年度現在、国の債務残高(対GDP)は約180%である。名目GDP成長率がn=0.64%の状況でも、国の債務残高(対GDP)を現在と概ね同水準の180%に留めるためには、ドーマー命題の逆算を行うことで、2034年度における国の財政赤字(対GDP)は2.7%でなく、1%程度まで圧縮しないといけないことが分かる。すなわち、内閣府の試算が正しいとするなら、過去投影ケースの場合、国の財政赤字(対GDP)を1.7%ポイント(=2.7%-1%)縮減する必要があることを意味する。

以上をまとめると、以下のとおりである。

(1)まず、現在のところ、財政健全化目標の一環として、2025年度までに国・地方を合わせた基礎的財政収支を黒字化することになっているが、過去投影ケースでも、1年遅れだが、2026年度以降、国・地方の基礎的財政収支は概ね均衡する予測となっている。

(2)この予測をみると、財政規律を緩めてもよさそうに思えるが、国と地方の合計でなく、国単独での基礎的財政収支や財政収支で評価すると、そうとは限らない。

(3)むしろ、過去投影ケースの名目GDP成長率を想定したとき、ドーマー命題の逆算を行い、国の債務残高(対GDP)を現在と概ね同じ水準に留めるためには、国の財政赤字(対GDP)を1%程度までに抑制し、国単独の財政収支や基礎的財政収支を対GDP比で1.7%ポイント改善する必要がある。

なお、1.7%ポイントの改善幅を、国・地方を合わせた基礎的財政収支(対GDP)で評価するなら、20XX年度(例:2034年度)までに国・地方の基礎的財政収支を対GDP比で2%弱まで黒字化する必要があることを意味する。

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