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エネルギー転換とその影響/進むモビリティーとエネルギーの融合
写真提供:GettyImages

エネルギー転換とその影響/進むモビリティーとエネルギーの融合

March 26, 2019

気候変動問題への対処のため、化石燃料への依存から脱却し、再生可能エネルギー(以下、再エネ)を大幅普及させるエネルギー転換が進む中、世界では自動車の環境規制の厳格化も同時に進んでいる。欧州では、自動車の走行1kmあたりの二酸化炭素(CO2)排出量を2021年には95g以下(自動車メーカー平均)に抑えるという世界で最も厳しいとされる欧州連合(EU)の環境規制が目前に迫ってきているなど、自動車メーカー各社はその対応に追われている状況にある。そうした中、メーカー各社はCO2排出量を低減させるため、化石燃料に依存しない電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド(PHV)といった電動化自動車のラインアップの拡充を急速に進めているが、そうした電動化自動車の広がりはモビリティーとエネルギーの融合というこれまでにない新たな変化を生みだしている。本稿では、モビリティーとエネルギーの融合という新たな動きについて、本年3月に開催された第89回ジュネーブ国際自動車展における各社の動向を交えて考察する。

電力需給システムの一部となる自動車

昨年3月に開催された第88回ジュネーブ国際自動車展において、日産自動車は自社の先進技術戦略である「ニッサン インテリジェント モビリティー」の取り組みの一環として、ドイツの大手電力会社Eon社 とV2G(Vehicle to Grid)をはじめとするエネルギーソリューション事業において戦略的パートナーシップを結ぶことを発表した。

V2Gとは、蓄電池を搭載したEVなどの電動化自動車を電力需給システムである電力系統に組み込むことで、再エネ発電の余剰電力をEVに蓄電したり、また、電力が不足する際にはEVに蓄電した電力を電力系統に送り返して補充するという電力系統と自動車を一体化させた電力需給安定化システムである。

エネルギー転換による再エネの大幅普及においては、気象条件により変動する再エネ発電を平準化させる必要がある。平準化の手段としては大型の定置式蓄電池を電力系統に導入する方法などがあるが、大型定置式蓄電池の導入はコストが割高になる。一方、市中に存在する自動車は常に全てが走行状態にあるわけではなく、その多くは停車している状態にあることから、電動化自動車の普及を進めることで、停車している電動化自動車の蓄電池をICTにより電力系統に接続し、再エネ発電の平準化に有効活用するという発想だ。

V2Gは電力需給の平準化による電力系統の安定化という電力会社のメリットだけではなく、EVユーザーにとってもメリットがある。昨年のジュネーブ国際自動車展では欧州日産のポール・ウィルコックス会長が、Eon 社との戦略的パートナーシップ提携にあたり、「EV所有の顧客に無料の電気を提供するという究極の目標を掲げて、エネルギーサービスビジネスにおける自動車メーカーとしてのパートナーになることを目指す」という趣旨のコメントをしているように、V2Gにより電力系統の安定化に貢献するEVユーザーは単なる電力消費者ではなく、電力系統安定化というサービスの提供者として、電力系統を管理するシステム管理者から電力系統安定化の報酬を得るというビジネスモデルが日産自動車とEon社との提携では視野に入れられているのだ。

実装を目前にした“Power Bank”

V2Gをはじめとするモビリティーとエネルギーの融合の動きは日産自動車に限ったものではない。本年37日~17日に開催された第89回ジュネーブ国際自動車では、各社がモビリティーとエネルギーの融合を実現させる様々な出展を行っており、その広がりを見せいている。

例えば、フォルクスワーゲン社では、2020年に量産開始という社会実装を目前に控えた新しい充電ステーションとして、蓄電池を搭載したフレキシブル充電ステーション“Power Bank(パワーバンク)を公表している。”Power Bank”は最大充電容量360kWh22kWAC充電2台と最大100kWDC急速充電2台の合計4台の車の充電を同時に行うことが出来るシステムである。”Power Bank”は蓄電池を搭載しているため、電力系統に接続されていなくとも独立して稼働することが可能だ。また、電力系統接続時には再エネ発電の電力を通常的に充電し、CO2フリーの電力を供給することはもちろんのこと、再エネの余剰電力が発生した際には電力系統の負荷を軽減するため“Power Bank”に充電することも可能となっている。さらに、“Power Bank”に搭載される蓄電池はフォルクスワーゲン社のEVに搭載される蓄電池と互換性を持たせており、EVの使用済み蓄電池を“Power Bank”2次利用するという蓄電池のリユースによる資源循環を促す役割も持っている。

