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【ウェビナーシリーズ】動画セミナー「コロナ禍とエネルギー転換」(加速するエネルギー転換と日本の対応プロジェクト)

【ウェビナーシリーズ】動画セミナー「コロナ禍とエネルギー転換」(加速するエネルギー転換と日本の対応プロジェクト)

September 25, 2020

東京財団政策研究所では、日本における政策ネットワークの拡充と政策議論喚起のため、東京財団政策研究所ウェビナーシリーズの配信を開始しました。今回は、平沼光研究員による「コロナ禍とエネルギー転換」と題したセミナーを配信します。コロナウィルス感染拡大により世界経済が停滞し、人々の生活に大きな影響を及ぼすなか、コロナ禍が、経済や生活の基盤となるエネルギー動向にどのような影響を及ぼすかを考察します。

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発表要旨

まずはコロナ禍前のエネルギー動向を振り返る。昨今のエネルギー動向に大きな影響を及ぼしたのが2016年パリ協定の発効である。「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」というパリ協定の目標を達成するためには、再生可能エネルギーの電力比率を2040年に約60%に引き上げ、それにより石炭を最小限化するというエネルギー転換が必要であると、国際エネルギー機関は主張している。

この目標達成に向けて、世界各国で再生可能エネルギーの普及が急速に進んでいる。さらに世界の脱石炭の動きも加速しており、各国が脱石炭の目標年度を設定するほか、石炭からのダイベストメントも進んでいる。このような再生可能エネルギーの普及とダイベストメントの進展は、革新技術によるところが大きい。これまで再生可能エネルギーは、気象条件に左右され変動性があるため、電力システムに導入することは難しいとされてきた。しかし、気象予測データとエネルギー需給データというビッグデータをAIで解析することで最適なエネルギー需給計画を導き出し、それをIoTで各発電所や地域に指令することで最適なコントロールが可能になったのである。

こうした再生可能エネルギーの普及はクリーンエネルギー分野という新たな巨大市場を生み出すという点も注目されている。再生可能エネルギーを大規模に導入するには、高度なエネルギー需給システムをはじめ、様々なデバイスやサービスなどの導入が必要になる。このように、新たに生まれるクリーンエネルギー分野の市場は、2030年には約160兆円規模になるということが見込まれている。

さらに、エネルギー転換の動きは企業のエネルギー消費にも変化をもたらしている。ESG投資に見られるように、気候変動問題が深刻化する現在、企業の活動も環境に配慮したものにしなければ投資が集まらず、業績が悪化するという状況になっているのだ。そのため企業も積極的に再生可能エネルギーを活用するようになり、自社が消費するエネルギーを100%、再生可能エネルギーに切り替えることを宣言するRE100と呼ばれる企業グループも2014年に発足された。アップル、マイクロソフト、グーグルなどは、本社や世界中に散らばる支店も含めて、既に100%の再エネルギーを達成している。

さらに、201810月に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の総会で承認された「1.5℃特別報告書」では、地球温暖化を2℃、またはそれ以上ではなく1.5℃に抑制することが必要であり、そのためには再生可能エネルギーの電力構成比率を2030年の時点で48%~60%とする必要性があるという趣旨の報告がされた。再生可能エネルギーの導入は2016年のIEAの報告から10年間前倒しするかたちで、ますます加速すると見込まれている。

日本では、国のエネルギー政策の基本方針となる第5次エネルギー基本計画が2018年に策定された。ここでは再生可能エネルギーの主力電源化に取り組むことが明記され、日本においても加速するエネルギー転換の動きに対応していく政策方針が示されている。しかし具体的な政策目標となる日本の再生可能エネルギーの導入目標は2030年において2224%と先進諸外国に比べてかなり低い目標となっており、エネルギー基本計画の政策方針と具体的な政策目標が乖離した状況にある。

◇   ◇

それでは新型コロナウイルスの感染拡大による世界経済の停滞や人々の暮らしの変化は、こうしたエネルギー動向にどのような影響を与えたのだろうか。

2020420日には、国際的な原油取引の指標であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の5月ものの先物価格が1バレルあたり前日比約56ドル下落し、マイナス37.63ドルという史上初の“マイナス価格”を記録した。これは、コロナ禍前より世界的な原油の供給過剰が続くなか、新型コロナウイルスの感染拡大により経済活動が停滞したことで石油の需要も落ち込み、各地の石油備蓄基地が満杯になってしまったことによって引き起こされた。石油生産者やトレーダーがお金を払ってでも石油を引き取って欲しいという状況、すなわちマイナス価格に陥ったのである。

