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震災から10年、福島の再エネのこれまでとこれから ~プラットフォーマーに負けない街づくりを福島で~
福島水素エネルギー研究フィールドの水素製造施設を視察する菅首相(左)=2021年3月6日午前、福島県浪江町(写真提供:共同通信イメージズ)

震災から10年、福島の再エネのこれまでとこれから ~プラットフォーマーに負けない街づくりを福島で~

March 10, 2021

2011311日、東日本大震災の影響により発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故(福島第一原発事故)は、国際原子力事象評価尺度(INES)において最悪の事故とされるレベル7となった。原子炉建屋が爆発し白煙を上げているショッキングな映像は未だ脳裏に焼き付いていることだろう。福島県では福島第一原発事故直後から、県の復興策として福島県再生可能エネルギー推進ビジョンを策定し、再生可能エネルギーの飛躍的な推進による新たな社会づくりに取り組んできた。あれから10年、これまでの再エネの取り組みで福島は何を達成し、そして今後は何を目指すべきか。菅首相の2050年のカーボンニュートラルの宣言により国としても再エネの普及拡大は必須事項となっている中、福島の再エネのこれまでとこれからについて考察する。

「再生可能エネルギー先駆けの地」への歩み
サイドウォーク・トロントにみる再エネ利用のトレンド
グーグルなどのプラットフォーマーに負けない街づくりを福島で

「再生可能エネルギー先駆けの地」への歩み

福島県再生可能エネルギー推進ビジョンでは、戦略的に再エネの導入を進め、環境と経済の両立を図りながら、福島を国のエネルギー政策をリードする「再生可能エネルギーの先駆けの地」とすることが目標とされ、県内の1次エネルギー需要量に対する再エネ導入割合(原油換算)を2020年度:約40%、2030年度:約60%、そして2040年度に100%とすることが目標値として示されている。

この目標に向けて、20135月には福島県の出資を受けて福島県内の再エネ普及を進める福島発電株式会社が設立された。そして、同年10月には再エネの研究開発の拠点として福島再生可能エネルギー研究所を設立。2013年からこれまで福島県内の企業115件に対し再エネの技術開発支援を行い、44件が事業化されている。

20172月には再エネ導入に関する相談、事業化支援、ネットワーク形成支援を行う一般社団法人福島再生可能エネルギー推進センターを設立。同年3月には送電会社としては異例となる大手送電事業者ではない地場系の送電会社として福島送電株式会社が設立され、阿武隈山地および沿岸部の再エネ活用を進めるべく共用送電線の整備に取り組んでいる。さらに、同年4月には再エネ関連の産業育成を支援するエネルギー・エージェンシーふくしまを設立し、再エネ関連業務の受託等30件を超える事業を成約している。

福島では先端的な再エネ関連技術の開発も進められた。2013年には楢葉町の沖合で浮体式洋上風力発電の実証実験が開始されている。20203月には浪江町に世界最大級の再エネ由来の水素製造施設となる福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)が開所され、県内数カ所への水素供給が開始されている。また、スマートコミュニティの構築も進められ、2020年までに新地町、相馬市、浪江町、楢葉町、葛尾村の5市町村で構築が完了している。

こうした活動により福島は、2011年度は21.9%であった再エネ導入実績を2019年度には34.7%にまで増やすことに成功している。もちろん、電力系統の空き容量の問題や、浮体式洋上風力発電をはじめとする再エネ技術の社会実装や産業育成がまだ十分ではないなどの課題はあるが、2040年度に100%という目標に向けて着実に歩みを進めてきたといえるだろう。

サイドウォーク・トロントにみる再エネ利用のトレンド

2040年に再エネ100%という目標に向けて歩みを進めている福島であるが、福島が今後さらなる発展を目指すためには再エネ普及における世界のトレンドをひも解く必要がある。

自社のエネルギーを100%再エネで賄うことを宣言するRE100に参加する企業が世界中で広がっているなど、今や再エネの導入拡大は珍しいことではない。それよりも導入した再エネで何をするかということに世界の再エネ導入のトレンドが移ってきていると筆者は考えている。

その一例として参考にできるのがグーグルの親会社アルファベット傘下のSidewalk Labs(サイドウォーク・ラボ) が201710月に公表した、カナダのトロント市東部のウォーターフロント地域にICTを駆使したスマートシティをつくるプロジェクト「サイドウォーク・トロント(Sidewalk Toronto)」である。

プロジェクトは、オンタリオ湖沿いの約4万8500平方メートルの土地にサイドウォーク・ラボの主導で未来型の街づくりを進めるもので、同社は開発初期段階の資金として5000万ドルを拠出するとともに、グーグルも当該地域にカナダ本社を設ける計画であった。

サイドウォーク・トロントでは、街の炭素排出量を大幅に削減することを目標に、ICT(情報通信技術)を駆使して太陽光発電と蓄電池、そして地熱などによる熱供給を組み込んだ先端的なエネルギーシステムを構築することが計画されていた。ICTを駆使した先端的なエネルギーシステムから供給されるクリーンなエネルギーを活用して、交通、物流、上下水道管理、廃棄物リサイクルなど様々な街の公共サービスを賄い、さらにそれらの公共サービスをデータとICTを活用して最適にコントロールするという構想だ。

再エネをテーマにした日本のスマートシティは、需給コントロールによる再エネの導入に力点が置かれ、その利用は公共施設向けの電力など比較的限定された傾向にある。一方、サイドウォーク・トロントが目指したのは、ICTを活用し再エネを導入するシステムを構築し、様々な公共サービスのエネルギーに再エネを活用するとともに、各種の公共サービスをICTで最適にコントロールするという、再エネの導入から利用にわたるトータルの街づくりという視点である。

グーグルなどのプラットフォーマーに負けない街づくりを福島で

再エネの先端的な導入事例となるサイドウォーク・トロントの計画であったが、企業によるデータの収集は個人情報の保護に課題があるとした市民の反対運動が起こり、20205月に計画が中止されるという結末を迎え、実現には至らなかった。

サイドウォーク・トロントのような、再エネの導入からその利用までICTとデータを駆使したスマートシティの構築は、まさにグーグルなどのプラットフォーマーの土俵といえる。こうしたスマートシティづくりをどこかの都市で成功させれば、その都市で得られたデータフォーマットは他の都市でも応用ができる。スマートシティづくりに成功したプラットフォーマーは、そのデータフォーマットを応用して、あたかもオセロゲームの駒を黒から白にひっくり返すように次々と他の都市をスマートシティ化することが理論的に可能となるだろう。

サイドウォーク・トロントの計画は日の目を見ることは無かったが、サウジアラビアでは同じようなコンセプトで再エネ100%により各種の公共サービスを担い、ICTで最適コントロールを行う「NEOM(ネオム)」というスマートシティの構築が進められているなど、再エネによる本格的な街づくりが各国で始まっている。日本ではトヨタが東富士工場の跡地に先端的なスマートシティ「Woven City(ウーブンシティ)」の構築を計画しているが、こうしたスマートシティをいち早く構築した者が、次代のエネルギーの舵を握ることが予見できる。

震災から10年、これまで福島は県の復興策として再エネの普及に果敢に取り組み、着実に歩んできた。そして、これからの10年を考えるとき、「再生可能エネルギー先駆けの地」を目指す福島においても、サイドウォーク・トロントやNEOM、そしてWoven Cityに負けない街づくりを構想することが、国のエネルギー政策を福島がリードする未来を描くことにつながるだろう。

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