フォルクスワーゲン社によれば、”Power Bank”の社会実装は電力系統とEVの融合を進め、再エネによるCO2フリー電力の供給機会を増やし、持続可能なモビリティーの構築を促進するとしている[1]

 

フォルクスワーゲン社 Power Bank(筆者撮影)

先駆者アウディの動向

自動車メーカーの中でもアウディ社はモビリティーとエネルギーの融合を進める先駆者といえる。アウディ社は2013年からドイツのザクセン州南部ヴェルルテにて風力発電の余剰電力を利用して水を電気分解して水素を製造し、さらに生成した水素をCO2と化学反応させて天然ガスの主成分であるメタンガスの製造を行っている。製造したメタンガスはアウディ・イーガスと称してアウディ社の天然ガス車「A3-Gトロン」の燃料として販売する「余剰電力を燃料に転換して使用する」というモビリティーとエネルギーを融合させたサプライチェーンを構築し、再エネ発電の平準化による電力系統安定化を実践している。

さらにアウディ社では、主として家庭用の太陽光発電とEV充電、そして各電化製品などをネットワーク化してコントロールすることを目的として、ドイツのインゴルシュタットとスイスのチューリッヒで進めているエネルギーマネジメントのパイロットプロジェクト、”Audi Smart Energy Network(アウディスマートエネルギーネットワーク)において、ネットワークと電力系統との接続を行い、再エネ発電の平準化による系統安定化に乗り出すことを20181月に公表している。

本年3月の第89回ジュネーブ国際自動車展でアウディ社は、“電動化”を出展のメインコンセプトとして、EV”Audi e-tron”をはじめとする多くの電動化自動車を出展しており、2025年には新車販売の3分の1を電動化自動車とする方向にある。アウディ社によればそうした電動化自動車は当然”Audi Smart Energy Network”への接続が視野に入れられているとのことだ[2]

モビリティーとエネルギーの融合は実験から実装の段階へ

自動車の環境規制の厳格化はCO2の排出を抑える電動化自動車の拡充の方向に向かわせているが、自動車のゼロエミッション化を考慮すると電動化自動車のエネルギーとなる電力においてもゼロエミッション化が求められる。その意味で再エネ電力は電動化自動車の拡充には欠かせないものとなる。一方、再エネの大幅普及のためには、気象条件により変動する再エネを平準化し、電力系統の安定化を図る必要があるが、その意味で蓄電機能を持つ電動化自動車を普及させ電力系統に接続し、電動化自動車に再エネ平準化の役割を持たせることが欠かせないものとなる。

こうした状況から、自動車社メーカー各社は自動車を電力系統に融合させる方向にあるが、こうした動きはコンセプトや実験段階を脱し、前述した様に実装の段階に入ってきたと考えられる。再エネ普及に後れを取っている日本においても、ホンダが2019年後半に生産を開始する予定の新型EVのプロトタイプモデル「Honda e」を本年3月の第89回ジュネーブ国際自動車展で世界初公開するとともに、再エネの普及拡大を見据え、2017年のフランクフルト国際自動車展で初公開した、電力系統と双方向での充電・給電を可能にする「Honda Power Manager Concept(パワーマネージャーコンセプト)」さらに発展させたシステムを公表。システムの社会実装を目指し、電力系統と電気を融通しあうエネルギーマネジメント技術を、EV用充電ソリューションを提供するスイスのEVTEC(イーブイテック)社と共同開発中で、数年以内に事業化する予定にある。また、ホンダは欧州における電動化をさらに加速させるため、2025年までに欧州で販売する四輪商品のすべてをハイブリッド、EVなどの電動車両に置き換えることも同時に公表している。

これまでは自動車のゼロエミッション化を考えるとき、EVPHV、そしてFCV(燃料電池車)など自動車単体について、その走行時の環境性能やライフサイクルにおける環境影響を比較検討するという傾向にあった。しかし、モビリティーとエネルギーを融合させるという流れにおいては、自動車のゼロエミッション化は単純な自動車単体の比較検討だけではなく、再エネというゼロエミッションエネルギーを普及させるシステムとしての自動車の役割という点も評価していく必要があるだろう。

(了)

  

[1]2019310日、第89回ジュネーブ国際自動車展にてフォルクスワーゲン社からのヒアリングによる

[2] 2019311日、第89回ジュネーブ国際自動車展にてアウディ社からのヒアリングによる。

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