石油価格がこれほどまでに下がると、コストが高い再生可能エネルギーへの投資は進まなくなると考えられがちだろう。しかし、これまでの世界の再生可能エネルギー設備への投資額の推移をみると、石油価格の動向に関わらず投資は進んできた。特に、2014年のバレル当たり原油平均価格93.11ドルに対し、2015年の平均価格は48.71ドルと大幅に下落しているが、この間においても再生可能エネルギーへの設備投資は増加傾向ある。

これは再生可能エネルギー普及のための補助金制度である固定価格買い取り制度(feed-in tariff)を導入している国が2002年は23か国であったのに対し、2014年は103か国に増えていることからわかるように、各国が石油価格の動向に関わらず、気候変動問題への対策として政策的に再生可能エネルギー普及を進めてきたためであり、再生可能エネルギーの普及は気候変動問題への対策という政策的意図がドライビングフォースになっていると言えよう。

では、コロナ禍の影響を受けている現況はどうだろうか。国際エネルギー機関(IEA)が4月に公表した報告書『Global Energy Review 20202020年のエネルギー展望)』(以下、IEA報告書)では、コロナウイルス感染拡大の影響を受けた2020年第一四半期の世界のエネルギー需要動向が報告されている。

それによると、石炭、天然ガス、石油、原子力が軒並み前年同期比マイナスとなっている中、再エネだけがプラスとなっていることが報告されている。また、IEAの報告では2020年通年の世界のエネルギー需要動向と2020年の需要見込みも報告されているが、年間を通しても再エネ需要だけがプラスになると見通しており、再生可能エネルギーはコロナ禍において最もレジリエンス(回復力)のあるエネルギーであるとされている。こうしたことから、国際エネルギー機関(IEA)の報告書では、コロナ禍の中でもエネルギー転換を推進することで、今後3年間で世界のGDP1.1%押し上げ 900万人の雇用を生むこと、そしてコロナ禍からの経済復興にはエネルギー転換が有効であるとしています。また、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)4月に公表した報告書においても、コロナ禍の中でもエネルギー転換を進めることで、2050年までの期間に19兆ドルの追加コストがかかるが、それによる投資回収額は50兆ドルから142兆ドルになることが見込まれている。

さらに、コロナ禍からの経済復興のためにエネルギー転換を進めることは実際の政策としても取り上げられている。201912月に欧州グリーンディールという政策が公表されているが、これは2050年に温室効果ガス排出を実質ゼロとすることを目標に、再生可能エネルギーの普及や持続可能なモビリティへの転換、サーキュラーエコノミーの構築などを行っていくという欧州の総合的な環境・経済政策である。コロナウイルス感染拡大が深刻化した20204月には、欧州の17カ国の環境大臣が欧州委員会に「欧州グリーンディール」を包括的なEUの回復計画のフレームワークとして使用するよう要請が出されており、その一環としてエネルギー転換が進む方向にある。

以上のように世界ではコロナ禍により石油価格が急落するというような影響も出ているが、コロナ禍からの経済復興を目指すうえでも、再生可能エネルギーの普及を拡大し化石燃料依存を解消するエネルギー転換を進めていくという方向にある。

一方日本はというと、先述のとおり政策方針と政策目標が乖離しているという状況にある。国のエネルギー政策の大方針となるエネルギー基本計画は、少なくとも3年ごとに検討されることが定められている。「第5次エネルギー基本計画」は2018年に策定されたものであり、次の「第6次エネルギー基本計画」の策定の時期が目前にせまっている。エネルギー分野で世界に遅れることは気候変動という国際的な環境問題における日本のプレゼンスを失うだけでなく、革新的なエネルギー技術の開発など、日本の国際競争力にも影響を及ぼす。次のエネルギー基本計画は、世界で急速に進むエネルギー転換に十分に対処できるものとする必要がある。

 

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